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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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お迎えは無用です

「こんな所で何をやっているんだよ、姉上は」

「ご、ごめんなさい」

 目の前で仁王立ちのエリオットに、プルプルと震える私。

 ここはケリエル様のお屋敷、イブニーズル侯爵家の応接間だというのに、エリオットは私を壁に追い詰め威嚇している。


「エリオットには、その、迷惑、かけないからね」

「一々怯えない。別に今更、男になったからって、怒るわけがないだろう。クリスティーンの姿でプルプル震えても可愛くないんだよ」

 グサッ!

 エリオットの言葉は私の心を的確に射る。

 しおしおと落ち込んでいく私に手を指しのべてくれるのは、やはりケリエル様。

 部屋の隅に座り込んでいる私を立たせて、そのまま侯爵夫妻が座るソファへと連れて行き、一人用のソファに座ると私を膝の上に乗せた。

「クリスティーナもクリスティーンも、プルプル震える姿は可愛いよ」

 本来なら侯爵家の嫡男が男を抱きしめる姿など、他の者に見られる前に止めなければならないのだが、今はエリオットの怒りの前に心が怯え切っていて、抵抗する力も何も残っていない。

 私はケリエル様の腕の中へと逃げ込んだ。


「姉上ならなんでもありの男は黙ってて。とにかく屋敷に戻っておいでよ。イブニーズル侯爵家にも迷惑だろう」

「「「それは、ない!」」」

 エリオットから隠れていた私は、イブニーズル侯爵家に迷惑だという言葉を聞いてビクッとしたが、すぐに侯爵夫妻とケリエル様が声を揃えて否定してくれた。

「全くもって全然、これっぽっちも迷惑ではない」

「やっと手に入れたのです。絶対に逃しません」

 侯爵夫妻、というか夫人がちょっとやばい発言をされたような気がする、とケリエル様の腕の中で思いながらも、顔を出す勇気がない。

 私はますますケリエル様にしがみつく。

 ケリエル様は私の頭を撫でながら、エリオットに反論してくれている。


「昨夜しっかりと告白した。女でも男でも構わないと。連れて帰られては困る。今度は求婚に頷いてもらわないといけないからな」

「……イブニーズル侯爵家って、なんでそんなに姉上が欲しいの? いやいや、どさくさに紛れて手に入れようとしないで。ちゃんと冷静に考えさせてあげてくださいよ」

 エリオットが呆れた声を出したが、きっと私に向かって言っているのだろう。

 落ち込み過ぎて会話の内容が全く頭に入ってこない私だったが、それでも侯爵家の皆様に庇ってもらってばかりではいけないと勇気を出す。

 逃げてばかりいては駄目なんだ。

 ちゃんと自分でエリオットに、現実に向き合わなければいけないと私はキュッと唇を噛み、弟に顔を向けた。


「……ごめんなさい。こんな姿で図々しくイブニーズル侯爵家に居座っているなんて、オルバーナ伯爵家の顔も立たないよね。でも私、まだ呪いが解けると信じているの。諦めたくないんだ。だから他国に行くのはもう少しだけ、せめて、あと半年程は待っていてもらえないかな? 駄目?」

 ウルウルと潤んでいく瞳に、エリオットが悲鳴を上げた。

「だ~か~ら~、なんで僕を悪者にするの? 他国に行く必要も、オルバーナ伯爵家を出る必要もないだろう。どんな姿でもいいから自分の家にいろって言ってるの。姉上はまだ結婚したわけでは、ないんだから。そこのところ有耶無耶にしてたら、イブニーズル侯爵家から永遠に出られなくなるよ」

 そう言ったエリオットに、私はキョトンとしてしまう。

 あれ? エリオットはただ単に、私を迎えに来てくれただけなの?

 怒ってるんじゃなくて、心配してくれているのかしら?


