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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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拷問部屋?

「貴方がクリスに呪いをかけたキュリタス・サンシャルで、間違いないわね」

「ああ⁉ なんだ、おばさ……へぐっ!」


 私は、キュリタス・サンシャルは本当に馬鹿だと思う。

 この状況下で、母上をおばさん呼ばわりするなど、殺してくれと言っているようなものではないか。

 腐っても魔法使いならば、母上から洩れる大量の魔力を感じ取れよと言いたい。

 それも分からないとは、本当に救いようがない馬鹿だ。

 私の隣には顔を青ざめさせるペルと、珍しく顔を引きつらせる王太子殿下の姿がある。



 ここは魔法使いの罪人を、取り調べるための部屋。

 例え罪人とはいえ魔法使いは貴重であるため、一般の罪人とは別の建物に収容されているのだ。

 そこにはありとあらゆる魔法封じの道具があり、目の前にいるキュリタスもまた、両手両足を魔法封じの縄で縛られ、椅子に座らされている。

 その横には、悪鬼の如く彼を睨みつける父上の姿がある。

 今しがた母上に暴言を吐いたキュリタスを殴り飛ばしたのは、父上だ。

 だが、キュリタスよ。父上で良かったな。母上なら今頃、足の一本は無くなっているぞ。

 なんていったって、母上にとってここは勝手知ったる職場の一つでもあるのだ。

 王族専属の魔法使いであった母上が何故? とは思うが、ここは知らないふりをする。

 絶対に私より問題児だった母上の過去を知るのは、色々と怖いからね。


 キュリタスは殴られた頬に顔を顰めながらも、父上にビクビクしながら周囲を見渡している。

 ここにはキュリタスの前に扇で顔を隠しながら立つ母上と、隣で木剣を手の平にパシパシと叩いている父上、それに王太子殿下とペルと私が扉付近に佇んでいる。

 本日の主役は、父上と母上だ。

 私達はあくまでも立会人。

 二人が暴走して、うっかり殺さないように見張る役目をしている。


「ケリエルの言う通り、たいした魔力量はなさそうね。確かにこれでは、魔道具を使ったというのもありがち嘘とは言い切れないわ。それにこの男では、解呪は絶対に無理ね」

 母上がキュリタスの顔を見ながら、溜息を吐いた。

 役に立たない馬鹿。と顔に書いてある。

「その魔道具の見た目は、どのような物なの? 吐かせてあるんでしょう」

「はい。ここに」

 私が一枚の手紙を懐から取り出し、母上に渡した。

 手書きの魔道具の絵を見た母上は、先程より大きな溜息を吐く。

「念写もできないの? まるっきりの役立たずじゃない」

「侯爵夫人、お言葉を返すようですが、普通は念写などできませんよ。貴方方一家が規格外なだけで……」

「トウハー様は黙っててくださいますか?」

「……はい」

 母上の笑顔にペルが後退する。


「ん~、下手くそ過ぎてよく分からないけど、ただの四角い箱かしら? 内側に術式でも描かれてあったの?」

 ん? と問うように見る母上に、ビクッと怯えるキュリタス。

「キビキビ答えようか、役立たず殿」

 木剣でキュリタスの頭をペシペシと叩く父上。

 まだ聞きたいことはあるので、そのまま殺さないでくださいよと、心の中で二人に頼む。

 顔を青から白に変えていくキュリタスが、たどたどしく答える。


「あ、あの、中はその、開かなくて、見てないです。というか、そもそも開けられるような仕組みではなかったです。蓋の切れ目みたいなものがあったにはあったのですが、それも模様かと思うようなうっすらとしたもので、どこにも開くような箇所はなかったです。ただ術式ではない、薄気味の悪い複雑な模様が描かれていました。真似ることは、できないのですが……」

