温泉
そして自宅待機初日。
朝早くに目が覚めた私は、とりあえず顔を洗い朝食を食べる。
〜♪
「もしもし佐々木さん?どうしました?」
「どうしたはこっちのセリフだよ…長期休み取ったって聞いたから何かあったのかと思って」
「あ……ただの有給休暇消化です…!社長に言われちゃって…すみません…お話してなくて」
「そうだったのか…また涼宮と何かあったのかと思ってさ」
「いえ…楓ちゃんは関係ないです」
「まぁ…青木今まで仕事頑張ってきたんだからゆっくり休め」
「はい…ありがとうございます」
佐々木さんとの会話を終えたあとすぐに優花から電話がかかってくる。
「もしもし、紗和?パワハラで自宅待機ってどういうことよ!?」
「なんかね…匿名で告発があったんだって……」
「身に覚えないんでしょ!?」
「ない…けど……楓ちゃんのこともあったし……私無意識に誰か傷つけてるのかもしれない…」
「あんた何も悪くないって!その楓って子もまず会話録音してる時点で頭おかしいじゃん!」
「多分、佐々木さんのことが好きすぎてそういう行動しちゃったのかな…って」
「ありえない……私がそいつに水ぶっかけてやりたいわ」
「でもね、自宅待機になって正直少しホッとしてる。会社行くの気まずかったし」
「てか紗和からパワハラ受けたって言った奴その女じゃないの?」
「楓…ちゃんが…?そんな訳……」
「いや、絶対その女だって。紗和に嫌がらせする為に言ったんでしょ」
「でも…楓ちゃんが言ったって証拠もないし……」
「だって昨日の今日なんてタイミング良すぎでしょ」
「それは……」
「あー私が日本にいたら今すぐそっち行ってそいつに言ってやるのに」
「優花…でも優花に話聞いてもらって少し元気でた…忙しいのに話聞いてくれてありがとね…」
「何言ってんの!私はいつだって紗和の味方だし、いつでも連絡していいんだよ!?あんた気を遣いすぎる所あるから、私には遠慮しないこと!いい?」
「うん…ありがとう…」
そしてその日は何も考えず、ただなんとなくダラダラと過ごした。
そして次の日。
会社用のバッグを整理していると温泉のチケットをもらったことを思い出す。
私はチケットを手に取り日付を確認する。
今週末まで…か……
優花は海外いるから無理だし……
そういえば、佐々木さん温泉好きって言ってたな……
夕方になり、私は佐々木さんに連絡をしてみる。
〜♪
「お疲れ、どうした?」
「あ、お疲れ様です……佐々木さん土曜日って何か予定入ってますか?」
「土曜日……は特に無いけど」
「温泉のペアチケットがあるんですけど……良かったら一緒に行きませんか?」
「え…青木と…?」
「はい、佐々木さん温泉好きって言ってたの思い出して…この前お世話になりましたし…」
「えっ…と……温泉……か…青木と二人で…?」
「温泉って言っても日帰りですし…疲れを癒してもらえたらと…」
「日帰りか……じゃあ……」
「よかった…今週末までなので無駄にしたらもったいないなって思ってて…あとで詳細送りますね」
ーそして土曜日ー
「おはようございます…!迎えにまで来て頂いて…すみません…」
「おはよう。こちらこそ、誘ってもらったからな」
ナビを使い、目的地へ向かう。
向かっている途中、急に大雨が降ってくる。
「雨…すごいですね」
「すごいな…」
「温泉、結構山奥でしたよね…大丈夫かな…」
そんな不安の中、なんとか旅館に到着した。
「あ、ここか…」
「わ…なんかすごい豪華な旅館ですね…!さすが社長……」
「…黒崎社長から頂いたのか?」
「あ、そうなんです……」
「………そうか」
「佐々木さん、運転ありがとうございました…!」
私達は早速旅館に入り、受付をする。
「あの、予約していた青木です」
「はい…!青木様でございますね…!」
「このチケット使えますか?」
「はい…!本日お泊まり頂くお部屋についてご説明させて頂き……」
「え…?お泊まり…?」
「はい。こちらペア宿泊券となっております」
「えっ!?」
私は佐々木さんの顔を見る。
佐々木さんも困惑した表情をしている。
「あの…お客様、ご説明させて頂いてもよろしいでしょうか…?」
「あ……お願いします」
後ろにも人が並び始めていたため、とりあえず説明を受ける。
部屋に案内されたあと、私は口を開く。
「あの…すみません…てっきり日帰りのチケットかと思ってて……」
「流石に…泊まりは…厳しい…よな」
「そうですよね…ほんとすみません…ちゃんと確認してなくて…」
「いや……」
「私…事情説明して…帰ります…佐々木さんはゆっくりしていって下さい…」
「いや、なら俺が……」
その時だった。
「わっ……!」
急に大きな雷音がなり驚いた私は耳を塞ぐ。
「大丈夫か…?」
「あ、はい…びっくりして……」
「雨…止まないな」
「はい………」
「こんな状況で帰るのも大変だし…まぁ…部屋広いし…離れて寝れば……」
「でも……」
「せっかく来たんだし…」
「佐々木さんは…大丈夫ですか…?」
「俺は…」
「本当に…すみません……」
「そんなに謝るなって……」
「………これは社員旅行だと思って…過ごすしかないですよね……」
「そう…だな」
そんなこんなで結局佐々木さんと私は一泊することとなった。
「じゃあ…とりあえず温泉行くか」
「そうですね…!」
荷物を置いた私達は早速温泉へ向かう。
「では後ほど…!」
佐々木さんと別れ、脱衣場で服を脱ぎ早速温泉に浸かる。
あっつ…!
