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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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誰でしたっけ?

 オルバーナ伯爵家に到着すると、屋敷中がシ~ンと静まり返っていた。

 出迎えてくれた執事のボートルはエリオットと一緒に戻ってきた私を見ると、クエイと同じように少しだけ悲しそうな顔をしたが、すぐに「お帰りなさい」と受け入れてくれた。


 ボートルに詳しい事情を訊こうとした途端、奥からドタバタと数人の足音が響いた。

 どうやら誰かが走って、こちらに向かってきているのだろう。

 全員がそちらに視線を向けると、そこにいたのは髪も服も取り乱した茶髪の令嬢が立っていた。

 だがその令嬢には、どこか違和感がある。

 ドレスを着ているのだが、少し小さいようにも見える。

 手足のくるぶしはしっかりと見えているし、肩幅もガッチリしているようで背中のボタンがとまっているかどうか心配になる。

 正直言うと、男性が女装をしているみたいに見えるのだ。

 その妙な令嬢の後ろから、お父様とお母様、それに数人の使用人が急いでついてくる。

 ハアハアと息を切らせているその令嬢は、私と視線が合うとカッと目を見開いた。


「どうして、まだ男の姿なのよ⁉ 呪いはちゃんと成功したはずよ!」


 その場にいる全員が、驚愕に固まってしまった。

 今この令嬢は、なんて言ったのだろうか?

 男? 呪い? それは私にかけられた、呪いの話のことだろうか?


 ――目の前が真っ暗になる。


 いち早く行動に移したのは、ケリエル様。

 私をすぐに抱き寄せると、そのまま令嬢に向かっていつでも攻撃魔法がかけられる態勢をとった。

「貴様、今なんて言った? 事と次第によっては無事に帰れるとは思うなよ」

「ひっ!」

 ケリエル様の迫力に、令嬢は腰を抜かしてその場に座り込む。

 その様子に、我に返ったお父様が慌てて私達と令嬢の間に入り込んだ。


「待ってくれ、ケリエル殿。この令嬢はサンシャル伯爵家のカリスタ嬢だ」

「だからなんです? クリスに不穏な言葉を吐いたのは、彼女ですよ。もしも言った通り彼女が犯人だとしたら、どこの令嬢だろうか許すわけにはいきません」

 そう言ったケリエル様にお父様は頷きそうになったが、いやいやと首を横に振る。

「私だって君と同じ気持ちだが、とりあえず彼女の話を聞こう。結論はそれからでも遅くはないだろう」

 意外と冷静なお父様に、私の心も落ちついていく。


 そうだ、まずは話を聞くのが先決だ。

 彼女が何者かは分からないが、私に呪いをかけた犯人だというのなら、どうしてそのようなことをしたのか、ちゃんと話を聞いてみたい。

 それにこの口ぶりからすると、彼女が言う呪いは多分二つ目のものだろう。

 それならば先日、ケリエル様が解いてくださったばかりのものだ。

 まだ、冷静になれる。

 私はふぅ~っと息を吐くと、目を据えたままのケリエル様の腕にそっと手を添える。


「ケリエル様、お父様の仰る通りです。私も話を聞いてみたいので、どうぞケリエル様も落ちつかれてください」

「……君がそう言うなら。だが、警戒は怠らないからね。あんな呪いをかけるような奴だ。信用はできない」

「はい、お願いします」

 私だって彼女を信じたわけではない。

 ケリエル様の警戒は、十分にありがたいものだった。


 カーターが令嬢を立たせると、引っ立てるように応接室へと連れて行く。

 まだ足に力が入らないのか、フラフラとふらついているが、カーターは容赦なく引っ張る。

 私はケリエル様に腰を抱かれながら、その後ろについて行く。

 彼女が犯人だとしたら、何故わざわざ伯爵家に現れたのだろうか?