「よくそんな物を持ち帰ったわね」

「その時は、自室に持ち帰って何か道具を使えば壊せるかと思って。逆に何か重要な物が隠されているんじゃないかと期待したので」

 キュリタスの説明に、私とペルは呆れた。

「魔法研究所にそんな物があるわけないじゃないか。浅はかだな」

「いや、そうとは言い切れないぞ。魔法使いのお前達ならそう思うかもしれないが、一般の者にしたら魔道具はそれだけでお宝だ」

 ペルの言葉に王太子殿下が反論する。

 だが私は、首を傾げる。

「え、一応こいつも魔法使いでしょう?」

「あ、ああ。確かにそうだったな。だが、力の差というかなんというか……。実際、こいつは何点か魔法研究所の倉庫から魔道具やら本やらを持ち出し、それを売って家を購入したらしいからな」

「「は?」」

 私とペルの声が重なった。


 どうやら研究所の職員に倉庫と目録を確認させたところ、色々な物が紛失していたことが判明したらしい。

 それが全てこいつの仕業だとは言わないが、身に覚えはあったようだ。

 挙動不審になる男に、ペルのこめかみが痙攣していた。

「魔法研究所の職員ともあろう者が、大切な魔道具や魔法書をそのように扱うとは……魔法使いの風上にも置けない……」

 怒りでブルブルと震えるペルの腕を掴むと、私は木剣の先をチクチクとキュリタスの背中に刺していた父上に、声をかける。


「その金で新居を買ってクリスと暮らそうと思っていたとは……父上、一回殺していいですよ。ペルに生き返らせてもらいますから」

「いや、待て。流石に死んだ者を生き返らすのは無理だ。せめて半殺しで」

 殺害を促す私に、本来なら止める役目の冷静なペルが途中までならいいと言う。

 やはり彼も、かなりご立腹のようだ。


「……ちょっと、待て。新居ってなんだ? クリスと暮らすって?」

 父上が私の言葉に反応してしまった。

 あ、まずい。ここら辺は説明していなかった。

 仕方がないと私が全て話すと、両親の笑みがますます深まる。

 キュリタスよ、ここから先の発言は十分注意するように。

 でないと木剣とはいえ、父上なら十分一撃で人を殺せるからな。

 母上の魔法でもいいぞ。

 死に方は選ばせてやる。

「……ケリエル、わざと二人を煽るな。本当に殺されるぞ」

 私が素知らぬ顔をしていると、王太子殿下が額に手を当てて注意してきた。

 仕方がないではないか。私も本当は殺してやりたいほど、腹立たしいのだから。



「やっぱり、このような魔道具は見たこともないわね。どこに置いてあったの?」

 母上が一旦冷静に戻り、もう一度魔道具が描かれている紙を見直す。

 だが、全く覚えがないとペルと同じ答えを導き出し、そもそもどこに置いてあったのかをたずねた。

「地下の、第五の倉庫部屋、です。木箱の中にあったのですが、正直見つけてくれと言わんばかりに一番上に置かれて、いました」

 そう答えるキュリタスに、私達は黙考する。


「なあ、それって魔法研究所の職員が上には通さず、自分で作って置いたとは考えられないか?」

 私がそうたずねるのに頷いたのは、母上だ。

「その可能性が高いわね。正式なルートでは作らなかったのでしょう。もしくは違う用途で作ったものの、失敗したと思い込んで放置していた。それならば記述に乗っていないことにも頷けるわ」


「どのような物であろうと、魔道具を制作する際には必ず届け出はしないといけないのが、魔法研究所のルールなのに、例えそれが失敗した物としても、逐一記述するのが研究者というものだ」

 研究馬鹿のペルが叫ぶ。

 彼にしたら無断で制作し、放置してあるなど信じられないことなのだろう。

「今は貴方が所長で管理は十分行き届いているかもしれないけど、十年前は割といい加減だったのよ。その男が職員として採用されたにも関わらず、ほとんど姿を現してなかったのも許されるほどにね」

 母上が溜息を吐く。


 母上は王族専属の魔法使いだったから、魔法研究所の者とはそれほど接していなかったかもしれないが、同じ魔法を使う者同士、水面下では色々とあったのかもしれない。

 先程も考えそうになった母上の黒歴史を脳裏に浮かばせ、思わず私が遠い目をしていると、横ではペルと王太子殿下が同じような目をしていた。

 どうやら考えることは皆、同じらしい。

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