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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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情報収集

 暫くして駆け付けた街の警備兵に、事情の説明を始めたカーターとトウハー様。

 お義母様がそっと私に近寄るが、被害にあった女性は恐怖で顔を上げられず、助け出した私の腕にしがみついたまま離さないため、私も身動きが取れないでいた。

 カタカタと震えて目をギュッと瞑る女性の背中を、私は優しく擦る。

 そこで初めて、自分が誰かに抱きついていると気が付いた女性は、ハッとして顔を上げた。

 私はそんな女性に少しでも安心してもらおうと、ニッコリ笑う。

「もう大丈夫ですよ。あの方達が助けてくださいました」

 そう言ってカーターとトウハー様を指差すが、女性は私の腕を掴んだままボ~っと顔を赤らめている。

 余程怖かったのだろうと、私は女性の背中を撫で続けた。

「酷い目に合いましたね。お怪我はありませんか? 兵に頼んでお医者様に診てもらいましょう」

 私がもう一度微笑むと、女性はますます顔を赤くしながら「いえ、あの、いえ、はい」とちょっと要領の得ない返事をする。

 そうだよね、怖かったよね。と私が苦笑していると後ろからお義母様が「クリス、その笑顔、ちょっとやめなさい」と仰った。

 キョトンとしていると、周囲にいた女性達が被害にあった女性の友達だと言い、彼女を私から離して次々にお礼を言い始めた。


「ちょ、ちょっとあんた達、離してよ。私はこの人と……」

「ジョアンナを助けてくださって、ありがとうございます」

「私この子の親友で、殴られずに済んでホッとしました」

「とっても勇敢ですのね。あんな状態で飛び出すなんて」

「カッコよかったです。あの、よろしければお名前を」

「いや、助けたのはあちらのお二人であって、私は……」

「「「「「お名前を教えてください」」」」」


 女性達の勢いに、呆気にとられた私はゆっくりと後ろを振り返るが、扇で顔を隠したお義母様が眉間に深い皺を作っているだけだった。

 どうしようかと焦っていると、男が出て来た店から数人の兵と店の者が出て来た。

 男の状態について説明を求めているらしい。

 だが、男達は知らぬ存ぜぬと首を横に振るばかり。

 とりあえず詳しくは詰め所で、と連行されているのを見ていたが、あの様子では何も喋らないだろうなと心の中で溜息を吐いた。

 するとその様子をジッと見ていた女性達が、ひそひそと内緒話を始める。


『ねえ、もしかしてあれの所為じゃないの?』

『まさか。あれはそんな効き目の物じゃないでしょう」

『でも、あれがあの店に陳列されてから、あの男を頻繁に見るようになったわ』

 女性達の言葉に私は首を傾げる。

「あれって、何?」

 私の突然の介入に女性達は「きゃっ」と驚きながらも「ええと、それはぁ」とモジモジして、視線を泳がせる。

 一向に話してくれない女性達を見て、言いにくいことなのだろうかと考える。

 けれど、なんとなくこれは訊いといた方が良いのではないだろうかと思った私は、彼女達に「ねえ」と声をかけた。


「内緒話なんて、つれないなぁ。こうして知り合ったのも何かの縁だし、知っていることがあるなら教えてくれると嬉しいんだけど、駄目かな?」

 近くにいた女性の頬にそっと手を添えてジッと目を見つめると、女性はボンっと一気に顔を赤くした。

「駄目じゃない。駄目じゃないです。あれっていうのは薬なんです」

 ケリエル様がいつも私にするようにやってみたのだけれど、どうやら効果は抜群のようだ。

 女性達は嬉々として話し始めてくれた。


「ずるい。私も話しますので触ってください。薬は薬でも回復薬なんです」

「私も、私も。回復薬なんて簡単に手に入るものじゃないのに、何故か急にこの店の奥に陳列されるようになって、噂になってたんですよ」

「高くて買えないって素通りしてたら、何故か最初の一つだけは破格の値段で売ってやるって言われたんですけど、なんかそれって、怖くないですか?」

「私も言われたけど、買ってません」

「さっき暴れた奴は、その回復薬が店に置かれた頃から出入りするようになった余所者です」


 女性達の暴露に動きを止めていたカーターや兵達は、呆気にとられる。

 店の者が「お前達! 何ペラペラ喋ってんだ⁉」と怒鳴るが、頬を染めた女性達は「きゃー、助けて」と笑顔で私にしがみつく。

「えっと、彼女達の証言、役に立ちますか?」

 私が苦笑しながらトウハー様にたずねると「ハ、ハハ、もちろん」と口元を引き攣らせて頷いてくれた。

 良かった、どうやら役に立ちそうだ。

 改めて話を聞きたいと兵が女性達を連れて行こうとしたが、女性達が「えー、やだー」と嫌がったので、私は「お願い、優しいお嬢さん。街の安全のために協力してあげて」と上目遣いでお願いしてみた。

「「「「「喜んで」」」」」

 女性達はウキウキと兵について行った。


「クリス、貴方、魔性だったのね」

 お義母様が唖然として呟くのを、いつの間にかそばにいたカーターが「え、知らなかったんですか?」と応えていた。

 いや、待って、魔性ってなんですか?

