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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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事件後の褒美は

 クリスの働きで、国中に出回っていた偽回復薬は、全て回収できた。

 タブレージ伯爵夫人が持っていた書類には、ご丁寧に関わった全員の名前と店の場所が記されていたのだ。

 裏切らないようにとの判断で詳細に残していたのだろうが、そんな大事な物を城の夜会で手渡しするなど、愚の骨頂である。

 サラン曰く、目立つ場所だからこそ敢えて取引場所にしたのではないかというが、そういうものだろうか?

 想像以上に広範囲へと出回っていたのには骨が折れたが、そのお蔭で先に捕えられ、先日やっと正気を取り戻したバーボンドリュー男爵の子息同様、かなりの貴族が売買に関わろうとしていたことも判明した。

 回復薬だけでなく、毒消しやら痺れ薬やら惚れ薬なんていう怪しい偽魔法薬まで出回っていたのには、恐れ入る。

 これは紛れもなく、全てクリスの手柄だと言えよう。


 当初、魔法研究所の職員の親族ということと、模倣犯の類を考慮して内密に動いていた事件だったのだが、余りの大事に結局は公にせざるをえなくなった。

 そのため私の仕事が一段落するのに、三か月の期間を有することとなる。

 その間、私はほとんど家に帰ることができずにいた。

 総指揮をとっていたのが私であるため、仕方がないと言えば仕方がなかったのだが、今思えば騎士団も巻き添えにするべきだった。

 この所為で、すっかり魔法騎士団は王太子殿下の直属扱いなのだ。

 近衛騎士団がいるだろうと叫びたくなるが、あちらは国王の直轄だ。と嘯く王太子殿下に辟易する。

 すっかり全ての騎士団からもひがまれてしまった。

 全て王太子殿下の所為だと、やさぐれた毎日を過ごしたのは言うまでもない。



 深夜、月が仄かに照らす室内に人影が落ちる。

 その人影は、寝台で眠る金髪の美少年に、そっと近付いた。

 サラリと流れる長い髪を一掬いして、キスを送る。


「……いい加減によしましょうよ。転移魔法で直接部屋に忍び込むのは」

「これぐらい目を瞑れ。クリス不足で干からびそうだ」

「昼間にも会ってるでしょうが」

「ほんの数分だ。あんな短い時間では、会っているとはいえない」

「いや、会ってますから。充分に。毎日ほんの数分でも転移魔法でクリス様の顔を見に来るのには、正直侯爵家全員が呆れてます。ですが、せめて深夜にお部屋へ侵入するのだけは、やめてあげてください。その都度、付き合わされている俺って一体……いや、この際、俺のことはいいですけど、無断で寝顔を見られていたと知られたら、流石に嫌われますよ」

「そ、そうかな? いや、それでも、この時間がなかったら私は確実に城内で暴れる。無意識にな。実は何度かサランに取り押さえられている」

「……すみません。もう言いません。ご堪能ください」



 この三か月、真面に家に帰れないというのは本当だ。

 事件を解決するために、あちらこちらの土地へと移動していた魔法騎士団は、城にいないこともままあった。

 だが私には、クリスに会えない日々を過ごすなど、できるはずがなかった。

 遠方へ訪れている時は、皆が寝静まったのを見計らって転移魔法で、クリスの寝顔を見に来ていたのだ。


 一日目にしてカーターには見つかった。

 カーターはクリスの護衛をしているので、離れている間も魔法でクリスに異変があれば、すぐに駆け付けられるようにしている。

 そしてこの日も、私が転移魔法で部屋に入った瞬間、カーターも転移魔法で現れたのだ。

 その時の微妙な沈黙は、忘れられない。

 仕方ないですねと言い、目を瞑ってくれたカーターだったが、それが毎日続くと流石に嫌味の一つも言ってくるようになった。

 クリスが十年、男の姿だった時も仕事で会えない日々もあったが、これほど頻繁には忍び込んではいなかった。

 せいぜい昼間に、遠くから覗いていたぐらいだ。

 やはり両想いだと知っては、行動が大胆になってしまうものなのだなと真顔でカーターに言うと、無言でジト目を向けられた。

 解せぬ。



「ご苦労だったな、ケリエル。後の事務処理は文官に任せろ。魔法騎士団には無理をさせたからな。褒美の報奨金は別として、一週間の休暇なんてどうだ?」


 王太子殿下の執務室。

 やっと殿下の無茶ぶりが終わり、後は他者に任せても大丈夫だとの言葉をもらった私は、ホッと息を吐く。

 一週間の休暇。団員達も大喜びするだろう。

「ありがたく頂戴いたします」

 首を垂れる私に、王太子殿下は鷹揚に頷く。

「そうそう、カロッツ子爵の娘だったパティアナ嬢だが、子爵が捕まる前に爵位は落ちるが他家の男爵家と養子縁組をしておいたから、彼女はこのまま変わらず研究所に勤めることになる」

 パティアナ嬢とは、あのクリスの呪いを修復してしまった色ボケ職員のことか?