でも気持ちいい……!
佐々木さんが温泉を好きな気持ちがすぐにわかった。
これは…疲れが取れる……
思う存分浸かった私は温泉を出て浴衣に着替える。
スーッ
「あ…佐々木さん戻ってたんですね!」
佐々木さんが私を見る。
「あ、あぁ…」
「ん?どうしました?」
「あ…いや、何でも…」
佐々木さんが立ち上がり露天風呂の方へ向かう。
「わぁ…外の景色もきれいですね…!」
私も佐々木さんの隣に立ち、外の景色を眺める。
「本当に…綺麗だな……」
コンコンコン
「失礼致します」
「あ、はい!」
「本日のご夕食で御座いますが、18時を予定しております。何か御座いましたらお申し付け下さいませ。それでは失礼致します」
スーッ
「ご飯…楽しみですね!」
「いつも温泉だけ入って帰るから俺もご飯食べるの初めてだな」
「でも夕食までまだ時間ありますね…」
「そうだな…」
「この辺散歩とかしてみたいですけど、この雨ですしね…」
私は窓を開け、そこに座りボーっと外の景色を眺める。
「佐々木さん…何かお話してください」
「話…?」
「何でも良いですよ、くだらない話でも」
「うーん…話したい事はあるけど…今話す内容でも無いからな…」
「まだまだ時間ありますし…話して下さい」
「……………………」
「佐々木さん?」
「……涼宮の…事」
「楓ちゃん…?」
「……………涼宮がやたら青木の事聞いてきてさ…落ち込んでるかどうかとか…」
「……………」
「それで何でそんな気にするのか聞いたら…パワハラで自宅待機してる…って話されて…」
「え…?なんでそのこと楓ちゃんが知って……」
「……涼宮が告発した本人だからだ」
「え…?」
「何でそんな事したか聞いたら、色々と話されてさ…」
「理由は…なんだったんですか…?」
「それは…」
「……教えて下さい」
「……青木の行動に…腹が立った…とか」
「…………そう…ですか」
「……悪い、やっぱり今する話じゃなかったな」
「大丈夫です…原因がわかってすっきりしました」
「……………」
「私…露天風呂入ってみようかな」
そう言って立ち上がる。
「佐々木さんは部屋でゆっくりしてて下さい…!」
「あ、あぁ…」
私はふすまを閉め一人になる。
浴衣を脱ぎ露天風呂に浸かる。
しばらく雨の音を聞いていると、涙が溢れてくる。
一人になれる空間があって良かったと心の底から思った。
露天風呂に入り始めてどれくらい経っただろう。
「青木…?」
ふすま越しに聞こえる佐々木さんの声にハッと我に返る。
「もう1時間も経ってるけど大丈夫か…?」
「あ…大丈夫…です…」
私は露天風呂から出て、タオルで体を拭いてから浴衣を着る。
あれ…なんかフラフラする……
私は部屋に戻るなり、その場にへたり込む。
「青木!?大丈夫か!?」
「なんか…フラフラして……」
「とりあえず横になれ…!」
私は言われた通り横になる。
「のぼせたんだな…水飲めるか?」
「…………」
私は上体を起こし、水を飲む。
部屋のクーラーに当たり、少しずつ気分が良くなってくる。
「佐々木さん…すみません…こんな所でまでご迷惑おかけして…」
「こんなの迷惑の内に入らないだろ。というか…俺のせいだよな…あんな話したから…悪かった」
「……私が自分で聞いたので…謝らないで下さい…」
しばらく休んで起き上がれるようになった私は、暇を持て余し部屋の中を見て回る。
「ほんと豪華ですよねこの部屋……」
「な、俺もこんな部屋初めて見た。流石だな黒崎社長」
「ほんとですよね…この部屋は…なんだろう」
奥のふすまを開く。
スーッ
「あっ……」
そこには布団が並べて敷かれていた。
「まぁ…そうなるよな…後で離そう」
「そ、そうですね」
ーPM6:00ー
コンコンコン
「失礼致します」
ついに楽しみにしていた料理が運ばれてくる。
「やっば………めっちゃおいしそう……!」
見たこともない豪華な料理に圧倒され、私は語彙力を失う。
「おいしい……!」
「わ……これもおいしい…!」
「佐々木さん、おいしすぎません!?」
「これはやばいな……美味すぎる」
料理を運んできた女将さんが私達を見て微笑む。
「奥様、本当美味しそうに召し上がりますね」
お、奥様………!?
