表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われた性別不明の令嬢ですが、知らぬ間に溺愛されていたようです  作者: 白まゆら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/123

古代魔女の存在

「母上、ちょっといいですか?」

「あら、私に相談? 珍しいわね」

 イブニーズル侯爵家の食堂で、遅めの昼食を終わらせた私は、ちょうど通りかかった母上に声をかけた。


 本日ももちろん仕事ではあったのだが、時間が少し空いたのでクリスに会いに来たついでに、屋敷で昼食をとっていたのだ。

 城に戻って食べても良かったのだが、どうせならクリスと同じ空間に少しでもいたい。

 私が食事をとる間、クリスもそばにいてくれるだろうと期待したのだが、急ぎの処理があるとかで父上に呼ばれたクリスとカーターは、領地経営の仕事を手伝いに行ってしまった。

 空気の読めない父上に殺意が湧いたが、クリスがとても寂しそうにしてくれたので、今回は素直に見送った。

 行儀は悪いが、食事をしながらキュリタスが所持していた魔法書を読む。

 そこで私は、あることに気が付いた。

 その時、ちょうど通りかかった天才魔法使いの母上に、意見を求めたのだった。



「キュリタスが使った例の魔法書ですが、これ、この辺り……どこかで見た覚えがありませんか?」

「ん? これ、前に小娘が持っていた魔法書と同じ……あら、微妙に違う⁉」

「ええ。こちらが現本で、あちらは何度も書き直す内に変わったものと思われます。ですので、この辺りの記述は違ったものであったのですが、この辺、禁書の一つに似ている気がしませんか?」

「……禁書って、パフィーネのことを言っているのかしら?」


 古代魔女パフィーネ。

 彼女は歴代の魔法使いの中でも、最低最悪の魔法使いだと言われている。

 その理由が、彼女の発明した魔法があまりにも人を不幸にするものが多かったためらしい。

 呪いともとれるような魔法を幾つも公にしたのだが、大量の魔力を放出するだけで、誰も上手くは扱えなかったのだ。

 そう、パフィーネ以外には……。

 そのため、彼女の手記は禁書扱いとされたのである。


「考えてみれば、最初に発見された暖炉で燃やされていた魔法書の変身する魔法なんてものも、迷惑極まりないものでしかなかったですよね。自分で変身するのではなく、他者により無理矢理変身させられるものですから。しかも解く方法はないとされている。他にも正常な物に有害物を含ませるものや、他者の力を奪うなんてものもありましたよね」

 私が禁書で見たパフィーネの魔法を思い出すと、母上も眉間に皺を寄せる。

「上手く使えば役に立つものもあったのかも知れないけど、パフィーネの術式は複雑過ぎて、まずまともに成功できる者もいなかったしね。そうなれば、ただの迷惑な本としかいいようがないわ。その術式に、確かに似ているかもしれないわね」

 そう言うと、母上はそっと魔法書に手を添える。


「そうね。貴方の言う通り、これはパフィーネの魔法書で間違いないでしょう。この魔法書自体にも嫌な力が籠っているわ。これを持っているだけで、醜い考えに陥るような……。充分、気を付けなさい」

 溜息を吐いてその魔法書を私の方に寄せてくる母上に、私は首を傾げてしまう。

「あれ? 母上その力、取り除いてくれないのですか?」

 そこまで分かっていて、放置? とたずねると、母上はムッと唇を突き出した。

「別に解呪してあげてもいいけど、今からクリスの好きそうな観劇の招待券を、もらいに行こうと思っていたのよ」

 拗ねる母上に、私の顔は引き攣った。


「クラリウスとして出歩くのは、勘弁してもらえませんかね」

 項垂れる私に、母上は意外だというように目を丸くさせた。

「あら、話し合いできたんじゃなかったの?」

「うっ、許可はしましたよ。許可は。だけど、クラリウスとしての彼女は、すぐに女性を口説くので気が気ではないのですよ」

「あら、狭量ね。分かったわよ。なんだか今はギプラも領地の方が忙しそうだし、暫くは大人しくしているわ。その本の解呪ね。了解、任せて」

 そうしてやっとクリスと出かけるのを諦めてくれた母上が、解呪に取り掛かってくれた。

 母上、貴方、ただ単に一人で暇だっただけなんじゃないですか?



