表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたが愛しすぎて  作者: m.
16/34

私のトラウマ

ー次の日ー


会社に着くと、佐々木さんの周りに人だかりができていた。








昨日負った怪我のせいだ。









「あ!青木さん!昨日エレベーターに閉じ込められたんだって!?大丈夫だった!?」









「あ、はい……」









「佐々木さんなんであんな怪我してんの!?」









「あ………」








「だから転んだんだって…!エレベーターが止まった拍子につまづいちゃって……」








「もーせっかくのイケメンが台無しじゃない!」









「いや何言ってるんですか………」









みんな佐々木さんの心配をしている。










愛されてるなぁ………










「俺の事はもう良いですから…ほら!仕事しますよ!」









佐々木さんのその一声でみんなが渋々デスクへ戻って行く。








私も佐々木さんにペコッと頭を下げ、自分のデスクへ向かう。








間宮くん………まだ来てないんだ。








いつも早いのにな…………









「すみません…遅れました…」









「あ、間宮くん…おはよう…遅刻なんて珍しいね…」









「すみません……」










間宮くんは何事もなかったように私に接してくれた。








仕事が終わり、帰り支度をしていると間宮くんが話しかける。







「紗和さん、昨日はすみません…あんな状況で……」








「うぅん…ありがとう……あの……」








「今は返事聞きません。俺、今から紗和さんに好きになってもらえるように頑張るんで…それから返事下さい」








「……うん…わかった……」








「佐々木さんの怪我は…大丈夫でしたか…?」









「うん…でもあんなこと二度としないで…お願い…」








「………俺、悪いとは思ってないですけど」








「………………」








「……そんな顔しないで下さいって……謝りますから……」








「間宮くんが私の為に怒ってくれたことはちゃんとわかってるから……ね…?」









その後間宮くんと佐々木さんは、一応和解したらしい。









私もちゃんとトラウマを克服しないと………









それから約一ヶ月後。









私は過去のことを何度も佐々木さんに話そうと思った。








でも、今まで封印していた過去を思い出すことが怖くて仕方なかった。








思い出しそうになると急に手が震え、脳が無意識のうちに違うことを考えようとする。









スマホを持っては、置き…を繰り返していた。










こんなことをしていても前に進めない。










そう思っていたある日、私は意を決して佐々木さんに電話をかける。











「もしもし?」









「あの……佐々木さん……今度の土曜日って時間ありますか…?」









「土曜日……夜でも大丈夫か?」










「はい……大丈夫です」









「分かった、そっち行くから」









「ありがとうございます………」










………そして土曜日になってしまった。









私は落ち着かなくて部屋の中をウロウロと歩き回る。









そのうち着信があり佐々木さんが着いたと連絡が入る。








私は深呼吸をして玄関のドアを開ける。








「佐々木さん…すみません…来てくれてありがとうございます……」









「いや……無理はしなくて良いから……」









「はい…ありがとうございます……」









佐々木さんにお茶を出し、ソファに並んで座る。








「…………………………」








「…………………………」










また手が震えてきた。









「あの……お願いがあるんですけど………」








「ん…?」








「手……握ってても……良いですか……」









「え…?」








「話してる間だけ…」










「良い…けど……」









佐々木さんの体温に触れると不思議と安心できる。









そして私はゆっくりと話し始めた。









始まりは高校一年生の頃だった。









小学生の頃に出会った優花と高校がバラバラになり、緊張と不安の中高校生活が始まった。









人見知りな私はなかなか自分から喋りかけることができずにいた。







でも入学して割とすぐにクラスの一人に声をかけられた。








山本凛(やまもとりん)

その子はいわゆる一軍の女子だけど、誰とでも仲良くなれるタイプの子だった。









「ねぇ紗和、樹先生カッコよくない!?」









「樹先生…体育の?」








「そうそう!私実は狙ってるんだよね〜」








「え、そうなの!?でも先生でしょ…?」








「紗和真面目だなぁ…今時先生と付き合ってる子なんていっぱいいるって」










「そ、そうなんだ…」










蒼井樹(あおいじゅり)

