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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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新事実だと⁉

「お前は、キュリタス・サンシャル。行方不明になっていた、サンシャル伯爵家の長男だな」

 腕を組むケリエル様を前にして、男は項垂れながらも肯定する。

「……ああ」

「何故、こんな呪いを私のクリスにかけた? 理由は私に対する逆恨みか?」

 ケリエル様の言葉に、キッと顔を上げて反論する男。

「逆恨み⁉ 違う。れっきとした恨みだ。私は傍若無人に生きてきたお前の、犠牲者だ!」

「私が何をした? 一度だけ会ったことがあるらしいが、魔法で吹っ飛ばしただけだろう?」

「だけ、とはなんだ! 僕がどこまで飛ばされたか分かるか? 王都の外れだぞ」

「国内で良かったな。他国まで飛んでいたら大変だった。ていうか、たったそれだけのことで恨んでいるとか心が狭い」

「なんでそんなに他人事なんだ? しかも王都の外れまで人を吹っ飛ばしておいて、それだけってどういうことだ? いや、それだけじゃない。忘れたとは言わさんぞ。お前は今まで散々、僕を馬鹿にしてきたではないか!」

「知らん」

 あっさりと記憶にないと言いきるケリエル様に、男はワナワナと震えだす。

「知らんだと⁉ ならば思い出させてやる!」

 そうして私達は、男の長い恨み節を聞かされる羽目になる。



「初めて出会ったのは、僕が十二歳、お前が二歳の時だった。街に買い物に来ていたお前の黒髪が気になった僕は、侍女に抱かれているお前の背後に回って、侍女が屈んだ隙にその髪を一本拝借したのだ。黒髪は魔力量の多さを表している。髪を調べて、お前の魔力量が多ければ友人になってやらなくともないと、僕は優しさでそのような行動に出たのだが、お前はそんな僕の優しさを知らずに、ただ髪を抜かれた痛みで、僕に攻撃魔法をかけたのだ。あっという間に僕は店の屋根の上に飛ばされた。大人達は誰も気付かず、降りることができなかった僕は、一晩その屋根の上で過ごす羽目になったのだ」


「「「「…………………………」」」」


「次に会ったのは、僕が十三歳、お前が三歳の時。その頃、魔法研究所に興味があった僕は、父上に頼み込んで室内を見学させてもらっていた。それなのにお前は当然のように、そこにいた。案内してくれていた職員に訊けば、優秀な魔法使いの息子で彼自身も将来有望視されているから、王族からどこにでも自由に出入りする許可を得ているとのことだった。僕が必死で得た場に、お前はなんの苦労もせずに出入りしていたのだ」


「「「「…………………………」」」」


「次は僕が十五歳、お前が五歳の時だ。小遣い稼ぎに作った回復薬を城に持ち込んだら、ちょうどお前も持ち込んでいたらしく、上質の物だとお前の回復薬は全部受け入れられた。そのため、僕の回復薬はちょっと手順を間違えていたらしく、持ち込んだ五分の一しか受け入れられなかった。お前の前に持ち込んでいたら、絶対に全部受け入れられたはずなのに、まるまるそれを家に持ち帰った僕の気持ちが分かるか?」


「「「「…………………………」」」」


「次は僕が十七歳、お前が七歳……」

「もういい! 聞いて損した」

「それが延々と続いていたという訳っすか。面倒くさい」

「紛れもない逆恨みだな」

 男の長話にケリエル様、カーター、トウハー様が呆れた口調で止めた。

 正直、私ももっと複雑な内容を想像していた。

 それがよもや、こんなにくだらないことだったなんて……。

 本当にもう一回、ボコボコにしてやろうかしら。


「と、とにかく辛辣をなめさせられていた僕は、お前と真正面から会うことになった。それが先程お前に王都の外れまで飛ばされた事件だ。あの時はお前だと気付かずに声をかけたのだが、吹っ飛ばされて悔しかった。それまでの恨みも重なって、僕はお前の周囲を調べることにした。するとそこの女が浮上したのだ。お前が大切にしている女がいると……ひぶっ!」

 突然ケリエル様が男の良く動く口を、片手で顎と頬を掴んで喋れなくした。

「女、女と誰に向かって呼んでいる」

「く、くひす、ふぃーひゃ、らま?」(ク、クリスティーナ様?)

「人の女を名前で呼ぶな」

「ほ、ほうふれば?」(ど、どうすれば?)

「オルバーナ伯爵令嬢と呼べ」

「……………………」

「そう呼ばなければ、一切の話を聞かずにお前を打ち首にする」

「は? ひ、ひさまに、そへほほのへんへんは、なひはふは」(は? き、貴様にそんな権限はないはずだ)

「大丈夫。捏造は得意だ」

「おふはーなはひゅはくへいひょうさま!」(オルバーナ伯爵令嬢様!)

