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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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心からのお疲れ様

 突如、変貌したクリスに、私はどうしたらいいのか分からなくなっていた。

 先程まで、クラリウスとして様々な女性に声をかけまくっていたクリス。

 今まで見たこともない華やかで自信に満ち溢れた表情の少年に「誰?」とツッコミを入れたくなっていたのは、ほんの数十分前のこと。



 私は魔法騎士団の団員と共に夜会会場から離れた部屋の一角で、離れた場所や過去の出来事を鏡などに映して見る透視魔法により、クリスを見張っていた。

 私の顔は多くの者に知られているので、思い通りの行動がとれないだろうとこの方法を取ったのだが、まさかクリスがあんなに羽目を外すとは。

 正に水を得た魚。

 生き生きとして女性達の中を泳ぎ回るクラリウスに、あれは本当に演技なのかと疑いたくなってしまう。

 カーターも私と同じ心境なのだろう。

 たまに虚ろな目でクリスを眺めた後、慌てて後を追っている姿を目にする。

 彼女はちゃんと己の役割をはたそうと、頑張っていたのだろう。

 それは分かっているのだが、余りにも普段のクリスとの違いに、思わず放心してしまう。


 そんな中、クリスが件の夫人に近付いた。

 仕掛けるのだと、気付いた私達は一斉に彼女達に注目する。

 私はすぐにでも本人のそばに駆け付けられるように、動ける位置を確保した。

 クリスのそばに居るカーターとも連携して、様子を探る。

 クリスは滑らかに夫人を口説きながら、必要な情報を聞き出そうとしていた。

 頑張っている姿は大変ありがたいし健気だとも思うのだが、なんていうか愛しい女性が女性を口説く姿を目にするのは、地味にへこむ。

 誰が見てもカッコイイ少年であるのも、複雑な心境になる。

 クリスティーンの時はあんなにも後ろ向きだったのに、何故クラリウスだとそんなにも前向きになるのだろうか?

 不思議で仕方なく首を傾げながらも、夫人が漏らした言葉をしっかりと聞き取った。


 証拠は、タブレージ伯爵夫人の従者が現在、所持している。


 すぐさま部下を、使用人の待合室へと向かわせる。

 そのまま私もクリスがいるバルコニーへと向かった。

 そうして夫人を捕えたのだが、先程のことである。


 今は、私の態度にいつもと違うものを感じ取ったクリスが恐縮してしまい、先程とは打って変わったように縮こまる姿の彼女がいた。

 女性を口説く姿は流石に見たくないが、それでもこんなに小さくなるクリスも見たくない。

 私はクリスの肩に、そっと手を置いた。

「どうして謝るの? 君は何も悪くない。それどころか、とても助かった。協力に感謝する」

 そう言っていつものように笑ったつもりだったのだが、クリスは俯いたまま「申しわけありません。帰ります」と言い続ける。


「……とりあえず、先に帰りますね、ケリエル様」

 そう言ったのは、後ろで控えていたカーター。

 私の手を除けて、クリスの体を支えるようにしてバルコニーから出ようとする。

「おい、カーター」

 思わず声をかけると、カーターはやれやれというように首を横に振った。

「お互いに、時間を置いた方がいいですよ。考えがまとまったら帰って来てくださいね」

「考えって……私は別に……」

「初めて見ますよ。ケリエル様がクリス様を後回しにする姿なんて」

 そう言われて、初めて私はクリスから逃げていたことに気が付いた。

 いや、逃げていたつもりはないのだが……そうだな。殿下にクリスとの帰省の許可がおりているというのに、それを拒否したのだからそう思われても仕方がない。

 私は俯くクリスが、僅かに震えているのに驚いた。


 ――自己嫌悪。


 私はこの世で一番大切な女性を、傷付けてしまった。

 無意識だったとはいえ、こんなにも落ち込ませてしまうなんて……。

 せっかく明るく前向きになった姿を、失わせる訳にはいかない。

 私はカーターに「時間をあけなくても大丈夫だ。少しだけ話をさせてくれ」と言うと、カーターは仕方がないなというように苦笑して、クリスから距離を取った。

 私は俯いたままの彼女の頬を、そっと撫でる。

 ビクッと震える姿に、申しわけなくなる。


「……クリス、ごめんね。私はクラリウスとして、君が余りにも生き生きとした姿でいるのに、驚いてしまったんだ。怒っている訳でも、嫌っている訳でもないんだよ。だからそんなに怯えないで」

 私の必死の言い訳に、クリスはゆっくりと顔を上げる。

「……調子に乗り過ぎた私に、呆れられたのではないのですか?」

「そんなことは、ないよ。ただ単に、クリスにそんな行動力があったのかと、驚いているだけ」

「……じゃあ、嫌いになってない?」

「私がクリスを嫌いになんて、なるわけないよ。反対に、冷たい態度を取った私のことが、嫌いになった?」

「私がケリエル様を嫌いになんて、なれるわけありません。今も昔もこれからだって、ずっとずっと大好きです」


 思いかけずに告白された!