体育教師で若くて、かっこいいと赴任してすぐにみんなの人気者になっていた。








ある日、生理痛がひどくて体育の授業を見学した時のことだった。









私は樹先生とバスケの試合の点数係をしていた。










「体調大丈夫?」









「あ、はい…!」









「そっか、無理すんなよ」








そう言って頭を撫でられた。









その一瞬のできごとが私の運命を狂わせた。










体育の授業が終わり、着替えていると凛が私のそばに立つ。









「ん?凛どうしたの?」









「紗和ってさ、樹先生のこと好きなの?」










「え…?好きじゃないよ…」









「ふーん…でもさっき仲良さそうに喋ってたよね」










「あぁ……あれは喋ってたっていうか…樹先生が私を心配して声をかけてくれて……」










「……体育の授業休んだのわざとじゃないの?樹先生に構ってほしくて」











「え…違うって…!ほんとに生理痛で……」










「………じゃあ、樹先生に頭撫でられてたのはなんで!?」









凛が急に大声で私を責める。










「それは…私が言ったわけじゃ…」









「私が樹先生好きなの知ってるよね!?あんたが樹先生に色目使ってんじゃないの!?」










「そんなことしてないっ…!」









「……もういい」









それから凛は私を無視するようになった。








凛はクラス中を味方につけて、私を無視するよう仕向けた。









そしてある時、変な噂が立った。









青木紗和が樹先生と付き合ってるらしい、と。









その噂は学校中に知れ渡り、私が校内を歩くとみんな私を見てコソコソ話し出す。









「あの子じゃん?樹先生と付き合ってるって……」










「よく平気で学校来れるよね」









噂は広がりに広がり、いつの間にか全く違う噂へと変わっていた。










ある時学校から帰る途中に後ろから声をかけられた。








「ねーもしかして青木紗和?」









「そう…ですけど……」









「ほら、やっぱり合ってた!」









三人組の男子生徒に声をかけられる。










「思ってた以上に可愛いじゃん」









「お前さ、色んな男取っかえ引っ変えしてるってまじ?」









「何のことですか…!?」










「まぁ自分からは言わねーわな!」










そう言って爆笑している。










「…………用がないなら行きます」










私が歩きだそうとすると男子生徒の一人に腕を掴まれる。









「待てよ。俺らとも遊んでよ」










「は…!?何言ってるんですか!?」









「相手してやるって言ってんだよ!」










そう言うと無理矢理茂みの方へ引っ張られる。









「ちょ…やめて…!離して…!」










私が叫ぶと、口を手で塞がれる。










「おい、早く服脱がせ!」









私は必死に抵抗したけど、三人の男の力には勝てなかった。









もうダメだと諦めた時だった。









「おい!お前ら…何やってる!」










「え…やべ…逃げるぞ!」









そして男達は走って逃げていった。










私は怖くてその場から動けずにいた。









「青木…?大丈夫…?」









「樹……先生……」









その時助けてくれたのが樹先生だった。










樹先生は私が落ち着くまでそばにいてくれて話を聞いてくれた。









それから毎日樹先生は私を気にかけてくれた。










心身共に落ち込んでいた私はその優しさについ甘えてしまった。









ある時私はいつものように樹先生と話をしていた。









すると急に樹先生が私の頬に触れる。










「え…どうしたんですか…?」









「可愛いなーって思って」










「ちょ…からかうのはやめてくださいよ…」










そう言って私は樹先生の腕を頬から離す。










すると樹先生が私に顔を近付ける。










「えっ!?なんですか!?」










私は反射的に樹先生から離れる。








「なんかいい雰囲気だったから」









そう言って笑う。









「え…いい雰囲気って…なんですか……」










