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呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


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決意させたものは

「フフフ、ウィリー様ってば。そんなに照れなくても、いいじゃないですか。これ以上は、何もしませんから」

「何もって、何をするつもりなんだ? ああ、そんな所、触るんじゃない。あ、こら。やめ……。やめろっつってんだろうが!!!」

「きゃっ、怖い。でも真っ赤になっちゃって、可愛い」

「…………………………」


 目の前でウィリーが死んだ。


 クラリウスが撤退した後、再びウィリーに頑張ってもらっていたのだが、どうにも効果は得られない。

 今もまた、昼休憩を利用して人目のつかない庭でチャレンジしてもらっていたのだが、結局、ウィリーが屍になっただけだった。

 人が来ないのをいいことに、職員は彼の体を撫で回し、くっつき倒した。

 我慢の限界がきたウィリーは、叫びと同時に地面に突っ伏してしまったのだ。

 ビクとも動かない彼が職員にこれ以上いじめられないように、彼の同僚に回収に行かせた。

 戻って来たウィリーを確認すると、どうやら彼は気を失っていたようだ。乙女か⁉


「ウィリーは、もう駄目ですね。いいように弄ばれているだけで、なんの情報も得られない。パティアナ嬢の肌が艶々していくのと反対に、彼の顔はドス黒くなっています」

 ペルが気の毒そうに言った後、、私と王太子殿下は「大丈夫、まだまだいける。限界まで試してみよう」と拳を握り締めたのだが「だから、今がもう限界なんでしょうが!」と怒鳴られてしまった。

 回復薬を飲ませて、もう一度トライ♡ と押し出そうとしていたのだが、とうとうドクターストップがかかってしまったようだ。

 騎士を一人葬るとは、職員やはり侮れぬ。



「しかし、どうするかな。これでは、どうにも動けない」

 王太子殿下とペルが悩む横で、私は億劫になってきた。

「……なんだか、だんだん面倒くさくなってきました。もう理由なんて、どうでもいいじゃないですか。騎士を一人、再起不能にしたという罪で捕らえて拷問しましょう。きっと吐きます」

「できるか!」

「……それは、最後の手段だ」

 ペルが叫んだ横で、王太子殿下が呟いた。

 ペルのジト目に流石にまずかったと思ったのか、視線を逸らす王太子殿下。


「だが、何故彼はあれほど憔悴してしまうのだ? 確かに過度な接触とはいえ、相手は令嬢だぞ。ウィリーに特定の女性がいるならば別だが、そういう噂は聞いたことがない。女性が苦手とか、そういう心情的なものでも、ないのだろう?」

 王太子殿下がペルの気を逸らすように、先日話した疑問を持ち出す。

「ですから、職員が生気を吸い取っているのでは?」

「……冗談は、もういいから」

 どうやら本当に冗談と捉えているようだ。

 ちょっと真面目な顔になる。


「いや、真剣な話しです。職員がもしもパフィーネだったら、千年以上前の人間が生きていることになります。他者の生気ぐらい吸わないと、今の状態を維持できるはずがない」

 ペルが何かに思い当たったように、あっと口を開いた。

「何かの書物で読んだことがあるが、サキュバスとかいう夢に出て来る悪魔のことか? 確か性行為で生気を奪う……え、え? てことは、ウィリーとは、もう……」

「いや、あれは違うだろう。生気か精気? どちらにしろ、職員のアレは死ぬほどのものではないし、反対にそういう悪魔なら、ウィリーがあんなに嫌がるはずがない。それにサキュバスは妖艶な美女だろう。職員とは系統が違う」

 真っ赤になるペルに、私は呆れてしまう。

 研究馬鹿の知識は凄いと思うが、ぶっ飛び過ぎだ。


「現状からすると、接触するだけで少量ずつ生気を奪えるのではないか? そう考えれば理解できる」

「それならば、僕達は? 接触していないから無事だったのか? あ、でも僕は何度か触れられたけど、無事だったよ」

「私は奴との間に、三人分は開けてある。殿下も触れさせてはいませんよね⁉ 多分、ペルが無事だったのは、接触回数が少ないのと膨大な魔法量のお蔭じゃないかな? 少々吸われてもビクともしないからな。職員が私達にこだわっているのも、その辺りが原因のような気がする」

 なるほどと頷くペルの横で、王太子殿下がチラリと私を見る。


「そう考えれば、やはりケリエルが動くしかないのでは? 彼女の興味があって無傷でいられるのは、君だけだろう。ペルでは振り回されて終わりだ」

 振り回されると言われて項垂れるペルだが、私が最適だとの言葉に首を横に振る。

「それはケリエルが納得しません。王太子殿下もいい加減、諦めましょう。この件に関しては、こいつが言うことを訊くはずが……」

「いいですよ」

「そう。いいですよ……って、え、いい?」

「ですから、私が行きますよ。これ以上は時間の無駄です」

 あっさりと頷く私に、ペルが呆けた顔をしたが隣ではそれ以上に驚いた表情をしている殿下がいた。

 なかなかレアだ。

 まあ、この反応も仕方がないけどね。

 今まで散々嫌だと突っぱねて来たからな。


 暫くして我に返ったペルが、私の腕を掴んでくる。

「いいのか? 本当にいいのか? あれほど嫌がっていたのに、どうして? 土壇場でやっぱり嫌だと言っても……」

 本気かと顔を近付けてくるペルが鬱陶しくて、私は彼の腕を跳ねのける。

「煩いよ、ペル。私はいい加減、この状況に飽きたのだ。それに……」

「それに?」

 二人が耳を澄ませる中、私はスゥ~っと深呼吸する。

「これ以上クリスを女性に戻すのが遅くなると、逞しくなってしまうのだ」

「は?」


 呆ける二人に、私は苦渋の説明をする。

「クラリウスとして女性を口説くことで私の役に立っていると思っていたクリスだが、それがあの職員には利かなかった。それに酷く責任を感じてしまったようで、最近ではカーターに剣を教えろと言ってきているようなんだ。男の姿で私の役に立つ方法を模索し始めたんだが、どんどん私の望まぬ方向にいっている。流石に父上には声をかけていないが、父上がそれを知ったら、嬉々として鍛えてしまうだろう。このままではカリスタ・サンシャル伯爵令嬢みたいにムキムキになってしまうのだ。あの美貌に、だぞ。私はそうなる前に阻止したい。そのためならば、あの職員に笑顔の一つも振りまいてみせるさ」

 そう言い切った私に、二人は微妙な顔つきになった。


「ああ、うん。気持ちは分かる」

「僕達も早期解決に向けて、頑張るよ」

「頼む」

 二人の憐れみを一身に受けて、私は覚悟を決める。

 ムキムキクリスだけは、死んでも見たくない。

 どんな彼女でも愛せるが、それだけは阻止したいと、私は二人に引き攣った笑みを見せるのだった。

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