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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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十年という月日 ①

 久しぶりに会ったクリスは、昔のままの彼女だった。


 女性の姿に戻ったと連絡を受け、慌てて来てみたら目の前には昔のままの、いや、以前より成長してすっかり美しくなったクリスがいた。

 産まれた時から容姿の整った、玉のように可愛い赤子だったクリスはそのまま成長するにつれ、国一番の美女になるだろうと噂されていたが、十年の時を経てその噂通り、天使だったクリスは女神へと進化を遂げていた。

 思わずにやけてしまうのも、仕方がないことだろう。



「いや~、ケリエル様の言葉を信じていなかったわけではありませんが、本当に吃驚するくらいの美少女ですよね。クリス様は」

「当然だ。だが、今の姿は私の想像以上だった。男の姿でも十分に可愛らしかったが、今はまさに女神だな」

「はいはい。まさかクリス様もケリエル様が自分のことを諦めてなかったなんて、夢にも思わなかったでしょうね」

 クリスの専属執事であるカーターの軽口に、私はニヤリと笑う。

 久しぶりにオルバーナ伯爵家へ顔を出した私、ケリエル・イブニーズルは、先程まではにかむ笑顔の愛しいクリスと楽しい時間を過ごしていた。

 今は、彼女がすぐに必要となるドレスの発注をするということで、席を外した所だった。

 私も後でサイズを教えてもらおう。

 決して邪な気持ちで訊くのではない。

 あくまで男物しか持ち合わせのないクリスに、私からもプレゼントしたいだけなのだ。

 そう、ドレスのためなのだ。


 私が心中で自分の考えに頷いていると、いつの間にかカーターは私の後ろに控えており、クリスが去った扉を眺めてニヤニヤ笑っている。

「……クリスが女性に戻ったんだ。お前も彼女の専属執事の座から引けよ」

「では、ケリエル様の元に戻るんですか?」

「いや、いきなりお前の姿が見えなくなったら彼女も不安がるだろう。このままこの屋敷で働いていろ。伯爵、もう暫くこいつは置いておきます。何かあればこいつに言ってください」

 私は隣でお茶を飲んでいたクリスの父親、オルバーナ伯爵に、この先のカーターの扱いを頼んだ。

「ああ、カーターは頼りになるからね。助かるよ。だが、女の姿で現れた時には呪いが解けたのだと本気で喜んだのだが、そうではなかったのだな」

 しょんぼりと俯く伯爵。

 あからさまに肩を落とすな。クリスが気にするだろう。

 私は伯爵の肩に、ポンッと手を置く。

「いいように考えましょう。元のクリスに戻っただけでも良かったじゃないですか。私も解呪を諦めません。また呪いをかけられたのだとしたら、その呪いも同時に解くまでです。また明日にでもクリスの様子を視させてください。新たな呪いがどのようなものか確認もしないといけませんし」

「ありがとう。君がそばにいてくれて本当に良かった。あの子のこと、これからもよろしく頼むよ」

「任せてください」

 今までもこれからも、彼女の一生は私が看るので義父上は安心してください。という言葉はまだ言えないかな。

 けれど、私の心は彼女が産まれた瞬間に決まっていたのだ。

 彼女こそ、私のただ一人の伴侶だということが。



 彼女が産まれたのは、暖かな日差しがさす午後だった。

 そわそわと落ち着かない伯爵に、一人では耐えられないと懇願されて、何故か一緒に伯爵家で子供が産まれるのを待つことになった父上に連れて来られたのは、今思えば僥倖だったのかもしれない。

 なぜなら彼女の目に映る初めての男は、私だったのだから。


 おぎゃーという可愛らしい大きな声に、弾かれたように部屋へと駆け込んだ伯爵。

 暫くして許可がおり、部屋に入ると泣いて喜ぶ伯爵に捉まった父上を置いて、私は赤子のそばに寄る。

 そして赤子がパチッと目を開いた瞳に映ったのは、私の顔。

 透き通るような青い瞳に吸い込まれそうになった。

 ニコッと笑った赤子に目が離せない。

 可愛い、可愛い、可愛い♡

「ほう、これはなんとも美しい子だね」

 私が放心したように赤子を見つめていると、横から父上がひょっこりと覗き込み、赤子の美しさを称えだした。

 屋敷の者、全員が美しいと声を揃えて褒めそやす。

 クリスティーナと名付けられた赤子は、本当に美しかったのだ。

 それからは暇を作っては、伯爵家に寄った。暇がなくても寄った。

 そんな私の苦労を労うかのように、クリスは私に懐いた。

 このまま私無しではいられないようにしよう。

 私はクリスを徹底的に甘やかした。


 その内にクリスの美しさは評判となり、貴族の間でも美しい令嬢として名前が上がるほどになった。

 王宮内では一目なりとも彼女を見たい貴族から、早く社交界に出せという無茶ぶりが出るほどに。

 当時、十二歳になる王子の伴侶にとの声も上がった。


 冗談じゃない。

 クリスは私のものだ。


 私は真正面から王子に宣戦布告をした。

 まだ七歳だったが、才能豊かな私は王子とも面識があったのだ。

 だから言った。

「クリスは私のものですよ。どんな手を使っても貴方には渡しません」

 十二歳の少年はポカンとした表情になる。

「……え~っと、よく分からないが、クリスという子を伴侶に選ばなければいいのだな」

「そうです。彼女は私の伴侶になりますから」

「分かった。ではお前は魔法騎士団の団長になるべく、努力しろ。そうすれば、大抵のことはお前の好きにしてもいい」

 まだ幼い王子ではあったが、彼は十二歳にして王者の貫禄があった。

 私はクリスさえ手に入れば別にいいですよと言った。

 王子は爆笑していた。


 そうしてじわじわと周りから固め、他の男が彼女の目に映る前に捕まえるべく、彼女の八歳の誕生日に婚約をしようと思っていた私は、あろうことか不気味な魔法使いに彼女を奪われてしまったのだ。

 男の子の姿になってしまったクリスを見て、私は驚愕した。

 性別など、言わなければ分からないほど可愛いままだが……男の子だ。

 大粒の涙をボロボロと流していたクリスは、次第に手が付けられないほど暴れ出した。

 侍女も従者も家族でさえ、そばに寄れない。

 そんな中、私だけは彼女の隣にいた。

 なんてことはない。投げられてくる物をかわせばいいだけなのだから。

 七歳の子供の力では、物を投げるにしてもそれなりに限られている。簡単だ。

 そうして涙ながらに開いた口からは「……わたし、ケリー様の奥様になれないね」なんて言葉が紡がれた。


 はあぁ~?!?

 何を言っているんだ、クリスは?

 いくらショックのあまり出た言葉だとしても、そんなこと私が許すはずないだろう。

 クリスは私のものだ。彼女が産まれた時に、そう決めた。

 例え彼女が彼になったところで、それは変わらないんだ。

 イタイ奴だと思われようと、彼女が私から離れることは許さない。

 私はそんな気持ちを彼女に悟られないように、ニッコリと微笑んだ。

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