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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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疑いようがない

 突然、寝台で眠っているケリエル様に抱きしめられた私は軽い混乱と力強さに固まってしまった。

「ケ、ケリエル様、離してください」

 我に返って慌てて声をかけるが「うん」と言うだけで一向に離す気のないケリエル様からは、かすかに寝息が聞こえる。

 これは絶対に寝ぼけている。

 寝ぼけて私を抱きしめて、好きだと言ってくれたケリエル様に恥ずかしくなりながらも、可愛いと思ってしまった。

 恥ずかしい、可愛い、恥ずかしい、いい匂い、恥ずかしい、気持ちいい、恥ずかしい、嬉しい、恥ずかしい…………。

 完全にパニックに陥っている。恥ずかしいと思いながらも喜んでなんていませんし、目の前の逞しいスベスベの素肌が気持ちいいなんて、そんな変態的なことは流石に思っていません。ええ、断じて考えてなんていませんから。って本当に何を言ってるんだ、私?

 そして焦りながらも、一つの打開策を考える。

 私は今、男なのだ。これは男同士の抱擁なのだと。

 そう考えると、少しだけ冷静になれた。

 なんの問題もない。

 ここは寝台の上だとか、ケリエル様が半裸だとかいうのも、男同士だから問題ない。ないったら、ない!

 そうして無理矢理自分を落ち着かせ、ようやくケリエル様に冷静な声で話しかける。


「起きてください、ケリエル様。回復薬をお持ちしました」

 ゆっくりと驚かせないようにと心掛けながら、囁いてみる。

「うん、ありがとう」

 眠っているはずのケリエル様は、何故かちゃんとお礼を言ってくれる。

 眠っていても優しい人なんだなぁと感動していると「いい夢だな」という言葉が後に続いた。

 ん? もしかしてケリエル様は、この状況を夢だと思っているのかな?

