第3話
自死の描写があります。
ご注意ください。
これまでも、終わりにしたい、と思ったことはあった。でもできなかった。
残される子供たちは、あんな父親のもとで育てられるのか。
療育に連れていくことも、時間的に無理だろう。
服薬の管理も、アレルギーも覚えられない、仕事人間の父親に「なぜできない」と、ずっと怒鳴られて生きていくのか。
そう思うと、私は子供たちのために生きるしかなかった。
せめて離婚できれば、環境を変えて育てられるのではと思って、離婚したいと伝えたこともあるが、
「働かないお前に子供を養えるわけがないだろ。」
と相手にもしてもらえなかった。
「離婚されると、家庭不和が職場にもバレて恥ずかしい。」
ようなことを言ってもいた気がする。
トイレにこもる数日前から、家庭内別居の準備をしていたのに。
今日から寝室も食事も別にして、経済的に自立したら子供を連れて家を出ることを、まさに伝えようとしていたのに。
つくづくタイミングが悪い。
子供たちにごめんね、と何度もつぶやきながら、ねじねじしたエプロンに首をくくる。
スマートフォンも、ペンも持ってない。
キッチンに立っていたのだから仕方のないことだが、遺書くらいは残したかった。
心残りは残される子供たちだ。
せめて、とても大事に思っていることを伝えたかったのに。
果たして、この方法で首吊りとして成立するのだろうか。
昔、【ドアノブで首吊り】という自殺についてのニュースを見たのを覚えていたので、とっさに行動できたが、睡眠薬か、お酒が必要だったような…。
勢いでいけるのだろうかと、どこか冷静に思いながら、脱力するように首を吊った。
顔は、行き場のない感情で溢れた涙と、鼻水でぐちゃぐちゃだ。
最後に見せる顔がこれではまずいかなと、とっさにトイレットペーパーで拭った。
神様、どうかお願いです。子供達が自分らしく、けれど、人の心に寄り添える優しい人になれるよう、見守ってあげてください。
成長がゆっくりな子供たちを、理解してくれる人に出会わせてあげてください。
どんな罰も受け入れますから。
そう心の中で必死に祈った。
下の階から微かに聞こえてくる、子供達と夫の声を聴きながら
私は眠るように、最後の息を吐いた。