借金
あれからさらに半年が過ぎようとしていた。
「直人さん送ってくれてありがとう…!じゃあまたね…!」
私は直人さんと喧嘩をすることもなく楽しく平和な日々を過ごしていた。
あの一本の電話がかかってくるまでは……
〜♪
知らない番号……?
「はい……もしもし…」
「あー…青木……紗和さん?」
「………どちら様ですか?」
「福丸ファイナンスの加賀見という者ですけどー、落合龍也さんご存知ですよね?」
「……はい………」
「少しお話したいことがあるんで事務所来てもらえます?」
「え…?どうして…」
「来なければ法的措置取りますんで、あなたも落合さんも困る事になりますよ?来た方が良いと思いますけど」
「…………わか…りました…」
私はその高圧的な態度に押され福丸ファイナンスに出向くこととなった。
ここ…
裏路地にひっそりとたたずむ古い建物の中へ入っていく。
コンコンコン
ガチャ
中からドアが開くと堅気の人とは思えない装いの男性が顔を出す。
「あの…青木…です……」
するとその男はにやつきながらドアを大きく開く。
中に入ると黒いスーツを着た男性が数人並んでいる。
その中央のソファに座っている男性が手招きをする。
「あんたが青木紗和さん?」
「はい…」
「とりあえずそこ座りなよ」
男は私をジロジロと見ながらソファを指さす。
「失礼…します」
「まぁ簡単に説明すると、落合さんが借りたお金を返さないんですよ。で、あなた保証人でしょ?だから代わりに払って下さいって事」
「保証人…?」
「ほらここ。あなたのサインでしょ?」
その男性が紙切れの一番下の方を指さす。
確かに私の字だった。
それを見て私は思い出す。
一度だけ、龍也に保証人になって欲しいと頼まれたことがあった。
最初は断ったけど、彼があまりにも必死にお願いしてきて額が少額だったこともあり渋々了承した。
私はその紙に書かれている金額を確認する。
「1000万………!?」
そんな訳ない。
私が確認した時は確かに10万だった。
「この金額…何かの間違いじゃ……私は10万って見てサインを……」
「そんなん知らねぇよ。とにかく払って貰うから。なんなら仕事紹介しようか?」
男が笑いながら言う。
「あんたなら1000万なんてすぐ稼げると思うけど」
その嫌な視線に私は立ち上がる。
「…………大丈夫…です…失礼…します」
逃げるようにドアに向かう私の背中に男が話しかける。
「逃げようなんて思うなよ。困るのはあんただけじゃないからな」
その言葉を聞いて真っ先に直人さんの顔が思い浮かんだ。
「………………」
建物を出た私は頭が混乱して深呼吸をする。
そのまま何も考えず歩いていると、一枚の貼り紙が視界に入る。
時給1万円……
カランコロン
「…どうしたの?」
「あ…いえ…」
「もしかして……働きたいの?」
「えっ!?いや…」
「ちょうど良かったぁ〜昨日急に辞めちゃった子が居てね〜困ってたのよ……入って!」
中から出てきた綺麗な女性に促されるまま中に入る。
「キャバクラの経験は?」
「ないです…あの、私………」
「採用するわ。明日から来れる?」
「えっ!?あの私…表の貼り紙見てただけで…別に……」
「大丈夫よ。最初は先輩の子にフォロー入ってもらうから」
「や……そういうことじゃな………」
「お金…欲しいんじゃないの?」
「…………それは…」
「今、まだ開店前なの。お酒の入れ方とか基本的な事教えるからいらっしゃい」
そういうと向こうの方へスタスタと歩いて行く。
どうしよう…と思いつつ、今の収入ではとても補えない借金額だ。
私は意を決して後を付いていく。
それから一時間。
みっちり教えてもらった私はお店を後にする。
「はぁ…………」
深いため息をつきながら私は家に帰った。
1000万なんて……龍也なんで………
連絡したくても連絡先も知らないし、何よりもう関わりたくない。
こうなったら…借金を返すしかない。
それから掛け持ちの日々が始まった。
体力も精神的にも負担が大きかったけど、やるしかなかった。