すると樹先生が立ち上がり、壁際にいる私に近付いてくる。








「またまた…わからないふりして……青木だって俺と同じ気持ちでしょ…?」









「なんの…ことですか…?」









「大丈夫…俺が心も体も慰めてあげるから…」










そう言って私の腰に触れる。









「や、やめてください…私そんなつもりじゃ…」









「じゃあ…どういうつもりで俺に近付いたの…?」









樹先生が耳元で囁く。









「樹先生が話聞いてくれたから…私は先生として……」








樹先生が体をさらに近付けてくる。









「私帰ります…もう樹先生には近付きません…!」









樹先生の体を押し私は行こうとする。









「……じゃあ…良いんだ?」









「何が…ですか」









「青木が男子生徒に襲われてる動画…拡散しても良いんだ?」








「え…?」









「あんなの拡散されたら…もう学校来れないよね。こんな姿……恥ずかしいもんね」









そう言うとスマホの動画を私に見せる。










「なん…で……あの時の……」









「たまたま近くに居たからさ、撮ってたんだよね。まぁさすがに最後までは可哀想だから?助けてあげたけど」









「そんな……」








「だからさ、選びなよ。俺と楽しく過ごすか、最悪の学校生活を送るか」









「………………」









樹先生は私に抱きつき顔を近付ける。









私は…それを受け入れるしかなかった。









しばらくして、先生との関係を続けることが辛くなった私は先生に妊娠したと嘘をついた。









すると樹先生は逃げるように学校を辞めた。








樹先生が居なくなると、私へのイジメはより一層ひどくなった。








早く卒業する日が来ないかと、そればかり考えて過ごしていた。








なんとか高校を卒業し、地元を離れ知ってる人がいないであろう大学を選んだ。









大学では友達を作らず、透明人間のように過ごしていた。








ある時、映画を観に行った私は帰りに一人の男性に声をかけられた。








「あの、すみません」








「は…はい…」









「俺、同じ大学なんだけど…知ってる?」








「……すみません…知らない…です……」








「そうなんだ」








そう言って笑う。








「映画、どうだった?」








「おもしろかった…です」








「ね!おもしろかったよね。あのゾンビが逆襲する所最高だったよね」









「はい…あのシーンは最高でした…」









これをきっかけにその人と何度か映画館で会うようになった。








私も少しずつ心を開くようになり、付き合うことになった。









彼は出不精でほとんど出かけることがなく、家で過ごすことがほとんどだった。









ある時男性配達員が家に来た。








その配達員と軽い世間話をしたことをきっかけに彼の激しい束縛とDVが始まった。








買い物に一緒に行って帰ると、レジの男性店員に愛想を振りまいたと言われ殴られる。







最初は抵抗していたけど、抵抗すると生意気だともっと激しく殴られた。









そのうち私は抵抗することをやめた。









しばらくDVをうけたあと彼は必ずごめんねと優しく抱きしめる。








彼は私を軟禁して一人ではどこへも行かせなかった。








「あ…の……」









「何?」








「少し外の空気が…吸いたい…んだけど…」









「……は?」









彼の目つきが怖くて私は何も言えなくなる。










体にアザが増え命の危険を感じ始めていた頃。








夜に彼が仕事先から呼び出された。








彼にどこへも行くなと念を押されたけど、これ以上ここにいたら本当に死んでしまうと思った私は震える足を必死に動かし、警察署へ走った。









担当の警察官は親身になって話を聞いてくれた。










「そうですか、そんなことが……」









「彼が怖くて……家に帰るのも怖いんです……」









「………殴られた証拠があればすぐに逮捕出来るんですけどね…」








「証拠………」








「アザ……残ってます…?」









「残って…ます……」








「なら…裏でちょっと見せてもらって良いですか?証拠になるかもしれないです」








「わかりました…」








そして私と警官は裏の部屋に行った。








