白状します
「え? 私の部屋に転移魔法を使って、無断で出入りしていたのですか?」
キョトンとする私は、思いのほか大声で訊き返してしまったようで、ケリエル様の頬を引き攣らせた。
「その言い方は、ちょっと……」
「部屋の持ち主が了承していなかったということは、無断ですよね⁉」
「……うん、そういうことになるね」
苦笑するケリエル様にズバッと返すと、ケリエル様は項垂れてしまった。
ああ、ごめんなさい。責めているわけではないのですけど知らないうちというのは、なんだか複雑で……と色々と考え込んだ後、ハッと気付いた私はカーターを振り返る。
だって、カーターが知らないはずないじゃない。
侍女が私の部屋を出入したのも分かるのに、ケリエル様の気配に気付かないはずがない。
目の前で項垂れる二人に、私は仕方がないなと苦笑する。
「分かりました。今までのことは不問に致します。これからは緊急事態以外ちゃんと許可を取ってくださいね」
私が許すと、二人はあからさまにホッとした表情を見せた。
「あ、ありがとう。でも、昔も緊急事態だったんだよ。クリスが弱っていたから心配で……」
「最近はしていませんか?」
「え?」
またもやギクッと体を揺らすケリエル様。
もういい訳なんてしなくていいのに。と思いながらも意外と素直な反応に頬が緩む。
「あ、あれも緊急事態というか……私がクリス欠乏症で暴れる寸前で、危機的状態だったというか……」
しどろもどろと返すケリエル様に、いつもの尊大な様子はない。
こういうところが可愛いと思いつつも、ジッと見つめて名前だけを呼んでみる。
「ケリエル様」
「……ごめんなさい。もうしません」
シュンと項垂れてしまったケリエル様に、キュンです♡
次に隣で苦笑していたカーターの名前を呼ぶ。
「カーター」
「……ごめんなさい」
大きな身を屈めて縮こまる二人に、キュンキュンが止まらない。
可愛過ぎるぞ、この兄弟♡
「クリス、もういいでしょう。二人も反省しているようだから」
私が楽しんでいるのを、お義母様にバレてしまった。
えへっと笑う私に、お義母様は寛容に頷く。
「そうですね。私が心配かけたのが、そもそもの原因ですし」
もういいですよと笑う私に、ケリエル様がパアッと顔を輝かせた。
うぐっ、眩しい。
「俺、とんだとばっちりです」
ブツブツと不貞腐れるカーターを横目に、私とケリエル様は仲直りのハグをする。
くれぐれも転移魔法が使えることは内密に、と約束して。
私もこんな可愛いケリエル様が、王族の監視下に入れられるのは嫌なので、絶対に漏らさないぞと難く誓った。
そして、魔道具の話へと戻る。
「話しがこうなった以上、ギプラと一緒に転移魔法で私が牢に行った方が早そうね。ギプラ、ついて来てくれるでしょう?」
「仕方がないな。だが、しっかりと人払いは頼むぞ、ケリエル」
「承知しました。では早速、明日にでも時間を作ります。構いませんか?」
「ええ、時間が決まったら知らせてちょうだい」
イブニーズル家族で話がまとまると、今日は色々あって疲れただろうと寝室へと促される。
ちょうど眠気がきた頃だから私は遠慮なく頷いて、カーターに付き添われながら談話室を後にした。
「意外と冷静なので驚きました」
自室へと向かう廊下で、カーターが不意に呟いた。
「何が?」
首を傾げる私に彼は苦笑する。
「ケリエル様が転移魔法を使われていた件です。クリス様にバレたら、絶対に不機嫌になると思ってたんですけどね。最悪、ケリエル様を嫌いになるかもと……」
「それは絶対にない!」
ピシャリと言い切る私に、カーターは呆気にとられた顔をした後、頷いた。
「あ、はい。先程の様子から、そんなことは一生ないんだろうなと確信しました」
「そう?」
「記憶が曖昧な時ですらベタ惚れでしたから、嫌いになることはないか。とは思ってたんですけどね。それでも、勝手に部屋に入られていたなんて知ったら、流石に引くかなと。神に誓って悪いことはしていませんけど、勝手に入ること自体が変態的な行為かと」
「私が留守の時に入っていた、なんてことはないよね?」
「決して下着は盗んでいません」
「……その言い方だと、下着以外は盗んだように聞こえるよ」
カーターの言い訳に苦笑しながらも、そうか、私がいない時にも入ったことあるのかと、ぼんやりと思う。
だって、カーター、否定しなかったからね。
しかも、何かを盗んだような言い方になっているのも気を付けて欲しい。
一応、持ち物が無くなっていたなんてことはないから、盗んだりはしていないと思う。
少しの間だけ女性に戻れていたとしても、この十年は男として過ごしていた。
例えケリエル様に盗まれていたとしても、可愛らしい物なんて一つもない。
もしも私の私物として持っていてもらうなら、女の子らしい可愛い物の方がいい。
そう言うと、何故かカーターにドン引きされた。
「クリス様が、昔を思い出した後にバレて良かったです。これならケリエル様のどんな本性を知ったとしても、嫌いになられることはないでしょうから」
私はその言葉に、キョトンとしてしまう。
「本性? 知ってるよ。優しいのは私にだけ、ということでしょう⁉ 普段は結構、容赦のない人だよね。記憶が曖昧な時は、全ての人に優しいと勘違いしていたけど、小さい頃は何度か人を魔法で攻撃していたの見たことあるし、カーターも飛ばされていたよね。ちゃんと自分で帰って来てたけど」
何を今更というように答えると、カーターがあんぐりと口を開けていた。
「俺のは訓練……て、そんなことはどうでもいいけど、知ってたんですか? 傍若無人なケリエル様を? それでも好きだと?」
「ええ~、だって普段厳しい人が自分にだけデレデレなんて、すっごくときめくじゃない」
エヘヘと頬を両手で挟んで照れると、カーターはまるで異様な者を見るような目を向けてきた。
失礼だな、おい。
「よく分かりません。いや、よく分かりました。似たもの夫婦。お似合いですよ、お二人は」
「そう? 照れちゃうな」
「……クリス様ってそういう性格だったんですね。十年間、おそばに居たというのに、すっかり騙されました」
「人聞きの悪い。騙してたつもりはないよ。本当に性格を変えられていたんだと思う」
「こちらが本性という訳ですか。ケリエル様は知ってるのですか?」
「知ってると思うし、そんな私も好きだと思うよ。ケリエル様は私が一番好きなの。小さい頃からずっとそう言われてきたもの」
「揺るがないんすね。ハア~、今まで気を遣っていた自分が馬鹿みたいだ」
呆れるカーターに少しだけ、ごめんねと思う。
だって記憶が曖昧で自信のなかった時の私は、自分が一方的にケリエル様を好きだという感情しかなかったから。
いつか嫌われるんじゃないかとビクビクしていたのだ。
けれど今の私は、ケリエル様からの愛情を一身に受け止めていた自分を思い出した。
どんな状況になろうと絶対に嫌われないという自信がある状態では、根底から違うのだから性格が変わってしまうのも仕方がないと思う。
「まあ、お二人が幸せなら俺は何も言うことはないんですけどね」
にっと笑ったその顔は、まるで本当の兄のようだと私は笑みを返した。




