怪しい要素
騒がしい職員が部屋を去り完全に気配が無くなったところで、王太子殿下が声を潜めて話しだした。
「パティアナ嬢の行動、君達はどう思った?」
「万死に値する」
速攻答える私に、王太子殿下は額に手を置いて、違う違うと首を横に振った。
「いや、そういうことではなくてだな。全ての明かりを消して作業していたなど、いくら平民とはいえ節約が過ぎるだろう。せめて部屋の明かりくらいは灯すべきだ。それに間違ったとはいえ、終了した場所をもう一度知らべるなど、あまりにも間が抜けている」
「奴は間抜けだ」
再び答える私に、殿下の額の血管が少し浮かぶ。
「ケリエルは黙っていろ。ペル、君の意見は?」
珍しく遊び心のない王太子殿下に黙れと言われたので、私は二人の会話に耳を傾けることにした。
「そうですね。最後に調べた部屋というなら分かりますが、流石に一番先に終えた部屋を調べるのは、いくらうっかりでもありえないと思います」
この部屋はキュリタスの供述通りだとすると、件の魔道具が置かれていたとされる部屋だ。
当然、真っ先に職員総出で調べている。
それを今頃になって、職員が一人で調べるなどやはりおかしい。
職員が捜索時に加わっていなくても、他の職員から話ぐらいは聞いているはずなのだから。
それとも、あれか。他の職員にも変態行為をして嫌われているのか?
一人だけ通達されてない?
まさか、いじめ⁉
いや、それなら捜索自体知らないはずだ。
しかも、万が一いじめられているとしたら、あの性格の職員だ。私達に訴えないわけがない。
うん、ないな。
私は再び、二人の会話に集中する。
「……殿下は、彼女がこの件に関わっていると思われるのですか?」
チラリと王太子殿下の様子を探るペルに、殿下は苦笑する。
「いや、そこまでは。ただ彼女の行動は少し引っかかるんだ」
「と言いますと?」
「カロッツ子爵の件でもそうだったのだが、どうして彼女は碌に話もしない父親の悪行を知ったのだろうか?」
そこで王太子殿下は先日の大捕り物、カロッツ子爵の事件について話始めた。
私もそこは気になっていたので、今度は真面目に話に加わる。
「それは、確かに私も引っかかってはいました。彼女は子爵の家から出て、研究所の寮に住んでいましたよね。それなのに子爵領内の異変に、あんなにも早く気が付いた。それに、どうして偽の回復薬が集められていると知ったのでしょうか?」
「え、それはこちらからの依頼もあったし、気にかけていたからではないのか?」
キョトンとするペルに、私と王太子殿下は顔を見合わせた。
「いくら気にかけていたからといって、領地内でのことだぞ。それに、それが回復薬だと何故分かった?
容器が似ていたからというだけで、何も書かれていないガラスの瓶だぞ。回復薬と断定するのはおかしくないか?」
「そういえば……」
この国の回復薬は一応、国が定めた容器が使われている。
だがそれは必ずしも、回復薬とは限らないのだ。
基本的には魔法使いが作る魔法薬は、同じ容器に入れられている。
蓋だけ色分けして区別していることも多いのだが、それも作る魔法使いによっては、別の色を選択している場合もある。
必ず回復薬はこれだ。というものではないのだ。
一番多いのは、回復薬なら回復薬だけ。毒消しなら毒消しだけ、といったように一つの薬を箱ごと持ち込むという手法を使う。
受け付けはそれをしっかりと箱ごと管理するので、まず間違うことはないようだ。
だが子爵領内に置かれていた偽の薬はどれも同じで、ぱっと見では分からない。
「彼女は最初から回復薬と断定していた。こちらから子爵を調べるように頼んだとはいえ、回復薬を作っているなど、普通は分からない。彼女の手紙にはしっかりと異常な数の回復薬を領内に集めていると書かれていたのだ」
そこでペルは、王太子殿下の杞憂を悟った。
「……この件に関わっていないとしても、彼女自身に何か裏がありそうですね」
それを聞いて、王太子殿下がニヤリと笑う。
「調べてみるか?」
「誰が?」
「「…………………………」」
速攻返した私の疑問に、二人は無表情で黙ってしまった。
普通なら当然、魔法騎士団である私の仕事だ。
ペルは研究職だし、王太子殿下は命令する立場の人間だから。
だが、私は奴に近付くのは絶対にごめんだ。
例えそれが職務放棄でも、嫌なものは嫌だ。
私はクリスの件からずっとそう言ってきただろうと、半眼で二人を見つめる。
「彼女の好意を利用して、ケリエルが……」
「殺されたいようだな」
ペルが恐る恐る言ってきたが、一番最悪な答えを出した。
私が手を翳すと「ひっ」と言って慌てふためく。
「いや、だって、それが一番早そうだし……」
「コロス」
私が火を出したところで、王太子殿下が信じられない発言をした。
「だったらもう一度、クラリウスに頼んでみようか?」
「王族といえども、コロシマス」
王太子殿下に向きを変えると、ペルが慌てて羽交い締めにしてくる。
「それは絶対に言っては駄目なヤツ! 冗談でも落ち着け!」
ペルの制止に、私はムスッと不貞腐れながらもペルの手を剥がす。
ホッとしたペルが、王太子殿下に右手を挙げた。
「まあ、彼女を使うのは僕も反対です。パティアナ嬢は、クリスティーナ嬢が今現在、男の姿になっていると知っているのですよ。もしバレたら、ちょっと厄介です」
「そうか。だったらペル、頑張ってみるか?」
コテンと首を傾げる王太子殿下に、ペルがフルフルと震えだした。
「どうしてこの三人から選ぼうとするのですか⁉ 部外者を使いましょうよ」
「口が堅くて、そんなことに仕える奴は……」
う~んと悩む王太子殿下に、私は意見する。
「それこそ、そこは騎士団でいいじゃないですか。適当な奴、見繕いましょう」
人身御供を騎士団から差し出そうと言う私に、今まで楽しんでいたはずの殿下がジト目になる。
「……君、いつか絶対に後ろから差されるぞ」
「望むところです」
ニッコリ笑う私に、王太子殿下とペルのなんともいえない目が向けられる。
言っとくけど、自分以外の奴を探している時点で、二人も私と同罪だからな。
数日後、茶髪の男性が王太子殿下の執務室に呼ばれた。
彼はウィリー・フェリス。第二騎士団の団長を務めている。
「厳選に厳選を重ねた結果、君に決まった。おめでとう」
ニッコリ微笑む王太子殿下に、顔を引きつらせるウィリー。
「何事ですか、これは? おい、ケリエル」
後ろに控えている私に振り返るが、私に助けを求められても困る。
決定したのは、王太子殿下なのだから。
「私に聞かないでください。王太子殿下から直接ご説明いただけます」
無表情で答えると、ウィリーはグッと言葉を詰まらせた。
「……拝命、賜ります」
こうして可哀そうな贄は決まった。
ガンバレ、ウィリー。
一応言っておくが、クリスが女に戻った時にお前ら、第二騎士団の連中が彼女を囲み怯えさせたこと、根に持っているわけではないからな。うん、私がお前の名前を挙げたのはそういう理由ではない。いや、本当。マジで。




