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涅槃寂静の戦い~怪物あふれる世界で人間不信は最強に至る~  作者: 鴉真似
一章 怪物を喰らう怪物
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第2話 有財戦


 時は夕方頃。桃弥と少女の二人は、目当てのスーパーに到着していた。


「数は100と少しってところか。分断すれば全滅させられない数じゃないが、やはり奥にいる上位種が気になるな」


 少女は思う。100体の餓鬼を全滅させられると言ってのける人間はこの世にどれほどいるのだろうか、と。


 そして、今日一日共に過ごした少女もまた、100程度なら相手できると思ってしまっている。それほど殺伐とした一日を二人は過ごしたのだ。


「どうしますか?」

 

「突入は日が沈んでから。手筈通りいくぞ」


「はい」


 周囲の逸れ餓鬼を狩りながら、二人は日が沈むのを待っていた。


 

 ◆


 餓鬼は夜目が聞くわけではない。そのことは、桃弥が実証済みである。


 しかし、夜目が効かないのは人間側も同じ。それでも桃弥が夜の襲撃を選んだのは、聴力という圧倒的なアドバンテージがあるからである。


 さらに言えば餓鬼だって眠るのだ。


『ギ、ギ?』


 包丁を一閃。


(これで10匹目)


 桃弥は気づかれることなく、餓鬼の数を減らしていった。少女が所定の場所に向かうのに邪魔な餓鬼どもを消して回っている。


 しかし、それも長くは続かない。


『ギ、ギガ!? ギガギガア!』


「っち、気づかれたか」


 だったら、逆に派手に暴れてやろう。そう思い、桃弥は陳列棚にある商品を崩しながら、餓鬼たちに投げつける。


『ギ、ギギギ!』

 

『ギガギガ、ギィ!?』


『ガギギギ!!』


 ようやく桃弥の暴れっぷりに気づいた餓鬼たちは、物音のする方向へと集いはじめる。


 ここまでは、桃弥の計画通りである。


 しかしーー


『ガアアアアアアアアアア、ギガアアアア!』

 

「主役のお出ましか」


 他の餓鬼よりも一回り大きい、それこそ人間でも大柄な部類入る餓鬼が奥から姿を現す。


 暗闇で色までは分からないが、焼け細った他の餓鬼とは違い、でっぷりと太ったお腹と筋肉質な両腕。力士が目も前に現れたような威圧感を肌で感じる。


「とはいえ、頭が悪いのは変わらんらしいな。わざわざ居場所を教えてくれるとは」


 餓鬼たちの隙間を縫って、桃弥は駆け出す。


 900越えの脚力強化は、桃弥を高速の世界へと導く。今の桃弥なら50m走で3秒台を叩きだせるかもしれない。


『グガアア!? グアアア!!』


 圧倒的速さで大柄な餓鬼を翻弄する桃弥。振るわれる餓鬼の拳を避け、逆に蹴りを叩き込む。


(力は馬頭ほどではない。スピードも遅い。これなら、いける!)


 よろめく餓鬼の隙を見逃さず、桃弥はその喉元に包丁を突き立てる。


『グガ』


 その悲鳴を最後に大柄な餓鬼は倒れ、灰となる。


『ギギギ!?』


『ギガギ!!』


 その光景に、周りの餓鬼が騒ぎ立てる。しかし、桃弥はひどく違和感を覚えていた。


「さすがに弱すぎる」


 餓鬼10体、もしくは二分の一馬頭程度の感触だ。こんなのが、100を超える群のリーダーなのか、甚だ疑問である。


「ん? これは」


 そして、決定的なのが大柄な餓鬼が落とした色珠。


 暗闇ではっきりは分からないが、その色はおそらくーー青。


 次の瞬間ーー


『グアアアアアアアアアア、ガガガガガガ、ギガアアアアアアアアア!!』


「っ!? おいおい、冗談だろ?」


 桃弥の聴力強化をもってしても、やつの接近にはまるで気づけなかった。それこそ、目の前で雄たけびを上げるこの瞬間まで、存在すら認識できないほどである。


 体格は先ほどの餓鬼よりもさらに大きく、2mを越す巨体をしている。そして何よりも目立つのが、その手に握られているーー大鉈。


 今までの餓鬼たちは全てかぎ爪を利用して戦闘をしていたが、この餓鬼は武器という概念を理解していた。


「これは、思ったよりもしんどい戦いになりそうだ」



 ◆


 餓鬼が鉈を振るうたびに、スーパー内の空気が揺れる。


(一発でも貰ったらアウト)


 全ての攻撃を間一髪で交わす桃弥。それどころか、切り返すなどの反撃をも見せている。


 鉈を振るう餓鬼の圧倒的なパワーのせいで、他の餓鬼は近寄ることができないのがせめてもの救いか。


(狙うならやっぱ関節!)