「和……紗和……?」
「んえっ!?」
「紗和……大丈夫か?最近ずっとそんな感じだけど……」
「あ、うん!全然平気!」
「掛け持ちはキツイだろ……そうまでして働きたい職場なのか……?」
「あー……うん!ほら視野を広げたいし……」
「無理だけはするなよ……」
直人さんに会えない時間が増える理由を嘘つく自信がなくて、掛け持ちしてることだけは話した。
理由も働いてる所も内緒だけど……
私の唯一の癒しの時間は直人さんと会える時間だった。
「紗和さん、これ時間間違ってません?」
「あ…ほんとだ………ごめん、すぐ修正する」
「あとここ…先方の名前佐藤さんじゃなくて加藤さんですよね」
「あっ…ごめん………」
「紗和さん、最近変ですよ?前はこんな凡ミスなかったのに…また佐々木さんと何かあったんですか?」
「佐々木さんは関係ない……ごめん……気を付けるね」
「なんか…顔も疲れてません?」
「大丈夫大丈夫!急いで修正するからちょっと待ってて」
寝不足で頭が回っていないのか、最近やたらとミスが多い。
ちゃんと……しなきゃ。
「いらっしゃいませ…!」
「さわたん〜!今日も可愛いねぇ!」
「小林さん、ご指名ありがとうございます…!今日はおひとりですか?」
「連れも一緒なんだけどさぁ、仕事で遅れるって。何頼もっかなぁ」
一緒にメニュー表を見ていると遠くから声が聞こえる。
「あ〜来た来た!黒崎こっち!」
私も視線を向こうに移すとそこには見覚えのある顔があった。
しゃ…社長…!?
私と社長の目が合う。
「ほら、俺のお気に入りの子!超可愛いっしょ」
「あ、あぁ…」
「何突っ立ってんだよ…!早く座れよ」
社長が私の隣に座る。
「俺ちょっとトイレ行ってくるから適当に頼んでて」
そう言ってメニュー表を社長に手渡す。
すると社長が私に囁く。
「これは…知らないふりした方が良いの?」
「そうして頂けると…すみません……」
私も小さい声で返事をする。
「いつからここに?」
「一ヶ月位前…ですかね…」
「一ヶ月…なるほどね……」
すると小林さんが向こうから戻って来る。
「悪い悪い。で、何か頼んだか?」
「あ…いやまだ何も」
「なんだよ〜じゃあ……これと……これ。あ、あとこれも…!」
「承知しました」
ボーイが注文を受けて向こうへ去っていく。
そして二時間後。
「……でさぁ、俺が言ったのよ。そういう事言ってるんじゃないって!最近の若いやつはさぁ………」
小林さんはいつも自分の話をしてくれるから、私は聞き役に回れて割と楽だ。
「ねーさわたんはどう思う?」
そう言うと私の肩に手を回す。
「あ…そう…ですね……」
私が何を言おうか考えていると社長が小林さんの手をどける。
「なんだよ黒崎〜今さわたんとの会話楽しんでるのにさぁ」
「お前…飲み過ぎ」
「だって飲みに来てるんだろ〜お前は相変わらず全然喋んないな」
「相変わらず…?」
「コイツさぁ…こういう場で全然盛り上がらねーの。なのに顔がちょーっと良いからってコイツばっかモテてさぁ…俺が不憫じゃんね」
「そうなんですか……」
確かに社長はお酒を飲んでるだけで、あまり喋らない。
私がいるから気を使っているのかと思ったけど、普段からこういう感じなんだ…
「俺は別に来たくて来てる訳じゃ……お前がどうしてもって言うから……」
そうボソボソと呟く。
「さわたんは俺派でしょ!?」
そう言って横から私に抱きつく。
「あ…えっと……」
「ほら…もうそろそろ行くよ。次の店も予約してるんだろ?」
「えー?もうそんな時間?じゃあさわたんまた来るね」
「はい…!お待ちしてます…!」
私は社長と小林さんを見送り、店内へ戻る。
「紗和ちゃん、もうそろそろ時間だから上がっていいわよ」
「はい…!お疲れ様です…!」
私はバックルームに行って帰り支度をする。
まさか社長に会うなんて…
職種は制限されてないし大丈夫だと思うけど……
不安なまま眠りについた私はほとんど一睡もできなかった。
