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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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本来の目的

 カロッツ子爵とは遠方の他国とも取引する大きな商会を持つ、いわゆる資産家だ。

 魔法研究所も以前より寄付金を頂いていたのだが、娘が就職した後はその倍の寄付金が収められている。

「子爵は昔から魔法研究所で、回復薬とか解毒薬とか魔法の薬を一手に精製しないかと国にも打診していたんだ。確かに魔法使いが作る回復薬には希少価値があるし、一定の数を販売できるとしたら、国にもかなりの潤いができるだろう。だがそれを作れる魔法使いは限られているし、魔法の薬を作るだけに集中しては魔法の発展が閉ざされる。数少ない魔法使いが、薬を作るだけに利用されては困るんだ」


 確かに魔法使いが少ないこの世界では、魔法薬は中々手にするのも難しい代物だ。

 私は自分が魔法使いであると同時に、母も魔法使いだから魔法薬など簡単に手に入る状況なので気にしたこともないが、世間一般では魔法薬を手にするために財産をつぎ込む者もいるらしい。

 それを国が管理して一定数販売できるとなれば、それに関わる商売人は将来を約束されたも当然だ。

 子爵が国に打診して、それが採用されたとあればその販売を一手に引き受ける商会は、子爵の所となるだろう。

「子爵は娘に魔法の才能があると知って、すぐに研究所に就職させた。確かに彼女の才能には一目置かれるものがある。彼女が研究所である程度の地位を得られれば、子爵の野望は前進する。だが、それと同時にもう一つ、狙っていたものがあったんだ。それはペルとの縁談だ。稀代の天才と呼ばれるペルと自分の娘が一緒になれば、国に承諾を取らなくても研究所を利用しやすくなるだろう」


 王太子殿下はチラリと職員を見る。私もつられて見てしまう。

 まだくねくねしている姿に、二人して眉を寄せる。

 父親が強欲な割には、能天気な娘だ。

 金持ちの傲慢さもみられないし、父親とは全く似ていないのだな。

 私がなんともいえない薄気味悪い者を見ていると、王太子殿下がボソッと呟いた。

「彼女はどうやら市井の生まれのようでね。先程も言ったが、魔法使いと知った子爵が彼女を利用するために引き取ったらしい。だから彼女には、子爵に親に対する情はないらしい」

「はあ……」

 私は、生返事を王太子殿下に返す。

 正直、どうでもいい。

 確かに似ていないと思いはしたが、職員と子爵の親子関係がどうだとか、私には関係ない。

 半眼で王太子殿下を見ていると、ニコッと口角を上げられた。

「まあ、そういった理由でカロッツ子爵を警戒しなくてはいけないんだけど、今回子爵の野望の一つが君のお蔭で閉ざされた」

「は?」

「彼女はペルより君に関心があるようだ。先程の言葉とあの姿を見ていれば分かるだろう」

「はあ。燃やしていいってことですか?」

「だから、やめろって。気持ちは分かるけど……」

 ペルが大げさに溜息を吐く。

 疲れたと体で表現されて、私はムッとする。


「ハッキリ言って、カロッツ子爵もペルの妻の座も、ぶっちゃけ魔法薬の暗躍も私には一切興味はありません。あの女が私の愛しいクリスを悲しませた。それだけが事実です。だからあの女を視界に入れたくないし、視界に入ったならばぶっ飛ばす」


 私の言葉に、ペルも王太子殿下も呆気にとられた顔をする。

「私の正義は、クリスです」

「……いや、うん。分かってた。分かってたけど、それを王太子の前で言っちゃうんだ」

「……色々言いたいことはあるけど、とりあえずは魔法騎士団団長がか弱い女性をぶっ飛ばしたら駄目だと思う」

 胸を張る私に、二人は項垂れた。

 何が悪い?

 私は昔からそう言っているだろう。

 何を今更、クリス以上に優先しろと言うのだ。

 私にすれば、その方が意味が分からない。

「では二人は私にその話をして、どうしろと言うのですか? まさかこの私に、彼女を許せとでも言うつもりですか? ありえない」

「うん、まあ、ちょっと彼女の気持ちを利用して、子爵の思惑なんかを探れないかなぁなんて……」

「笑止千万。そんなことするぐらいなら、子爵を締めあげます」

「うん、君ならそういうよね。分かってた。分かってたよ」

 うんうんと頷く二人を視界に入れながら、私はフンッと横を向く。


 全く貴族という者は、やれ立場だとか情勢だとかを気にし過ぎる。

 向かって来る者は敵だし、去る者も敵だし、媚びる者も敵だ。

 味方など、ごくわずかでいい。

 私にとってはクリスだけでいいと、割と本気で思っている。

 流石にそれを口にした時には、父上にはどつかれ、母上には泣かれたから二度とは言わないが。

 だから職員がどんな気持ちで私に擦り寄ろうが、そんなものは一切関係ないのだ。

 それにしたって……と私は思う。

 二人共、平然と彼女の恋心を利用しようだなんて、私より鬼畜だよな。


「分かりました。お二人には世話になっていますからね。流石にあの女をそばに置くことはできませんが、今だけ許したフリをします。後はお二人でお願いしますね。でなければ本気でぶっ飛ばしますから」