「それじゃあ、服捲ってもらって……」








私はお腹の方まで服を捲り警官に見せる。









「いや、胸まで捲ってもらって良いかな。あ、脱いだ方が早いか」








「え…全部…ですか…?」








「じゃないと程度が分からないでしょ?」









「あの…女性の方って……」








「あー今私しか居ないんですよ。……もしかして警戒してます?」








「あ…いえ…そういう…訳じゃ……」








「こういうのって、男も女も関係無いんで。我々警察官ですよ?」








「そう…ですよね…すみません……」








私は上着を脱ぎ下着姿になる。









「あー……なるほどね……」








警官は私の周りをぐるぐるしながら体をまじまじと見る。









「………状態は分かりました」









私は上着を着る。









「お茶でも飲みますか?」








「え…?」








「落ち着きますよ」








「ありがとうございます……」








私はお茶を入れてもらいゆっくりと飲む。








「おいしい…です」








「それは良かった」









警官が微笑む。








少し安心した私はそのまま奥の部屋で警官と話をする。








「あの…逮捕ってできないですよね……」








「そうですね…すぐには難しいと思います」









「そう…ですか……」








「不安…ですよね」








「はい……」









「……良ければ僕の家に来ますか?」









「え…?」








「青木さんにもっと色々話聞きたいですし、早く逮捕出来た方が安心でしょう」








「でも……」








「何かあれば僕が付いてますから」








そう言って微笑む。








その笑顔と言葉が弱っている私の心に突き刺さった。








ガチャ








「お邪魔します……」








「適当に寛いでて下さい」








「あ…はい……ありがとうございます……」








私はリビングのソファに座る。









「ご飯食べますか?」








「ご飯…ですか?」








「お腹空いてませんか?」








「少し……」








「一人暮らしなんで、こんな物しかないですけど」








ご飯を食べ終わると、お風呂も貸してくれた。









「それじゃ…そろそろ寝ますか」







「はい」








私は警官の後を付いていく。







ガチャ






バタン







「あ…そうだ……もう一度アザ…見せてもらって良いですか…?」







「え…?」







「ほら、証拠…撮らないと」







そう言うとスマホを私に見せる。







「証拠…そうですよね……」








「これで逮捕に一歩近付きます」









そう言って警官が笑う。








「はい…」








私は上着を脱ぎ、下着姿になる。









「……下も脱いで貰って良いかな?」








「下…ですか?」








「ほら…証拠は多い方が…良いでしょう?」








「……はい…」








私が言う通りに脱ぐと警官は何枚も写真を撮った。









「あの…もういいでしょうか……」








「…………………………」








するとしゃがんでいた警官が立ち上がり私を見つめる。








「あの……」








警官が私の髪に触れる。









「どう…したんですか…?」









私がそう言うと今度は頬に触れる。









「あ、あの…もう…服…着ますね……」









私は警官から離れる。









するとパッと腕を掴まれる。









「え…?なん…ですか…?」








「一回…ベッドに座りませんか?」









「………あの…その前に服を……」








私がそう言うと警官が私の体を押し、ベッドに座らせる。








「あ…の……」









警官が私に顔を近付ける。









「やめ…て…下さい……」








「……どうして?」








「……………………」









警官がため息をつく。









「……なら帰って下さい」







「え…?」








「お金、持ってないんですよね。あの家に帰るしかないですね。また暴力奮われるかもなぁ…あ、もしかしたらどこかで僕がうっかり口を滑らせて今日の事彼氏さんに話しちゃうかもなぁ……」








