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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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お役目、果たせましたか

 タブレージ伯爵夫人からの聞きたかった言葉に、私とカーターはごくっと唾をのみ込みながらも、興奮を悟られないように、至って平然と会話を進める。


「はい。話を聞いたことぐらいはありますよ。ですが、実際に見たことはありません。私の領地は何もない田舎なので、魔法使いもいませんし、手に入るはずもありませんから」

「フフフ、よかったら貴方の領地にも、回復薬を回してあげましょうか?」

 意味ありげに見上げてくる夫人に、私は戸惑った演技をする。

「どういう意味ですか? 魔法使いが減少した昨今、魔法薬の数はかなり制限されていると聞きます。そのような珍しい物が、私の領地のような田舎に回せるなんて。いくら夫人がその伝手をお持ちでも、商売としては成り立ちませんよ」

 田舎に高価な魔法薬を運ぶとなると、運搬費から人件費と経費は想像以上にかかるものだ。

 それに長い道中、何もないとは言い切れない。

 よしんば、なんの問題もなく運べたとしても、村人に買えるお金はない。

 一つか二つ売れればいい方だろう。

 普通に考えて、王都で売った方が何倍も利益はある。

 無理ですね、と笑う私に夫人は口角を上げる。


「それが無理ではないの。製造業者を知っているから、私が頼めばいくらでも回すことは可能よ」

「特定の製造業者があるのですか? 変ですね。魔法薬はそれぞれの魔法使いが独自で、国の許可がおりている店に卸していると聞きます。それに例え、製造業者があるとしても先程も申しました通り、利益のない田舎に回せるほどの数はないはずですが?」

「ちょうど今、お試しで方々に配っている物があるの。従来の回復薬とは違って、魔法使いが一から作らなくてもいい物を開発したのよ。最後に少しだけ、魔法使いが手を加えれば出来上がり。だから格安で販売することが可能なの。利益が出なくても私が実験に協力する村だと言えば、割と融通が利くのよ」

 夫人は従来の回復薬とは違うと、ハッキリ口にした。


 私はカーターと目で合図すると、ニッコリと夫人に微笑んで見せた。

「それは素晴らしい。ぜひ、お願いしたいのですが、それはもうすでに出回っているということですよね? 例えばどこの領地やどのような店に置かれているのか、その詳細を教えてもらう訳にはいきませんか?」

 クラリウスの微笑に一瞬、ボ~っとした夫人だったが、流石に詳細を教えろと言った時には、警戒心を露わにした。

「何故、そのようなことを訊くの?」

「実績があるならば、その方が父上にも話しやすいからです。いきなり私が見ず知らずの夫人から紹介された品物だと持って行っても、父上は許してくれないでしょう。ですが、他の領地でも流出していると知れば、了承してくれるはずですから」

 そう言ってみたものの、夫人はまだ私への警戒を強めている。

 仕方がないので、私はそっと夫人の手を掬い上げた。

 ピクッとした夫人が、頬を染めながら私を上目遣いに見つめる。


「夫人には、正直に申し上げます。私はあんな田舎で生涯を終えたくないのです。王都の夜会にも、もっと頻繁に出入りしたいですし、夫人のような美しい方にも触れてみたい。ですが、このままでは私は田舎から出ることが叶いません。どうか、私に今後も夫人と会える機会を与えてはくださいませんか?」


 縋るように見つめてみると、夫人は気分を高揚させた。

「あ、あら、フフフ。そうね。貴方のような美しい青年が、田舎に引きこもるなど勿体ないことですわ。分かりました。ちょうど先程、製造業者の経営者にお会いして、流通した店のリストをいただいたところなの。これを貴方にも見せてあげましょう」

 お酒の所為なのか、クラリウスの美貌に酔ったのか、夫人はすっかり舞い上がってしまっている。

 声が上擦り、貴婦人にはあるまじきはしゃいだ声をあげる。


「それはなんとも運の良いことだ。貴方との出会いは、まさに幸運。そのリストはどちらに?」

「従者に持たせていますわ。使用人の待合室にいるでしょう」

「分かりました。では先に、私達の出会いにもう一度、乾杯いたしませんか?」

「ええ、いいわよ。これから深く長い付き合いに、なるでしょうからね」

 若く美しい青年を手に入れたと思い込んだ夫人は、ねっとりとした視線で高くワインを掲げて見せた。

 すると音もなく、スッと数人の騎士が私達のいるバルコニーへと姿を現した。

 その筆頭は、クラリウスのまやかしの美貌など霞んでしまう、本物の美貌を持つケリエル様だ。


 ケリエル様が部下を連れてバルコニーへと現れたと同時に、私はカーターに引っ張られ夫人との間の距離をあける。

 夜会中のバルコニーに突然現れた騎士に、異変を感じた夫人はヒステリックに叫び出す。

「ちょっと、これは何事なの? 騎士がゾロゾロと、このような場所に現れるなんて。せっかくの夜会が台無しよ!」

「それは失礼いたしました。ですが、夫人の従者が奇妙な物を持たれていたので話を訊いたところ、私共が現在調査している事件と関連があることが判明いたしました。申しわけありませんが、ご同行願えますか、タブレージ伯爵夫人」


