元カノ
私達が付き合ってから三ヶ月が過ぎようとしていた。
〜♪
「もしもし」
「ちょっ紗和…!あのメッセージどういうことよ!」
「どういうって…そのままの意味だけど…」
私が優花に直人さんと付き合っていることをメッセージで報告したら、すぐに電話がかかってきた。
「はぁ……やっぱりね」
「やっぱり…?」
「なんか、そんな気がしてたのよ……」
間宮くんといい、優花といい、なんで私も知らない気持ちがわかるんだろう……
「優花はどう思う…?私達のこと…」
「どうって……紗和が選んだ人なら何も言わないって。紗和今幸せなんでしょ?」
「幸せ………かな?」
「かなって何よ、かなって」
「うーん…めっちゃ幸せなんだけど……」
「けど?」
「付き合って三ヶ月経つんだけど……その……キス以上のことしてないんだよね……」
「………なるほど」
「キスも私から求めないとしてくれないし……」
すると優花がふっと笑う。
「紗和ほんとにその人のこと大好きなんだね」
「え……?」
「そういう感情になってる紗和初めて見た。ちゃんと恋、してるんだね」
「自分でもおかしいのかなって思うくらい、ずっと考えちゃうんだ……」
「それが、恋よ」
「じゃあ、私のこの感情は変じゃないかな……?」
「全然。まぁ言ってもまだ三ヶ月でしょ?そんな焦らなくてもいいんじゃない?」
「そう…だよね……」
「それか…ランジェリー着て誘惑したら?」
「ゆ、誘惑……!?」
「そ!可愛い紗和がさらに本気出したらすぐその気になるって…!」
「ちょ…優花…!……でも…ありがとう……なんかごめんね、変な相談して」
「全然!また話聞かせてよ!」
私はお礼を言い電話を切った。
そして数週間後。
優花に言われてすぐにランジェリーを買ったものの、ハードルが高すぎてなかなか着られずにいた。
「……よしっ倒したよ!直人さん!」
私はテンションが上がり、足をバタつかせながら喜ぶ。
「相変わらず上手いな……久しぶりにやったのに全然腕鈍ってないし…」
「私、センスあるんだろうね」
「自分で言うか……」
すると直人さんがソファから立ち上がりどこかへ行く。
戻ってきた直人さんは私の足に毛布を掛けてくれる。
「足、寒いだろ」
「ありがとう…でも別に寒くは……」
「良いから、被ってろ。そんな短いスカートではしゃがれたら気が散る……」
気が散るってことは……私のこと女性として見てくれてるってことかな…
私はコントローラーを置き直人さんにキスをする。
「紗和…?」
私は毛布を取り座っている直人さんの足の上に向かい合わせで座る。
私はキスしながら直人さんのシャツのボタンを外す。
すると直人さんがパッとボタンを外す私の手を押さえる。
「え…?」
「……ゲームまだ途中だし……明日も仕事だろ…?」
「あ…………そう…だね…ごめん」
私は直人さんの足から降り、ソファに座る。
「今日も…泊まっちゃ…ダメ?」
「ダメだ」
直人さんは私を頑なに家には泊めてくれない。
そして次の日。
私は無意識にため息をつく。
「色気……ってどうやったら出るんだろ」
「……ぶっ」
水を飲んでいた間宮くんが、水を吐き出し咳き込んでいる。
「ど、どうしたんですか…急に」
「どうしたら大人の色気?みたいなの出せるんだろうって」
「は、はぁ……」
「間宮くんは男の子として、彼女にどんな行動されたらドキッとくる?」
「どんな…」
そう言うと私の顔をじっと見る。
「好きな人なら…何されてもドキッとしますね」
「例えばさ…私が彼女だとして…間宮くんに近付いて…こうやって…したらどう?」
