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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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会えません

 ――寂しい。

 ケリエル様が急なお仕事ということで、ほとんど屋敷にいない状況が続いてもう六日目になる。

 サンシャル伯爵家から書物は無事届いたようだが、それはトウハー様が解読してくださっているようだ。

 今までケリエル様はどんなに忙しくても、私の呪いについては全てご自分で調べてくださっていたのに、今回トウハー様にお願いしたということは、それもできない程お忙しいということだろう。


 早朝、誰よりも早く起きてお出かけになり、皆が寝静まった頃にお戻りになる。

 一目でもお会いしたいと頑張って起きていたのだが、仕事の関係上、帰宅できるとは限らないのでそれは駄目だとカーターに止められた。

 それに私が起きているとケリエル様が気を遣って、帰れない所を無理に帰って来て職場に迷惑かけるかもしれないと言われては、駄々をこねるわけにもいかなかった。

 お優しいケリエル様を、煩わせるわけにはいかない。

 そう思って耐えていたのだが、三日目あたりから寂しくってかなり辛くなってきた。

 伯爵家にいた時は、会えなくても仕方がないと割り切っていたし、ケリエル様と距離を取りたいとも思っていたので、我慢できていた。

 けれど、同じ屋敷にいてケリエル様の気持ちを知った今、両想いなのに会えない辛さが身に染みる。


 私が部屋でペションとしょげていると、カーターが「気分転換に街にでも出かけますか?」と外へと誘ってくれた。

 でも私は「この姿でどこに行くというの?」と冷めた視線を向けてしまう。

 女性の姿ならば、街に出かけて好きな物を買ったり、カフェで甘い物を食べたりして気分を紛らわせることもできるだろうが、男性の姿では女性の物を買うわけにもいかないし、カフェで甘い物など食べていたら人目を引くかもしれない。

「俺は人目なんて気にせず、甘い物でもなんでもパクパク食べますけどね」

「そうなの? 凄いわね。私には真似できない」

 この姿を余り人に見られたくない私には、カーターみたいに周囲を一切気にせず行動することはできないと、ジッと見つめていると「そんな人を珍獣みたいに見るの、やめてくれます?」と言われた。

