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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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王太子殿下の執務室

「行ってらっしゃいませ、ケリエル様」

 仕事に向かう私を、エントランスで見送る一輪の花。

 美しいその姿は、下半身にとても同じものが付いているとは思えない清らかさだ。

 私はそっと花に触れると、一言。

「仕事に行くのやめ……」

「行ってらっしゃい、ケリエル。クリスの面倒は私に任せて」

「………………………………」


 クリスの腕に手を絡めてニッコリ微笑む母上に、目を細める。

 反論しようとした途端、後ろからカーターに声をかけられた。

『これ以上グダグダしているようなら、攻撃魔法で城まで一気に飛ばしてやろうかしら。と奥様が仰っていました。あの目は本気です。旦那様は巻き込まれを恐れて、先に城へ向かいました』

「………………………………」

 敗北を抱きしめて馬車に揺られる。

 くっそぅ~、母上には永遠に勝てない。



 魔法騎士団にある自分の執務室で書類仕事に追われていると、王太子殿下からの呼び出しを受けた。

 ちょうど昼時。

 昼食を一緒にとのことだが、内容は分かっている。

 クリスがまた男になってしまった件だ。

 もしかしたら、ペルもその場に呼び出されているかもしれない。

 どうせなんの進展もないだろうが、呼ばれたからには顔を出さないといけないだろう。


 ハア~っと大きな溜息を吐くと、隣で同じように溜息を吐く副団長のサランがいた。

「せっかく真面目に書類仕事をしているのに、また邪魔が入ってしまった。どうしてこの国のトップ連中は、仕事をしないんですか?」

「王太子殿下はもう終わらせているだろう。ペルは知らないが、要領がいい奴のことだから他の者に振っていると思う」

 私が淡々と答えると、サランは私をジト目で見てきた。

「じゃあ、貴方は?」

「私にはサランがいるだろう」

「そこで、私に、頼らないで、ください!」

「一々噛み締めて言わなくても。最初の頃、喜んで補助しますって言ってくれたのはサランだぞ」

 そう言うと、サランは目に見えて悲壮な顔つきになった。

「まさか、こんなにも押し付けられる日々が続くとは思いもよらなかったんです。まとまった休みが欲しい」

「私は別に休んでもいいと思うが……」

「休めません。私が休んだらこの書類の山は、どうなると思っているんですか?」

「そこはそれ。最悪、王太子殿下にも手伝ってもらう」

「貴方ぐらいですよ。王太子殿下を使うとかいう人」

「使うわけじゃない。快く手伝ってもらうんだ。善意でな」

「……団長、貴方の思考回路、怖過ぎます」

 サランが脱力して、机に突っ伏してしまった。

 そのままブツブツと「団長の所為でこの団が無くなったらどうしよう? 私は無職になるのか? 流石にそれなら体を壊してでも一人で対応するしかないかも」と言っている。


 私はそんなサランを置いて、執務室を後にした。

 手には難易度の高い書類を数十枚、抱えて。

 殿下とペルが無駄口を叩いている間に、一枚でも手伝わせようと思ったのだ。

 一昨日のお茶会や昨日の休みでできなかった書類は、責任を持って彼らにも手伝ってもらう。

 だって元凶は、明らかにあの日のお茶会なのだから。



 に~っこりと笑顔を浮かべてペルを見つめていると、甲高い女の声が響いてくる。

「本当に、本当に申しわけございませんでした。改めてお詫び申し上げます」

 クリスを男に変えてしまった件の職員が、私に深く頭を下げている。

「……どういうつもりだ、ペル?」

 私の笑顔とは対照的な低い声に、ペルと職員はビクッと肩を跳ねさせる。

「いや、だから、そのな。パティアナ嬢も凄く責任を感じていてだな。ケリエルにもう一度ちゃんと謝罪したいと……」

 青ざめる職員を庇うように、ペルが私に訴える。

「ここは王太子殿下の執務室だぞ。無関係の女を入室させていい場所ではない」

 私はソファに腰かけ、ニタニタ笑いながら傍観している王太子殿下の存在を口にした。

 完全に面白がっている王太子殿下にも笑顔を向けてやるが、流石にビクともしない。

 本当に肝の据わったお方だ。


「こうでもしないと、お前絶対に僕達に会わないじゃないか。一昨日の手紙を見てゾッとしたぞ」

「私はその話を聞いたから、ペルに協力したんだよ」

 悲鳴のように声を上げるペルと笑顔の王太子殿下。

 一昨日ペルに送り付けた魔法の火で焦げ目をつけた手紙のことか。

 私はチラリとペルに視線を送る。

「あれぐらいで怖がるな」

「読んだ途端、燃えたんだぞ。誰だって怖がるわ! 焼き殺す気か?」

 大げさだな。紙一枚燃えたぐらいで人間一人が焼けるわけない。指先をやけどするぐらいが関の山だ。

 私が声には出さずに胡乱な目で見つめいると、流石に大げさだったかとペルも顔をうっすらと赤くした。


「今までのケリエルは流石にペルにそこまでのこと、したことないだろう。話を聞いて君の怒り具合が半端じゃないと知って、ペルに協力してあげようと思ったんだ。二人は私にとってなくてはならない存在だからね。仲違いされていては私も困るんだよ」

「……面白がっているだけでは?」

「なくはない、かな。でも心配しているのも本当だよ」

 王太子殿下は心配していると言いながらも、面白がっている本音も隠しはしない。

 彼と話していても、いいように丸め込まれるだけだど、私は再びペルに話しかけた。


「ペルが私と話がしたくて、王太子殿下に仲介を頼んだのは理解した。だが、こいつまで連れて来る必要はあったのか?」

 私は顎で職員を指して、ペルに説明を求める。

「それは……」

「あ、あの、私は所長に無理にお願いしたんです。このままイブニーズル団長様に嫌われたくなくて、私にできる償いはさせて欲しいと。私、なんでもします。その、婚約者様が男性になってしまわれたのなら、社交の場など女性を必要とする場合は私が代わりを務めさせていただきます。公の場だけでなくても、そのお体の慰めも……きゃっ、恥ずかしい」


「「「……………………………………」」」


 ペルに話を促したはずが、件の職員が割って入った。

 もじもじと顔を赤くしながらも発したその言葉に、私達三人は一分ほど固まった。

 最初に王太子殿下が爆笑した。

 次に私が手の中に火の魔法を集中させていたので、ペルが慌てて「やめろ、王太子殿下の執務室を燃やす気か⁉」と叫んだ。

 職員はそんな私達に気が付かないのか、自分の言葉にまだ照れている。


「火が駄目なら、風で窓から飛ばすか?」

「気持ちは分かるが、やめてくれ。彼女はカロッツ子爵の娘なんだ。ここに連れて来た理由はそれだよ」

 笑顔さえも消した私の怒りを、ペルは必死で抑え込む。

 ペルの言葉に、王太子殿下が笑いを止めてスッとそばに寄って来た。

「ケリエル、ちょうどいいから君を呼んだ本来の目的を話すよ。ペル、彼女には聞こえないように遮断魔法をかけて」

 久しぶりに感じた王太子殿下の真面目な雰囲気に、私はスッと背筋を伸ばす。

 くねくねと揺れる職員を横目に、私は王太子殿下から説明を受けた。

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