「……………」








「僕はあなたを泊めてあげてるんだから…見返りは必要でしょう?」








「……………………」








俯く私の頬を警官がまた触る。








「そんな悲しそうな顔しないで…」









そう言うと私をゆっくり押し倒す。









「大丈夫…僕は優しくします……」









「やめて下さい……警察官…でしょ…?」








私がそう言うと警官が笑う。









「……青木さんが僕を煽ったんでしょう」









「どういう…意味…ですか…?」









「僕の前で何度もそんな姿になって…あなたが悪いんでしょ?」








「そ、それは……あなたが……」








「………青木さんって純粋なんですね」








「え…?」








「………普通ね…こういう案件は女性警官が担当するんですよ…?」









そう耳元で囁く。









「………………………」









警官は私の体を触り始める。








「私を…助けてくれるんじゃ…なかったんですか…?」







「そのつもりだったけど……青木さんのせいじゃないですか…」








「お願い…します……やめて…下さい」









「最初見たから可愛いな…って思ってたんです」








「………………………」








「僕だって男ですよ?こんな姿見たら我慢出来ないでしょ」








「………………………」








「可哀想に……ここにも…ここにもアザが……」









警官は私にキスをする。








体は拒否しているのに頭がうまく働かない。









と、その時だった。








ピンポーン








玄関のチャイムが鳴る。








警官は構わず続ける。








ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン









「……………うるさいなぁ」








警官は私から離れ、寝室を出て行く。








ドアが開いたままで警官の声が聞こえる。








「あれ…誰も居ない………」








ガチャ








「……………………」








バタバタと足音が近付いてくる。









「何やってんだお前」







その姿を見た瞬間、鼓動が早くなる。








「…………なん……で……」









彼が私に近付く。








「浮気か…?ふざけんなよ………」









そう言うと私の髪を掴み、ベッドから引きずり降ろす。








「ご……ごめ……ごめんな…さ」








「ちょっと…あなた何してるんですか…!?」








「あぁ!?黙れ!!」









「青木さんの彼氏さん…?どうやってこの場所が………」








「紗和、分かってるよな?こんな事してただで済むと思うなよ」








そう言うと私に殴り掛かる。









「ご…めん…なさい……ごめ…なさい」








「は、離れなさい…!」








警官が彼を引き離そうとする。









すると彼が警官を見て、私から離れる。









「てめー俺の女に手出してどういうつもりだ?あ?」








そう言うと警官を押し倒し、殴り始める。









理性を失った彼が警官を殴ってる間に私は服を着て必死に走ってその場を離れた。









もう誰を信じれば良いのかわからなくなった。









私は大学を中退し、家も引越し、遠くへ逃げた。








しばらくバイトで貯めた貯金を切り崩し、家からほとんど出ずに過ごしていたもののそのうち貯金も底を付き、働くことを決めた。









たまたま求人募集で目に入った社長秘書という仕事







ほとんど社長としか関わらず、淡々と仕事ができると思った私はそこで働くことに決めた。








そこで出会った人が少し前まで付き合っていた彼氏だった。








落合龍也(おちあいりゅうや)








