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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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捕縛完了

「こ、この氷は一体なんだ? 何故、溶けない? 砕けない?」

 必死で溶かそうと、ありとあらゆる魔法を詠唱する男だが、腰まで広がった氷は一向に溶ける気配はない。

「ああ、一切の魔法を受け付けないように中和の魔法をかけている」

「はあぁ? どんなに優れていようが、そんな魔法できるわけないだろう」

「できるさ。私は天才だからな」

「!」


 ケリエル様の威丈高な態度に男は言葉を飲み込み、私は胸がキュンと高鳴った。

 前の私なら、あのように怒ってるケリエル様を少しだけ怖いと思っていたのに、今はとっても素敵だと惚れ惚れしてしまう。

 私に呪いを掛けた男に対してガンガン攻める姿は、頼もしいの一言である。


 私がケリエル様の勇姿にキュンキュンしている横で、カーターとトウハー様はヒソヒソと話し込んでいる。

『いくらケリエル様でも、中和魔法は流石に発動できませんよね?』

『ああ、中和魔法は魔法を中和、無効にしてしまう特殊なものだからね。魔力量やセンスの問題で使えるものではないよ。十中八九ハッタリだね』

『確かに効いてますね。分かりやすく動揺しています。ですが、中和魔法ではないのなら、何故氷は溶けないのですか?』

『……多分、凄い速さで奴が発動した魔法を防御してるんだと思う。うん、本人が言う通り天才は天才だよね』

『普通に怖いっす。あの人、段々人間離れしていってませんか?』

『イブニーズル侯爵家が、クリスティーナ嬢を全力で守る意味が分かったような気がする。彼女がいないと、ケリエルは本当に魔王になるよね』

『クリス様、責任重大ですよね』

 そこでチラリとこちらを見たカーターと目が合ったのだが、私はケリエル様の姿に興奮していたので、頬を染めて『カッコイイよね』と口パクした。

「あ、大丈夫っす。クリス様も変な人でした」

「……うん。似たもの夫婦ってことだね」

 何故か頷きあう二人を私は不思議に思いながらも、そんなことより今はケリエル様の応援だと、再び彼に向きなおった。



「くっそぅ、こうなったら火の玉で……」

 どうやっても氷は溶けないと悟った男は、中半やけくそで攻撃魔法をケリエル様に打とうとする。

 それを半眼で眺めていたケリエル様が、ポンッと手を打った。

「一応言っておくが、力が尽きて地上に落ちればお前の凍った体は、その衝撃で砕け散るぞ」

「!」


 二人は空に浮いたまま、戦っていた。

 それだけで魔力は使用している状態だ。

 そのまま魔法を使い続けると、当然魔力は減り、いずれは空に浮いている魔力も力尽きてしまう。

 ケリエル様の仰る通り、地上に落ちれば間違いなく木っ端みじんに砕け散るだろう。

 男は恐怖に、ワナワナと震えだす。

 しかしその間も体は凍っていき、あっという間に両手も使えなくなった。

 唇の下まで凍ってしまったところで、男は降参を口にした。


「やや、やめて、くれ。これでは、もう魔法も、使えない。僕の……負け、だ。た、助けて、くれ」

「却下だ。もう少し粘れ」

「え、ええぇ~~~⁉」

 ケリエル様は、男の降参を受け入れるつもりではあるようだ。

 けれど、これだけでは腹の虫がおさまらないと言いたげに、もう少し頑張れと男に命令する。

 泣き叫ぶ男。


 私はこんな男に、大切な十年間を潰されたのかと思うと、悔しいやら情けないやらで体が震えだす。

 先程は恐怖から。今は悔しさから。

 私は拳を握り、思わず下から声を張り上げた。

「ケリエル様、私にその男を殴らせてください!」

「「「え?」」」

 ケリエル様、カーター、トウハー様の声が重なった。


「私は魔法が使えません。ですから報復は直接いかせていただきます。歯を食いしばってください」

「ハッ、いくら男の姿とはいえ、元々は女のクセに。歯を食いしばれとは大きく出た……なっ!」

 バキッ! と大きな音と共に、体を氷漬けにされたままの男の顔が、ダランと項垂れる。