 性別を変えられた怒りよりも、まずは彼女の心理を知りたいと思った。



 応接室に着くと、カーターは令嬢を床に放り投げた。

 扱いが酷い。

 でも、仕方がない。

 この屋敷では、私が呪いをかけられた所為で皆が苦しんだのだ。

 伯爵家の令嬢だからといって、丁寧に扱うほどお人よしにはなれない。

 先程は止めに入ったお父様でも、カーターのそんな行動に何も言わないのが本心だろう。

 伯爵家の人間全員がぐるりと立っている中、中央で顔を青ざめさせ床に跪く令嬢。

 部屋の隅には見慣れない侍女と従者が、同じように青ざめて立っている。

 令嬢のお供の者かもしれない。

 私は令嬢に話しかけた。


「貴方は誰?」

「は?」


「私になんの恨みがあって、こんなことをしたの?」

「は?」


「「…………………………………………」」


 私と令嬢の間に、妙な静寂が産まれる。

 首を傾げそうになった私に、令嬢は目を大きく開いたかと思うと、突然叫んだ。

「信じられない! 元婚約者の顔を忘れたって言うの?」

 そう言って私に掴みかかろうとしたのだが、ケリエル様がさっと前に出て、カーターが肩を掴んで後ろに引っ張ったので、彼女は盛大にこけた。

「ふぎゃっ」と言う令嬢に、私は今度こそ首を傾げる。

「婚約者? 誰と誰が? 私にそのような者はいませんよ」

「はあ? 何を寝ぼけたことを言ってるの? 私よ。カリスタ・サンシャルよ!」

「誰?」

「……………………」


 私と令嬢の押し問答に、お父様が額に手を置いて口を開いた。

「クリス、覚えていないかい? 十五の頃、頻繁にお前に会いに来ていた伯爵令嬢がいただろう」

「……ああ、はい。確かにいましたね。あれ、この令嬢が彼女ですか?」

 私は令嬢に視線を向けると、ジッと顔を見つめた。

 すると令嬢は怯みながらも、頬を染めて私を見つめ返してきた。

「う~ん、すみません。覚えていません」

 私の言葉に令嬢は愕然とする。

 だって、あの頃の私は女性の顔が分からなかったのだ。

 確かに私の婚約者だと勘違いした令嬢が、頻繁に私の元に訪れてはいたが、私は彼女を一切認識していなかった。

 正直、興味もなかったから名前も覚えていなかったのが、本当のところだ。

 そんな理由を知らない令嬢は、顔を真っ赤にすると再び叫んだ。


「どうせ、今の私はあの頃の可愛い私と似ても似つかない容姿をしているわよ。呪いが返されて私自身の性別が入れ替わっちゃたのだもの。だけど、返されたなんて思いたくないじゃない。だからこうして確認に来たのよ。私が男になっても貴方が女なら、違う意味で愛されるかもしれないからと。女の方が愛情深い生き物なんだから、今度は貴方を私の虜にしようと思ったのに」


 なんと⁉

 彼女は呪いを返され、性別を変えられていた。

 返したのはケリエル様だけど。

 でも、性別を変えられたから自分と気付かないのだと叫ぶ令嬢に、私は違うと言いたかったが、今それを言うのは余計に混乱すると思って黙っておいた。

 私は空気の読める女。


 だが、令嬢の言葉に反応したのは、案の定ケリエル様。

「やはりお前が呪いをかけた犯人で間違いないようだな。しかもクリスに愛される? はんっ。この国が滅んでも、そんなことはありえないな。男だろうが女だろうが、鏡を見てから言え。それと女の方が愛情深い生き物だと? 男の純情舐めんな。お前がそう思うのは、今まで誰にも相手にされなかっただけだろうが。このひねくれ勘違い女が!」

 だ~~~め~~~!


 流石にそれは言い過ぎだと慌ててケリエル様の口を塞ぐが、時すでに遅し。

 令嬢はポカ~ンと口を開いていたが、何を言われたのか理解した途端、ワッと床に蹲って泣き出した。

 うっわぁ、これどうしよう?

 性別が変わったと言っていたが、確かに泣き声が低い。

 濁声でキャンキャン女性のように泣かれると、流石に引く。

 あ、泣かした本人のケリエル様が、イラっとされている。

 私のために怒ってくれているのだと理解はしているが、いつものケリエル様と違うと思うのは私だけだろうか?

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