彼は取引先の人で、会う度に私に話しかけてきた。








私は必要最低限の会話しかしなかった。









「……木さん!……青木さん!」








「あ…はい」








「どうしたの?大丈夫?」








「大丈夫…です」









「ねー今日この後なんか予定ある?」








「予定…?」








「これさ、見に行かない?」









そういうとお笑いライブのチケットを見せられる。








「お笑い…?」








「そう、好き?」








「そう…ですね」








「じゃ、決まり!仕事終わったら入口に集合!」









「え…?ち…ちょっと待って下さい…!」








私が言う前に彼は行ってしまった。









私は気が進まないまま仕事を終えた後、入口へ向かう。








「お!お疲れー」








龍也が私に手を振り近付いてくる。









「お疲れ…さまです。あの…私やっぱり……」








「じゃ、行きますかっ!」









「あの…!すみません…私行けません……」








「え…なんで…?」








「私…あなたのこと…良く知らないので……」









「え…何回も会ってるじゃん…うわ…悲し……」








そう言って龍也がその場でしゃがみ込む。








「俺…青木さんと一緒に行きたくてチケット買ったのに…」








そう言ってため息をつく。









「あ、あの…みんな見てます……」









「だってさ〜…ショックで立ち上がれないわ…」









道行く人がこちらをチラチラ見ている。








その視線に耐えきれなくなった私は渋々行くことにした。








「わか…りました……行きます……」








「まじ!?やったー!」








そう言って嬉しそうに立ち上がる。









そして私達は電車に乗って、お笑いライブへ向かった。








「てかさ、俺の名前は知ってる?」








「それはさすがに知ってます……落合さん…ですよね」








「良かった…!」







「…………………」








「急に誘われてびっくりしたでしょ」








そう言って笑う。








「はい…」








「俺さ、青木さんのこと前から気になってたんだよね」







「え…」








「なんか会う度ロボットみたいに仕事してて」









「………………」









「笑ったら絶対可愛いのになーって」









「………………」









数時間後。









「あーめっちゃ笑ったわ…」








「そう…ですね」









「青木さん、やっぱ笑うと可愛いんじゃん」








「え…?」








「まー今の真顔も可愛いけどね」









それが龍也との始まりだった。









龍也は積極的で、私を色んな場所へ連れ出した。









私に好意を持ってくれている、と鈍感な私でもわかった。









それでも男性を信じることができなかった私はその好意に気付かないふりをしていた。









ある時、龍也に思いを打ち明けられた。









「紗和ちゃん俺さ…紗和ちゃんのこと好きなんだよね」







「……………………」








「気付いてたでしょ?俺の気持ち…」









「うん……でも…ごめんなさい……」









「そっか……俺達結構相性いいと思うんだけどなぁ……」








「友達として…これからも……」









「………友達かー」









「ごめんね……」








「俺のこと嫌い?」








「嫌いじゃないけど……」








「じゃあなんで……」








「それは………」









「………じゃあさ、試しに付き合ってみない?」








「え…?」








「俺紗和ちゃんのこと大事にするし」








「でも……」









「そんな深く考えなくていいからさ、今までみたいに二人で色んな所行ったり…ご飯食べたりさ…そんな感じでいいから…ね?お願いっ!」









龍也は両手を合わせ、私に訴える。









「今まで通りで…いいの…?」








「もちろん!どうかな?」








「それなら……」









それが出会ってから約一年半後のことだった。









「まじ!?やったー!」









龍也は私の返事にすごく喜んでいた。








「ね、どうせなら俺の家住まない?」









「一緒に…?」









「ほら、家賃とか生活費も節約になるし」









「確かに……」








龍也と一年以上関わってきて、少しずつ心を開いていた私は生活費が節約できるなら…と同棲することに賛成した。








同棲し始めてから一ヶ月が経とうとしていた頃。








ソファに座ってテレビを見ていると、龍也が口を開く。








「紗和ちゃん」








「ん?」








「キス…していい?」








「え…?どうしたの急に……」








「急……っていうか俺、結構我慢してるんだけど」








「……………………」










「俺ら付き合ってもう一ヶ月経つしさ……」









「うん………」








「いいでしょ?」








「……………………」









その言葉に私は頷く。









キスをしていると、龍也の息遣いが荒くなる。








「ち、ちょっと待って…龍也……」









龍也が私の服を脱がせようとする。








「なに……」









私は龍也から離れて自分の服を掴む。









「嫌なの…?」









「…………………」









すると龍也がため息をつく。








「俺ら付き合ってるんだよね。付き合ってるならするでしょ、普通」









「……………………」









「いいでしょ?紗和ちゃん」