「いや、俺達は…」
と言いかけた所で佐々木さんが言葉に詰まる。
「宜しければ、お写真お撮りしましょうか?」
「え、良いんですか!?」
私と佐々木さんは料理を挟んで写真を撮る。
「ありがとうございます…!どの料理もとても美味しいです……!」
「嬉しいお言葉ありがとうございます。次のお料理で最後になりますので、少々お待ち下さいませ。失礼致します」
スーッ
「私達…カップルでもなく夫婦に見えてるんですね」
「……………」
「あ…すみません……変なこと言って」
「いや……」
「でもなんでさっき言いかけてやめたんですか?」
「…………夫婦でも付き合っても無いってなると何て言えば良いか分からなくて。会社の上司と部下もおかしいだろ」
「友達…でいいんじゃないですか?ほんとは違いますけど」
「そうか…確かに」
「佐々木さん真面目だなぁ」
そう言って笑う。
スーッ
「失礼致します…デザートお持ち致しました」
「わー!ありがとうございます…!」
豪華な料理にお腹も心も満たされ、私は余韻に浸る。
「俺、もう一回温泉入って来る」
「あ、はい…行ってらっしゃい…!」
佐々木さんがいない間、私はまた部屋の中をぐるぐる回る。
あ、ここお酒も頼めるんだ……
佐々木さんが温泉から戻ってきたあと早速提案する。
「佐々木さん、お酒…飲みません?」
「お、良いな」
私達は隣同士で座りダラダラと話をしながらお酒を飲む。
「なんか…変な感じですね」
「ん?何が…?」
「こうやって佐々木さんと温泉に来て…一緒にお酒飲んで…」
「……だな」
「もしかして…私のこと気遣って温泉行ってくれたんですか…?」
「……まぁ、涼宮の事も話したかったからな」
「やっぱり…佐々木さんって優しい方ですね」
「そんな事……」
「でも……好きでもない人にあんまり優しくしちゃだめですよ?」
「………………」
佐々木さんはグイッと一気飲みし追加注文する。
「青木は何が良い?」
「私は…ハイボールで……」
すぐに追加分が運ばれてくる。
「佐々木さん、珍しく結構飲んでますね」
「今日は帰らなくて良いからな、思う存分飲める」
「確かに…そうですね…!」
私も残ったお酒をグイッと一気飲みする。
「…………前にさ…青木言っただろ」
「…………?」
「俺の気持ちが涼宮に絶対向かないって言った時…そんなの分からないって」
「あぁ……言いましたね……」
「俺今さ……その…………」
佐々木さんが言い淀んでいるその表情で私は察する。
「え……まさか……好きな人いるんですか!?」
「…………うん」
「えっ!なんで言ってくれないんですか!!」
「何でって…………」
「あ……好きな人いるのに…楓ちゃんのこと…色々口出しちゃってすみません……」
「いや……俺も話してなかったし仕方ない……」
「でも佐々木さんに好きな人……こっちまで嬉しくなっちゃいます」
「…………………」
「あ……でも佐々木さん好きな人いるのに二人で温泉は良くなかったですね…本当にすみません………」
「いや……」
そう言うと佐々木さんはお酒を一気に飲み干す。
「おかわり頼みますね…?」
私はタブレットで注文する。
「青木はさ……好きな人……」
「え…?」
「あ…いや……何でも無い」
「私は好きな人…いないですよ?だから佐々木さんが羨ましいです…」
「………そうか」
佐々木さんは運ばれてきたお酒をすぐに飲み干す。
「佐々木さん、少し飲みすぎじゃないですか…?大丈夫ですか…?」
「…………平気だ」
「佐々木さんは……何がきっかけでその方のこと好きになったんですか…?」
「…………分からない。気付いたら……」
「そうなんですね…!じゃあ何度か会ったりしてるってことですね?」
私はつい微笑んでしまう。
「佐々木さんならきっと相手の方もすぐ好きになりますね…!」
「………何でそう言えるんだよ…」
「だって、佐々木さんマイナス要素一つもないですもん」
「………褒め過ぎだ」
