ますますおかしい
「あれは、王城に出入りしている商会の者からの密告だったな。マーシオ商会のポリトン。二人も知っているだろう」
王太子殿下があげた人物に、怪しい者ではないだろうと同意を求められ、頷くペルと私。
「そうですね。彼は二十年近くも王城に出入りしている古株の商人です。今更嘘を吐く必要もないですし、殿下のお耳に不確かな情報を入れて気分を害するような愚かな行為もしないでしょう」
ペルの賛同に王太子殿下も頷く。
私も同意見ではあったのだが、ふと引っかかるものがあった。
「マーシオ商会、ですか。あそこは薬草も幅広く取り扱っていますよね。王宮で必要な珍しい薬草も、あの商会から手に入れています」
「ん、何か気になることでもあるのか?」
私の言い方が気になったのか、王太子殿下がたずねてくる。
「いえ。ただ、カロッツ子爵の偽回復薬に使われていた大量の薬草のことで、確かに子爵領で栽培はしていたのですが、それにしては数が微妙だなと」
「どういう意味だ?」
首を傾げる王太子殿下に、自身の疑問の説明をする。
「回復薬に使う薬草は、通常の草の成長より倍はかかるものなのです。それゆえ回復薬は、作り手の魔法使いが減っただけではなく、薬草自体も貴重なのです。他の魔法薬も然り。子爵領内で見つけた栽培地だけでは、あれほどの回復薬を作り上げるのは、なかなか難しいのではないかと」
「回復薬とはいえ、偽物だからな。その薬草は使われていなかったのではないのか?」
偽物だからいい加減なのだろうと答える王太子殿下に、私は首を横に振る。
「いえ、ペルにも調べてもらいましたが、材料は本物と品の善し悪しはありますが、さして変わりはありませんでした。しいて言うなら、魔法使いが手掛けたかどうかですよね。魔法が混入されているかどうか」
「確かに、カロッツ子爵は魔法使いを一人も確保できていなかった。では材料が一緒なら効き目があるとでも思ったのか? だから、あれほどまでに悪びれてなかったのだろうか?」
王太子殿下は、捕まった際のカロッツ子爵を思い浮かべているようだった。
「そこらへんは言葉を濁していましたが、おそらくそうでしょうね。正直、魔法のなんたるかを一切、理解できていなかったのではないでしょうか」
「愚かだな」
ただでさえ、薬というのは毒と紙一重の物がある。
分量を間違えれば、死に至ることだってあるのだ。
その中で、この国の魔法薬というのはより効力を発揮できるように、魔法で微妙に調整することが必要なのである。
ただ材料を混ぜて、完成なわけではない。
魔法と材料と合わせてできあがる魔法薬。
貴重価値があるのは当然といえよう。
「そのような知識もなく、よく魔法研究所にちょっかいかけてきたな」
不愉快だと顔に書いてあるペルに視線を送る。
「だが、以前は流通に関わろうとしていただけで、現物に手を出そうとは考えていなかったのだろう。ここまで強引な手を使う男だったのか?」
「先程から、ケリエルは何が言いたいのだ?」
王太子殿下がしびれたように、要点を言えと詰め寄って来た。
私は苦笑しながら応える。
「いえ、職員が裏で手を回していたと考えれば全てが繋がるなぁと」
「だから、どういう意味なんだ?」
ちょっとイラっとされた。
あれ? これで分からなかったか。
私は二本指を王太子殿下の目の前に掲げて見せた。
「まず一つは、カロッツ子爵は確かに野心家ではありました。ですが、犯罪に手を染めてまで動くような人間ではなかったかと。しかも全く知識のない魔法薬で儲けようなど、一介の商人なら考えないでしょう。裏をかかれたらおしまいですからね。せいぜい国に打診して、おこぼれをもらおうとするぐらいです。それが今回の事件を引き起こした。職員が娘として引き取られてから」
魔法使いである彼女が唆したと考えれば、カロッツ子爵の無知ぶりも短絡的行動も理解できると言うと、二人は眉間に皺を寄せた。
「もう一つは、カロッツ子爵の商会では彼に魔法薬の知識がなかったように、商会でも薬草は扱っていなかった。多分、領内で足りない分の薬草はマーシオ商会から買い取っていたのではないでしょうか。そしてその商会からリークがあった。私達が職員と接触がある前に」
大量の薬草購入に、もしも買い手であるカロッツ子爵が犯罪に手を染めていたらマーシオ商会も巻き込まれるかもしれない。