龍也がイライラしているのが伝わった。








「………付き合う前に……今まで通りで良い…って…言ってたよね…?」








「……じゃずっと我慢してろって?」







「……………………」








「それは酷だわ…紗和ちゃん。俺男だし」







「……………………」







「紗和ちゃんは俺のこと好きじゃないの?」








「………好き…だけど……」







「俺も紗和ちゃんが好きだよ。だから…いいでしょ?」







少しの沈黙のあと、私は頷く。









そしてさらに三ヶ月が経った頃。









「……ちょっと出掛けてくる」







「え…また…?」









「今日はなんか当たりそうな気がするんだよなー」









龍也と同棲してから気付いたことがあった。









龍也はギャンブルが好きだった。







金遣いも荒かった。








でも、それ以外は優しいし束縛もしないし私は妥協していた。








でもしばらくしてまた龍也の新たな一面に気付いた。








「え、龍也!?」








「えっ萌?」








「久しぶり〜!」









「久しぶり!…相変わらず可愛いな…!」








「もう…!龍也そういうとこ全然変わんないね」








「いや本心だし!」








「彼女の前でそんなこと言っちゃだめでしょ?じゃ、ばいばーい!」








そう言って手を振りながら去っていく。








「あ…今の…友達…!」








「……そっか」








それから間もなくして彼の浮気現場を目撃した。









同棲している部屋で。









ガチャ









「え…紗和ちゃんっ!?今日帰り遅いんじゃ…」









「…………………」









「あっ…これは…」









私は無言で部屋から出た。









「紗和ちゃんっ…!ちょっと待って……」









龍也が服を着ながら追いかけてくる。









「……なに?」









私は振り向かずにそう言う。









「ごめんっ…」









「私、出て行くから。明日荷物取りにくるね」









そう言って歩き出す。









「紗和ちゃん…!ごめんっ…本当にごめん…許して……」








後ろを振り向くと龍也が土下座して泣いていた。









「そんなことするくらいなら…なんで浮気したの…?」









「ごめん…あいつに…言い寄られてつい…」









「……なにそれ」









私は呆れた。









「俺が好きなのは紗和ちゃんだけだから…!本当に…本当にごめんなさい…!」








龍也は土下座したまま私を見る。








「やめてよ…もうそういうのいいから……」









「紗和ちゃんが許してくれるまでこのままで居る」









アパートの住人が怪訝そうな顔をしながら横を通る。








「わ、わかったから……もうやめて……」








「ほんとに…?ありがとう紗和ちゃん…!」








そう言うと私に抱きつく。








正直、浮気されて悲しかったかと言われればそうでもなかった。








今思えば、心から男の人を信用していなかったのかもしれない。








それから約一ヶ月後のことだった。









その日は龍也の誕生日だった。









「……あ、もしもし龍也?今家?」









「あっ…えっ……い、今!?」









「うん…どうかした…?」









「い、いや…何でも……今日7時頃帰るんだよね…?」








「そのつもりだったんだけど、思ったより早く上がれたから……」









「え!?今どこに…」










「家の前…ケーキ買ってきた………」









そう言った瞬間、電話口からバタバタと物音が聞こえる。








もしかして……









嫌な予感がした私はすぐに鍵を開ける。









「龍也…?」









玄関に入ると私の物ではないヒールの靴があった。









私がリビングに入ると、ソファに見知らぬ女性が座りながら服を着ていた。









「あっ…紗和ちゃん…これ…は…違くて……」








「…………………」








私はその場に持っていたケーキを置き、玄関へ戻る。









「紗和ちゃんっ!待って…」









「……付いてこないで」









「ちゃんと説明するから…」









「…もう、話聞きたくない」








私はそのまま部屋を出て、アパートの下まで着くとその場でしゃがみ込む。









少しして、ヒールの音が私の方に近付いてくる。









「……泣いてんの?」









「別に泣いてない…です」









「へぇ…余裕だね」








「……………………」









「どうせ浮気してもまた自分の元に戻ってくるって思ってるから?」









「そういう訳じゃ…ないです……」









「なら龍也があなたと別れない理由教えてあげようか?」








「え…?」









「だってあの龍也が同棲するって聞いた時びっくりしたもん…!」









そう言って笑う。









「…………………」








「龍也さ、あなたの外見がめちゃくちゃタイプなんだって。落とすまでめっちゃ時間かかったから簡単には手放したくないらしいよ?」









「……………」








「そもそも同棲したかった理由知ってる?」









「………生活費が節約…できるから……」








「……違うよ?同棲してたらしたい時にいつでもできるからだって。顔もスタイルも体の相性も最高らしいよ、良かったじゃん」








「………………………」









「まぁ、でも元々遊び人からねー、浮気癖は直らないみたいだけど」









そう言ってまた笑う。









「まぁ龍也タイプだし、私は全然いいんだけどね」









そう言うと彼女は向こうに歩いていった。