 母上に解呪してもらった魔法書を持って、転移魔法で魔法研究所へと戻った私は、すぐに身を隠す。

 いつものように地下倉庫の一つに転移魔法してきた私だが、部屋から出ようとして他の誰かが違う部屋から出て行くのに気が付いたのだ。

 そっと明かりどころか気配を消して出て行く様は、不審者の一言でしかない。

 この際、私のことは横に置いておく。

 暗闇に人影は写るが、人物の判定は難しそうだ。

 ヒラヒラと揺れるスカート部分で、女性であることだけは分かる。

 辺りを警戒しているのか、キョロキョロと顔が動いている。

 そうして、そっと自分の持っているランプに火を灯したその顔は、やはりというか、その人物しかいないというか、こちらが今一番警戒しているパティアナ嬢である。


 明かりを灯した職員は、足元を照らしながら階段を上がっていく。

 コツコツコツと足音がなくなるまで、私はジッとその場で息を潜めていた。

 職員が出て来た部屋を確かめる。

 これも案の定、件の魔道具が置かれていた部屋だ。

 ここに何かあるのだろうか?

 部屋に入り、明かりを灯すが以前と変化はない。

 そうして部屋を後にしようとして、足元の箱にぶつかった。

 痛くはないが扉付近に箱など置いてあったかと不思議に思い、中を見ようとして箱が開いていることに気が付く。

 警戒しながら中をそっと開けてみると、一番上には不気味な模様が描かれた箱が置かれていた。

 そうして蓋の切り目のようなところを開けてみようとして、それが蓋ではないことに気付く。

 どこかに開ける場所はないのかと箱をクルクルと見渡すと、裏側に小さく古代文字が書かれていた。


〔願いを言え〕


 どうやら件の魔道具で、間違いないようだ。



「ドンピシャで当てちゃうケリエルの才能が怖いよ、僕は」

「褒めるな。それよりこの箱、開きそうか?」

「褒めたわけじゃないけどね。確かに中は空洞みたいだし、少し調べてみるよ」

「時間がかかりそうだな。悪いが、頼めるか? 私は王太子殿下に報告に行ってくる」

「了解。任せて」


 地下から出て、そのままペルの部屋へとやって来た私は、手にしていた魔道具を彼に渡した。

 話を聞いたペルは少し興奮した様子で、早速調べにかかっている。

 私は魔法騎士団に出向き、サランに魔道具の捜索を一旦中止させ、王太子殿下に会いに行く。

 たった今見つけた魔道具の報告ももちろんだが、魔法書の古代魔女パフィーネの存在も気になるところだ。

 もしも、先程の魔道具にパフィーネの術式でも描かれていたならば……。


 どんどんと厄介な方向に話しが進んでいるような状態に、頭が痛む。

 地下牢で大人しくしているキュリタス一人の悪事であったなら、こんなにも大騒ぎすることはなかったかもしれないというのに。



 現在の私達は、他国にある怪しい魔道具が国内に持ち込まれたという嘘の理由を作って、動いている状態だ。

 決してクリスの件は、公にしていない。

 魔法研究所の職員には、最初に持ち込まれたのが研究所の地下倉庫であり、今現在目録と総合させて、他に怪しい物がないかを調べさせている。

 魔法騎士団には、その魔道具が紛失したとして捜索させていた。

 一部の部下は事情を知っている者もいるから、色々と話を合わせてくれている。

 先日、パティアナ嬢の動向を探るべく協力させた、第二騎士団のウィリー・フェリス団長には怪しい動きをしている職員で、先日、偽回復薬の首謀者として捕まったカロッツ子爵の娘だと話している。

 ただ見張るのに何故、友人関係にならなければならないのかと、首を傾げていた。

 うん、私もそんなことは望んでいない。

 きっと王太子殿下の嫌がらせ、コホン、暇つぶし、コホン、何か深い事情がおありなのだろうと言っておいたが、何故か私がジト目を向けられた。

 解せぬ。


 ああ、私は一日でも早くクリスの呪いが解きたいだけなのに、何故こんなにもややこしくなっているのだ⁉

 私は廊下を歩きながら、頭をガシガシと掻きむしる。

 クリスの呪いは、正直いつでも解ける準備ができているというのに、解いてしまうわけにはいかないのが現状だ。

 キュリタスが犯人で間違いなく奴に術返しがいくのなら、それはそれで自業自得だし一向に構わなどころが、もっと酷い目に遭わせてやりたいとも思う。

 だがもしも、裏で誰かが意図を引いていたならば、今ここでバレるのは得策ではない。

 パフィーネが関っているならば、尚更だ。

 彼女は千年前に亡くなったとされている。

 そんな過去の人物を、今更どのように利用しようとしているのか相手の出方が分からない以上、迂闊な行動はとれない。

 やはりキュリタスだけの犯行で、パフィーネの存在など杞憂であれば問題はないのだが……。


 そこで目の前の重厚な扉に目を向ける。

 両サイドに佇む護衛騎士に目配せすると、彼らは部屋の中に私の来訪を伝える。

 ああ、パフィーネの話などしたら、今度はどんなに目をキラキラさせてしまうのだろうかと、私は王太子殿下の顔を思い浮かべて、室内に入る前に盛大な溜息を吐くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