今のうちに王太子殿下に報告しておけば、何かあっても罪には問われないだろうと耳打ちされたら、商人は万が一のために安全対策をとっておくだろう。
全て彼女が動いていたら……。
「僕達に接触するために、父親に犯罪させたというのか?」
「なるほど。タイミングが良過ぎるという意味が分かった」
ペルと王太子殿下が同時に呟く。
「いや、流石にありえないでしょう⁉ 何故そこまでして僕達に接触したかったのですか? いくらケリエルが好きだったからと言って、ケリエル一人に的を絞っていたわけでもなかった。僕や殿下、今はウィリーにも擦り寄っていますよ。ここまでのことをして接触したって、何も得るものはなかったでしょう?」
ハッとしたペルの言葉に、正論だなと頷いてしまう。
うん、私も同意見なのだが、それでも彼女の行動は怪し過ぎる。
私はペルにも古代魔女パフィーネの話をしてみた。
そして私のとんでもない推理、職員はパフィーネ説を聞いたペルは、呆けた顔をして固まってしまった。
「い、いやいや、ありえない。ありえないでしょう。もしそうだとしても、尚更こんなことをしている意味が分からない」
「ああ、私も同意見だ」
喚くペルに、そうだなと頷く。
「ケリエル~~~~~」
私の態度に恨みがましい目を向けられる。
「いや、私も本当に意味が分からないんだ。裏で職員が動いていて、彼女がパフィーネであると位置づければ辻褄は合うが、動機がさっぱり分からない。十年前からキュリタスを使ってクリスの性別を変え、今現在、父親を犯罪者にした結果、私達に煙たがられている。これの何を理解しろと言うのだ?」
仕方がないだろう、私だって分からないのだと素直に口にしたら、なんとも言えない微妙な顔つきをされた。
「いや、うん。そう言われると身もふたもないよな」
「だったら直接、彼女に仕掛けてみたらいいじゃない」
私達三人が密談していると、突然頭上から女性の声がした。
私はその声の主をジト~っと見つめる。
「母上、こんな所で何をしてらっしゃるのですか?」
「暇だから、来ちゃった♡」
ニコッと微笑む頭上の美女は、紛れもなく我が母上。
王太子殿下がいるというのに、堂々と転移魔法で乗り込んで来てしまっている。
微妙な顔つきの王太子殿下と、項垂れるペル。
王太子殿下は気が付いているとはいえ、こうも大胆に表れては誤魔化しようもない。
せっかく、あやふやにしてきたというのにと、呆れた私は深い溜息を吐く。
「暇だからと言って来る場所ではないと思いますが」
「細かいことは気にしない。それよりもギプラとクリスとカーターが領地経営で忙しくて、ちっとも構ってくれないの。暇だから、こっちに力を貸してあげる」
「いや、力を貸すって」
ペルが眉を八の字にして、母上を見上げる。
「もしも彼女がパフィーネだったら、私の力は必要になるのではなくて?」
「そうですね。ですが、まだそうと決まったわけではありませんよ。理由が分かりませんから」
私がそう答えると、母上は呆れた顔をした。
「馬鹿ね。そんなの他人が考えて分かるわけがないでしょう。本人に聞くのが一番よ。だから、こちらから仕掛けましょう」
ニコニコと笑う母上に、私達三人は頭を抱えてしまった。
「……母上、遊びたいんですね」
「だから暇だって言ってるでしょう」
プンっと膨れる母上に、膨れたいのは私の方だと心の中だけで反論する。
「そんなに暇なら王族の専属魔法使いに戻ってください」
冷静さを取り戻した王太子殿下がニコッと笑うが、母上は速攻拒否した。
「いやよ。それとこれとは話が違うの。ケリエルを差し出しているんだから、それでいいでしょう」
「私は贄ですか。いえ、贄だとは十分理解していますけどね」
息子を生贄にしていると堂々と言う母親ってどうなんだと思うものの、それが母上なんだと諦める。
王族相手でも一切引かない母上は、最強だ。
「仕掛けると言いますが、侯爵夫人には何か考えがあるのですか?」
王太子殿下がわざと魔法使いとしてではなく、侯爵夫人としての意見を問うが、母上はそれに気が付いたのか口角を上げた。
「うふふ~~~」
魔法使いとしての嫌な笑い方に、男三人がビクッと体を揺らす。
クリス以外の女性はやっぱり可愛くないなと思う私は、絶対に悪くないと思う。




