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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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魔法騎士団にて

 魔法騎士団の会議室で王太子殿下を交えての作戦会議を行っている所に、疲れ切った顔のペルが乱入してきたのは、夕刻になろうかという時間帯だった。

「トウハー所長、偽回復薬の成分が判明したのですか?」

 サランがペルに席を譲ると、ペルは「それどころじゃない」と不機嫌に言葉を返し、そのまま椅子に座って机に突っ伏した。


 先日、カロッツ子爵の領地内にある偽回復薬を手に入れた。

 それをすぐにペルの元に届け、薬の中にある成分を調べてもらっている最中だったので、その結果報告に来たのかと思った私達だが、それはどうやら違ったようだった。

 だが、どのような急ぎの件があるとしても、薬の成分をそれどころと片付けられるのは気に入らない。

 それを手に入れるために、我が魔法騎士団がどれほど苦労したことか。

 私はイラっとして、ペルを睨みつけた。


「それどころじゃないとは、聞き捨てならないな。現状、一番に解決しなければならない案件ではないのか?」

 そう言うとペルも流石にまずかったと思ったのか、顔を上げて頬を掻いた。

「そうだな。すまない。だけど先程、パティアナ嬢の買い物に付き合わされて街に行っていたのだが……」

「え、デートですか?」

「毒盛るよ、サラン」

「申しわけありません」

 サランの好奇心丸出しの表情に、ペルが静かにキレた。

 普段、どちらかというと温厚なペルがこれほど余裕のない会話をするのは珍しいことだ。

 他の団員達も一瞬ニヤッと笑ったのだが、ペルのそんな態度にビシッと背筋を伸ばした。

 その中で、王太子殿下だけがニヤニヤと笑っている。


「デ・ン・カのゴ・メ・イ・レ・イ・でシ・カ・タ・ナ・ク同行したのだが、その街で一騒動あったんだ。後で報告が上がってくるとは思うが、僕が居合わせたので直接、殿下に報告しに来たんだ」

 疲れ切ったペルが半眼で王太子殿下を見ながら報告すると、殿下の目がキラリと光った。

「騒動?」

 どう見ても嫌味で言ったペルの言葉を、一切気に留めることなく〔騒動〕という言葉だけに反応する殿下は、やはりいい性格をしている。

 ワクワクという顔をした殿下を無視して、ペルが私の方を向く。

「偽回復薬は、もう市中に出回ってしまっているようだよ。一人の男が錯乱して、大暴れしている所に出くわしてしまった」

「……それは、本当か?」

 私は少しだけ驚きながらも、内心やっぱりかと考える。


 カロッツ子爵領を根こそぎ探って、何点かある偽回復薬の置き場は、ほぼ突き止めた。

 だが薬は、子爵領内にある店には置かれている気配はなく、まだ流通に至っていないで倉庫に眠らせているだけの状態かと一度は安堵したのだが、それにしては妙に人の出入りが激しかったのだ。

 その動きに、近いうちにどこかへ運び出されるのではないかと警戒したところだった。

 まさかすでに王都内に持ち込まれていたとは……。


「だけどまだ、本格的に売りさばいている様子ではないよ。薬を置いてあった店も、数本だけを陳列していたらしい。店主が気心の知れた者にだけ、声をかけるような売り方だったそうだ。大量に売って、薬の存在がバレるのを隠していたみたいだね。暴れていた男も店主から声をかけられ、一本ずつ購入していたようだ」

「その男は、もう捕まえているのだろう。こちらで預かろう。サラン」

 ペルの説明に、私は魔法騎士団で詳細を吐かせようと、サランにその者達の身柄を引き取って来るよう命じたのだが、ペルが慌てて待ったをかけた。


「実はその男、貴族なんだ。バーボンドリュー男爵の子息らしい。イブニーズル侯爵夫人が教えてくれた」

「は? なんで母上が?」

 突然出てきた母上の名前に私が目を丸くすると、ペルは疲れた原因の一つだなと苦笑する。

「実は偶然居合わせたイブニーズル侯爵夫人とカーター、後クラリウスという名の少年に協力してもらったんだよ。これらの証言も、クラリウスが街の女性に知っていることを話すよう口添えしてくれて、そのお蔭で薬の存在が分かったんだ。そうでなければ、いくら錯乱した状態であれ、それが薬物の所為だとは判明できなかった。病気と言われたって仕方がない。だけど街の女性が全て暴露してくれて、証拠がすぐに手に入った。カーターには暴れる男を捕まえてもらったし、イブニーズル侯爵家には感謝だな」

