魔道具の存在
やはりこちらが考えていたように、私の異変は全て呪いによるものだった。
だがそれは、男がかけた呪いだけではなく、魔道具によるものだったとは。
ケリエル様は男の胸倉から手を離し、自分を落ち着けるようにフウ―っと息を吐く。
そうして再び振り返り、男に問う。
「それで、その魔道具はどこにある? まさかなくしたとは言わないよな⁉」
「え、それは、その……」
「誤魔化しても無駄だぞ。白状しなければ問答無用で処罰するだけだ。先程も言ったが、私は捏造が得意だ」
「そ、そんなことしたら訴えてやる。お前に罪を着せられたってな」
「やってみろ。その代わり、そこでお前の命は消える。尋問中に歯向かってきたため、やむなく一刀両断したと言えば全て許される」
「ひっ!」
ケリエル様が飄々と大嘘をついている。
思わず、そっと目を逸らしてしまう。
ケリエル様の脅しが効いたのか、男は顔面を蒼白にしながらも、魔道具の在処を口にした。
「ま、魔道具は渡したくても渡せないのだ。彼女を迎え入れようと屋敷を買ったのだが、その途中になくしてしまった」
「……見え透いた嘘を吐くな。コロスぞ」
ケリエル様が額に青筋を浮かべたまま再び男の胸倉を掴んだが、男は最早涙目でブンブンと首を横に振っている。
「ひいぃ、嘘じゃない。この期に及んで嘘を吐いても仕方がないじゃないか」
男の必死な言葉に、大きな溜息を吐く。
「では、その魔道具の入出先は? どこで手に入れた? まさか自分で作ったなんてことは言わないよな」
「どうして僕が作ったとは思わないんだ?」
「お前ごときの魔法使いの能力で願いが叶うなど、そんな大それた魔道具など作れるはずがないだろう」
「なっ、失礼な。僕は天才だぞ。ただ少し運がよくないだけで……」
「煩い! さっさと吐け!」
尚もグチグチと言い続ける男だったが、ケリエル様に恫喝されて意気消沈する。
そして鋭い目で早く言えと促された男は、渋々ながらもやっとどこで手に入れたかを口にした。
「……魔法研究所で、見つけた」
「「は?」」
しかしそれは、思いもかけない場所だった。
これにはケリエル様だけでなく、トウハー様までも驚いた。
「魔法研究所って……研究所のどこだ?」
トウハー様がケリエル様を押しのけて、男に詰め寄る。
男は顔を歪めながらも言い逃れできないと観念したのか、唇を突き出したまま答えた。
「地下に幾つか倉庫があるだろう。そこに積み重ねられた箱があるのだが、その中にあった。あそこに置いてあるのは必要ない物と聞いていたので、一つぐらい持ち帰っても問題ないと判断した」
だが、男の言葉にトウハー様がキレた。
「判断したじゃない! あれは魔法研究所、しいては国の所有物だ。一職員が持ち帰っていい物ではない。まさかお前、それで研究所を辞めたのか?」
「いや、辞めようと決意したから記念に一つぐらい持ち帰ってもいいかと……」
「窃盗だな。また一つ罪が増えた」
「ひいぃぃぃ!」
男はその日のうちに魔法騎士団によって捕えられたのだが、現れた団員は皆、ものすごくピリピリしていた。
どうしたのだろうとケリエル様にたずねれば、明日から魔法騎士団は一週間の休暇に入る予定だったらしい。
それがこの男の所為で、取りやめとなったのだ。
魔法使いの事件は、魔法騎士団の管轄になる。
騎士団の恨みが怖い。
「団長が悪いわけではないのは百も承知ですが、貴方まで恨みそうですよ、私は」
「……すまない。これに関しては私も落ち込んでいるんだ。分かってくれ」
「う~~~~~」
「……後で酒を送る。交代で飲めるようにするから、許せ」
ケリエル様と副団長のコードラン様の空気が重い。
今回の休暇を一番楽しみにしていたのは、他でもないコードラン様らしい。
普段、ケリエル様が研究所に入り浸っている間の尻拭いをしているのはコードラン様らしく、彼はまとまった休暇をなかなか取れないでいたらしい。
