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涅槃寂静の戦い~怪物あふれる世界で人間不信は最強に至る~  作者: 鴉真似
一章 怪物を喰らう怪物
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第4話 避難民


 多財餓鬼との一戦から一晩が明けた。


 朝になると、桃弥は月那にスーパーの防衛を任せ周囲の見回りに出かけた。見回りとは言ったものの、ようは餓鬼を狩って能力値を上げていた。


 桃弥の立てた計画は一日おきで外征組と留守番組を交代し、狩りを行うものである。


 月那には危険があればスーパーを捨てて逃げるように言ってあるので、一人で留守番しても問題ないだろう。


 そう判断した桃弥だが、一つだけ大きな誤算がった。


 そしてそれは、昼前に発覚する。


 桃弥餓鬼狩りを済ませスーパーに戻ると、住人が3人ほど増えていた。


「う、うめ、うめぇよ」


「ああぁ、ありがとう、本当にありがどう!」


「もっと、もっとくれ! 腹が減って死にそうなんだ」


 二人の男と一人の女がスーパーの中にいた。三人ともボロボロの服を身に纏い、薄汚れた姿をしていた。


 そんな三人のうち、男二人は食事にがっつき、女性は月那の手を取って泣いていた。


 月那はどこか引きつった表情で愛想笑いを浮かべていたが、桃弥が戻ってきたのを確認するとすぐさま駆け寄った。


「と、桃弥さん。お帰りなさい」


「あー、ただいま。で、これは?」


「す、すみません、勝手に中に入れてしまって。その、見張りをしていたら、あの方たちが近づいてきて、食事に困っているから中に入れてほしいって言われたので、その、えーと」


「……事情は大体わかった」


「すみません、勝手なことを」


「いや、気にするな。これは俺のミスだ」


 しかし、少々まずいことになった。計画の修正を余儀なくされた桃弥は、思考の海に意識を沈める。

 

 

 ーーバリケードを築いたのが失敗だったか


 ーー外から見れば人がいるのは明らか


 ーー避難民が集まってくるのも仕方ないだろう


 ーー今からでもバリケードを撤収すべきか?


 ーーいや、もう手遅れだろう


 ーーだったら、計画を大幅変更するしかない

 


「月那、食事を用意してくれ」


「わ、わかりました」


「あと、今日の午後の狩りは月那が行ってくれ。取った分の色珠は全部使っていい」


「え? 一日交代じゃなくてもいいんですか?」


「あー、少し急ぐぞ」


 こうして、計画を大幅に前倒しにすることを決意する桃弥だった。



 ◆


 

 3人の避難民を受け入れたことで続々と人が集まってしまい、夜には8人もの避難民が集っていた。


 その間に何度か餓鬼の襲撃を受けたが、桃弥が難なく撃退した。


 それを見た避難民たちは歓声を上げ、次々と餓鬼たちへの恨み言や桃弥たちへの称賛を口にした。


「ざまあみやがれ、化け物共が」


「人間様の力を思い知ったかくそどもが」


「わははは、今夜は宴だあ! 飲むぞ! もう俺たちは、解放されたんだ!」


「あなた、すごいわね!」


「ああ、若いのに立派なものだ」


 だがそれらの言葉は、桃弥には耳障りで仕方がなかった。


(もって三日ってところか)


 食料だけではない。桃弥の精神衛生的にも、三日が限界である。


 

 ◆


 