私は間宮のシャツのボタンを外すふりをする。
「や…ちょ……」
間宮くんが私からパッと離れ距離を取る。
「………やっぱ嫌…かな」
私は自分の席に戻る。
「嫌…っていうか…むしろ…耐えられないです」
「そんなに嫌…なんだ……」
「え…本気で言ってるんですか?」
「何が…?」
「好きな人に…そんな事されて…その…手出さないのは無理…って事です」
間宮くんはそっぽを向きながら言う。
「え……そう…なんだ」
それを言われて私は余計に落ち込む。
私には魅力がないんだって思った。
「紗和さん…俺何でも相談して下さいって言いましたけど…」
「うん…?」
「紗和さんの事まだ吹っ切れた訳じゃないんで、こういう事はやめて下さい。ドキドキするんで」
「あ…ご、ごめん…!そんなつもりはなくて…!ほんとごめんね…」
「……で、今の感じで分かりましたけど。佐々木さんと進展してないんですよね」
「……………」
「キスはしたんですか?」
「キ…!間宮くん…!ここ会社…!」
「紗和さんが先に色気がどうのこうのって言い始めたんですけど」
「あっ………」
「そろそろ休憩終わりますし、またゆっくり話聞きますよ」
「や…大丈夫…!変な話してごめんね……」
「男に相談した方が分かる事もあると思いますけど」
「こ、困ったら言うから…ありがとう……」
そして数日後。
ザワザワ
「なんか向こう騒がしいですね」
「うん、なんだろ……」
向こうのフロアを見ると誰かの周りに人が集まっている。
人だかりで中心人物は見えない。
視線をパソコンに戻し、作業に戻る。
コンコンコン
ガチャ
「お仕事中ごめんなさい、少し良いかな?」
「あ、はい…!」
「私、休職してたんだけど…今日からこの会社に復帰して…部署は違うんだけど、ここに知り合いが何人か居て挨拶に来たの。貴方達は会ったことないわよね?松本です。宜しくね」
「あ…青木です…!よろしくお願いします」
「間宮です。宜しくお願いします」
「宜しく。お仕事中ごめんなさい、それじゃお邪魔しました」
松本さんがニコッと微笑みドアを閉める。
「………綺麗な人だったね…」
「そうですか?」
「なんか…大人の女性って感じで素敵……」
「紗和さんの方が何倍も綺麗ですよ」
「は…?や、やめてよ!そんな冗談…!」
すると間宮くんが笑い出す。
「それに…面白いですし」
「間宮くんっ…!」
そして夜。
私は直人さんの家に来ていた。
「あ、そうだ…今日ね松本さんって方が挨拶に来てたんだけど直人さん知ってる?」
「あ…あぁ、同じ部署に居たからな…うちに来てたのか…?」
「うん…!休職してて、今日から復帰したんだって」
「そうか…」
「直人さん…?」
「……ん?」
「どうかした?」
「あ…いや、何でも無い」
そして金曜日。
「んー!疲れたぁ……!間宮くんそろそろ帰ろ…!」
「はい。あ、紗和さん」
「ん?何?」
「あれから佐々木さんとはどうですか?」
「え……ど、どうって…別に……」
「進展無いんですね」
「もう良いから…その話は…!」
「……前の紗和さんみたいに、佐々木さんを嫉妬させてみたらどうですか?」
「嫉妬…?」
「俺と紗和さんが仲良くしてたら佐々木さん、紗和さんの事もっと自分のものにしたいって思うんじゃないですか?」
「え…?いやいやそんなこと……そこまでする必要ないよ…佐々木さん不安にさせたくないし…」
「……そうですか」
それから数日後のことだった。
「わー懐かしい…!こんな写真撮ったっけ?」
あ…松本さん………と直人さん…?