次の日、会社に着いた私はすぐに社長室に呼ばれた。
「そこ、座って」
「失礼…します」
「昨日の事だけど…」
「あの…すみません…でした」
「いや、うちの会社別に副業禁止じゃないから働くのは構わない」
「……?」
「青木、お金に困ってるの…?」
「えっ…?」
「いや、副業する程困ってるのかと思って…青木には充分な給料を渡してると思ってるんだけど……もし、足りないならそこはちゃんと配慮するよ…?…青木は優秀だし……」
「いえ、そんな……お気遣いありがとうございます……今でも充分頂いてますので大丈夫です……」
「そっか……ならどうして副業を?」
「えーっと……」
本当の理由が言えるはずもなく、何を言ったら良いか言葉が出てこない。
「昨日の青木見てて思ったけどさ、無理して働いてるんじゃないの?」
「………すみません…接客が至らなくて……」
「いや、そう言う事じゃなくて。本当はこういう仕事苦手なんじゃないかと思って。小林とか他の客は気付かないと思うけど長い付き合いだからなんとなく分かるんだよ」
「それは…」
「最近…ミスが多いのも副業のせい…?」
「それは…あの…すみません…以後気を付けますので………」
「副業は良いけど、この仕事に支障が出るのは正直困る。顔色も悪いし、どうしても副業がしたいならもう少し余裕を持てる仕事を探してみても良いんじゃないかな…?もちろん青木が今の所でどうしても働きたい理由があるなら強要はしないけど」
「はい……本当に申し訳ございません…」
私は俯きながらそう言う。
「青木…ちゃんと休めよ…?」
社長室を出た私は足取りが重かった。
「紗和さんお帰りなさい。社長から呼び出しなんて珍しいですね。大丈夫でした?」
「うん……間宮くんごめんね…最近ミス多くて……私ちゃんと気を付けるから…」
私は栄養ドリンクを一気飲みして気合いを入れる。
そして夜。
「紗和ちゃん、なんか顔色悪いけど大丈夫?体調悪いなら休んでも良いのよ?」
「大丈夫です…!今日もよろしくお願いします…!」
着替えてフロアに向かう。
「ご指名ありがとうございます…!お隣失礼します…!」
私はお客さんに勧められ、お酒を飲む。
飲んだら体調の悪さが緩和された気がして、どんどんとペースが上がる。
「おーっ紗和ちゃんいいね!」
そう言って太ももに手を置かれる。
「じゃあ…もっと頼んじゃおうかなー」
「ありがとうございます…!」
私は無理して笑顔を作る。
「すみません…少し失礼しますね…!」
私はお手洗いに行くため立ち上がり向こうに歩いていく。
……そしてドアを開けようとした瞬間、急に視界が歪み私はその場に倒れた。
「…………………………」
「紗和……気が付いたか…?」
私は辺りを見回す。
「えっ…直人さん…?なんで……」
「目が覚めて良かった。私が呼んだのよ」
「美郷さん……?」
「あなた、さっきそこで倒れたのよ?それで悪いけど携帯の連絡先を見て、一番履歴に名前があったこの方に連絡したの」
「ご迷惑お掛けしてすみません」
「美郷さん…すみませんでした……」
「気にしないで。体調悪いのに働かせちゃってごめんなさいね。今日はもう帰りなさい」
「はい……ありがとうございます……」
お店を出て、直人さんの車に乗る。
「あの…直人さん………」
「話は明日にしよう。お腹は?」
「うぅん…空いてないから大丈夫……」
直人さんに家まで送ってもらい、部屋に入るとすぐにベッドで横になる。
飲みすぎて気持ち悪いのに、色々考えてしまって全然眠れなかった。
次の日。
「体調は大丈夫か?」
「うん…」
「まだ顔色あんまり良くないな。今日はやっぱり帰…」
「待って…!今…ちゃんと話したい……」
「……分かった」
私達はソファに移動する。
「あの………黙っててごめんなさい……」
「……紗和の言ってた視野を広げるってそういうことだったのか…?」
「ごめんなさい…それは嘘で……」
「……なら何でキャバクラで働いてる?」
「……………………」
「俺に言えない理由なのか?」