「そんなことないです…!佐々木さんの素敵さは私が保証します!」
「……………青木は好きなタイプ……とかって……」
「お!今日は恋バナしちゃいます?」
「……いや……やっぱ大丈夫…悪い、変な事聞いて……」
「全然良いですよ!私の好きなタイプ……そうだなぁ………」
私は少し考えて口を開く。
「優しくて……私だけじゃなくて…家族のことも大切にしてくれて……愛に溢れてる人…ですかね…?」
「…………そうか」
「なんか照れますね……佐々木さんは、お相手の好きな所ってどういう所ですか?」
「え……?」
「私だけ真面目に答えて恥ずかしいですもん…佐々木さんの話も聞きたいです」
「好きな…所……」
「はい、好きな所です」
「そう…だな……美味そうに飯食う所…分け隔てなくどんな人にも優しい所………」
佐々木さんはテーブルに肩肘を付き私をまっすぐ見つめながら話す。
「良く笑うし……感情豊かで一緒に居ると楽しい……」
なんか……私の目を見てそんなこと言われると自分のこと言われてるような気分になる。
「何か……上手く表現出来ないけど……とにかく傍に居るだけで俺も元気を貰える存在…だな」
「…ほんとに好きなんですね、その人のこと……」
「好き…だな」
「なんか…こっちが照れちゃいます…そんなに思われてて相手の方幸せだなぁ……」
「……………………」
佐々木さんが無言で私を見る。
酔っているせいかその眼差しがすごく優しい。
「……佐々木さん?」
私がそう言うとフッと目を逸らす。
「俺ちょっと…飲み過ぎたかも……そろそろ……」
そう言って佐々木さんが立ち上がろうとした瞬間だった。
「…………わ………」
佐々木さんの足元がふらつき隣にいた私にぶつかる。
「………………」
「………………」
ぶつかった勢いで私もあお向けに倒れ、その上に佐々木さんが覆い被さる。
「え……あ…の……佐々木…さん……?」
「………………」
佐々木さんに至近距離で数秒見つめられた後、私から離れる。
「…………悪い…怪我…してないか…」
「あ……大丈夫……です……」
「ごめん…」
佐々木さんが再び立ち上がり、奥の部屋へと消えていく。
ドキドキドキドキ
鼓動が早い。
私はしばらくそのままの体勢で動けずにいた。
佐々木さんの息遣いを思い出してまたドキドキする。
なにこれ……
何この感情…………
しばらく経って私は起き上がり、残ったお酒を飲み干す。
歯磨きしたあと、奥の部屋のふすまを開く。
スーッ
え…布団……そのまま……?
並べて敷かれた布団の一つで佐々木さんが寝ていた。
私は布団を持ち出し、少し離れた所に敷き直す。
布団に入ったはいいものの、その日は何故かなかなか寝付けなかった。
ー次の日ー
結局私はほとんど眠れずに目を覚ました。
眠い目をこすりながら体を起こす。
佐々木さん…まだ寝てるのかな……
スーッ
「…おはよう」
「お、おはようございます……」
「昨日はごめん…飲み過ぎたみたいで……」
「あ…いえ……昨日のことって…覚えてますか…?」
「いや……あんまり……」
「……………………」
「何か…あったのか…?え……俺…青木に何か……」
佐々木さんが焦っている。
「…………何もないですよ」
私が笑いながらそう言うと佐々木さんは軽くため息をつく。
「そうか…良かった……」
「佐々木さん酔っちゃうと何かしちゃうんですか?」
私は意地の悪い質問をする。
「いや……そんな訳…無いだろ」
「……ですよね!好きな人も居ますしね…!」
「……………………」
「じゃあ帰り支度を………」
「その前に俺……温泉入ってくる」
「はい…!」
そして家まで送ってもらった私は、佐々木さんに別れを告げる。
「………家まで送ってくれてありがとうございました…!明日お仕事頑張って下さいね…!」
「………うん、青木はゆっくり休めな…じゃ」
私は佐々木さんを見送った後部屋に戻る。
温泉も楽しかったけど、やっぱり我が家が一番……!