 翌日、桃弥と月那は同じことを繰り返していたが、前日とは決定的に違う点がいくつかある。


「た、助けてくれ! いま、化け物に追われてるんだ!」


「ええ、もう大丈夫よ。さあ、入って」


「お願いだ、食べ物を……お腹が空いて死にそうなんだ」


「大丈夫よ、食べ物ならたくさんあるわ。みんなで分け合いましょう」


 まず一点目は、初日に避難してきた女性が我が物顔で避難民を招き入れていたこと。


「桃弥くん、あの人たち追われてるんじゃない? 助けてあげたら?」


「……」


 そして、女性と同じく初日に避難してきた男がドヤ顔で他の避難民に指図していた。


「いいか。俺はこんなかじゃあ一番の古株だ。お前ら新入りはちゃんと俺の言うことを聞けよ」


 気づけば避難民の数は20を超えていた。


 これが人間の醜悪さであり、桃弥が他人を信用しない原因でもある。


 こちらが何も言わないのをいいことに、好き勝手やりやがる。


 避難してきた人たちは殆どが大人。桃弥たちが若いとみて、気づけば上から目線に接し始めた。内心では「扱いやすいガキで助かるわ」とでも思っているのだろう。


 しかし、それは彼ら自身の首を絞めるとは、まだ誰も気づかない。


 桃弥はすでに、彼らを見限っているのだから。



 ◆


 さらに次の日。


「月那、ここを出るぞ」


「え? もう、ですか?」


「あー、やるべきことは済ませた。もうここには用はない」


「わ、わかりました。でも……」


 そんな二人の会話を聞きつけたリーダー面をしていた女性が慌てて走り寄る。


「ちょ、ちょっと桃弥くん!? 何言ってるの? ここを出るってーー」


「聞いての通りだ。俺たちはここを離れる」


「な、なんで? 食料ならまだたくさんあるし、ここを離れるメリットてないんじゃない? お姉さんが仕切ってるの気に入らないっていうなら、他の人でもーー」


「そういう問題じゃない。俺たちにも予定がある」


 取り付く島もない桃弥。それを見た女性ターゲットを変更する。


「じゃ、じゃあ、月那ちゃんだけでも残らない? ね? ほら、女の子が男の子と二人旅って何かと危ないでしょ? あ、別に桃弥くんが危ないと言ってるわけじゃなくてだね」


「え、あ、えーと」


 どうすればいいか分からず、月那は女性と桃弥を交互に見る。


 そして、騒ぎを聞きつけた避難民たちは続々集まってくる。


「なぁ!? 二人はここを出るのか?」


「お、おれたちはどうなるんだ! あんたたちがいなけりゃ、おれたちは、おれたちは……」


「ちょ、あたしたちを守ってよ! あんたたち、いっつも多めの配給をもらってるんだからちゃんと働きなさいよね」


「なんでだよ? こんな食べ物いっぱいある場所なんざそうないっていうのに」


「なあ頼むよ。この通りだ!」


「いいんじゃね、別に。食い扶持が二人減ればその分食料が浮く」


「俺も賛成だね。出たいやつは勝手にすれば? 外で生き延びられればの話だけど」


 避難民たちから次々と身勝手な主張が飛び出る。


 それに嫌気がさした桃弥は、彼らの意見をばっさり切り捨てる。


「俺たちが出るのはもう決定事項だ。行くぞ、月那」


「ちょ、ちょっと!? も、もう少し話し合わない? せめて月那ちゃんだけでも!」


「え、えーと」


 必死に月那を引き留めようとする女性。一層混沌が極まる状況下で、月那の思考力はどんどん削がれていった。


 見かねた桃弥は、最終手段に出る。


「月那。俺との約束を忘れたのか?」


「や、約束、ですか?」


「俺の言うことは『何でも聞く』って約束だったろ。つべこべ言わずに、さっさと行くぞ」


 そう言って、月那の手を無理やりつかんで外へ向かう。


 その光景に避難民たちは口を一瞬口を閉ざす。


 しかし、誰かがポツリと漏らす。


 ーーなにあれ、サイッテー


 その呟きを皮切りに、避難民たちは一斉に罵声を上げる。


「ふざけんな! 女の子を脅して従わせるとか、この屑野郎が!」

 

「おーい、月那ちゃん! 帰っておいで!」


「マジであり得ない。まじ最低すぎる」


 中にはものを投げつける人までいたが、桃弥は気にせず進み続ける。


 それを見たリーダーの女性はーー


「っち、運がいいだけのかきんちょが調子にのちゃってさ。外はそんな生易しい世界じゃないのよ。まあ、これでこの避難所はあたしのものになったし、良しとするか」


 罵声に紛れてそんな言葉を呟くのだった。





 現在の桃弥のステータス

 ーー聴力強化 790→1060(+320)

 ーー脚力強化 910→1260(+350) 

 ーー体力強化 430→780 (+350)

 ーー■■■■

 ーー■■■■




 

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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また、次の話でお会いしましょう!

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