表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたが愛しすぎて  作者: m.
1/34

出会い






「えー…急だが、川本の退職により今日からこの部署に配属された佐々木くんだ。えー佐々木くんは他の部署に居たから知ってる人も居ると思うが………〜〜〜……」









佐々木直人(ささきなおと)です。宜しくお願いします」









その人が頭を下げるとみんなも軽く会釈をする。









「それじゃ今日もよろしく」








部長は佐々木さんという人に席を案内し、その場を去っていく。








私も自分のフロアに戻りデスクに座る。








私の名前は青木紗和(あおきさわ)








この会社で社長秘書をしている。







秘書室という個室を作るより、他の社員との交流も大事だという社長の考えで社長室のすぐ下にあるこの部署のフロアの一角に私の秘書室はある。








でもそんな社長の考えも虚しく、人見知りという性格もあってもう三年目だというのに中々みんなとの距離が縮まらない。







〜♪〜







「お疲れ様です」








「お疲れ。ちょっと確認したいことあってさ、今大丈夫?」









「はい」







「忙しいのにごめんな、今日の打ち合わせなんだけど予定変更で…ーーー…」










「承知しました。先方にご連絡して調整します」










社長から連絡を受けた私はスマホとパソコンを操作し、スケジュール管理に取り掛かる。









ーPM6:00ー








業務終了の鐘が鳴り響く。









私は大きく伸びをし、立ち上がる。








私がこの会社に来た理由の一つ。








定時で帰れることだ。








前の職場でも社長秘書をしていた私は、毎日残業は当たり前。打ち合わせという名の食事会に何度も参加させられ、心身共に憔悴した。








この会社に来てからは、残業もなく食事会に参加することもなく本当に私がしたい秘書の仕事ができている。









仕事面ではとても満足していた。








「お疲れさまです…」








「「お疲れ様です」」








私はフロアの人達に挨拶をする。









みんなが集まって話をしている。








どうやらこの後飲みに行くみたいだ。








この部署では定期的に飲み会が開かれているらしい。








私は内心いいな…と思いつつ、横を通りすぎる。








会社を出てから外の空気を思いっきり吸う。








明日は土曜日ということもあり、私の足はある所を目指していた。







「らっしゃいませー!」








私が数ヶ月前から気に入っている大衆居酒屋だ。








金曜日はとにかく人が多い。

会社員が多いこの居酒屋は、休み前のテンションが上がった人達の楽しい話し声や笑い声があちらこちらから聞こえてくる。







そんなざわざわした店内で一人で飲むのにハマっている。








私はいつものカウンターの端に座る。









「お姉さんいつもので良いっすか?」









「はい…お願いします!」








常連である私は店員のお兄さんにも顔が知られている。









「お待たせしましたー!ビールです!」








「ありがとうございます…!」








私は運ばれてきたビールを勢いよく流し込む。









……うんっまー!!









仕事の疲れが一気に吹き飛ぶ。









適当なおつまみを頼み何も考えずに過ごすこの時間が至福だ。








ー二時間後ー








私は上機嫌でお店を出る。








あぁー今日も飲みすぎた…








少しフラつきながら家に向かって歩く。








外の風が心地良い。







ガチャ







「ただいま〜…って誰もいないけど」








私は笑いながら部屋へと入る。








酔って帰っても、ちゃんとメイクを落としてからベッドへダイブする私を褒めてあげたい。









月曜日







ーPM12:00ー









節約の為、毎日手作りで弁当を持ってきている私は誰も来ない屋上のベンチでいつもお昼を食べている。







空を見上げながら卵焼きを頬張る。









するとドアが開く音がして後ろを振り返る。








「あ…すみません」








「あ、いえ…」







手に弁当袋を持っている姿を見て、私は思わず声をかける。








「あ…あのよかったらここどうぞ……」








「大丈夫ですか…?」








「はい…」








「…ありがとうございます」








佐々木さんが私の隣に座る。







「あの…青木…です。同じフロアの……」







「佐々木です。改めまして宜しくお願いします」






「よろしくお願いします……」







「いつもここで食べてるんですか?」








「はい…ここ誰もいないし景色見ながら食べられるしお気に入りで…」








「……じゃあ俺邪魔ですね」








「え?……あ、いやいや!そういう意味ではなく…!」









私が慌ててる姿をみて佐々木さんが笑う。








「佐々木さんはどうして屋上に…?」








「あぁ…部署が変わってから社食より屋上の方が近いなって…あとベンチがあった事思い出して何となく」








「そうなんですね……あ…佐々木さんは…愛妻弁当ですか…?」







「いや、手作りです。独身なんで」







「あ…す、すみません……!」







「全然」







そう言って微笑む。








話題を変えるつもりが失礼なことを言ってしまった。






最悪…







「毎日手作り弁当なんですか…?」








私は気まずさを打ち消そうと話し続ける。








「基本は。昨日の夕飯の残りとかなんで簡単弁当ですけど」








「おいしそうですね…食べてみたいです」








私は佐々木さんの弁当を見て何の気なしに口に出す。








「え……?」








佐々木さんの困惑した表情を見て、私は何を言ってしまったんだと思った。








「あっ…すみません!変なこと言って……要らないです!………あ…食べたくないとかじゃなくて…!食べたい気持ちはあるんですけど大丈夫ですという意味で……」








私は焦りすぎて早口でペラペラと喋る。








そんな私の様子を見て佐々木さんが口を開く。








「何か食べたい物があれば……」








そう言って私の前に弁当箱を差し出す。








「え…良いんですか…?」








「青木さんが良ければ……どうぞ」








「じゃあ…卵焼き……いただきます……」








「味の保証はしないですけど」








私は頂いた卵焼きを頬張る。








「え…おいしい……」








「………それなら良かった」








「ほんとにおいしいです…!どんな味付けしてるんですか!?」







「塩とダシ…ですね」








「私と同じだ……でもなんか違う…!」








「人が作った物だから…じゃないですか?」








「そうなんですかね……あ、私のも食べますか…?頂いちゃって申し訳ないので…」








「いや…女性の弁当をもらうのはさすがに気が引けるので…」








「そうですか…?」








「お気持ちだけ…」








その後も私達はたわいもない話をしながら過ごした。







〜♪








始業10分前のチャイムが鳴る。








佐々木さんが立ち上がって大きく伸びをする。








「それじゃあ…そろそろ戻りますか」








「はい…!」








私達は屋上を出て社内へと戻る。








私は歯磨きをしながらさっきのことを思い出す。








久しぶりに社長以外とあんなに会話した…








一人で食べるお昼ご飯も好きだけど、誰かと過ごす時間も良いなと久しぶりに思えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