 そうと決めた桃弥は、振るわれる餓鬼の横なぎをしゃがんで回避する。そのまま状態を半捻りし、包丁を一本使いつぶす覚悟で餓鬼の肘の内側を突き刺す。


『グ!? グアアアアア!』


 やかましい雄たけびを上げる餓鬼。その反応から桃弥は、効いていると確信する。


 しかしーー


「んな!?」


 周囲の餓鬼が一斉に桃弥に襲い掛かる。仕方なく追撃を諦め、桃弥は鉈の餓鬼から距離を取る。


 鉈の餓鬼から距離をとった途端、他の餓鬼による攻撃が止まった。信じられないことに今餓鬼たちは、連携を取っていた。


 そしてその奥で、鉈の餓鬼はニヤリと頬を歪ませたように見えた。


 暗闇の中で、灰色の無財餓鬼が鉈の餓鬼に何かを手渡す。それはよく見ると、パックから取り出された生肉の塊。電気が止まったせいで冷蔵機能も停止しており、その肉は間違いなく腐っているだろう。


 しかし、鉈の餓鬼は気にせずそれを口に運ぶ。餓鬼であるにもかかわらず。


 ーー多財餓鬼は、他者から施されたものなら口にすることができる


「それって施しってより献上じゃね?」


 そんなしょうもないツッコミが桃弥の口から零れる。それは一種の現実逃避でもあったのだ。


 なぜならーー肉を口にした多財餓鬼の傷口はみるみるふさがっていったからだ。


「食ったら再生するとか、チートかてめぇ」


 バッ、と無財餓鬼たちが道を開け、多財餓鬼が前に出る。さあ、第二ラウンドだ、と言わんばかりである。


「クソが、KO以外は認めないってか? いいぜ、やってやるよ」


 ただしーー


「一人でやるとは言ってないからな」


『グガ!?』


 桃弥の言葉に合わせるように、上から何かが降ってくる。


「お兄さん!」


 少女が商品棚から、米袋を投げ下ろす。


 桃弥と二手に分かれた少女が向かったのは、まさに鈍器となり得る米袋の確保であった。


 仮にも10kgの質量の塊。多財餓鬼とて無視はできない。さらに、少女は腕力強化を取得しており、桃弥の餓鬼狩りによってその能力値は500を超える。彼女の手に掛かればただの米袋でも凶器と化す。


 あとは桃弥が所定の場所まで敵を誘導するだけ。


 そして現在、何度も脳天に米袋を投げ下ろされた多財餓鬼はよろめく。とはいえ、これでやられるほど多財餓鬼は軟じゃない。


『ガアアアアアアアアア!』


 雄たけびを上げながら、桃弥に向かって突進する。


「おいおい、俺ばっか注目していいのかよ」


『ガ!?』


 米袋を全て落とし終えた少女は、金属バットを片手に飛び降る。効果の勢いを生かし、多財餓鬼の後頭部へ金属バットを叩きつける。


 グシャ!


 脳の半部が潰された多財餓鬼は、力なく崩れ落ちる。


「チェックメイトだ三下」


 よろめく多財餓鬼の喉元に、桃弥はさらに包丁を突き立てる。


 鉈を握る力さえ失った多財餓鬼は地面へ倒れ込んだーー


 ーーかのように思われた。


「っ!? お兄さん、危ない!!」


 多財餓鬼が動き出すよりも先に、少女が声を上げる。


 そしてーー


『ギ、ギガアアアアアアアアア!』


「っ!?」


 最後の力を振り絞った多財餓鬼は爪を振るう。そしてそれは、回避しそびれた桃弥の肩に突き刺さる。

 

 死んだふりとは、無い脳みそを懸命に絞った結果だろうが、それが見事に刺さった。


 さらに爪による攻撃というのも大きい。桃弥は今までずっと鉈による攻撃を警戒していたからこそ、爪への反応が遅れた。


 だが、少女の叫びのおかげで深傷は回避できた。


 ドン!


 再び少女が金属バットを振るい、今度こそ多財餓鬼脳みそを完全に潰れ、灰となって溶けるのだった。




 

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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また、次の話でお会いしましょう!

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