「…………ちょっと欲しい家電があってね…それで、結構高額だから……」
直人さんが真っ直ぐに見てくるから私は思わず目を逸らして飲み物を手に取る。
「……………帰る」
そう言って直人さんはソファから立ち上がり玄関に向かう。
「えっ…?直人さん…待って……」
私は直人さんの腕を掴む。
「……紗和が楽しく働いてるなら何も言わない。でも…そうじゃないだろ?そうまでしてそこで働いてる理由を紗和が言う気が無いなら俺もどうしようも無い」
直人さんはこっちを振り返らないまま言う。
「…………………ごめん…なさい…………」
私は直人さんから手を離し俯く。
すると直人さんが振り向き私をそっと抱きしめてくれる。
「…ごめん…嫌な言い方して…紗和が困ってるなら…頼って欲しい……」
「…話したら……直人さんに幻滅される…………」
「何でそうなるんだよ…俺が紗和に幻滅する訳無いだろ」
「話してもいないのになんでそう言えるの…?」
「紗和の事すごく大切だから」
「………そんな恥ずかしいこと…よく言えるね」
私は泣きながらもつい笑ってしまう。
「だから安心しろ。俺は紗和の味方だから」
「……わかった……」
そして私は全部話した。
元彼の借金の保証人になってしまったこと。
その借金を返す為に夜の仕事をしていること。
すると、黙って聞いていた直人さんが大きなため息をつく。
「……私バカだよね…なんで保証人なんかになったんだろ……」
「…何で紗和がそんな奴の為に働かされないといけないんだよ」
「それは…保証人になっちゃった私も悪いから……」
「……紗和、明日その事務所に行くぞ」
「えっ…でもまだお金が………」
「良いから。とにかく話付けよう」
そして次の日。
「ほんとに…大丈夫……?」
「心配するな。紗和は車で待ってろ」
「私も一緒に………」
「大丈夫、すぐ戻って来るから」
私の心配をよそに直人さんは事務所に消えていく。
数分後、本当にすぐに直人さんは事務所から出てきた。
バタン
「もう借金のことは気にしなくて大丈夫だから」
「え…どういうこと…?」
「お金も返して、これ以上紗和に近付かないよう言った。だからもう心配するな」
「お金を返した……?えっ、ちょっと待って……」
「俺が返したからもう大丈夫だ」
「えっ!?私…直人さんに払ってもらう為に一緒に来たわけじゃ……」
「分かってる。でもこれで仕事も辞められるだろ?」
「それはそうだけど…私……すぐには直人さんにお金返せない……」
「……別に返さなくて良い」
「何言ってるの!?1000万だよ…!?そんな大金……そんな負担…直人さんにかけたくなかった……」
「でもこのままじゃ、どうする訳にもいかないだろ…?」
「そう…だけど……」
「……………………」
「直人さん………」
「ん?」
「私…絶対…ちゃんと直人さんに返すから…少しずつになっちゃうけど…それでも…ちゃんと返す」
私がそう言うと直人さんは軽くため息をつく。
「…どうせ断っても返すって言うんだろ?」
「うん……」
「分かった。じゃあ無理だけはするなよ?」
「ごめんなさい……本当に…ありがとう……」
すると直人さんは私の頭を優しく撫でてくれた。
それから数週間後。
夜の仕事を辞めた私は、仕事でミスをすることもなくなり元の日常を取り戻した。
そんなある日。仕事を終え、マンションに着いた私は見覚えのある姿を見て思わず声が出る。
「なん…で…」
「おー紗和ちゃん!久しぶりっ」
「………ここで何してるの…?」
「紗和ちゃんの帰り待ってた」
「は…!?なんで!?」
「ちょっとさ、話したいことあって」
「………帰って」
「冷た…ちょっとだけでいいからさ」
「私は話したくないから」
私はそのままマンションの中に入っていく。
なんで龍也が………
どうやってこの住所調べたんだろう……
不安になった私は直人さんに電話をかける。
直人さんの声を聞くと、少し気持ちが落ち着いた。
電話を切り、しばらくソファで座っているとチャイムが鳴る。