 自分の言葉にハッと気が付いたクリスは「いや、あの、ちがっ……」と顔を真っ赤にして慌てているが、私はその言葉に、私の心のもやもやが全て帳消しになった。


 ガバッと勢いよくクリスに抱きつく。

「キャッ」という男姿でも高く、可愛い悲鳴が聞こえてくる。

「うん、私も大好きだよ。クリスは本当に可愛いな。結婚しよう。今しよう」

 浮かれた私が今にもクリスを横抱きにしてバルコニーを後にしそうになったところで、王太子殿下の平手が脳天を直撃した。


「落ち着け。今は城の夜会中で、犯罪者を逮捕した直後だ。君達の結婚話を決めるには、状況も場所も悪過ぎるのではないか?」

「確かに。では、このまま屋敷に帰らせていただきます」

「いや、君。さっき団長の責務がどうこうと、帰らないと言ったところだろ」

「記憶にありません。後は優秀なサランがなんとかしてくれます」

「どこぞの偉い人か⁉ サランが不憫過ぎる。自由奔放な流石の私でも、彼には同情してしまう」

「おや、自覚がおありで?」

「君にだけは言われたくない」

「……お二人は同類です」

 王太子殿下の色々なツッコミに応対していると、カーターが額を押さえて呟いた。

 なんだ、カーター。自分だけは真面目みたいな顔をしているが、割とお前も同類だぞ。


「とにかく、一度は帰ってもいいと仰ったのは殿下ですからね。こんな可愛いクリスを一人で返すわけにはいかないでしょう」

「いや、カーターがいるだろう」

「クリスはとても頑張ったんです。本日の功労者はクリスですから、事件の責任者である私が、彼女を労ったところで問題はないはずです」

「いやだから、それを一度断ったのは君だろうが」

「では、クリスに訊いてみましょう。私と一緒に帰りたいかどうか」


 王太子殿下が何かと煩いのでクリスの意向に沿いましょうと言うと、殿下は分かった分かったと、片手をヒラヒラと振り、二人でクリスに向き直る。

 突然二人から視線を向けられたクリスは、私の腕の中で「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。

 あれ? まだ怖がっているのだろうか?

 私が首を傾げると、クリスは困ったように眉を八の字にする。


「あの、も、もちろんケリエル様と一緒に帰りたいのは山々ですけど……」

「ほうら、クリスは私と一緒がいいと言ってます」

 クリスの答えに私が意気揚々と殿下に視線を向けると、クリスが慌てて私の服の袖を引っ張った。

「で、でも、ケリエル様にはお仕事が……。私が無理を言うわけにはいきません」

「大丈夫。そのお仕事の上司がいいと言っているんだから。そうでしょう、殿下?」

 遠慮するクリスに私が微笑んで返すと、クリスは困った顔のまま王太子殿下を見る。

 あ、やめて。そんな可愛い顔で、私以外の奴を見ないでくれるかな。

 私は抱きしめていた腕に力を入れて、クリスの顔を腕の中に埋めた。

 クリスが「わぷっ」と呻いていたが、少しだけ我慢しようね。


「ああ、もう、分かった、分かった。ケリエルも一緒に帰ってよし。その代わり明日は早めに登城しろよ」

 やっと王太子殿下のお許しがもらえた。

 私は少しだけ腕の力を緩めて、クリスの顔を覗き込む。

 微笑んでみると、クリスはやっと肩の力を抜いて、ふにゃっとした笑みを向けてくれた。


 私の婚約者は男の姿だろうと、例え目の前で女性を口説こうと、可愛いものは可愛い。

 笑み崩れる私にカーターが現実逃避? と無礼な口をきくが、現実逃避、上等だ。

 私は今後、もしクリスがまた目の前で女性を口説いたとしても、もう動揺はしない。

 まあ、そんなことは普通に考えればありはしないのだが、王太子殿下の前で功績を見せたことが少しだけ引っかかる。

 王太子殿下の無茶ぶりが、これで終わりだと祈るばかりである。

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