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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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会いたくない人

 演劇鑑賞から後、お義母様は何かと私を連れて外を出歩くことが多くなった。

 クリスティーンとバレない上に、お義母様の醜聞にもなっていないようなのでホッと胸を撫でおろす私は、意外と今の状況を楽しみ始めている。

 ただ、やはり周囲に頬を染め見つめられるという異様な状況は続いているので、その点だけは苦笑するしかない。



「クリス、街にお買い物に行きましょう」

「はい、喜んで」

「もうすっかり、変装が板についてきましたね」

 お義母様がいつものように街に誘ってくれたので、私は部屋に戻り、変装用の道具をいそいそと取り出して用意し始める。

 すると、その一部始終を見ていたカーターが揶揄いだした。

「だって、自分以外の人物になるのって意外と楽しいんだもの」

 クリスティーナでもクリスティーンでもないクラリウスという名の青年は、私の中で男でも女でもない異質な者として生きていた、ネガティブな自分と完全に異なる者として、自然に振舞える存在となっていた。

 いわばお芝居のように役を演じている感じなのだ。

 だから自分を必要以上に卑下することも、まして過信することも何もない。

 そしてどうやらクラリウスは、割と人気者らしい。

 周囲に声をかけると赤くなって逃げられることもあるものの、好意的に話してくれる人が圧倒的に多いのだ。

 今までの人生で初めての経験に、私は少しだけ浮かれているのかもしれない。


「あ~あ、こんなクリス様の姿をケリエル様が見たら、なんて仰るのだろう?」

 ギクッと私の肩が揺れる。

 そうなのだ。私はもうかれこれ二週間程、ケリエル様とまともに顔を会わせてはいない。

 今はお仕事でお忙しいケリエル様だが、女に戻そうと必死になってくれている彼に、クラリウスとして楽しんでいる自分を見られたらと思うと、少し心苦しくなる。


「ケリエルが何を言おうが関係ないわよ。クリスはクリス。日々を楽しんで何が悪いのかしら?」

 部屋の扉を開けて、お義母様が入って来る。

「奥様、ノック。もう完全に、する気ないでしょう?」

「カーターは細かいわ」

「……ケリエル様って、外見も中身も奥様似ですよね」

「フフフ、いやぁね、カータったら。何が言いたいのかしら?」

 お義母様とカーターが和やかに話している間に、私は支度を急ぐ。

 幼い頃からこの家で育ったカーターは、お義母様とも使用人というよりは息子のような距離感だ。

 家族なのだなぁと、改めてほのぼのする。


「もう、そんなにグズグズ言うのなら、カーターは置いてっちゃうわよ」

 お義母様が少しだけ気分を害されたように声を荒げると、カーターが一気に慌てだした。

「駄目ですよ。ケリエル様のいない今、俺がキッチリとクリス様の護衛兼監視をしていないと何かあった時、本気で殺されます」

「ああ、うん、そうよね。それに関しては、馬鹿な息子でごめんなさいねとしか、言いようがないわ」

「いや、息子さんが馬鹿なの分かってたら止めてくださいよ」

「ごめん、無理」

「奥様~~~~~」

 うん、とっても仲が良い。

 私は支度ができたので、二人の元に歩み寄ることにした。


「お待たせしました。では参りましょうか」

 そう言って、ごく自然にニコリと笑ってお義母様のエスコートをするべく手を差し出す。

 すると、お義母様とカーターが揃って目を丸くした。

「……なんか、クリスティーン様の時より男っぽくなってませんか?」

「え、そう?」

 カーターに問われ、そうかなと首を傾げる横で、お義母様が少女のように両手を頬に添えた。

「ちょっと、ときめいちゃった」

「やめてください、マジで」

 カーターがガックリと肩を落としたのだが、何が悪かったのだろうか?