 尊敬してるだけなんだけどな。


「それなら、私と一緒に観劇に行くのはどうかしら?」

「お義母様⁉」

 ひょっこり顔を出したのはケリエル様のお母様、イブニーズル侯爵夫人だ。


 ケリエル様との結婚が具体的になった私に、イブニーズル侯爵夫妻は「「もういいよね。お義父様、お義母様と呼んで」」と詰め寄ってきたのだ。

「ありがとうございます。でも、この姿ではまだ失礼かと……」

「「全く、少しも、一切気にしないで。クリスにお義父様、お義母様と呼ばれるのを、とっても楽しみにしていた……」」

 んだ。のよ。と二人が仲良く声を揃えて仰る勢いに負けた私は、分かりましたと頷いた。

 結果、毎日のように私はだあれ? と訊かれて「お義父様です」「お義母様です」と応えて、うふぅ~っとご機嫌で歩くお二人を眺めるのが、最近での私の日課になった。


 そして今、お義母様は私の部屋にノックと共に現れたのだ。

「奥様、流石に返事をもらってから開けましょうよ。侯爵夫人の名が泣きますよ」

「あらぁ~、クリスは私の義娘だもの。些細なことは気にしないで」

「親子でも礼儀は必要だって、いつも仰っているのは奥様でしょう。ケリエル様に対する態度とは段違いですね」

「息子と娘は別なのよ」

 カーターがお義母様の行動を窘める。

 お茶目なお義母様は、ケリエル様とちょっと似てらっしゃるのよね。

 主に私との距離感が。


 私はお義母様にソファを進めて「観劇ですか?」と訊く。

 すると、お義母様は嬉しそうに「見たかった劇団のが手に入ったのよ」と三枚の券を取り出した。

「三枚ということは、お義父様もご一緒ですよね。私、お邪魔になりませんか?」

 夫婦水入らずの方がいいのではないかと言う私に、お義母様はニヤニヤと笑う。

「うふふ、この劇にはギプラの苦手な内容が入っているの。多分、誘ってもなんだかんだ理屈をこねて断るわね」

 そう仰ったお義母様に、私はキョトンとしてしまう。

「苦手な内容? 恋愛ものですか?」

 お義父様が苦手なものというと、なんだろう? 男性だから甘ったるい恋愛ものだろうかと訊いてみると、お義母様はコロコロと笑いだした。

「おほほ、それなら喜んでついて来るわよ。そうではなくて、幽霊の喜劇なの」

「幽霊?」

「おお、喜劇ですか⁉」

 幽霊と聞いて驚く私と、喜劇と聞いて喜ぶカーター。


「そう。ギプラはね、騎士団になんて勤めていた割には霊的な物は一切苦手で、そういう要素がある物は喜劇であろうとなんであろうと絶対に受け付けないのよ。凄く面白いって評判なんだけど、クリスもそういうのは苦手かしら?」

「いえ、そこまでは」

 確かに、自分の知らない世界の物を怖いと思う気持ちはよく分かる。

 触れられないのなら、その恐怖は尚更だろう。

 だが私的には、本当に怖いのは人である。

 呪いで男にされてしまった私には、現実に危害を加えられる人の方が何倍も恐ろしいのだ。

 そう言うと、お義母様はそうよねぇと笑う。

「私もケリエルも同じ意見よ。攻撃されたのなら怖いかもしれないけど、私達には魔法もあるしね。幽霊と同じように物に触れずに浮かしたり、飛ばして当てたりとしながら戦うことは可能じゃないかと話していたら、隣で泣かれたわ。素手で戦う者の気持ちがお前達に分かるものかと。嫌よね、論点がずれていたわ。まぁ、そういうことで、ギプラは誘っても無駄なの。だから私とクリスとカーターの三人で行きましょう」


 お義母様の中では、三人で行くことが決定事項のようだ。

 そこで私は自分の体を見る。

「……この姿で、お義父様もいらっしゃらないのにお義母様と一緒に劇なんて見て、大丈夫でしょうか?」

「あら、若い燕を二匹も買っていると思われるかしら?」

 お義母様が片眉を上げて、おかしそうに笑う。

 お義母様達から見たら私はクリスティーナだから、一緒に劇を見たってなんてことはないのだろうが、口さがない者からしたら男二人を連れた侯爵夫人と揶揄する者がいるかもしれない。

 因みにお義母様が言う燕とは、愛人のことだ。

 それにカーターはともかくとして、私はどこからどう見たって貴族のひ弱なお坊ちゃまにしか見えない。

 従者や護衛と言い切ることもできないだろう。

 そうなったら、いくら理由をしっているお義父様だって気持ちのいいものではないはずだ。

 お義母様が私のために誘ってくれていることは、百も承知だけど素直にそれに甘えては、後々ご迷惑をおかけするのではないかと不安になる。


「うふふ、そんな噂を広められたらギプラは嫉妬するかしら? クリスと噂なんて、きっと羨ましがるに決まっているわね」

 面白がるお義母様に、私はそれでいいのかと思わず目を開く。

 すると、カーターが少しだけ真面目な顔でお義母様に話しかける。

「奥様、確かにクリス様の美貌は人目を引きます。大丈夫だと思いますが、万が一クリスティーン・オルバーナだとバレて王都に戻ってきていると噂されては、少々面倒くさいことになるかもしれませんよ」

 カーターが違う意味で問題かもしれないと言うと、お義母様は「だったら変装でもすればいいのではなくて?」とケロッと返す。

「この美貌、隠せますかね?」

「隠さなくていいわよ。要するにクリスティーンだって特定されなければいいんでしょう。認識阻害の魔法をかけてもいいんだけど万が一、魔法が解けたら大変だから、ここは無難に髪色や目の色を変えるぐらいでいいんじゃないかしら。他人の空似なんていくらでもいるんだから」

「なるほど」

 どうやらお義母様とカーターの双方で、話がまとまってしまったらしい。

 いや、ちょっと待って。

 根本的に解決できていない。

 結局、お義母様が若い男二人を連れて出歩くことはいいのだろうか?


 後日、侯爵夫人の愛人話が噂されるのを想像して、私は身震いしてしまうのだった。

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