 確かに家族が犯罪を犯せば罪の大きさにもよるが、ほとんどの場合、一族郎党罰を受けるのが当然だ。

 今回カロッツ子爵は貴重な薬の偽物を作り、大量に市場へと出回らせようとした。

 本来なら健康な体に戻してくれる素晴らしい薬のはずが、彼が作った薬は麻薬と変わらない人体に害のある物だった。

 しかもこの薬に関わった者の数は、三桁に上がる。

 本人だけが罰を受ければすむという話ではない。

 それに捜査中に分かったことだが、カロッツ子爵の身内はほぼ全員といっていいほど、この犯罪に関わっていたのだ。


 そしてこの件で分かったことなのだが、どうやら彼女は子爵の庶子で市井の育ちであるらしい。

 手を付けられた侍女が、逃げた市井で子供を産んだ。

 そしてその子供が魔法使いであると知った子爵は、母親が亡くなると同時に彼女を引き取った。

 どうりで親子の情も何もないはずだ。

 簡単に裏切り、私達に協力したのにも頷ける。

 だが、それでも職員が子爵の娘である以上、彼女だけを罰しないという訳にはいかない。

 そこで殿下は、罰する前に彼女をカロッツ子爵家から離したのだろう。


 それは分かる。分かるのだが、正直そんな女の話を私にされても困る。

 一切興味などないのだから。

 しかしながら一応、王太子殿下のお言葉なので返事はしておく。

「別に、一緒に捕まえてしまっても良かったんじゃないですか? クリスが迷惑被ったことですし、私としては牢屋にぶち込んでも問題無いと思います」

 シレっと言うと、王太子殿下に呆れられた。

「まだ許してなかったのか? しつこいな。まあ、そういう訳にもいかないのは、君が一番よく分かっているだろう。なんていったって、彼女は数少ない魔法使いなわけだし、一部の魔法に関しては優秀でもある。それに本人の意思でないとはいえ、情報提供者なわけでもあったのだからな。流石に罰するのは、酷ってものだろう」

 そう説明する王太子殿下に、私は内心舌を出す。

 どうせ、使える駒だとでも思っているのだろう。

 彼女は性格に難があるものの、使いようによっては利用価値がある。

 王太子殿下ならそこのところ、上手く使うことができるのかもしれない。


「まあ、金輪際、私に関わって来なければどうでもいいです。彼女の手綱、握っててくれるんですよね?」

 私が彼女を、私に近付けなければどうでもいいと言うと、王太子殿下は顎に手を置いて、眉間に皺を寄せた。

「……それは、ちょっとやだな。私も彼女は怖いんだ。ペルに頼もうかな?」

「何、僕のいない所で勝手に面倒事、押し付けてんですか⁉ 僕だって、やですよ。他の男、あてがってください」


 パンっと乱暴に扉が開いたと思うと、ペルが悲壮な顔つきで荒い息を吐きながら叫んだ。

 えっと、お前ここ、王太子殿下の執務室だぞ。何、勝手に開けてんだ?

 ペルの後ろを見ると、困惑している護衛騎士がいた。

 王太子殿下を見ると、かまわないと騎士に手を振って扉を閉めさせる。

 うん、こういう所が器がでかいんだよな。

 否、ペルを見ながらニヤニヤ笑う王太子殿下は単純に楽しんでいるだけだった。


「だいたい殿下は、自分と二人で彼女を見ようと仰っていたのに、結局は欲しい情報だけ引き出せたら、後は僕に丸投げだったじゃないですか。酷過ぎますよ。いくら彼女の本命がケリエルだからと言っても、僕だって危ない場面はあったんですからね。良く持ちこたえたと、自分で自分を褒めたい気分です」

「うん、ありがとう。私からも褒めてあげるよ。よく無事だったね」

「褒められたいわけじゃない! もういい加減、彼女から解放してください。僕は研究がしたいんだ!」

 ペルの心からの叫びに、同情せずにはいられなかった。

 気持ちは分かるがただ一つ、許せないことがある。

 私が奴の本命と言うのは、やめろ。

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