 私が妥協案として出した言葉に、王太子殿下は鷹揚に頷く。

「ああ、及第点だ。とにかく何も言わずに笑顔でいてくれ。後はペルがなんとかする」

「僕ですか? 僕に何を……ていうか、僕もあの言葉と姿にはドン引きしてるんですが」

 ペルが慌てて、王太子殿下に無理だと言う。

「でも私が彼女を庇った場合、それが子爵の耳に入ったら私との仲を進める可能性があるだろう」

「殿下には婚約者がいるから、いいではないですか。僕なんて相手もいないから、勘違いされたら子爵に一気になだれ込まれてしまう。そうなると、子爵の思い通りににされてしまいますよ」

「大丈夫だろう。彼女の本命はケリエルだ。それにペルは職場の上司なのだから、少しぐらい庇っても問題はない」

「殿下、面白がってますね。面白がってますよね。口元が緩んでますよ、こんちくしょう!」

 とうとうペルがキレた。

「殿下~」と私が胡乱な目で見ると、王太子殿下は「まあ、冗談はこれぐらいにして……」と打って変わって真面目な顔つきになった。


「この中の誰でも子爵には旨味のある人物だ。誰か特定で優しくすることは避けよう。ケリエルは……無理だから、私とペルの二人で擁護する。それでいいかい?」

「では許したフリをしたら、後は帰らせてもらっていいですか? 書類が溜まっていてサランが情緒不安定になっているのです」

「いや、君がいてくれないと困るだろう。彼女は明らかにケリエル狙いなんだから」

「ではせめて、これ手伝ってくれます? このまま処理せずに持ち帰ったらサランが泣きます」

「……ケリエルは、ただでは起きないよね」

 無事、王太子殿下との取引が成立したところで、ペルが遮断魔法を解いた。


 ちょうど職員も我に返ったようで、こちらを不思議そうに見ている。

 いや、不思議なのはお前の頭の方だからな。

 それでも私は王太子殿下との約束通り、職員を見ながらニッコリと笑ってやる。

 これは先週見たおかしな形の芋だ。うん、芋だ、芋だ。

 自分に暗示をかけていると、職員は私を見てポッと頬を染めた。

 グルンと目を反らしたくなる。

 そういう表情は、クリスにしか似合わない。

 クリスがあんな表情をしてくれたなら、私は迷いなく寝台に連れ込む。

 どうにかクリスとのイチャイチャを想像して、笑顔を維持させる。


 私のそんな表情に何を思ったのか、職員がフラフラと近寄って来た。

 そこで素早く、ペルの後ろに身を隠す。

 それ以上近付くな。射程距離に入ったら、攻撃魔法が炸裂する。

 私の不穏な様子に気が付いたペルは、慌てて職員を引き留めた。

「ケリエルは君の謝罪を受け入れてくれたよ。元々あった呪いだし、君はそれを知らずに修復してしまったのだから、仕方がないって。だから君はもうこれ以上、この件に関わらなくていい」

 何が知らなかったから仕方がないだ。知らなければ何をしても許されると思うなよ。と思いながらも、王太子殿下にニッコリと微笑まれて、私は笑顔を張り付けたまま口をつぐむ。

「ケリエル様、なんてお優しい……。あ、ケリエル様だなんて私ったら、申しわけありません。イブニーズル団長様、お許しくださって、ありがとうございます」

 名前で呼ばれたことで、こめかみに青筋がたつ。

 この女……調子に乗りやがって……。


「これで、この件は終了だ。ただケリエルの名誉のためにも、婚約者のことは他言無用で頼むよ。いいね」

「はい。お優しいケリエル様、あ、いえ、イブニーズル団長様のためですもの。お約束します。決して他言いたしません」

 王太子殿下に念押しされて、職員は満面の笑みで頷いている。

 また言いやがった……。

 私のこめかみの青筋がもう一本、増えた。

 そして上目遣いで私を見上げると、またもや頬を染めて気持ちの悪い言葉を口にしようとする。

「あの、許してくださったのは嬉しいのですが、その、ケリエル様、ああいえ、イブニーズル団長様も婚約者様があのような姿では何かとお困りになるでしょう。やはり私が責任を取って……」

「責任を取ってくれるというのなら、君にお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」

 つかさず王太子殿下が、職員のキモ発言を封鎖してくれた。

 これ以上、あの女の発言を聞いていたら、射程距離ではなくても攻撃魔法をぶっ放してしまう。


 職員は見目麗しい王太子殿下に声をかけられ、頬を染めながらも不思議な顔をする。

 王太子殿下から子爵令嬢の自分にお願いとはなんだろう? と考えているのだろう。

 だが次の瞬間、一気に顔を赤く染めた。

 おい、お前。今、何を考えた?

 ドン引く私とペルの横で、王太子殿下は笑顔を絶やさない。

 だがそんな殿下でもよく見ると、額に玉の汗が浮かんでいた。

「あの、お願いってなんですか?」

 恥ずかしそうにもじもじと体を揺らす職員に、口元を引きつらせながらも王太子殿下は言葉を続ける。

 私とペルが、王太子殿下を勇者と崇めた瞬間だった。

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