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社交界に出るために

 眩しいほどの美しい笑顔を、惜しげもなくさらすケリエル様を私はジッと見つめる。

「もう少ししたら回復薬の効き目が出てくると思うから、それまで新しい呪いについて調べてみてもいいかな?」

 ケリエル様の言葉にハッと我に返る。

 危ない、危ない。見惚れてしまっていた。……ヨダレ、出てなかったよね?

 私は慌ててコクリと頷く。

 するとケリエル様は、私の正面から横へと移動してくる。

 そして私の両手を自分の両手で優しく包み込むと、そのまま目を閉じてしまった。

 私の中にある呪いの術式を探っているのだろうけれど、目を閉じたケリエル様の色気が半端ない。

 ひいいぃぃぃ~~~と、内心手を離したくなるが、思いのほかガッチリと掴まれた両手はビクともしない。


 暫くケリエル様の色気にあてられ再びボーっとなっていたが、その目がゆっくりと開かれる。

「うん。やっぱり同じ古代魔法を基礎に作られた呪いのようだね。だけど昔と同じでその呪いをかけた者、独自の方法で複雑に絡み合っている。前の人間とは違う感じだ」

 前の人間とは違うって、それって二人の人間に呪われたってこと? 私そんなに人の恨みを買うようなことをしたのかしら?

 私が青ざめていると、ケリエル様がくしゃくしゃと頭を撫で回す。

「大丈夫。クリスは何も悪くない。前の奴の理由だってクリスが覚えていた言葉から、君を自分のものにしたいけれど今は手に入らないから男にしておくという、なんとも自分勝手な理由だったじゃないか。呪いをかけてくるような奴らのことなんて、一切気にする必要はないよ」

「ケリエル様、女性の髪をそんなに掻き回すと乱れて、何かあったと誤解されますよ」

「あ、ああ。そうだったね。誤解されたいけど、今はまだ駄目だよね。ごめんね」

 慰めてくれていた手に力が入ったのか、いつもよりくしゃくしゃに掻き回されたので、髪が乱れてしまったことをカーターに突っ込まれて、ケリエル様が慌てている。

 髪が乱れて何を誤解するんだろうと首を傾げながらも、ケリエル様の謝罪する様子に頬が緩む。

 物心つく頃から、男の姿の時も、ケリエル様は変わらずにこうして頭を撫でてくれていた。

 この人はずっと変わらないな。変わらず、ずっと、兄のままだ。


 ――私は一抹の寂しさを覚える。

 大人の女性の姿になっても対応は同じだなんて……。彼の目には、自分はいつまでたっても、妹のままなのかもしれない。



「そうだ。クリスに一つ提案なんだけど、いいかな?」

「はい?」

 髪を手櫛で整えてくれたケリエル様は、そのまま私の頬に手を滑らせる。

 え、なんだろう?

 ドキッとした私はその手の熱さに、顔が熱くなっていく。

 ドキドキしたまま、ケリエル様の次の言葉を待つ。

「伯爵とも相談したのだけれど、クリスティーナは病気療養から戻ってきたことになるでしょう。そうすると社交界にも顔を出さないといけないよね。クリスティーンみたいに途中から出なくなってもいいから、最初だけ頑張ってみようか。まあ、まだ体が本調子じゃないと言えば数は減らせるけど、最低でも王族が開く夜会だけには出席しとかないといけないかな」


 この国でのデビュタントは、十四歳と決まっている。

 私は男だったのでクリスティーンとして出席したのだが、クリスティーナは出席していない。

 まだデビュタントができていない状態なのだ。

 そこで療養生活が終わったと王都に戻ってきたのなら、当然社交界には顔を出さないといけなくなる。王族主催の夜会なら尚更だ。

 嫌だなぁ、でも仕方がないかぁ。としょぼくれていると「顔を上げて」と頬に添えてあった手を顎に移動させてクイッと上を向かされる。

 途端にケリエル様と至近距離で見つめ合うことになる。

 かぁ~っと熱くなる私の顔。


「そこでね、君が社交界に出席したら縁談話が一気にくると思うんだ」

 いきなりケリエル様の口からおかしな言葉が飛び出した。

 私は今まで高くなっていた熱が、一気にすう~っと下がるのを感じた。

 胡乱な目のまま、ケリエル様を見つめる。

「……それはないですよ。私なんかに声をかけてくれるのはケリエル様だけです」

「うん、その勘違いは横に置いておくとして、とにかく一度会場に足を踏み入れたら最後、老若男女に囲まれるのは目に見えているからね」

 尚もおかしな言葉を吐き続けるケリエル様。


 何、その状態? 珍種の獣見たさに集まってくる感じ? いやいや、この呪いのことは誰も知らないんじゃなかったっけ?

 でも一時期、呪いを解くためにお父様が魔法使いを探し回っていたから、知っている人は知っているのかな?

 クリスティーンとクリスティーナが同一人物と知らなくても、それを裏では面白おかしく噂されていて、好奇心で寄って来る人もいるかもしれない。

 オルバーナ伯爵家では昔、魔法使いに呪いをかけられた者がいるのでしょうと。

 誰がかけられたのですか? どういったものですか? 今もまだ続いているのですか? と根掘り葉掘り訊かれたらどうしよう。

 そんな目にあったら私は二度と、社交の場になど出ることはできない。

 ううん。もしも呪いが解けたとしても、人前に出ることさえ今まで以上にできなくなる。

 そんなことを考え私が恐怖で思わず身震いをしていると、ケリエル様が顎にかけていた手を頬へと戻す。

 そしてニッコリと笑ってこう言った。


「大丈夫だよ、クリス。私がちゃんと守るから。そのためにも盾を用意したいと思うのだけれど、いいかな?」

「盾?」

 ケリエル様の私を守る発言にポッとしながらも、盾という聞きなれない言葉に首を傾げる。

 私を社交の場から守るために必要な盾とは、どういうことだろう?

 意味が分からないとオロオロする私に、ケリエル様は頬に添えていないもう片方の手で私の手を握った。

 驚く私に微笑むケリエル様。

「私が君の婚約者として横に立つことを許して欲しい」

「!」

 そう言って、握っていた手の甲に軽いキスを落とす。

 ボンッ! プシュウゥゥゥ~~~っと、私の脳がもう限界だと悲鳴を上げて爆発し、崩れ落ちたのは言うまでもない。

 後に残ったのは、ケリエル様の微笑だけである。

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