「よし、それでいい」


 ポイっと男の顔を手放すケリエル様。

「魔王が降臨されてます。お止めにならないんですか、親友様」

「君が止めればいいだろう、弟殿」

 カーターとトウハー様が、ケリエル様の少し理不尽な脅迫に肘でお互いをつつきあっているが、どうやら二人には止める気がないようだ。

 私もまた、彼の行動を止める気はない。

 それぐらい私の十年の恨みは深いのだ。


「それでお前は、私への恨みを私の大切なクリスへと向けた訳だ。全て準備していたのか?」

「い、いや。全て、ではない。彼女……オルバーナ伯爵令嬢様の存在を知ってから、とりあえず策を練っていた。そんな時に、たまたま街で見かけた。いい機会だと、周囲にいる人間に魔法をかけた。オルバーナ伯爵令嬢様の姿を皆に見えないようにして、猫で誘導したのだ」

 男の話に、私はケリエル様の後ろからつい口を挟んでしまう。

「私にも、猫について行く魔法をかけたのでしょう? だって私、そこまで猫好きではないもの」

「あんなに可愛い僕の猫が好きじゃないだって⁉ どうやら僕達は気が合わないようだ。すぐに連れて行かなくて正解だった……ふぐぅ!」

 ケリエル様が私の言葉に突っかかる男の顔を、またもや掴んだ。

 男が必死で謝るので手を離し、話の先を促す。


「……正直言うと、確かに僕は呪いをかけた。家で古い魔法書を見つけて、そこに描かれていたのがこの呪いの術式だ。そこに僕は独自の術式も付加した。だが最初は上手くいかず失敗続きに悩んでいたのだが、その時にたまたま不思議な魔道具を発見してしまったんだ」

「魔道具?」

 呪いの術式を説明されると思っていた私達は、そこで全然関係のない魔道具の話が出て来て、首を捻る。

 そんな私達に男はそれ以上言いたくなさそうな顔をしたが、ケリエル様に睨まれて先を話す。

「その魔道具は今までに見たこともなく説明書もなかったため、どのような機能があるのか分からなかった。ただ、魔道具の裏側に〔願いを言え〕とだけ書かれていたんだ。僕は半信半疑ながらも、その魔道具に願った。ケリエル・イブニーズルが苦労する人生を送るように、僕が思った通りになるようにしてくれと」


 私達は男の言葉を聞いて、顔を顰める。

 願いを言え、と書かれただけの魔道具。

 それになんの疑問も抱かずケリエル様が苦労するよう願ったとは、この男は大分とひねくれている。いや、知ってたけどね。


 私達の不審な反応に疑われていると思った男は、本当の話だと勢い込む。

「し、信じてないだろう。でも本当なんだ。僕はお前が彼女を溺愛しているのを知っていた。お前が苦労する人生を送るには、彼女が不幸になればいいとそう考えたのだ」

 捲し立てる男は、いつの間にか私の呼び名が彼女になっている。

 正直、オルバーナ伯爵令嬢様と呼ぶのは面倒くさいのだろう。

 ケリエル様を見ると眉間に皺を寄せているが、止めずにそのまま話を聞くようだ。

 男は次第に饒舌になっていく。

「僕はその感情のままに接近したのだが、彼女を見た途端、その、想像以上の美しさに胸が高鳴った。僕は、彼女が欲しくなったのだ。そして、僕が彼女を奪ってしまえばお前は不幸になると一瞬で考えた。でも彼女は余りにも幼く、僕が連れ帰ったとしてもすぐに周囲にバレてしまうだろうと、その場は諦めたのだ。一旦離れて彼女を迎える用意をしようとしたのだが、その間にお前と彼女が結ばれては意味がない。だから結ばれないために、彼女を男に変えてしまおうと考えたのだ」


 ――やっぱり、この男は変態だった。

 十歳以上も離れている私を見て、ケリエル様から奪おうと考えるなど変態以外の何ものでもない。

 私は元々あった男との距離を、ますます広げる。

 ケリエル様は何かを考えるように顎に手を添えていたが、男に侮蔑の目を向けながらも問う。


「では、私が不幸になるためにお前の考えを叶えろと魔道具に願ったから、あれほどの完全な行動や呪いができあがったという訳か? それじゃ、それに伴うクリスの記憶の欠落や女性の顔が認識できなくなるといったことは、お前の呪いなのか? 魔道具の力なのか?」

 ケリエル様の問いに、男は眉間に皺を寄せた。

「なんだ、それは? 僕はそんなことまで考えていないぞ。まあ、お前と彼女が決別するようにとは考えたがな。彼女の考え方を、なんでも悲観的にしたり、人嫌いにさせたりとか。そうして周囲に見放された彼女が一人ぼっちになった所に、僕が颯爽と現れ王子様のように彼女を攫ってやろうと考えたのだ」

「十分考えてるじゃねぇか!」

 フフンと得意気に顔を上げた男に、バキッと上から頭を殴りつけるケリエル様。


 ガシガシと自分の髪を掻いた後、目を回す男の胸倉を掴んで怒鳴りつけた。

「全く禄でもないことをしてくれたな。呪いだけでも厄介だというのに、その魔道具はお前が考えること、全てを自動的に叶える魔道具なんだろう。お前がクリスを誰もが見向きもしなくなるような性格にしたてたために、クリスは私との楽しい思い出だけじゃなく、女性の顔も分からなくなり、その者との思い出も忘れさせられたんだ。楽しかった過去がなければ、その者に執着しない。簡単に離れることができるんだからな。そしてなんでも悲観的に考える後ろ向きな性格ならば、ますます孤独になるのは目に見えている。お前はそんなクリスの前に現れ性別を元に戻し、優しく接して彼女を助ける王子様のように振舞うつもりでいたんだろう。そうすればクリスがお前を慕うだろうと。そんなお前の浅はかな願いを、その怪しい魔道具が全て叶えた。全くもって馬鹿げてる」

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