二人で楽しそうに会話している。
「直人なんか若くない!?」
「お前もだろ」
「お互い歳取ったよね〜」
「懐かしいな…」
私は邪魔しないようにサッとそばを通る。
「あれ?青木さん…だっけ?」
「あ、はい…お疲れさまです…」
「お疲れ!ねぇ見てこの写真」
「あ、おい…!」
松本さんが私に写真を見せる。
そこには直人さんと松本さんが並んで写っていた。
「…………………」
「私と直人が同じ部署だった時に撮ってもらった写真。二人ともなんか表情固いよね」
そう言って笑う。
「私達が付き合ってるって知った同期が撮ってくれたの。でもこの時ちょうど別れたばっかりで…気まずいのなんのって」
「も、もう良いだろ…その話は……」
「そう……なんですね…」
「松本さーん!ちょっと良いですか?」
「はーい!今行く!」
「じゃ、またね直人!今度さ、ゆっくり飲みながら話そうよ」
「あ、あぁ…」
「青木さんもまたね!」
「……はい」
松本さんが颯爽と去っていく姿を見つめる。
「あ…あの……青木……」
「失礼…します」
私は直人さんの顔を見ずに自分のフロアへ戻る。
「紗和さん、お帰りなさい。なんか盛り上がってましたね」
「……うん」
「どうしました…?」
「うぅん…何でもない」
「…………………」
仕事が終わり、すぐに直人さんから電話がかかってくる。
「もしもし」
「あ、紗和……今から会えるか…?」
「………今日は…ちょっと…」
「……そうか…あのさ…綾音の事だけど…」
綾音…
「なんでこの前松本さんの話した時、付き合ってたこと言わなかったの…?」
「それは…紗和が嫌かと思って……その…元カノが同じ会社って分かったら…」
「…………そっか」
「ごめん…」
「…………じゃあまた明日ね」
「え、紗和…」
「何?」
「怒ってる…よな…」
「別に怒ってないよ…直人さん私のこと気遣って黙っててくれたんでしょ…?」
「そうだけど…」
「充電…切れそうだから電話切るね…」
「あ、あぁ……じゃまた明日…」
私は電話を切る。
それから私は、直人さんに会うのをなんとなくためらっていた。
直人さんと会わなくなってから数日後、私はとある居酒屋に来ていた。
「あ、青木さん、間宮くん、お疲れ様ーっ!」
「「お疲れさまです」」
松本さんに飲みに誘われた私は、二人きりだと気まずくて間宮くんも誘った。
「すみません俺まで……」
「良いの良いの!私も一人誘ってるから」
「え…?」
とその時、扉が開く。
「おつか…れ……え…?」
「直人お疲れー!ほら話したでしょ?後輩と飲むって」
「後輩……って……」
「青木さんと間宮くん!って知ってるか!」
そう言って笑う。
「あ、あぁ…」
「ほらこの二人って私が前居た時には居なかったじゃない?だから話したいなーと思って」
「そうか…あ…青木……ちょっと良いか…仕事の事…」
「……はい」
私と直人さんはその場を離れる。
「紗和…悪い。俺紗和達が来ると思わなくて……」
「……大丈夫。せっかくの機会だからみんなで楽しもう…?」
「本当に…平気か…?」
「平気だって…!直人さんも松本さんと話したいことあるだろうし…私のことは気にしないで…!」
そして個室に戻った私達は四人がけのテーブルに直人さんと松本さん、向かいの席に私と間宮くんが並んで座る。
「それじゃあかんぱーい!」
こうして飲み会が始まった。
お酒の力なのか、松本さんのコミュ力のお陰か、気まずいと思ってた空間は思いのほか仕事の話で盛り上がる。
でも時間が経つにつれて、松本さんの酔いが回り次第に直人さんと過去の話をし始める。
「……俺達、向こうに移動しますね。お二人でしたい話もあるだろうし」
「ありがとう、なんか気遣わせちゃってごめんね?」
「いえ」
そして私達は繋がっている個室の扉を閉める。
扉を閉めても同じ個室内ということもあり二人の会話が聞こえてくる。
「こうして飲むの何年振りだっけ…?」
「別れて以来だからな…6年以上は経つんじゃないか……」
「そんなに経つんだ…でもさ、こうしてまた直人と普通に飲める日が来て嬉しいな」
「………………」
「紗和さん…あの二人って………」
「………付き合ってたんだって」