 お義母様とカーターと私が降り立ったのは、商店街前の大きな道路。

 帰りの時間を馬車の御者と約束して、三人で歩く。

 侯爵夫人であるお義母様が街を闊歩するのに、護衛がカーターだけとは些か少な過ぎるのだが、こう見えてカーターは中々優秀な魔法使いだし、何よりお義母様自身が王族に仕えたこともある一流の魔法使いだ。

 私が足を引っ張っても二人がいれば何も問題はないだろうと、最近では三人で行動を取っている。

 一応、女性一人に男性が二人の構図だから、貴族女性が護衛を連れて歩く分には適しているだろう。


 今日の目当ては、旬の果物をふんだんに使ったケーキが有名なカフェ。

 甘い物好きなカーターと流行り物に目がないお義母様とで決めた目的地だ。

 角を曲がり大通りに出た私達は、決して見てはいけないものを見てしまった。

 それは……。


 トウハー様が女性と仲良く歩いている姿。


 目を点にした私は、動きを止めた。

 だってその一緒にいる女性は、私の呪いを修復してしまった魔法研究所の職員だったのだから。

 名前は確か、パティアナ・カロッツ子爵令嬢。

 言いようのない複雑な感情が沸き起こる。

 正直言うと、もう二度と会いたくなかった人物だ。

 悪気がないのは知っている。けれど、それでも、呪いを完全に修復してしまった彼女に、私は何事もなく挨拶する気にはなれなかった。

 あのまま女性でいられれば、もしかして今頃は素直にケリエル様の腕の中にいられたかもしれないのに……。


 突然私が足を止めたので、お義母様とカーターが振り返る。

「どうしたの、クリス?」

「あちらに何かありますか?」

 私が見ている方に顔を向けたカーターは、トウハー様の存在に気が付いた。

「あの方は確か、ペルセウス・トウハー様。ああ、ケリエル様と一緒にお会いしたんでしたね。ご挨拶します?」

「やっ、駄目……」

 カーターが気を利かせてトウハー様の方へ行こうとしたので、私は慌てて彼の腕を引っ張った。

 私の行動に驚くカーターと、トウハー様に視線を向けるお義母様。


「クリスは、あの隣の娘が気になるのかしら?」

 あっさりと言い当てられて、私の体がビクッと揺れる。

 ジッと見つめてくるお義母様に、逃げられないと俯きながら訳を話す。

「……私の呪いを修復して、男の、姿に戻してしまった、研究所の、職員さんです」

 ゆっくりと言葉を吐く私に、お義母様はニッコリと微笑んだ。

「殺っちゃう?」

「ダ・メ・デ・ス! 近寄ってはいけませんよ。全く、奥様は本当にケリエル様とそっくりですね。あの者に関しては、ケリエル様から今の事件に協力させているから、罰は保留と伺っています。手を出しては絶対に駄目ですからね」

 お義母様の発言に、カーターが呆れながらも待ったをかけた。

 あれ? カーターは職員さんの顔は知らないみたいだけど、ケリエル様からその後の話は聞いているのね。

「あら、そうなの? じゃあ、王太子殿下からの要求ね。ペルセウス様が一緒にいるのも関係があるのかしら? やだ、ちょっと興味引かれちゃう」

 ワクワクと顔を輝かせるお義母様は、ケリエル様が関わっている今の事件が気になってきたようだ。

「だから駄目ですって。余計なちょっかい掛けたら、俺がケリエル様に怒られます」

 ワイワイと騒ぐ私達が煩かったのか、トウハー様が何気にこちらを振り返った。


 パチッ!


 私、というよりお義母様と目が合ったトウハー様は『やばい』と顔を青ざめさせると慌てて職員さんの背中を押して、その場を去ろうとした。

 私もカーターも見なかったことにしようとしたのだが、お義母様だけがそれを面白く思わなかったようだ。

 あからさまに避けられて思わずというように「ペルセウス様」と名前を呼んでしまった。

 固まる私達に、お義母様はペロッと舌を出す。

 大変可愛らしい仕草だとは思うのですが、トウハー様の引き攣った顔を見ると、少しだけ小悪魔なお義母様に溜息を吐きたくなります。

 私だって、職員さんには会いたくなったんですからね。

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