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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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美少女、再び ①

 この日を待っていました!


 心から待ちわびたこの日は突然、カーターの「なんか、ください」の言葉から始まった。

 魔法に関する持ち出し禁止の書物を、魔法研究所から王太子殿下の名のもとに無理矢理借りてきて、自室で読みふけっている所へカーターがノックもなしに現れたのだ。

 この男の無礼な態度はいつものことと流していたが、急に何かを強請るとはどういうことだ?

 胡乱な目で見つめてやると「俺の話を聞いたら、褒美を上げたくなるのはケリエル様の方ですよ」なんて、ふざけたことを言ってくる。

「どうして私が、お前に褒美をやらなくてはいけないんだ? まさかクリスが女に戻ったわけでもあるまいし」

「はい、そのまさかです。良かったですね、ケリエル様。吃驚するくらいの美少女に成長されていますよ」


 …………………………………………………。


 プハァッ!

 きっかり三分は息が止まった。……死ぬところだったかもしれない。

 私は机の上に書物を叩きつけると、椅子から立ち上がりカーターの胸倉を掴んで宙に釣り上げた

 ブラ~ンと床から足が浮いているというのに、ヘラヘラと笑っているカーター。

「言っていい冗談と悪い冗談があるぞ」

「やだなぁ。俺がケリエル様に冗談なんか言えるはずないでしょう。うっかり地雷踏んで殺されたら堪りませんもん」

「もん、言うな。気持ちが悪い。……まさか、本当の話か? 本当に、クリスが女に戻ったのか?」

 ふざけた態度のままのカーターだが、どうやらこれは冗談ではないらしい。本当に本当の話? 私はカーターに確認する。


「はい。この目でしっかり二つの膨らみを見てきました」

「コロス」

 胸倉を掴んでいた私の手に力が入る。

「いやいや、不可抗力ですって。因みに俺の服なんかも着てくれたりしましたけど。今は伯爵夫人の昔のドレスを着ていますよ」

「一刀のもとに斬り伏せられるのと、殴り殺されるのと、どちらを選ぶ?」

「恐怖の二択! いやいや、俺なんかに構っている暇なんてないでしょう。クリス様が不安な表情で、ケリエル様が来られるのを待っていますよ」

 クリスの不安な顔を想像して、私はカーターを放り投げる。

 ちゃんと受け身を取るところが小憎らしい。

 そんなカーターを放っておいて、私は急いでクリスの元へと飛んだのだった。



 キラキラキラキラキラキラキラキラ☆


 ま、眩し過ぎる。

 十年ぶりに見たクリスの女性姿。

 子供の頃と現在の男の姿とを思い出しても、その数倍は美しい。

 デレ~っと顔が崩れないように気を引き締めるが、隣に座るクリスが緊張しているのがよく分かり、そのあまりの可愛さに顔が緩むのを抑えることができない。

 ただ、クリスの呪いは解けたわけではなかった。

 魔法の流れを調べると、どう考えても複雑な呪いが増えているように感じられる。

 嘘だろう~っと思いながらも、ひとまずはクリスが女に戻ったことが嬉しくてたまらない。

 つい今はまだ、ぬか喜びになるので言えなかった古代魔法の解読だけできたという結果を口にしてしまった。

 するとクリスは驚きのあまり、勢いよくこちらを振り返った。

 その拍子に、クリスの豊かな胸が私に当たる。

 顔の至近距離にも鼓動は鳴るが、やはり胸。

 今までにないその柔らかさに思考が止まりかけたその瞬間、クリスが勢いよく後ろに下がり、そのままソファから落ちそうになる。

 慌てた私は、再び彼女を抱きしめた。

 ああ、本当に女性に戻ったんだね、クリス。

 恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして俯いてしまったクリスの気を逸らそうと、呪いの話に戻す。


 難しい表情をするクリスを見ていて、つい昨日までの彼女の姿を思い出す。

 男の姿を受け入れたクリスは、いつも無表情で社交界では氷の貴公子と呼ばれていた。

 なんだ、それは?

 容姿の綺麗な、無表情の男性によく使われるありふれた呼び名に、お前らにクリスの何が分かる? と周囲を睨み威嚇していた私だが、その状況を必死で許容していたクリスの気持ちを考えると、女性の姿に戻したいと思うのはただ単に私一人の我儘ではないのかと、唐突に思ってしまった。

 女性に戻りたいというのはクリスの願いでもあると思っていたのだが、もしかしたら彼女はもう、男として人生を生きようと腹を据えているのかもしれない。

 私はつい彼女に「確認なんだけど、クリスは女の姿の方がいいんだよね?」とふざけたことを訊いてしまった。

 するとクリスの澄んだ瞳からは、大粒の涙がこぼれ始めた。

 私を凝視したまま、何も言わずにポロポロと涙を零す彼女を見て私は……ぞくっとした。

 やばい、何か違う性癖が目を覚ます。

 私は慌ててクリスに謝り、どうにか泣き止んでもらおうと必死になった。

 けれど本心はその涙をずっと見ていたいような気持もあり、クリスが泣き止むまで私はただひたすら己の欲望と葛藤していた。


 泣き止んだクリスは「申しわけありません」と頭を下げたが、彼女を泣かしたのは私だ。

 私はもう一度謝罪し、改めてクリスの今後の生き方を相談した。

 とりあえずは、クリスティーナとしての人生を歩もう。

 クリスティーンは一旦封印して、もしも何かあればまた戻してもいいのだから。

 彼女は完全にクリスティーナに戻ってしまうことに、困惑を示していた。

 いつまた男に戻るか分からない状況で、令嬢生活を送ってもいいのかと。

 だけど私は、せっかく女の姿に戻ったチャンスを見逃したくはなかった。

 ずっと望んでいた。

 ずっと待っていたんだ。

 女性のクリスと、共に送る生活を。


 私はクリスの気持ちが揺るがないうちに、幼い頃の彼女に送るはずだったネックレスを渡した。

 クリスの初めては、どんなことだって私でありたい。

 彼女にアクセサリーをプレゼントする特権も当然、私にある。

 クリスは花が綻ぶような笑顔を向けてくれた。

 女性の姿に戻って、初めて向けてくれた笑顔。

 私の心臓は、一時機能を停止したはずだ。

 それほどの迫力が、彼女の笑顔にはあった。

 ああ、クリス。

 私の愛しいクリス。

 君の人生は今までもこれからも、ずっと私と共にある。

 決して離しはしないからね。

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