私はため息をつきその場を離れる。









彼に別れも告げずまた仕事を辞め、引越しした私はまた引きこもり生活に戻った。








そんな生活が一年近く続いたある時、なんとなく観ていたテレビで黒崎社長の密着番組が放送されていた。








毎週、一ヶ月に渡り放送されたその番組を見ている内に黒崎社長の考え方や人柄、社員に対する接し方に心を打たれ、気付けば夢中になって観ていた。









私が前に進むきっかけになったのが、今働いているこの会社だった。









「……………………」









話を終えた私はいつの間にか涙が流れていることに気付いた。









「あ…れ……私……なんで…」









手元を見ると佐々木さんが私の手をギュッと握っている。








顔を見ると……佐々木さんも泣いていた。








「え…どうして……佐々木さんが泣いてるんですか…?」







佐々木さんの体が震えていたから私は思わず佐々木さんを抱きしめる。








「こんな……辛い事…全部…話させて……ごめん」









「すみません……こんな話…引きますよね……」










すると佐々木さんは、私を強く抱きしめる。









「そんな訳無いだろ……」








「私……いつからか…諦めちゃってて……男の人ってみんなそうなんだって……」










「そんな事……そんな悲しい事……言うな……」








「私は優花に何度も救われました。優花のお陰で……私は今もここにいると思ってます」









「彼女には…話したのか…?」









「………いえ…優花には……話せませんでした……あんな話したら……相手に何するかわからない…私のために犯罪者になりかねない……そんな気がして…」








「そうか………」









「でも…私今の会社に就職して……黒崎社長や…佐々木さんや間宮くんと出会って……世の中にはこんなに優しい男の人がいるんだって思いました」









「…………………」









「佐々木さんの家に泊まらせてもらった時…佐々木さんが本当に優しさで泊めてくれたことがすごく嬉しかったんです」








「そんなの……何かしようとする方が異常なんだよ……」








「あの時から…私の考え方が少しずつ変わったように思います……そのことに気付けたから…私…この会社に来て…佐々木さんと出会えて…本当に良かったです」









すると佐々木さんが私を抱きしめながら頭を優しく撫でる。








「一気に話して…大丈夫だったか…?辛い事思い出させて…本当にごめん……」









「佐々木さんが……手握ってくれたので……不思議と落ち着いて話せました」









「……もし…後から辛くなったりしたら…俺いつでも青木の傍に居るから…これから少しずつ良い方向に向かうと思うから……」








「ありがとうございます…私が相談した警察官が佐々木さんだったら…良かったのにな……」









すると佐々木さんは私からゆっくり離れ、真っ直ぐ目を見つめる。








「青木、お前が今まで出会ってきた青木が嫌がる事をした奴はみんな最低の人間だ。青木は1ミリも悪くない。青木はもっと大切にされて、愛されるべき人間なんだよ」









「………………」








「今、青木の事を大事に思ってる人が周りにたくさん居る。分かるか…?」









私は無言で頷く。








「青木には親友が居るだろ…?家族だってそうだし、俺も含め会社のみんなにも愛されてる」







「………………………」








佐々木さんの暖かい言葉に、今まで心の奥底に隠していた感情が涙となって溢れてきた。









「これから先……もしかしたらまた危険な目に合うかもしれない……その時は全力で拒否しろ」









そして佐々木さんは細かく対処法を教えてくれた。









「周りにも守って貰いながら、青木も自分自身を大切にして自分の身を守れ」









「はい……ありがとう……ございます……」









私はまたゆっくり佐々木さんに抱き付く。








涙が溢れて止まらない私を佐々木さんはただ、だまって受け入れてくれる。








気付けば、もう時刻は夜中を回っていた。








泣きすぎて泣き疲れていた。








私はゆっくり佐々木さんから離れる。








「佐々木さん……すみません……こんな時間まで…」









「気にするな。青木が落ち着くまで居るから」









「はい……」








私は佐々木さんの肩に頭を置く。









そしていつの間にか寝てしまっていた。









目が覚めると隣に座ったまま寝ている佐々木さんがいた。








私がその寝顔を見ていると、佐々木さんの目が開く。








「あ…れ……ごめん俺も寝ちゃってた……」









私が笑うと佐々木さんが不思議そうな顔をする。









「ずっといてくれたんですね……昨日は佐々木さんに色々甘えてしまって…すみませんでした……」










「ちゃんと寝られたか?」









「はい…すみません肩までお借りしちゃって……」









「じゃあ…俺そろそろ……」










「あ、ご飯作るので…食べていって下さい…!」









「良いよ別に…そんな気遣わなくて」








「お礼…したいんで……ご飯くらいじゃ足りないですけど…」








「……良いのか?」








「もちろんです…!」








「……実はお腹すげー減ってるから助かる。ありがとう」









朝食を食べ終えたあと佐々木さんを見送る。









「もし、何かあればすぐに連絡しろよ」









「はい…ありがとうございます」








佐々木さんと別れたあとリビングに戻り、ソファに座る。








思っていたより精神は安定していた。








佐々木さんが一生懸命言葉をかけてくれたからだろうな…








それよりも、佐々木さんがいないこの空間が少し寂しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