「私は今、男の姿ですよ。夢ではないでしょう」

 どうせなら夢でくらいは、女性の姿で抱きしめられたい。

 悲しくなって、つい男を抱きしめているのだから現実でしょうと言ってしまう。

「そうか。そうなのかな。別に、クリスならどちらでも構わない」

 そんなことを寝ぼけながら言われても……。

 先程やっと冷静になれた気持ちが、再起動させられる。

 あああ~、やっぱり嬉し恥ずかしい。

 昨晩、カーターが言っていた。

 ケリエル様の真っすぐな気持ちを受け止めろと。

 これではもう、疑いようがないではないか。

 ケリエル様も、私を好きでいてくれるんだ……。


 ボ~っとしながらケリエル様の胸に顔を埋めていると「うっぷ」という辛そうな声が聞こえた。

「あ~。気持ち悪い」

 ケリエル様の言葉で、我に返る。

 そうだった。ケリエル様は飲み過ぎて具合を悪くされていたんだ。

 私は慌ててケリエル様から身を離す。

 今度は苦しいからか先程より力が緩んでいたので、簡単に離れることができた。

「ケリエル様、回復薬をお飲みください」

 私はずっと握りしめていた回復薬の小瓶を、ケリエル様の目の前に差し出す。

「……ん~、ハバスか。ありがとう」

「ハバスんさんではありませんが、どうぞ起き上がってください」

「え? ハバスじゃなかったらカーター……え?」

 そこで目をあけたケリエル様が私を見る。

「え? クリス? え?」

 珍しく呆けているケリエル様が可愛い。

 ちょっと嬉しくなって、お姉さんぶるように「はい、クリスです。お薬、飲みましょうね」と揶揄ってみた。

 途端にガバッと起き上がるケリエル様。

 目眩がしたのかクラリと体が揺れたので、私は慌ててケリエル様の体を支えた。

「ごめんなさい。驚かれましたよね。侯爵様に回復薬を持って行くよう頼まれたのです。大丈夫ですか?」

 抱きしめるように体を支えたまま下から覗くと、ケリエル様はまだ呆けた表情のままだった。

「……えっと、クリス、なんでいるの?」

「ですから、回復薬を持って行くように侯爵様に頼まれたので……」

「あ、あ、そっか。うん。分かった。ありがとう」

 もう大丈夫だというように、ゆっくり自分から私の体を離すケリエル様。

 その後、無言で顔を片手で押さえながら俯いている。

 飲み過ぎで頭が痛いんだろうと察した私は、黙ってケリエル様を待つことにした。


 項垂れたケリエル様を待つこと五分。

 ようやく片手を顔から離して目をあけたケリエル様は、半裸状態であるのに気が付いたのか、そそくさとシャツのボタンを留めていく。

「……回復薬、だっけ? ありがとう。いただくよ」

「あ、はい。どうぞ」

 愛しい人の一部始終の行動に目を奪われていた私は、回復薬を要求されて慌てて手渡す。

 ゴクリと喉を鳴らして、回復薬を飲み干すケリエル様。

「朝食は、すませた?」

 気怠そうなケリエル様の色気にボーっと見惚れてしまっていると、彼は視線を逸らしたまま話しかけてきた。

「いえ、まだです。具合が良くなったのなら一緒に食堂へ行きませんか? 侯爵様も夫人も心配されていましたから」

 慌てて返事をして朝食に誘ったのだが、ケリエル様はこちらを向いて苦笑する。


「クリスは……この部屋を見ても、何も言わないんだね」

「え、部屋?」

 そう言われて、ハッと周囲を見渡す。

 忘れていた。

 この寝室の壁には、私の姿絵が二十枚も並んでいたのだ。

 私は思わず、それらの絵を指差す。

「えっと、この絵のことですよね」

「そうだね。気持ちが悪いよね?」

「え、何故ですか?」

「え?」


 私とケリエル様の間には、ズレが生じていた。

 二人して首を傾げてしまう。

「クリスに無断で、君の姿絵を飾っているんだよ。しかも複数枚。気持ちが悪くない?」

「えっと、確かに驚きはしましたが、ケリエル様なら嬉しいかなって……」

 素直にそう答えたのだが、ケリエル様は呆けた表情で私を見ている。

 え? これは気持ちが悪い案件なのだろうか?

 改めてケリエル様ではなく、他の人が私の姿絵を複数枚隠し持っていると考えてみる。

 あ、確かに気持ちが悪い。というより、滅茶苦茶怖い。

 勝手な想像に身震いしていると、ケリエル様が手を伸ばしクシャリと私の頭を撫でた。

「ハハ、参ったな。そんな反応されるとは思わなかったよ」

 安堵したような力の抜けた微笑みに、私の胸はキューンとなった。

 うくっ、可愛い。


「ありがとう。食堂へ行こうか。すぐに用意するから、あちらの部屋で待っていて」

「手伝いましょうか?」

 思わず口から出た言葉に、ケリエル様より自分が反応した。

 うわわわわ、手伝うってなんだ? 私は何を言っているの?

 いくら男の姿だからといって、ケリエル様の着替えの手伝いをしたいだなんて痴女ですか?

 私を凝視するケリエル様に、速攻頭を下げる。

「嘘です。すみません。忘れてください。廊下で待ってます」

「嘘なの? それは残念だ。ちょっと本気にしたんだけど」

 そう言ってシャツのボタンを外すケリエル様からは、半端ない大人の色気が漂ってくる。

「すみません、すみません、すみませ~ん」

 私は慌てて部屋から飛び出し、二枚の扉を勢いよく閉めて廊下に出た。


 両手を床について四つん這いになり、息を弾ませる。

 わ、私は一体何をやっているんだ~~~⁉

 恥ずかしさのあまり、このまま逃げ出して部屋に籠りたくなるが、ケリエル様はどこにでも現れるから引きこもったとしても意味がない。

 ここで大人しく待っているのが一番いいとは思うが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。

 ケリエル様が出てくるまでに落ち着け、心臓。とドキドキする胸を必死で叩いていると、そんな奇行を廊下の先で歩いていたカーターとハバスさんに見られた。

 目が合った二人はニッコリと笑顔を向けると、そのまま回れ右をしてその場を去って行く。

 私はのそのそと起き上がると、廊下の隅へと寄った。

 そのままケリエル様が出てくるまで、羞恥心に震えながらもじっとその場に突っ立っていたのだった。

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