 ケリエル様の魔法で、手足だけを氷漬けにされた男を地上におろしてもらったのだ。

 身動きの取れない男の顔を、話が終わらないうちに渾身の力を込めて殴ってみた。

 なんてことはない。

 ケリエル様に、筋力や肉体の耐久力と柔軟性などを増幅する、身体強化の魔法をかけてもらったのだ。

 どうせ殴るなら、相手にダメージを与えなくては意味がない。

 男の開いた口からポロリと、抜けた歯が落ちる。


 その様子を見た私は、もう一度振りかぶる。

「せぇの……」

「待て! 殴るのは一度ではないのか⁉」

 もう一度殴ろうとして振りかぶった私に、ツッコミが入る。

 男は思った以上に元気なようだ。

 これならば遠慮などする必要はないだろう。

「誰が一度だなんて言いました? 私の十年がそんな軽い訳ないではないですか? 一桁では足りません」

「ひっ、そんなに殴っては、お前の手も痛めるぞ」

 唯一動く顔だけを必死で振る男に、私はニッコリと微笑む。

「心配ご無用。身体強化の魔法はかけていただいてます。貴方の顔が判別できなくなる程度には殴らせていただきます」

「ひいぃぃぃ」



 私が男をボコボコにしている間、後ろではカーターが「ケリエル様、いいのですか? クリス様が滅茶苦茶、怖いです」とケリエル様の服の袖を引っ張り、ケリエル様は「報復は本人にさせるのが一番だろう。ああ、あんなに晴れやかな顔のクリスは久しぶりだ。可愛い」と、とろんとした表情を私に注ぎ、トウハー様が「人を殴ってる姿を可愛いと言うのは、お前だけだ」と額に手を当て項垂れていた。


 その間も私は、黙々と男を殴り続けていた。

 右頬、腹、左頬、顎……。

「はい。クリス様、終了です」

 カーターの終了の合図を耳にして、やっと止まる私の暴走。

 うん、酷いことをしてたのは自覚しています。

 けれど、ぐったりと項垂れた男のボコボコに腫れあがった顔を見ていると、やっと少しだけスッキリできた。

 もう帰ってこない私の十年はこうして幕を閉じ……るわけないし!


 私はクルっと後ろを振り返り、ケリエル様に男の顔を元に戻せないか訊いてみた。

「そういうのはペルの方が上手いだろう。何? 元に戻してもう一回ボコるの?」

 再度、痛みを与えるのかとたずねてくるケリエル様。

 流石に疲れたと言うと「じゃあ、代わりに私が殴ろうか?」と嬉々として仰るケリエル様に苦笑する。

「構いませんが、最後は元に戻してくださいね。王太子殿下の前に出した時、誰がやったと確認されそうですから」

「ああ、クリス様の犯行だと知られたら、大笑いされそうですもんね」

「うん。自分もその現場を見たいと、再現を要求されそうだ」

 カーターとトウハー様が頷くのを見て、ケリエル様は興ざめしたのか男のそばから離れる。

 氷漬けはそのままに、意識の失った男の顔をトウハー様が治してくれる。


「王太子殿下に引き渡す前に、色々と確認したいな。ペル、起こしてくれないか?」

 ケリエル様が、ついでに男の意識も覚醒させてくれと頼む。

「いいけど。顔を見たら、また殴りたくならないか?」

 トウハー様が半眼でケリエル様と私を見る。

 大丈夫。私は、もうしませんよ。

 先程は、余りの怒りに我を忘れてしまっただけですから。

「そこはそれ、会話の流れから、そうなった場合は仕方がない」

 ケリエル様はしないとは言わずに、流れに任せると言う。

 トウハー様は目を瞑ってしまった。

「ほどほどにしてくれよ。僕が治すんだからな。魔力がもったいない」

「善処する」

 真剣な顔で頷くケリエル様に、トウハー様は首を横に振って、男の額に手を当てた。

 すると男はゆっくりと覚醒する。


 トウハー様の後ろにいる私と目が合うと、男は「ひっ」と軽い悲鳴を上げてブルブルと震えだす。

 先程の恐怖が残っているようで何よりだ。

 ケリエル様が私を背中に隠し、男の前に出る。

「詳細は牢でじっくり聞くとして、先に訊いておかなければならないことがある。先程のような目にあいたくなければ、キビキビと応えろ。いいな⁉」

 男はコクコクと顔を縦に振る。

 すっかり反抗心は無くなったようだ。

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