「……ちょっと、待て。クラリウス⁉」

「ああ。夫人の可愛がっている子だと言っていたが、身内じゃないのか? 変な関係ではないよな?」

「は?」


 数秒固まった私に、ペルが「え、まさかお前知らないの?」と目を丸くする。

「なんだ、なんだ、どういうことだ?」

 王太子殿下が新しい玩具を見つけたように、嬉しそうに身を乗り出す。

「滅茶苦茶綺麗な若者で、夫人が名前を教えてくれたんだよ。クラリウスと。家名は仰っていなかったな。けれど、カーターとも仲が良さそうだった」

 そうしてその少年に関することを、詳細に話して聞かせた。


「突如、錯乱している男が目の前にいた老婆を突き飛ばして、女性を地面に押し付けたんだ。尋常じゃないその姿に、その場は騒然となった。けれど男はカーターの手により捕えられ、そのクラリウスという少年が女性を男から引き離した。被害にあった女性や周囲にいた女性に囲まれていた彼が、女性達が何かを知っていると気が付いて、協力してくれるように頼んでくれたんだ。すると、彼の色香に簡単に落ちた女性達がその男を知っていると話だし、その店に数日前から回復薬が置かれるようになったと話してくれたんだ」


 その他にも、男がどのような頻度で購入したかとか、そのたびに様子が変わっていったとか、まるで観察でもしていたかのように事細かく話してくれたらしい。

 最初は女性達も変なことには巻き込まれたくないと逃げ腰だったそうだが、クラリウスという名前の少年の頼みだから仕方がないと口を割ってくれたそうだ。


 クラリウス?

 そんな名前の人物に心当たりなどない。ないのはないのだが……何故か引っかかる。

 綺麗な若者? 母上とカーターが一緒だった?

 母上が可愛がっている子だと言った? カーターとも仲が良い?

 母上はともかくとして、カーターがクリスから離れるなど私がいない状況で、決してあり得るはずがない。

 そう考えると、導き出される答えは一つ。


 クラリウスの正体は、私の愛しいクリス。


 クラリと目眩がする。

 私がいないというのに、一体何をやっているんだ。

 ペルが気付いていないということは、きっと母上が変装でもさせたのだろう。

 確かにクリスティーンが外をノコノコ歩いていれば、どんな噂をされるか分からないが、それにしたって、最初に呪いをかけた奴がいつ現れるか分からない、危険がいっぱいな状態で……ありえない。

 しかもクリスが女性を助けた上に、色香を振りまいて口を割らせただと?

 あの自己肯定の著しく低いクリスが、そんな積極的な行動をとったというのか?


「その少年に、心当たりでもあるのか?」

 ニヤニヤ笑う王太子殿下の顔を見ながら、私は「はあ」と曖昧な答えを返す。

「もし知っているなら、城に連れて来てくれ。彼の口からも事件の詳細を訊きたい」

 ……この人は、分かっていて言っているな。

 私の身近にそんな綺麗な少年が、ゴロゴロいてたまるか。

 どうせクリスだって検討付けているのだろう。だが、と私は殿下の思惑を分かっていて反論する。

「母上とカーターに話しを聞いてきます。その上で、彼に話を聞いた方がいいかどうかの判断は私がいたします。無理に彼でなくても詳細はペルが知っているし、カーターでもよいのですから」

 そう言い切ってやると、殿下は「面白そうなのになぁ」と呟いた。

 一応、被害が出ているという一刻を争う状態で、面白いものを見つけたと喜んでいる場合ではないと思うぞ。


 私はコホンと咳を吐く。

「暴れた男が貴族ということだそうですから、一応は貴族の牢に入れて薬が抜けるのを待ちましょう。バーボンドリュー男爵にも報告し本人であるか確認しますが、偽回復薬の存在は彼には明かしません。先に回復薬を置いていたという店の者達から詳細を訊きましょう。サラン、手配を」

 サランが部下を連れて動くのを横目で見ていると、殿下がペルに「で、カロッツ子爵令嬢はどうしていたんだ?」と訊いた。


「男が暴れたと同時に周囲と逃げ、騒動が治まって探してみれば屋台で肉食ってました」

 死んだ魚のような目のペルに私は無言になり、殿下は「ロマンスの欠片もないな」とぼやいていた。

 そんなものを求めないでくれとペルが項垂れる。

 私はペルの哀愁漂う背中を見ながら、今日は久しぶりに屋敷に戻るぞと決意した。

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