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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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執事の過去

 淡々と自分の過去を話すカーターに、私は耳を澄ませていた。

「俺が三歳でケリエル様が五歳の時です。たまたま知り合いが子連れ参加のお茶会を開いて、そこで出会いました。俺の家は男爵家でしたので、もちろんケリエル様と話す機会などありません。ですが俺の実の兄三人が、友達を引き連れて俺を人気のない場所に連れて行き、罵倒し始めたんです。他家の茶会でなにやってるんだという話ですよね」

 カーターが男爵家の四男だってことは知っていたけど、兄弟仲が悪かったなんて、初めて聞いたわ。

 こんなに明るいカーターにも、そんなことがあったのね。

 私は驚いてカーターを見るが、彼は気にした様子もなく話し続ける。

「俺が魔力を持っているのが、単純に羨ましかったんでしょうね。それと少し前に魔力暴走を起こしてしまったのですが、その時に彼らにも怪我をさせてしまったんです。ああ、怪我と言ってもたいしたことはありませんよ。かすり傷程度です。だけどそれが腹立たしかったのでしょう。血が繋がっていないとか化け物とか、まぁ、そんなことを延々と言われていました」


 ちょっと、待って。何、それ?

 私もエリオットとの仲がこじれてしまって、気まずい思いもしていたけど、それでもそんな酷いこと兄弟に言うなんて信じられない。

 私が眉間に皺を寄せると、その表情で私の考えが読めたのかカーターはニカッと笑った。

「まぁ、そこでよくあるお約束、英雄が助けてくれたんですよ。それがケリエル様です」

 ケリエル様の名前が出てきて、私はパア~っと顔を輝かせる。

 やっぱりケリエル様は素敵。

 誰に対しても優しい王子様なんだわ。

 キラキラと目を光らせて、カーターの話の続きを待つ。

 そんな私を見て、カーターは「プハッ」と笑う。


「すみません。多分、クリス様が考えているようなカッコイイ助け方じゃないですよ」

「というと?」

「たまたま通りかかったケリエル様に、罵倒して興奮していた兄上の体が当たったんですよ。ケリエル様は擦り寄って来る令嬢に嫌気がさして人気のない場所を探していた最中だったらしいのですが、面倒くさい所に遭遇したと通り過ぎるつもりだったようなんです。それなのに、よせばいいのに兄上がケリエル様にも怒鳴ったんです。邪魔だって」

 昔の話なのに、擦り寄って来る令嬢と聞いてムッとしてしまう。

 やはりケリエル様は昔から、私の知らない所でモテていたのかと嫌な気持ちになるのだ。

 そんな私にカーターは「気にするところ、そこですか?」と笑っていたが、そのまま話を続けることにしたようだ。


「怒鳴った兄上はそのままケリエル様に背中を向けたのですが、そんなことを言われて見過ごすケリエル様ではないですよね。『ああ?』って五歳とは思えない低い声で兄上達を見たかと思うと、いきなり地面に穴が開いて兄上達は一気に落ちました。落とし穴ですよ。まぁ、気は使っていたようで大人が頑張れば出られる深さではあったのですが、それでも子供にはかなりショックだったんでしょうね。兄上達は、腰が抜けたようにその場に座り込んでしまいました。何人か、漏らしていたかもしれません」


 ……えっと、それってケリエル様の話、だよね?

 あれぇ? なんか今日、同じような話を城で聞いたような気がする。

 確かトウハー様が絡まれた時に……。

 ケリエル様って、子供の頃は少し過激な性格をされていたのかしら?

 でも私の前ではそんなそぶり、一度もしたことないけど?

 う~ん、う~んと悩む私にカーターは笑っている。


「プルプル震える兄上達に、ケリエル様は容赦なかったなぁ。その後も『魔力が多ければ、小さい頃には一度くらい魔力暴走するのは当たり前なんだよ。そんなことも知らないのか、ばぁか!』って言って、上から土をかぶせるんですよ。泣きじゃくる兄上達に騒ぎを聞きつけた大人達が集まって、その場は凄い騒ぎになりました」

 ――ちょっと、想像する。

 なんか、招待した家の方達は大変だったろうなって、同情してしまった。

 なんとなく、遠くを見つめてしまう。

「その後、兄上達がケリエル様に失礼なことをしたと知った父上が謝罪したのですが、ケリエル様は『お前の家は魔法に対して無知らしいな。そんな所にこいつを置いてはおけない。こいつは私が面倒見る。魔法暴走ぐらいでグズグズ言ってんじゃねえぞ、小物め』と啖呵を切られました。流石にイブニーズル侯爵に小突かれていましたが、俺の家が侯爵夫人の縁戚にあたると知って、攫うように馬車に乗せられました。もう半分、拉致みたいなものですよね。それからイブニーズル侯爵が諸々の手続きを済ませてくれて、俺は今に至ります」


 全て聞き終えた私は、目が点になっていた。

 あの、それ、本当にケリエル様の話なんですか? 滅茶苦茶似ている別人ではなく?