ピンポーン
私はそのチャイム音にビクッとなり、恐る恐る玄関へ行く。
「えっ………直人さん?」
ガチャ
「直人さん……どうして……」
「あれから……大丈夫だったか?」
「うん……」
直人さんの姿を見た私は急に肩の力が抜けて思わず抱きつく。
「怖かったろ……もう大丈夫だから……」
直人さんの優しい言葉に心の底から安心した。
次の日。
直人さんと一緒に家を出た私はマンションの外にいるその姿にゾッとした。
「…あいつか?」
「うん…」
そこには龍也の姿があった。
「あっ紗和ちゃん……」
私に近付こうとする龍也を直人さんがガードする。
「え…なんすか」
「お前こそ何だ。警察呼ぶぞ」
「紗和ちゃん、何この人」
「………………」
「とにかくさ、ちょっとだけ!30分…いや10分でいいから話せないかな」
「……………」
「一回話したらもう二度と紗和に近付かないよな」
「それはもちろん……!」
「なら19時にここに来い」
「………分かりました。てかあなた誰なんですか?」
「紗和、行こう」
直人さんが私の手を引く。
「直人さん…さっきの本当に………」
「毎日あの場所に居られても困るからな…一度話する」
その後仕事を終え、 自宅に戻ると龍也がいた。
「そこの喫茶店で話そう」
「えっ、紗和ん家で話したいんすけど…」
「家に入れる訳無いだろ」
私達は歩いて1分ほどの距離にある喫茶店に入る。
「龍也…なんで借金が1000万になってたの…?私がサインした時は確かに10万って……」
「あー…あれね…ちょっとした細工?」
「細工…?」
「ほら…紗和ちゃんって素直で純粋なとこあるから…騙せるかなって」
「…………………………」
「てか……なんであなたもいるんですか?」
「………お前みたいな奴、紗和と二人に出来ないから」
「お前みたいな奴って……俺の何知ってんだよ」
「紗和に借金背負わせた最低な奴だろ」
「………でも払えたんでしょ?紗和ちゃんすげーじゃん!そんな金どうやって………」
「お前に関係ないだろ」
すると龍也が私と直人さんを交互に見て笑う。
「あぁ〜そういうこと………」
「……………………」
「じゃないとあんな大金返せるわけないもんな」
「…………………」
「………用件話さないならもう帰る」
「……でもすげぇな。1000万も払ってもらうなんて…さすが紗和ちゃん」
「は…?」
「まぁでも…WinWinじゃん」
「……お前何言ってるんだ」
「おじさんも紗和ちゃんとすることして、紗和ちゃんはお金もらえて」
「やめ…」
ガタンッ
私が言うより先に直人さんが立ち上がり、龍也の胸ぐらを掴む。
「お前…ふざけんな」
「なんだよ、俺何か間違ったこと言った?」
龍也は笑っている。
「直人さんっ…!やめて……」
私は直人さんを引き離そうとする。
「別に良いじゃん、パパ活でも。お互いが納得してるならさ」
「俺と紗和はそんなんじゃない」
直人さんのこんな冷たい目……初めて見た。
「直人さん…座って…ね…?」
私の言葉に直人さんは龍也から離れる。
「で、用件何なんだよ。さっさと言えよ」
「………金だよ」
「金が何だ」
「金、借りれないかなって」
「……ふざけんのもいい加減にしろ。紗和帰ろう」
「…うん」
私達は立ち上がり龍也の横を通る。
その時龍也にパッと腕を掴まれビクッとなる。
「紗和ちゃん、良い奴捕まえたじゃん」
「…直人さんは…そんな人…じゃない…」
すると直人さんが振り返り龍也の腕を引き離す。
「紗和に触れんな」
「痛って…」
「二度と紗和に近付くな。また紗和の家の近くうろついてたら警察呼ぶからな」
そして私達はそのまま家に戻った。
私は震える手をさすりながら俯く。
すると直人さんがギュッと私を抱きしめてくれる。
「直人さんにあんな失礼なこと…ほんと…ごめんなさい…」
「俺は大丈夫だから…それより紗和は大丈夫か…?」
「うん…直人さんがいてくれたから…」
それから私は、毎日直人さんの家に泊めてもらうことになった。




