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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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変装後の性格

「では改めて。クラリウス、君が事件に遭遇した時の話をしてくれるかい。できれば君の感情も話してくれると嬉しい」

「私の感情も、ですか?」

 キョトンとするクリスに、王太子殿下は微笑む。

「うん。どういう風に考えたからこそ、どう行動に出たのかを説明してほしい。それが事件の解決につながる場合もあるからね」

 そう嘯く王太子殿下に、この人は何を考えているのかと眉間に皺が寄る。

 そんなこと、わざわざクリスに話させる必要があるのだろうか?

 不必要だと思いながらも、私は王太子殿下の真意が知りたくて、その様子を黙って見ることにした。

 するとクリスは暫く考えるそぶりをして、コクリと頷いた。

「……分かりました。たいした話しにはならないと思いますが、それでよろしければお話いたします」

 そう言って、クリスは事件の内容を具体的に話し始めた。



 ――驚いた。

 まさかクリスが、周囲のそんな細かいところまで見ていたなんて。

 荒事とはかけ離れた世界で生きていたクリスにとって、目の前で繰り広げられた騒動は、恐怖の何ものでもなかったはずだ。

 それを冷静に判断し、行動できたクリスに私は素直に感心した。


「ふぅん、クラリウスは女性の扱いがお上手なようだ。街の娘を虜にして、必要な情報を引き出してしまったのだから」

「私は何も。ケリエル様の真似をしただけです」

「真似?」

「はい。いつもケリエル様が、私に接してくださるようにしてみたのです。私だったらこう言われては断れないなと思う言葉を思い出して。フフ、皆様も私と同じで助かりました。流石ケリエル様です」

「「「………………………………」」」

 王太子殿下とカーターが、私に生暖かい視線を送る。

 ……クリス、君の素直さは美徳だが、そういうことは言わないでほしかった。


「そっかぁ。そんないい方法があるなんて知らなかったよ。ケリエルは実戦どころか教えてもくれないからね。もしかして、彼女から情報を聞き出すのにも、その方法は使えるかもしれないね」

 王太子殿下が信じられない程あざとく、単なる色仕掛けをいい方法だと言って、クリスの興味を引くように含みのある発言をした。

 おい、と王太子殿下を止めようとした瞬間、クリスがコテンと首を傾げて「彼女?」と訊いてしまった。

 完全に会話が続けられる。

 遅かったと項垂れる私と、王太子殿下に胡乱な目を向けるカーター。


 王太子殿下はすっかり自分のペースに持ち込めたと、上機嫌で話し始めた。

「今回の事件の主犯は分かっているんだ。ただ、ハッキリとした証拠と裏取引のルートは、これから解明しなければいけない。主犯は絶対に口を割らないだろうが、その片棒を担いでいると思われるのが、とある伯爵夫人なんだ。そこで、クラリウス。君に協力をお願いできないだろうか?」

「「「え?」」」

 殿下を覗いた三人の声が重なる。

 いきなり王太子殿下が、今回の事件にクリスを引っ張り込んだのだ。


 慌てた私は、王太子殿下とクリスの間に割って入る。

「突然、何を言い出すのですか、殿下。無理に決まっているでしょう」

「ケリエルが動いてくれるなら君でもいいんだよ。だけど君の場合、クリスティーナ嬢限定だろう。その点、クラリウスなら女性全員に効きそうだ」

「ふざけるな! 絶対に断る!」

「今回に関しては、君の意見は聞かない。クラリウスに直接、協力してほしいと王族として頼んでいる」

 なんなんだ、それは⁉

 王太子殿下にしては珍しく、王族命令として話してきた。

 頼んでいるという割には、断れない雰囲気を醸し出しているではないか。

 クリスもさぞかし怯えていることだろう。

 私はクリスに振り返る。


「断っても大丈夫だ、クリス。殿下は王族としてとは言っているが、あくまで頼み事として話している。拒否権はある」

 そう言ってクリスの肩を掴んだのだが、彼女の瞳はキラキラ輝いていた。

 は? なんで?


「あ、あの、王太子殿下。それは、私にしかできないということでしょうか?」

「もちろんだよ。もしもケリエルが動いてくれたとしても、彼では魔法騎士団員として警戒されるだろうし、城勤めの者も同様だ。面が割れていない美少年となると限られてしまう。だが君なら、誰でも虜にできる文句なしの美貌だし、何より経験者だ。街でしたのと同じようにしてくれたらいい」

「……分かりました。私でお役に立てるのなら」

 私の声にならない悲鳴が、王太子殿下の執務室にこだまする。


「何を言っているんだ、クリス⁉ ちゃんと話を聞いていたかい? これに協力するということは、事件に関わるということなんだよ」

 肩をガクガクと揺すりたいのを我慢して、努めて穏やかに意見するが、クリスは頬を染めながらコックリと頷いた。

「もちろん、分かっています。私がその伯爵夫人と接触して、話を聞かせてもらったらいいということですよね。その、話を聞く場合は相手の行動範囲に私が赴くということですか?」