私は思いっきりベッドにダイブする。
家に帰ると気持ちもだんだんと落ち着いてきて、あの時の感情も深く考えることはなかった。
〜♪
「もしもし間宮くん…?何かあった…?」
「……何も無いですけど」
「それなら良かった…!どうしたの?仕事のこと?」
「いや…紗和さんどうしてるかなと思って。まぁ…紗和さん居ないと仕事進まなくて大変ではありますけど」
「全部任せちゃってごめんね…このお礼は必ず……!」
「じゃあ……飯行きません?」
「え、いつ?」
「今日の夜とかどうですか?」
「今日かぁ…」
「都合悪いですか?」
「今帰ってきたばっかりなんだよね…」
「どこか行ってたんですか?」
「一泊二日で温泉行ってたんだ!」
「そうですか…なら明日はどうですか?」
「いいよ!じゃあ明日ね!」
詳細を決めたあと電話を切る。
ー次の日ー
「お待たせー!間宮くんいつも早いね!?」
「そうですか?それよりこんな所で良かったんですか?」
「こういう所が良いんじゃん!」
私達は定食屋さんに入る。
メニューを開き料理を頼む。
店員が向こうに行ったあと、突然間宮くんが笑い出す。
「え、何?どうしたの?」
「ほんと紗和さんってギャップありますよね」
「ギャップ…?」
「いや見た目と中身が違いすぎるっていうか……」
「それ…前に楓ちゃんも言ってたよね……」
「いや悪い意味じゃないですよ。良い意味のギャップです」
「ほんとかな…?」
「本当ですって。言いましょうか?」
「聞くの怖いんだけど」
「じゃあ言わない方が良いですか?」
「……………」
「気になってるじゃないですか。素直に言えばいいのに」
「……もう間宮くんにはお土産あげないっ」
「…からかってすみません。紗和さんの反応面白くて。お土産ありがとうございます」
そう言って間宮くんが両手を出す。
「仕方ないなぁ……」
と冗談を言いながら私はお土産を手渡す。
「あ、写真見る?」
「見たいです」
私はスマホを渡し、写真を見せる。
「綺麗でしょ…!露天風呂までついてたんだよ!?」
「ほんとですね、めっちゃ綺麗……」
すると写真をスクロールしていた間宮くんの手が止まる。
「ん?何?」
私は画面を覗き込む。
「佐々木…さん…?」
「あ、あぁ…!」
私は慌ててスクロールする。
「何で……隠すんですか」
「か、隠してないよ…?えっと…佐々木さんって温泉好きなんだよね…」
「………それで一緒に?」
「頂いたチケットがペアチケットで…期限が迫ってたから…それで……」
「へぇ…なんで佐々木さんなんですか?俺でも良かったじゃないですか」
「だからそれは…佐々木さん温泉好きだから……」
「俺も好きですよ………温泉」
「え、そうなの!?知らなかった…」
「………ちょっと待って下さい。紗和さん一泊二日って言ってませんでした…?」
「うんそうだけど…」
「え……それって………一泊…佐々木さんと……」
「え、待って間宮くん…佐々木さんとは別に何もないよ!?」
「…………何考えてんだあの人……」
「私がね、勘違いしちゃって…日帰りだと思ってたら宿泊券で……」
「……そうですか」
「そもそも佐々木さんも私も、お互い異性として見てないし…」
「何でそう言えるんですか?」
「それは……」
佐々木さんに好きな人がいること勝手に言えないし……
「まぁどんな理由があるにしろ、男と二人で温泉はさすがに警戒心無さすぎですよ?」
「佐々木さんは……そんな人じゃないから」
「そう思ってるのは紗和さんだけじゃないですか?」
その言葉を言われた瞬間に温泉でのあの光景がフラッシュバックのように蘇ってくる。
「…………………」
「あ…すみません。責めてるつもりは無かったんですけど…」
「うん…わかってる……心配してくれてるんだよね…ありがとう」
間宮くんとご飯を食べ終え、お店を出る。
「紗和さん、早く戻って来てください」
「私も早く仕事したい…!」
「紗和さん居ないと寂しいです」
「寂しいなんて…嬉しいこと言ってくれるじゃん…!」
私はそう言って間宮くんの肩をたたく。
「紗和さんのくだらない話聞けなくて寂しいです」
「そっちかーい!」
間宮くんとそんな会話をしながらゲラゲラ笑う。
「それじゃあまた月曜日にね…!」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさい!」
そう言って間宮くんと別れた。