 ケリエル様って、兄弟いなかったよね?

 信じられなくて唖然としている私を放っておいて、カーターは楽しそうに話し続けている。

「本当、今考えても五歳児とは思えない無茶苦茶な方でしたが、あの時の俺にとっては間違いなく英雄でしたよ。そういうわけで、クリス様にはケリエル様の真っすぐな気持ちは疑ってほしくないなぁと思うわけですよ、はい」

 ……そっかぁ。

 カーターは、ここでケリエル様と兄弟のように育ったわけだから、ケリエル様に心酔しているのも分かる気がする。


 私が男の姿だとか、たいして良くもない私の顔をケリエル様が気に入ってるとか、そんなことをグダグダ悩まずに、素直に気持ちを受けとれというカーターの言葉が、身に染みる。

 正直、私もケリエル様が大好きだし、信じていいなら信じたい。

 ケリエル様が私を好きだって、信じて、甘えてもいいのかな?

 男の姿のままでも、ケリエル様の胸に飛び込んでもいいの?

 私はチラリとカーターを見る。

 ニカッと笑うカーターに、気持ちが見透かされているようで恥ずかしくなる。

 ちょっと話を逸らしたくなって、ついでにもっとカーターの話を聞いてみたいと思った。

 私の専属執事を十年してくれていたとはいえ、私はカーターのことを何も知らない。

 改めて分かった事実に驚くばかりだ。

 私はコホンと咳を吐くと、カーターに話しかけた。


「カーターが私の元にやって来た時は、まだ少年だったよね。執事の仕事をこなせるなんて凄いと思っていたけど、ずっと魔法の勉強もしていたの?」

「そうですね。魔法は、こちらに引き取られてケリエル様に教えていただきました。だから師匠なんですよ。執事の仕事は、ハバスさんです。まぁ、俺は中々器用だったのと、記憶力があるからすぐに覚えましたよ。知ってますか? 魔力を持っている者って、普通の人より記憶力がいいんです。魔力が多ければ多いほど、それに比例するみたいですね」

「そう言えば、魔法研究所のペルセウス・トウハー様は、見た術式を全て覚えているらしいわ」

「そうでしょう。あの方もケリエル様と同等の魔力をお持ちですからね」

「そうなの? やっぱりケリエル様は魔力も多いのね」

「そうでなければ、あんなハードスケジュールこなせるわけないじゃないですか」

「う、そうだよね。移動だけでも大変だよね」

 昼間に知った、ケリエル様の日常。

 ただでさえ魔法騎士団という仕事は魔法の訓練に加え、体も騎士並みに鍛えなくてはいけない。

 それだけでも大変な忙しさだというのに、ケリエル様はそこの団長で尚且つ、私の呪いを解くために魔法研究所で知識を得ながら、私の世話まで焼いてくれていた。

 絶対に普通の人では無理な所業だ。

 今カーターから聞いた話で、魔法使いは人より記憶力が優れているということだが、それにしたってあまりにも度を越えている。

 私がケリエル様の体を心配し始めた頃、カーターが言いにくそうにたずねてくる。


「あ~、クリス様。そこは聞かれましたか?」

「え、何を?」

「ケリエル様の移動方法」

「移動って普通は馬車でしょう? あ、それとも馬だったかしら?」

「あ~~~~~、俺からは言えませんね。ケリエル様から聞いてください」

「?」


 よく分からないが、移動方法なんてそんなに気にすること?

 確かにそこを短縮できれば、かなりの時間は取れるようになる。

 ケリエル様は魔力量が多い一流の魔法騎士だそうだが、もしかして転移魔法でも使えるのかな?

 転移魔法とはその名の通り、物質を転移させること。人も同じだ。

 つまりここから違う場所へと一瞬にして移動することができる魔法なのだ。

 その魔法が使えれば、魔法騎士団から魔法研究所、はたまた私の家へも一瞬にして移動することができる。

 けれど転移魔法はかなりの魔力に加え、高度な技術をようすると聞いたことがある。

 だから魔法使いが極端に減ったこの国では、それを使える者は最重要人物として王族が管理している。

 いくらケリエル様が優秀とはいえ、流石にそこまではできないだろう。

 ほとんど幻扱いの魔法ではあるが、それが使えるとなると今頃ケリエル様は王族の監視のもと、城に住まなくてはいけなくなっているはずだ。

 今のような自由が与えられるはずもない。

 でも、もしかしてカーターの今の口ぶりは……。

 私はカーターを見たが、ニカッと笑われてはぐらかされた。

 うん、これ以上訊いても何も答えてくれなさそうだ。

 私は改めてケリエル様に訊いてみようとおもった。が、その前に我に返る。


 ケリエル様の気持ちを保留にしている私が、どんな顔して会えばいいのだろうか?

 ここはケリエル様の屋敷なのだ。

 絶対に朝から会ってしまう。

 私は一気に汗が流れだし、眠れない夜を過ごす羽目になるのだった。

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