 クリスが私を通り越して、後ろにいる王太子殿下にたずねる。

「いや、それは絶対にしない。ちゃんと危険の起きない場でと約束しよう。それに夫人の方でも、自分の領地内だと主犯にバレる恐れもある。いくら協力者といえども、お互いに警戒はしているはずだ。見張りの一人二人は付けているだろうしね。反対にそんな場で口を割らせる方が難しいだろう」

 王太子殿下の言葉を聞いて、クリスはニッコリと私に微笑む。

「分かりました。ケリエル様、危険はないそうです」


 ――目眩がする。

「ないわけないだろう。殿下、そんなものは魔法騎士団総出で動けば、すぐに証拠を掴めます。クリスを巻き込む必要はありません」

 思わずキツイ声を出してしまったが、クリスは怯える様子もなく不服だと頬を膨らませる。


 王太子殿下は腕を組むと、ソファの背もたれにもたれかかった。

「今までもかなり無理をさせているじゃないか。現物の入手、材料の入出先、各所の保管場所、薬作りに関わったであろう人物の洗い出し、全て魔法騎士団が揃えただろう。それでケリは付くと思われたのに、新たに昨日判明した、すでに実験と称して流出された先の洗い出しが必要になった。今押さえているだけでも手一杯なのに、これ以上動かすのは忍びない」

「散々こき使っておいて、よく言いますよ。面白がっているだけでしょう。魔法騎士団が駄目なら騎士団を使いましょう。体力が有り余っている奴らばかりです」

「今までのけ者にしてきたんだぞ。今更声かけても拗ねちゃって、まともに動かないと思うけどな」

 魔法騎士団も他の騎士団も駄目だという王太子殿下を、本気で殴りたくなった。

 魔法騎士団は私の部下だから、どんなにきつくても命令すれば動くし、なんなら回復薬を飲めばそれぐらいは、まだまだ動ける。現に今も飲んでいるからな。

 それに騎士団も拗ねるって、なんだ? ケツでも蹴っ飛ばせば、文句を言っても動くだろう。


 私はムカムカしながら王太子殿下を睨みつける。

「……でしたら、私一人で突き止めます」

「せっかく古代魔法の古書が手に入ったのだろう。ペル一人に任せっぱなしでいいのかな?」

「クリスを危険な目にあわせるより、よっぽどマシですよ」

「あの、ケリエル様。私、やってみたいです」

 私が王太子殿下と対立していると、そっと手を挙げたクリスがやりたいと言ってきた。


「は?」


 本当に何を言っているんだ、クリスは?

 私は頭痛を堪えるように額を押さえた。

「だって、その夫人に話が訊けたら、ケリエル様の役に立てるということですよね? だったら私、頑張りたいです」

「駄目だ。こればっかりはクリスの頼みでも聞けない。どんな危険な目にあうか分からないんだよ」

「危険はないと王太子殿下がお約束してくださいました。それに昨夜ケリエル様も、お約束してくださったではないですか。カーターが一緒なら、心のままに行動していいと。まさか昨日の今日で、嘘だと仰いますか?」

「ぐっ!」


 まさかのクリスの反論に、言葉が詰まる。

 クリスに嘘などつかない。だが、事件に関わるのは問題が違うのではないか?

 チラリとクリスの後ろに控えているカーターを見る。

 カーターは「ケリエル様の負けですね」と他人事のような言葉を吐く。

「なっ、カーター、お前……」

「大丈夫です。俺は絶対におそばを離れません」

「だが……」

 文句を言おうとすると、カーターが真面目な顔で頷いた。

 両手を組んで感動しているクリス。

 なんだ、これは?

 これでは私一人が悪者ではないか。

 しかも、クリスのカーターに対する好感度は爆上がり。

 ワナワナと震える私に、カーターが近寄って来て耳打ちした。


『クリス様は、ケリエル様の役に立ちたくて仕方がないんですよ。こんな機会は二度とないとでも思っているんでしょうね。許してあげたら如何ですか?』

 そう言われて悪い気はしないが、それでもクリスの安全を考えると素直に頷けない。

『いつまでも反対ばかりしていたら、昨日の件もあることだし、本気で嫌われかねませんよ』

「なっ!」

 カーターの的確な密告に、今度はブルブルと体が震える。

 なんでお前はそんなに、クリスのことが分かっているんだ⁉

 キッとカーターを睨むが、いつもならここで怖がるはずの奴は口笛でもふきそうなくらい飄々としている。

 小憎らしい。


 私が返事を渋っていると、王太子殿下がポンッと手を打った。

「分かった。では、城で夜会を開こうではないか。その席でクラリウスに夫人へと近付いてもらう。皆がいるのだ。これほど安全な場所はないだろう」


 結局、王太子殿下の意のままに計画は立てられた。

 まんまと殿下に乗せられた私は、ただでさえ忙しい中を計画に駆り出され、益々忙しい日々を過ごす羽目になるのだった。

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