「………そうですか」
「………直人に謝りたいことがあってね、あの時は…ごめんね?あんなことしちゃって…」
「まぁ…もう過去の事だからな…」
「今日はさ…!とことん飲んで語り合いましょうよ…!ね?」
「うん、そうだな」
あの時のことって…相手は松本さんだったんだ……
それからも二人の話は全然尽きない。
「ほんと懐かしいわ…!あの時直人焦ってたもんね」
「綾音が焦らせたんだろ…!」
二人の楽しそうな笑い声が聞こえる。
気付けば私達が入店して3時間程が経とうとしていた。
「間宮くん時間大丈夫…?」
「特に予定ないんで、大丈夫です」
「ごめんね、急に誘ったりして…」
「全然。気にしないで下さい」
私達はヒソヒソと会話をする。
「次何頼もっかなぁ〜」
「まだ飲むのか…?」
「良いじゃん!久しぶりなんだからぁ」
松本さんは明らかに酔ってテンションが上がっている。
「じゃあ一杯飲んだらそろそろ……」
「…………………」
「何だよ」
「ねぇ直人……」
「……何」
「私達……より戻さない…?」
「は…!?何言ってんだよ」
「私ね、あれから色んな人と付き合ってわかったのよ…やっぱり直人が良い…って」
「………やめろって…」
「ねぇ直人…ダメ…?」
松本さんの甘えた声に耳を塞ぎたくなる。
「お前飲みすぎだ」
「私達…相性良かったでしょ…?心も……体も」
「おま…何言って…!青木と間宮も居るんだぞ…!?離れろって…!」
扉越しで何が起こっているのかわからない。
でも…この場を離れたくてたまらない。
「相変わらず良い体してるわね直人……」
「……本当にやめろって綾音」
「えーなによー…そんな怖い顔しないでよ…あ、もしかして…付き合ってる人いるの?」
「……………」
ガタンッ
「紗和さん…?」
私は扉を開ける。
「あの…私…そろそろ失礼しますね……」
「えー?もう帰るのー?」
「はい…失礼…します」
「ちょっと待て……」
直人さんに腕を掴まれる。
「失礼…します」
私は直人さんの腕を離し、お金を置いて部屋を出る。
「俺も…失礼します」
私は居酒屋を出て、外の空気を吸う。
「紗和さん、待って下さい!」
「ごめん…間宮くん……私から誘っておいて勝手に出てきちゃって…」
「そんな事より…さっきの……」
心臓がキュっとなって痛い。
「紗和さん…大丈夫ですか…」
「ごめん…間宮くん…もう帰って大丈夫だよ……」
「………帰れません」
「一人に…なりたいから…」
「紗和さん……」
すると間宮くんが後ろから優しく抱きしめる。
「間宮くん…!?なにして……」
「辛いんだろ…強がんなよ……」
その言葉に泣きそうになる。
「間宮くん…大丈夫…だから……離して…」
「紗和…?」
後ろから直人さんの声が聞こえる。
「……間宮お前何してんだ」
「………………………」
「間宮くん…離して………」
その言葉に間宮くんがゆっくり私から離れる。
「何してるはこっちのセリフなんだよ……」
「は…!?」
直人さんが私を引き寄せる。
「あの…直人さん……私…大丈夫だから……松本さんの所に戻って……」
「いやでも………」
「間宮くんがタクシー呼んでくれたから……」
「なら一緒に……」
「松本さん一人にしちゃ可哀想でしょ…?直人さんは戻って…?」
「…………………」
「ね…?」
私は精一杯の笑顔でごまかす。
「分かった……気を付けてな」
「…………うん」
そして居酒屋に戻る直人さんを見送り、私は歩き出す。
「家まで送ります」
「……大丈夫。一人で帰れるから」
「送らせて下さい」
「ほんとに…大丈夫………」
「なら勝手に付いていきます」
「……ごめん………ありがとう……」
家に帰ってきて少し経った頃、直人さんから電話がかかってくる。
「もしもし…」
「紗和…さっきは…ごめん」
「……だから大丈夫だって…気にしないで…松本さん…結構飲んでたみたいだけど…大丈夫だった…?」
「あぁ…タクシーで帰らせた」
「そっか……」
「本当に…ごめん」
「大丈夫だって…じゃあまたね…!おやすみなさい…」
「うん…おやすみ…」
わざと明るく振舞ってしまい、電話を切った後また落ち込む。