「魔性と魔王のカップルに、俺の胃はいつか絶対に穴が開きます」

 いや、待って、魔王ってなんですか?

「苦労欠けて申しわけないんだけど、ついでにもう一ついいかしら?」

「は? 魔女様からも何か?」


 すっかり私達を魔物扱いしているカーターにジト目を向けるが、微笑を一つ返したお義母様の次の言葉に、私もカーターも驚かされた。

「先程の暴れた男。バーボンドリュー男爵のご子息よ。劇場で会ったでしょう。薬の所為ですっかり人相が変わってしまっていたけど、間違いないわ」

「それを早く言ってくださいよぅ~」

 カーターはトウハー様の元へ、慌てて踵を返す。

 警備兵の上の方と話していたトウハー様の顔色が変わる。

 ちょっとお義母様を睨んでいるのはどういうことだろう?

 だが、あの男が以前劇場で迷惑をかけていた男とは気付かなかった。

 以前はふっくらとガタイの良い男だったはずだが、今の暴れていた姿はげっそり痩せて一回り小さくなっていたのだ。

 反対にアレがあの男だと気付いたお義母様の慧眼に、恐れ入る。


 数分後、戻って来たカーターに「ペルセウス様に、気付いてたんならもう少し早く言ってくださいと怒られてしまいました。平民ではなく貴族となると、色々と厄介ですからね」と文句を言われたお義母様だが「あら」と目を丸くした後「貴方達だって会ってたじゃない。全く気付いていないカーターに言われたくないわ」と返した。

「ううう~、返す言葉もありません」

 潔く負けを認めたカーターが項垂れると、こちらに戻って来たトウハー様がお義母様を呼び寄せた。


 二人が話し始めたのをボーっと見ていた私の頭に、ポンッとカーターの手が乗った。

「とりあえずはお疲れさまです。でも驚きました。クリス様にあのような行動力があっただなんて、見直しましたよ」

 ニッコリ笑って褒めてくるカーターに、私は照れ臭くなって視線を逸らした。

「……ケリエル様に勇気をもらったから、私も少しは頑張らないといけないでしょう?」

 ケリエル様の気持ちを素直に受け取れと言ってくれたカーターに、今度は私が頑張るんだと話してみた。

 するとカーターは驚いた顔を見せたかと思うと「おお、クリス様が成長された」と揶揄った。

 でもその表情は、心の底から喜んでくれているのだと分かった。

 カーターが十年もの間、ずっとそばにいてくれたお礼も兼ねて私は強くなりたいとも思う。


 微笑み合っている私達に、いつの間にか戻ってきていたお義母様がツツツっとカーターのそばに寄ったかと思うと、扇で口元を隠したまま彼の耳元に何かを囁いた。

「魔王を裏切れるわけなんて、ないでしょう。そんな根性、俺にはありません。恋心より俺は命を取ります」

 カーターが悲鳴に近い声で叫ぶ。

 完全にひっくり返っているのは、必死の表れだろう。

 お義母様に何を囁かれたのだろうか?

 屋敷に戻ったら教えてくれるかなと思いながらも、カーターの顔を見ていたらぶり返さない方がカーターのためかと諦めることにした。


 一通りの騒動が落ち着いたのを機に街のやじ馬は立ち去り、私達も当初の目的地のカフェへ目指すべくトウハー様と別れようとしたのだが、トウハー様の同行者だった職員さんの姿がどこにもないことに気が付いた。

 どうやら男が暴れて人々が逃げ回る際に、一緒に逃げてしまったようだった。

 トウハー様は深い溜息と共に、魔法で彼女の居場所を探した。

 あらかじめマーキングを付けておいたらしい。

 遠くへは行っていないようなので一緒について行くと、店の前であぶり肉に噛り付いている職員さんを見つけてしまった。


 ――トウハー様の表情が抜け落ちた。

「帰りたい、帰りたい、帰りたい」とブツブツ呟くトウハー様の背中を、カーターが軽く叩く。

「強く生きてくださいね」

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