 私が首を傾げている前で、カーターがエリオットの肩にポンと手を置いた。

「もう遅いです。先程の侯爵夫人の言葉を聞いたでしょう。一旦入ったからには、抜け出すことは不可能です。敵はケリエル様お一人ではなく、侯爵家全員です」

「蜘蛛の糸かよ⁉ カーター、君は姉上の専属執事だろう。姉上に味方しないのか?」

「俺の主はケリエル様です。ていうか、俺が味方したからって、本気でこの家から逃れられると思っているんですか?」

「そこは無理でも頑張れよ」

「俺は、無駄な努力はしない質なんです」

「カーターは自衛がちゃんとできている。エリオットも、そろそろ身を守ることを考えた方がいい。自分が大事だろう?」

「何気なく脅さないで。怖いよ、ケリー兄」


 ――三人の、会話の意味がよく分からない。

 けれど三人共、私を心配してくれての発言だろうと勝手に解釈した私は、ケリエル様の腕から逃れてエリオットに抱きついた。

「わわわ、何、何? どうしたの、姉上?」

「ありがとう、エリオット。私を心配してくれているのね。嬉しいわ。大好き」

 仲直りはできたけど、本当はまだ私を嫌っているんじゃないかと疑っていた弟が、心配して迎えに来てくれたことが、とても嬉しかったのだ。


「やめて~、僕を殺す気? ケリー兄っていうか、侯爵家全員で殺気ださないでよ~」

「いいなぁ、家族って」

「クリスに大好きなんて言ってもらえて、羨ましいわ」

「……………………」

「何か言ってよ、ケリー兄。無言が一番怖いって」

 優しい侯爵夫妻がそんな風に言って、私達の姉弟仲を喜んでくれる。

 その横でケリエル様が温かく見守ってくれているのに、何故かエリオットが彼に恐怖を感じている。

「エリオットってば、照れているのね。可愛い」

「はあ? 姉上って本当に……いえ、なんでもありません。ありませんから、こっちを見ないで、ケリー兄」

 エリオットがとうとう降参だというように、両手を上げた。

 可愛い弟は、私の腕の中でなすがままになっている。

 姉弟って本当にいいなぁと、私はこの日、改めてエリオットの存在に感謝したのだった。



「とういうわけで、クリスの心配はしなくていいから。帰ってよし!」

「はいはい。心配した僕が馬鹿でした。姉上、父上や母上にはちゃんと手紙書きなよ。心配しているんだからね」

 ケリエル様が私の肩を抱いたまま、エリオットをエントランスで見送る。

 あれ、これって強制送還?

 弟が目の前で早く帰れというように侯爵家の皆様にお見送りされている姿は、ちょっと泣ける。

 あれからエリオットとケリエル様が色々と話をして、何故か私は伯爵家に戻らず侯爵家でお世話になることが決まってしまい、こうしてエリオット一人が帰ることになったのだ。


「そういえば、姉上。男になったっていうから、僕はてっきり性格も戻ってしまったのかと心配したんだけど、そこは変わってなかったんだね。安心したよ」

 そう言ったエリオットに、私はキョトンとしてしまう。

 確かに、男に戻ってしまった最初こそは心が冷え切ってしまっていたが、今回は以前のように心を閉ざしたりはしなかった。

 もしかして前回のように長い期間、男の姿のままならばそのように戻ってしまうかもしれないが……なんだろう?

 このままイブニーズル侯爵家にお世話になっていたら、そんな風にならないかもしれないと思ってしまう。

 チラリと、隣にいるケリエル様に視線を送る。

 目が合うと、いつものようにニッコリと微笑んでくれる。

 毎日この笑顔を注がれて、恥ずかしくなるほど甘やかされて、女でも男でも関係ないと愛を囁いてくれるケリエル様がそばに居てくれるのに、ひねくれている場合ではないなと思う。


「ありがとう、エリオット。心配してくれて。でも私、多分大丈夫だよ」

 ぎこちないながらも微笑んでみると、エリオットは苦笑する。

「そう。なら良かった。ただ一つだけ、忠告しておくよ」

「うん、何?」

「男の姿の間は、ケリー兄様の求婚は受けないこと。受けたら最後、どえらいことになるよ」

「へ?」

 エリオットが妙なことを言ってくる。

「あ、やっぱり気付いてなかった。ケリー兄様は今まで姉上が女だから、ちゃんと節度を守って遠慮してる部分があったからね。それが取り除かれた状態で受け入れたら、絶対にパックリいかれるから。男同士だからいいよね。とかなんとか絶対にほざくからね。自分が大事なら慎重になること。いいね」

「……エリオット」

「ひっ!」

 疑問符がいっぱい頭の中を飛んでいる間に、ケリエル様が笑顔でエリオットに近寄っていた。

 なんだろう? ケリエル様の背後に黒い靄のようなものがズモモモモォ~という轟音と共に湧き出ているような錯覚がする。


「じゃ、じゃあ、僕もう帰るから。姉上の貞操はカーターに任せた」

「ひどっ。俺を巻き込まないでくださいよ、エリオット様。俺はケリエル様の下僕です」

 エリオットは逃げるように馬車に乗り込むと、カーターに捨て台詞を残して去って行く。

 残されたカーターは、俺は下僕、俺は下僕。と言って奥へ引っ込んだ。

 私はゆっくりとケリエル様を見上げる。

 ニッコリ笑って私を見下ろすケリエル様に、初めて少しだけ不穏なものを感じたのは内緒だ。

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