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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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弟の挨拶

 二つ目の呪いが解けて三日後。

 当初心配していた副作用は、想像していた通り何も起きなかった。

 やはり解呪は成功したのだと、皆が胸を撫でおろしているとエリオットがやって来た。


「そろそろ学園も始まるから、三日後には伯爵家を出るよ」

「さ、寂しい」

 エリオットが留学先の国に戻るとイブニーズル侯爵家に挨拶に来てくれたのだが、私はあまりの寂しさに思わず涙ぐんでしまう。

 私の涙を見て、すぐに隣に座るケリエル様が抱きしめてくれる。

「こら、エリオット。優しい姉を泣かすんじゃない。仲直りもできたことだし、もう留学なんてしなくてもいいんじゃないか?」

「……ケリー兄様がポンコツになっている」

「何を今更。元からですよ」

 ケリエル様の言葉を聞いて胡乱な目になるエリオットに、カーターがすました顔で応えている。

 ポンコツって、どういう意味だろう?


「まあ、何はともあれ呪いの一つは無事に解けたようで安心したよ。もう一つも、ケリー兄様のことだから、解呪の目安は付いているんだろう?」

 エリオットがそう言うと、ケリエル様は私をチラリと見てから少し考えるそぶりをして頷いた。

「そうだな。今までも何度か解読はできている。ただあの呪いの厄介なのは、形を変えていくことだった。だが修復され、呪いをかけられた当初に戻ったことにより、パターンがなんとなく理解できた」

 ケリエル様の言葉を聞いて、私は目を見開いた。

 解読はできていたの? じゃあ、形を変えていなければ呪いは解けていたということなんだ。

 私はケリエル様の才能に感動してしまう。

 ケリエル様は素晴らしい人格者であると同時に、有能な魔法使いでもあったのね。


 キラキラとした目でケリエル様を見つめていると「はい、そこ。恋愛ボケはまだ早い。そういう目は、ちゃんと女性に戻ってからすること」とエリオットに注意された。

 ブスッとする私の横で、ケリエル様が「え、見過ごした。どういう目で見てくれていたの?」と頬を染めて訊いてきたが、そんなの改まって言えるわけない。

 視線を逸らす私に、肩を落とすケリエル様。


 私達のそんな様子に、エリオットが息を吐く。

「はぁ、留学先に戻ったらもうこの光景にツッコまなくていいと思うと、ホッとする」

「ズルいです、エリオット様。俺なんて、一生この光景を見て生きて行かなければならないんですよ」

 何故かカーターが噛みついている。

 いや、そこは見なくていいよ。

 第一もし女性に戻って結婚したら、夫婦のあれこれをカーターに見られているのは流石に恥ずかしい。

 はっ、夫婦のあれこれなんて言ってしまった。

 想像して、一人真っ赤になる私。

 とりあえず本日はケリエル様も休日で時間もあるし、ゆっくりして行けと言われたエリオットは、仕方がないなと言いながらも笑っている。

 なんだかんだと今回の休暇は、姉弟の仲も修復できて中々楽しい時間を過ごせたのではないだろうか。

 私はエリオットに「またすぐに帰ってきてね」と頼み「休みになったらね」とすげなく言われながらも「待ってる」と返すと、エリオットは少しだけ赤くなりながら頷いた。

 可愛い弟に、気持ちがほっこりする。


 ワイワイと騒ぎ立てている私達の元に、侍女が来客を知らせに来た。

「エリオット様、あの、オルバーナ伯爵家から早急にお戻りになるようにと、使いの者が参っております」

「家から? なんだろう?」

 立ち上がったエリオットに、侍女は首を傾げる。

 エリオットがエントランスで待たせている使いの者に会いに行こうとするのを、私は慌てて追いかけた。

「姉上は、ここで待っていていいんだよ」

「だって、ここに来る前はお父様、何も仰ってなかったんでしょう? 早急に帰ってこいだなんて何かあったか気になるわ」

 無理にエリオットの腕を掴むと、その手をやんわりと外したケリエル様がニッコリ笑って「一緒に行こうか」とエスコートをしてくれる。

「全く、ぞろぞろと。何もなかったら、反対に恥ずかしいんだけど……」

 溜息を吐くエリオットの後ろを私とケリエル様、その後ろをカーターがついて行く。

 エントランスに着くと、使いの者はお父様の従者だった。


「クエイ、どうした? 父上に何かあったの?」

 近しい従者にエリオットが声をかけると、こちらを向いたクエイがケリエル様に挨拶して、私を見て少し寂しそうな顔をした後、エリオットに話しかけた。

 ああ、私の男姿を見て同情したのだろう。

 少しだけ気分が暗くなったが、ケリエル様に頭を撫でられて浮上する。

 ダメダメ、こんなことで気分を落ち込ませていたらいけないわ。

 私が今、男の姿であるのは事実だもの。

 皆の反応に一々振り回されていたら、元気付けてくれるイブニーズル侯爵家の皆様に申しわけない。

 私は強くなるのだと、顔を上げてエリオットと従者のやり取りを見つめる。


「ご歓談中の所、申しわけありません。私は外出していて先程戻ったのですが、至急エリオット様をお連れするように命を受けました。少しだけエントランスの方が騒がしかったので、どなたかが訪問されたのかもしれません」

「ん? それは誰かが分からないの?」

「はい。中に入る前に扉から出て来た執事のボートルさんに頼まれたので、そのまま参った次第です」

「そう」

 エリオットは少し考えるそぶりをしてから、クルリとこちらに向き直った。


「じゃあ、戻るよ。一応留学前の挨拶はできたし、姉上の先が見えたのは良かったよ。また休みになったら必ず戻って来るから、それまで皆元気でね」

 バイバイと手を振るエリオットに、私は慌てて飛びついた。

「ちょっと待って、私も行く」

「え、邪魔なんだけど」

 考える間もなく邪魔だと言われて、私はガ~ンっとショックを受ける。

 青くなる私の顔を見て、エリオットはしまったというような顔をした後「嘘、嘘」と慌てて手を横に振った。

「エリオット、クリスが自分の家を心配するのは当然だろう。安心しろ。私も行く。まさか、それでも邪魔だなどとは言わないだろう」

 笑顔のケリエル様にそう言われ、エリオットは顔を引きつらせながらも「はい」と頷く。

 すると後ろからカーターが「面白そうだから、俺も行きます」と手を挙げたのを見て「うん、ぜひそうしてくれ」と項垂れた。

 私以外の人ならいいんだ。とちょっとやさぐれそうになったが、ここでまたエリオットと喧嘩するのは嫌だから、軽く背中を叩いておく。

 ぺチンと軽い音が鳴ると、エリオットは不思議そうに振り返る。

「ん? 虫でも付いてた?」

 エリオットに気付かれなかったのは良かったけれど、男姿なのに非力な自分が悲しい。

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