ケリエル様が研究所に入り浸っているのは私の所為だし、先日のミレニアム様の件も今回の件も、私が彼の仕事を増やしているのは間違いない。
そう考えると彼に申しわけなくなり、私はそっとコードラン様のそばに寄った。
「お話の途中、失礼いたします。コードラン様、私はクリスティーン・オルバーナと申します。先日もお会いしたというのに、まともにご挨拶もせず申しわけありませんでした。その、私の事情はご存知だと思います。一度、ちゃんとお詫びしないといけないと思っておりました。ケリエル様のご多忙は私の所為です。長年にわたり貴方様にも大変なご迷惑をおかけいたしまして、誠に申しわけございませんでした」
すっと頭を下げると、コードラン様は目をパチパチと瞬きした後「団長~~~!」と叫んだ。
吃驚する私に、ケリエル様が「はいはい」と、私の肩に後ろから両手を乗せた。
「なんなんですか、この美少女、じゃなかった。美少年は? これが団長のクリス様ですか? 駄目でしょう。こんなことさせては。美人が頭を下げると、私が悪者みたいになるじゃないですか⁉」
私がいるから詰め寄っては来ないが、ワタワタと両手を振り回しているコードラン様が焦っているのは分かる。だが、何故焦る? 私はただ謝罪しただけなのだが。
ケリエル様はニコニコ笑うと、私の耳元に後ろから囁いた。
「ならない、ならない。クリスはただ、謝罪したかっただけだろう。クリス、彼には謝罪ではなく、お礼を言うといいよ。そういう人間だから」
ケリエル様の吐息が耳にかかり少しだけビクッとなりながらも、私は素直に頷いた。
「もちろん、感謝しております。コードラン様がいてくださったから、私はケリエル様に色々と助けていただけましたもの」
「うん、そう言ってあげて」
「はい。コードラン様、長年ケリエル様の補佐をしてくださって、心から感謝しております。ありがとうございます」
両手を組みニッコリ笑ってみると、コードラン様は真っ赤な顔で再び「団長~~~!」と叫んだ。
どうして彼は、私と会話してくれないのだろう? ちょっと、寂しい。
「美人のクセに素直ってなんなんですか⁉ 魔王の想い人が天使って、それはなんの冗談ですか? 彼女の幸せを考えるなら、私は団長の補佐をしない方がいいのでは? このままでは彼女は堕天使になってしまいます」
「うん。クリスの美しさに混乱しているのは分かるが、そろそろ怒るぞ、サラン」
魔王とか、堕天使ってどういう意味だろう?
しっかりした良い人だとは思うが、少し距離を取った方がいいのかもしれない。
私はコードラン様から離れるように、そっとケリエル様に身を寄せた。
その姿にコードラン様はハッとして、気まずそうにポリポリと頬を掻いた。
「あ~、これ以上文句を言っていても仕方がないので仕事をしてきます。団長もここが落ち着いたら戻って来てくださいよ。王太子殿下に報告するのは、貴方の役目ですから」
「そこが一番、嫌なんだけど」
「知りませんよ」
そう言ってコードラン様は私にぺこりと頭を下げてから、そそくさとその場を後にした。
そんなコードラン様にケリエル様は苦笑している。
私が不思議そうに見つめていると、視線に気が付いたケリエル様がこちらを向いた。
「面白い男だろう。あれでなかなか優秀なんだ。文句を言いながらも、しっかりと私の役目も補ってくれる。流石に殿下のお守りはできないようだが」
「王太子殿下に対等に接することができるのは、ケリエル様ぐらいではないですか?」
「そうかな?」
首を稼げるケリエル様に、私はフフフと笑う。
「……昔から、ケリエル様は何も変わっていませんね。私に対する優しさも、他者に対する不遜な態度も、魔法だって子供の時からお上手でしたものね」
ニッコリ笑ってそう言うと、ケリエル様がポカンとした表情になる。
あ、可愛い。
「え? それって……クリス?」
「はい。あの男に会って、全てを思い出しました。私の愛しい魔法使い様」