 ケリエル様が口角だけを上げた笑みでそう伝えると、夫人は「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。

 そして助けを求めるように私を振り返ると、わき目もふらずにこちらへと走って来る。

 驚く私の前にカーターが立ちふさがると、その前に夫人の目の前に氷の壁が現れた。

 ガンッと勢いよく顔をぶつけた夫人は、そのまま後ろに転倒する。

 そこをケリエル様の部下が捕獲した。

 気を失った夫人は、引きずられるようにしてバルコニーを後にする。

 近くにいた夜会の出席者が何事かと騎士にたずねるも、酔って気を失ったようだと告げると、どうやら信じてくれたようで嘲笑があちこちで沸いた。


 バルコニーに残ったのは、私とカーターとケリエル様の三人だけとなった。

 いつものように心配したケリエル様に抱きしめられると身構えた私だったが、真正面からジッと見つめられるだけで何もしてこない。

 あ、あれ? どうしたのかしら?

 ただ立ち尽くすケリエル様に困ってしまってカーターを見るも「ハア~、外の空気は美味しいな」とバルコニーの手すりに掴まって庭を眺め出す始末。

 明らかに俺は知らないという感じだ。

 カーター、酷い。見捨てないで。

 救いを求めるようにカータへと手を伸ばした時、ちょうど室内の扉がガチャリと開かれた。

 現れたのは王太子殿下。

 私はホッとして王太子殿下を見る。

 彼が現れて、こんなに安堵したのは初めてかもしれない。


「ご苦労様、クラリウス。予想以上の出来に、笑いが込み上げ……感動してしまったよ」

 言い直したが、しっかりと〔笑い〕と聞こえた。

 うん、知ってる。目元に涙の痕が残っている。

 きっと私が女性に声をかけているのを見て、隠れて大爆笑していたんだろうな。

 つい乾いた笑いが込み上げる。


「これで、魔法薬に関わる証拠は全て掴んだ。後は突入あるのみ。ケリエル、最後の詰め、頼むね」

 ケリエル様の肩にポンッと手を置く王太子殿下に、目を細めたケリエル様は「御意」と胸に手を当て頭を下げた。

 あ、カッコイイ。

 私は初めて見るケリエル様の騎士らしい姿に、頬を染める。

 だが、ケリエル様は私をチラリと見ても何も仰らなかった。

 そんないつもと違うケリエル様の雰囲気に、私は段々と不安になってくる。

 ……私、やり過ぎたかしら? それとも何か間違ったことをしてしまった?

 オロオロとし始めた私に、王太子殿下が気付く。


「……ケリエル、言いたいことはちゃんと言わないと伝わらないよ。今日はもういいから、クラリウスと一緒に帰ったら」

 王太子殿下が、ケリエル様の帰宅を促してくれた。

 私は一緒に帰れるのかと、期待した目で彼を見つめる。

 だがケリエル様は珍しく、首を横に振った。

「そういう訳にはいきません。私は仮にも、魔法騎士団の団長です。夫人が洗いざらい吐くまで帰れません」

 団長としては当然の言葉に、私は彼の仕事を放棄させて甘えようとしていた自分に恥ずかしくなる。

 私がしょげている横で、王太子殿下とケリエル様の会話が続く。


「よく言うよ。今まで散々サランにお任せ状態だったのに」

「何か仰りましたか?」

「いや、別に」

 どうやら、ケリエル様は家に戻らないらしい。

 それが分かった私は、先程までのクラリウスとしての自信が全て抜け落ち、いつものクリスが顔を出してしまった。


「……申しわけありません、ケリエル様。私、余計なことをしてしまったようですね。あの、お屋敷に戻ります。ご迷惑をおかけしてしまって、本当にすみませんでした」

 スッと頭を下げると、男性三人は吃驚した顔で私を見る。

 私は頭を上げられなかった。

 調子に乗り過ぎてしまった私は、ケリエル様に嫌われてしまったのかもしれない。

 ごめんなさい。と私はもう一度、頭を深く下げた。

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