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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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長い一日

 思い返せば、今日は朝からついてなかった。

 幼い頃にクリスにもらった花冠が、少しだけ枯れていたのだ。

 月日の経った花が枯れるのは当然だが、私は状態維持の魔法をかけており花冠は何年経とうと枯れることはなかった。

 それなのに、疲れていたのか朝必ず目にする花冠がいつの間にか枯れているのを発見した。

 すぐに復元魔法をかけて元の姿に戻したが、それにしても迂闊だった。

 私は机に手紙を放り投げると、椅子に深く腰掛けた。


 手紙はペルからものだった。

 あの後、ペルに断わりもなく勝手に帰ったことの苦情と件の職員を追いかけて行った理由について書かれていた。

 職員は魔法騎士団まで行って私の洋服を持って行くように頼んだ後、姿を消してしまったらしい。

 サランが、洋服を届けに来た際にそう言っていた。

 ペルは自分が戻ってくるまで待っていろとサランに言伝を頼んだみたいだが、そんなのきいていられるはずがない。

 落ち込んでいる目の前のクリスを、まずは元気づけることが一番だからな。

 そして私達が帰った後、やっと職員を見つけたペルは部屋に戻り、私達がいないことにキレたらしい。

 何それぞれ勝手なことをやっているんだと。

 知ったことか。こちらは被害者だ。

 元々は、あんな危険な職員を野放しにしていた研究所にも非があるだろう。

 この件が落ち着いたら、研究所の職員教育を一からやり直せと言ってやる。


 逃走していた職員は涙が止まらず、部屋に戻ることができずに人目につかない建物の隅で泣いていたらしい。

 私を怒らせたことが、相当ショックだったようだ。

 彼女は密かに、私に憧れを抱いていたからとも書かれていたが、そんなことなんの関係がある?

 己の軽率な行動のお蔭で、可憐な美少女が多大な迷惑を被ったのだ。

 まずはクリスのことを考えるのが先だろう。

 私はますます苛つきながらも、ペルが職員を追いかけたのは口止めするためだと書かれていることに、目を向けた。

 職員がペラペラと他所でこのことを話したら、クリスにも私にも醜聞が流されるかもしれないと咄嗟に危惧したらしい。

 クリスティーナ嬢が落ち着いたら、一度話し合おうと書かれている。

 それまでにその職員にも協力させて、せめて術式がハッキリと分かるようにしておくと書かれているが、私はその職員を見たら今度こそ攻撃魔法を放つだろう。

 あの女はクリスを見た時も、私の隣に座っているにもかかわらずペルの婚約者かと素っ頓狂なことを言っていて、本当に気にくわないのだ。


 ペンを持つ気にもなれないので、魔法の火で紙に焼き付ける。

〔あの女をクリスに近付けるな〕

 ジジジッと紙の焦げた匂いと共に、転移魔法でペルに送り付けてやる。

 これで私の怒りが本物だと分かるだろう。

 ペルには呪いの問題で色々と世話にはなったが、それとこれとは話が違うからな。

 王太子殿下にはペルから報告がいくだろう。

 好奇心旺盛な殿下のことだから、明日の午後にでも私を呼び寄せるだろうが、明日は本日のお茶会の見返りに得た休日だ。

 絶対に城になど行くものか。

 私は本日のことを思い返す。



 クリスに私が魔法使いだということがバレた。

 別に隠していたわけではないからバレても一向に構わないのだが、何故かクリスは私が魔法使いだということを忘れていたのだ。

 呪いをかけられる前は幾度となく彼女の目の前で魔法を使っていた私を、綺麗さっぱり忘れている。

 男になってしまったことがあまりにもショックで、記憶が混乱しているのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 突然現れる私を不思議がってはいるようだったが、あまり気にしているそぶりはなかった。

 普通に私が隣にいることを受け止めていた。

 鍵のかかった二階の部屋に引きこもっていたというのに。

 どこから侵入したかという疑問を、少しももっていないのだ。


 色々とクリスの記憶にはムラがある。

 幼い頃のことを忘れているのももちろんだが、要所要所の記憶が欠けているのだ。

 男になった途端、表情を失くし勉強以外には何も興味をもたなくなったクリス。

 女に戻ったら、今度は七歳までの頃のように無邪気な様子を見せるクリス。

 女性の顔が認識できなくなっていた時期もあるし、エリオットと必要以上に距離をとっていた時期もあった。

 そして私の屋敷でカーターと会ったこともあるのに、それさえも忘れている。


 ハア~っと、私は大きな溜息を吐く。

 頑なに、私がクリスを妹のように思っていると信じているのにも頭が痛い。

 クリスは私が好きだ。

 それはもう分かっている。

 否定しようのない事実なのだ。

 だが、私も同じ気持ちだということを、どうしても信じない。


 それもこれも全て、呪いの所為なのか……?


 本日、最初に呪いをかけた魔法使いを突き止めることができるかもしれないという話になった。

 その件は殿下に任せていれば、何かしらの情報を得られるだろう。

 だが、お茶会の帰りにペルに話したように、その魔法使いが呪いを解けるかどうかの期待はもてない。

 あの呪いは普通の魔法とはわけが違う。

 なんせ基本もなってない上に全てが無茶苦茶で、挙句の果ては術式が薄れては自然に書き換えられていっているのだ。

 どう考えても偶然の産物としか思えない。

 そんなものをペルが検討付けている魔法使いに作れるはずがない。

 そうなると、やはり私が自力で解くしかないのだ。


 もう一つの新しい呪いは正直、今なら解こうと思えば解ける。

 だが、クリスにも言ったように二つの呪いがどう反応しあうか分からない現状、それだけを解いてしまっても不安になるだけなので、そのことは誰にも言わなかった。

 それがここにきて、まさかのダークホース。

 関係のない研究所の職員が、クリスを男の姿にしてしまった。

 クリスは本日、もう少しで私の気持ちを受け入れようとしていたのだ。

 それなのに、こんな結果になるとは……。

 もうこうなったら新しい呪いだけでも解いた方がいいのだろうかと考えた時、部屋の扉がノックされた。


 私が入室の許可をすると、扉を開けたのはカーターだった。

「あ、やっぱりやけ酒飲んでる。俺も付き合いますよ」

「クリスはどうした? もう寝たのか?」

「ハハ、少し不安定だったので俺の話をしました。ケリエル様との出会いなんかをね。今はケリエル様のことを考えて悶々としています」

「なんだ、それ? 詳しく話せ」

「はいはい」

 そうして私は話を聞くために、カーターをソファへと促したのだった。

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