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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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魔法研究所

 クリスの二つの呪いの基礎となっているのは、やはり同一の古代魔法だった。

 ちょうどクリスが女性になる前に解読できた古代魔法を、新しい呪いの方でも確認すると、個人の厄介な魔法の中にそれは隠れていた。

 となれば、後は個人の魔法なのだが、こちらの方は別人が作った物なので同一のはずはないのだが、ただなんとなく性質が似ているような気がする。

 どちらも、かなりひねくれた人物であると思われる。

 その上、どちらも複雑な術式を作り出してはいるのだが、基本には基づいていない。

 細かな術式を幾重にも重ね合わせて、作り上げている。

 これを一から考えて作り込んだのだとしたら、ハッキリ言って天才だ。

 こんなものを作り出す天才が二人もいるとは、正直思えない。

 どちらかというと、中途半端な知識の持ち主が自分を天才だと勘違いして、やけくそで作った結果、奇跡的に出来上がったものという方が正しい。


 本当のことをいうと、古い呪いはかなり前に何度か解けかけたことがある。

 十年近くもあったのだ。

 どんなに複雑な術式でも、丁寧に解いていけば解けないことはない。

 だが、現実的に行動を移すことはできなかった。

 その理由が信じられないことに術式が薄れていって、消えた部分が自動的に書き換えられたということ。

 ありえないだろう。自動補正されるなんて、そんな滅茶苦茶な呪いがあるものか。

 現代の魔法使いに、そんな高度な魔法が使えるはずがない。

 だがそれも、偶然の産物でできた呪いだから、人間の使える範疇外でできたものだからと想像すれば納得もできる。

 納得はできるが、こうなるとどうすればいいのだと暴れたくなる。

 だって、どう考えても下手くそな人間がやけっぱちで作った、本人にも分からない二つもの呪いを、どうやって同時に解くのだ⁉



「ハアァァァ~」

「「「「「申しわけありません。イブニーズル団長!」」」」」

「………………」


 私が大きな溜息を吐いて机に突っ伏すと、突然周囲にいた魔法研究所の職員が一堂に頭を下げた。


 本日は、クリスの呪いを解くために研究所を訪れていた。

 いつもの席で魔法書を山のように積んで読みふけっていただけなのだが、何故かここに来ると職員が私の一挙手一投足に注目をしているのである。

 そうして少しでも私に変化があると、このように意味の分からない態度をとるのだ。

「……溜息を吐いただけだろう。別に君達が謝ることはないはずだが。それとも何か謝らなければならないことを、しでかしたとか?」

「い、いえ。滅相もない。そんなイブニーズル団長に何かしようだなんて、そんな命知らずなことできるのは、所長だけです」

「……君達は、私をなんだと思っているのかな?」

「いつもの君の態度が、皆を怖がらせているんだ。少しは力を抜いたらどうだ? せっかくの美貌が台無しだぞ」

 職員達が私を無駄に怖がるのを注意していると、魔法研究所、所長ペルセウス・トウハーがちょうど入室してきた。


「悪いがペル、これが私の普通だ。何も気を張っているわけではない。それに私が気になるのなら、お前の所長室を貸してくれたらいいだろう」

「一度許可したら、本で部屋を埋め尽くしたのは誰だ。私の仕事ができなくなる。この部屋にだって、気を利かせた職員が特別に場所を作ったんだぞ。可哀そうに。狭くなった部屋に入れなくなった職員数名は、別の部屋に身を寄せているんだ」

「ならば私の執務室に持っていかせろ。研究所から持ち出し禁止と言うから、仕方なくここで読んでいるのだ。それか王太子殿下に言って、建物を増築させるか?」

「大切な魔法書をホイホイと外に持ち出せるか! しかも、殿下に無理が言えるのはお前だけだ。あああ、こんな不毛な会話はもういい。それより眉間の皺をほぐせ。縦皺が残るぞ」

 そう言って、私の眉間を人差し指でグリグリと揉む。


「やめろ。別にそんなもの、残ったところで困らない」

 私はバシッと、彼の手を払いのける。

「婚約者が嫌がってもか?」

 ニヤニヤ笑いながら言うペルに、私はパッと顔を上げる。

「そうなのか? 女性はそんな皺がある男は嫌なものか? いや、クリスならそんなこと気にするはずはないが、いや、でも、しかし……」

 私が困惑しながらクリスのことを考えていると、目の前にいるペルをはじめとした職員達が、ポカ~ンと口を開いて私を見ていた。

 なんだ? もうすでに縦皺は残ってしまっているのか?


 私が訝し気な表情で全員を見ていると、ハッと我に返ったペルが「いや」と困惑気味に応える。

「ちょっと、僕の部屋に移動しようか」

 そう言って、私の背中を押して所長室へと移動する。

 部屋に入ると、ペルは大きな溜息を吐いた。

「ハア~、君が女性のことでそんな態度をとるのは初めてだから、ちょっと吃驚した。婚約者殿を溺愛しているのは分かっていたが、想像以上だな」

「興味もったら殺す」

 半眼で返すと、ペルは黙ってしまった。

 クリスに興味をもつなど、百年早い。

 これ以上クリスの話はさせないと睨みつけると、ペルは降参というように両手を上げた。

「分かった。もうその話はしない。だから普通に話をしよう」

「話を逸らしたのはお前だ。まぁ、いい。今何時だ?」

「ん? そろそろお昼だな。一緒に食堂へ行こうか?」

「結構だ。そろそろ騎士団の方に戻らないといけない」

 時間を見て、昼頃だというペルが昼食に誘うが、私は本職である魔法騎士団に戻らないといけないので、誘いを断った。


「相変わらず忙しそうだな」

 そんな私を見て、ペルは呆れた顔をする。

「仕方がない。殿下との約束だからな」

「それもそうだが、呪いの方。お前でも、まだ解けそうにないのか?」

「書き換えられなければどうにかなるが、新しいのが邪魔してる」

「ああ、それな」


 ペルは昔から魔法を調べるのが大好きで、本人は防御魔法を得意とする魔法使いだ。

 魔法の知識なら、彼をおいてはいないだろうといわれる稀代の天才。

 一目置いているこの男に、私はクリスの件も相談している。

 古代魔法が特定できたのも、この男の存在があってこそ。

 だから他の奴らより、少しは愛想も良くしているつもりだが、それでも足りないといつも言われてしまう。


「それで、愛しのクリスちゃんとはいつ会わせてくれるんだ?」

「一生会わせない」

 先程クリスの話はもうしないと言ったばかりなのに、もう撤回されている。

 信用ならん奴に、天使のクリスを会わせるわけにはいかない。

「……お前には黙っていたが、一度クリスティーンの時に会っている」

 半眼でそう言うペルに、私は笑顔で片手を上げる。

「コロス」

「待て待て待て!」と私が魔法を放出するのを悟ったペルは、慌てて私の片手に飛びつく。

「会話が成立しない。まるで殿下と話しているようだ」

「一緒にするな。それと次、私のクリスを呼び捨てにしたら本当に殺す」

 私は冗談だというようにペルの手を振り払うと、ペルは疲れた様子で溜息を吐いた。

「はいはい、分かったよ。騎士団に戻るんだろう。じゃあな」

「馬鹿を言うな。今クリスの話をしただろう。ちゃんと話せ」

 踵を返す悪友の首根っこを摑まえると、私はこちらに振り返らせた。

「……戻るんだろう?」

 嫌がりもせずに、なすがままのペルは胡乱な目を私に向けるので、私は己の持論を説く。

「私にとって最優先事項は、いつ何時でもクリスだ」

 ペルの目が、死んだ魚のようになった。

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