第2話
暴力、暴言の描写があります。
30歳を過ぎた私は、3児の母になっていた。
夫とは若いうちに結婚し、その後三人の子供を授かった。
父親という生き物を私はよく知らないが、夫は仕事と、自分の好きなスポーツ以外興味がない。
協力を頼めば引き受けてはくれるが、細かい指示がないと動けない人だった。
そして、興味のないことは記憶しておくことが難しいようで、子供のこと、家事の仕方、夫婦の会話もすぐ忘れてしまって、
「知らない。」「そんなこと聞いていない。」と言われることが多くなった。
私が作り話をしているかのように、鬱陶しそうに返されるので、夫と会話をすること自体少なくなっていった。
家族が増えても、夫の生活はあまり変わらない。
私の負担がどんどん増えるばかりなのを、夫は知らん顔で過ごしている。
何度も何度も話し合ってきたことを、数日で忘れてしまう。
子供の事を叱っているときは、叱っていない方が子供の気持ちに寄り添うこと。
ヒートアップしてしまったら、必ず片方が間に入って止めることを、何度も伝えてきたのに。
夫は私への愛情を持っていないのだろう。
母親や家政婦の代わりぐらいに思っているのかもしれない。
まさに子供たちの夕飯の支度をしているとき、次男の泣き声が響いた。
その後、夫の怒号と、長男の叫び声が聞こえたので、慌てて子供部屋へ駆け寄った。
夫が明らかにキレている状態だったので、制止に入った。
兄弟喧嘩ではよくある些細なことでも、夫は子供に掴みかかるようにして怒鳴り、イラつくと物を投げつけることさえあった。
子供の喧嘩は、どちらも手を出してしまうので、
まずは状況を把握してから、暴力はいけないことだと教えるのが私のやり方だが、
夫は、兄が弟に手を出すことが許せないとキレてしまう。
大人が体の小さい子供に、怒鳴ったり手を上げることも、弱い者いじめで同じ暴力だと、夫自身学習できないようだ。
もう何度同じことを繰り返すのか。
自分のやり方を変える気がない大人は面倒だ。
そう思いながら、あなたのやっていることは、暴力で子供を脅しているのと同じだ、子供が怪我をするからやめてと、夫に苛立ちながら伝えると
「お前だって、子供に切れるだろう!」
「子供を正すために怒って何が悪い!」
「うるさいから部屋から放りだしただけ。子供が勝手に痛がってるんだ!」
「お前がやっていることは、言葉の暴力だ!違うのか!」
などと、キレる対象を私に変えて怒鳴り散らした。
もう限界だった。
三兄弟全員が発達障害の指摘を受け、それぞれ通院、薬物療法、療育…
大変だったが、自分の子供だから頑張ってきたのだ。
うすうす感じていたが、子供たちの特性は、夫にも当てはまるところが多かった。
こちらの会話が、相手に全く届かず、伝えたことも忘れてしまって、同じ失敗をずっと繰り返す。
子供はまだ成長している途中で、都度教えていくものだからと割り切れたが、
私は夫の母ではない。
30歳を過ぎても尚、子供のように言い訳ばかりして、自分の非を認めない、
特性の理解も、子供たちの事も覚えておけない夫に、疲れてしまっていたのもある。
「私は母親として間違っているみたいだから、お金を払ってシッターを頼んで。
子供たちは、今のあなたによく似ている。
自分だけが正しいと思い込んだ世界にいる。
それじゃあ一緒に暮らす人が、どれだけ気を使って生きているのかもわからないのね。
あなたは一生変わらない。
離婚する気はないというなら、子供たちの事をよろしくお願いします。
何にもできないだろうけど、私はもう疲れたから。」
そう言い残し、二階へ駆けあがった。
唯一鍵のついたトイレの中で、自ら人生を終えようとしていた。
所詮、専業主婦。どこにも逃げ場はない。