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英雄乱立


 世界が崩壊して間もないころ。


 2人の男が餓鬼から逃げ回っていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

「おい、しっかりしろ! 化け物共が来るぞ!」

「わ、分かってます。でも、もう体力が……」

「っち、くそが」

「京極先輩、おれのことはーー」

「馬鹿言ってんじゃねー。ぜってぇ助けてやる」


 そう言って男は振り返り、拳銃を構える。そう、この2人は警官である。


「くたばれ、バケモンが!」


 パン!


 乾いた発砲音と共に、餓鬼の頭蓋骨が砕かれる。


「っは、ざまあみやがれ」


 警官にはなったものの、未だに生き物に向かって発砲したことはない京極と呼ばれた男。はぁ、はぁと肩で息をしつつ、どこか誇らしげな表情を見せる。


「どうだ、佐川。こんな奴らどうってこと、ない……だろ?」


 しかし振り返ると、後輩だった男からの返事はなく。代わりに、足元には血だまりが広がっていた。


「さ、佐川あああ!!」


 灰色の肌をした禿げた化け物に首を噛みちぎられた後輩、佐川は声を発することもできず、ただ体をビクンビクンを震わせるだけだった。


「てめぇ、離れやがれぇ!」


 佐川にかみついた餓鬼を払おうと走る京極。

 

 しかし次の瞬間ーーばっと、佐川の体が燃え上がる。


「さ、佐川、おい、嘘だろ」


 みるみるうちに灰と化していく後輩を、京極は成すすべなく見ている他なかった。


『ギガ、ギガギガ』


 灰と化す佐川の体を、餓鬼もどこか惜しそうな鳴き声を上げる。


「く、くそったれがあああ!」


 激高した京極は銃を使うことすら忘れ、餓鬼に殴りかかる。


 しかし、目の前の一匹に気を取られていた京極は背後から近づくもう一匹の餓鬼に気づけなかった。


『ギギギギ、ガギ!』


「っう、しまっーーうっぐ!」


 餓鬼の爪が京極の顔に大きな傷をつける。そして、怯んだ京極に今度は二匹同時に襲い掛かる。


(やべぇ、死ぬーー)


 パン! パン!


 京極が走馬灯を見始めた瞬間、二発の銃声が響く。その2発は、的確に餓鬼の脳を貫く。


「はぁ、はぁ、はぁ……助かった、のか?」


 顔の傷から溢れる血のせいで、京極は前をはっきり視認できない。それでも、2人の男が近づいていることがわかる。


「お、お前は……」


 ぼんやりとする視界で京極は、懐かしい男の顔を捉える。忘れるはずもない、とうの昔に警察をやめた警察学校の同期にして首席だった男の姿を。


 その男は、徐に餓鬼から落ちた青色の珠を拾い上げ、京極へと差し出した。


「な、なんだ、これは?」


 差し出されたそれに、京極は何の考えもなしに触れる。


 次の瞬間、彼の思考は心象世界へと吹き飛ばされるのだった。


 ◆


 激しい衝突音を鳴らす竹刀の音と、少女たちの元気な掛け声があたりに響き渡る。

 

「メーン!」

「はあ!」


 土曜の朝。本来であれば、大学生である天花寺波留がわざわざ早起きする必要などなかった。


 しかしその日、彼女は母校の剣道部に顔を出していた。


 顧問曰く、下級生の指導が滞っているため元部長にして全国大会優勝者である彼女に後輩の面倒を見てほしいとのこと。


「ふぅ」


 一息つくために防具などを外しす天花寺。短く切りそろえられたショートヘアと勝気な表情を踏まえても美人であることは間違いないだろう。


「お疲れ様です! 波留先輩」

「あぁ、お疲れ。久々の剣道だが、やはり悪くないな」

「……先輩、やっぱり剣道、やめちゃったんですか?」

「別にそういうわけではないないが、実家の方がな」


 天花寺の実家は古武術の道場を開いている。そのため、彼女はもともとは剣道ではなく古武術を修めていたのだが、祖父の勧めで始めてみた剣道が思いの外楽しく、ついつい続けてしまった。


 そして勝ち取ったのが、全国優勝の座である。


 閑話休題。


 土曜日の朝にも関わらず、大勢の学生が朝練のために学校に集まっていた。幸か不幸か、それは朝練の最中に現れた。


「き、きゃああ!」

「どうした!?」

「え? なにこれ?」


 餓鬼の襲来である。


 誰もが恐怖で体が硬直している中、天花寺だけは素早く動き題していた。


「はああ!!」


 鋭い突きで餓鬼の喉元を突き刺し、動きを止める。


『ぐ、グギ!?』


「この化け物は一体?」

「波留先輩! 大丈夫ですか!?」

「あぁ、私は問題ない。しかし……」


 外で響き渡る悲鳴に、天花寺は思わず眉をひそめる。


「これは、少しまずいかもしれんな」


 そんな状況下でも、冷静に状況を分析する。それこそが、後に関東五大勢力に数えられる『枡花』のリーダー、天花寺波留である。



 ◆



「クソ、どうなってんだ一体!」

「達くん……」

「大丈夫だ! おれが絶対何とかしてやる」

「……うん! 達くんならきっと大丈夫! 頑張って」

「おうよ! 陽葵ちゃんも、心配いらないからな」


 化け物たちに追われたとある三人組は、近くになる食品倉庫に逃げ込んだ。男が1人、女が2人である。


 鉄のシャッターを固く閉じ、化け物たちの侵入を防いでいた。


「……お兄さん、静かに。あまり騒がない方がいい」

「な、なぜだ!?」

「……化け物が、寄ってきちゃう」

「あ、あぁ、そうか。そうだな……だが、声を上げないと助けに来てくれる自衛隊員も気づかないだろ!」

「……化け物が寄ってくると、助けるに助けられない。だから今は、静かに」

「っう」

「……大丈夫、食料はたくさんある。1ヶ月ぐらいは、何とかなる」


 騒ぐ男と、そんな男に目をトロンとさせた女を静めたのは、15歳の少女だった。


 年上の2人よりもよほど冷静に状況を把握し、2人をこの食品倉庫に誘導した。


(……化け物はシャッターを破る力はない。でも、あの化け物たちが全てとは限らない。もしシャッターが破られたら……その時はその時)


 男をお兄さんと呼ぶ少女だが、2人に血縁関係はない。少女にとっては男は姉の恋人、つまり義兄になるかもしれません人物である。


 実をいうと、少女は少しこの男が苦手である。いつもキラキラしているというか、現実を見ていない理想主義者。


 『いつか絶対バンドで売れてドーム公演してやる』とか、『おれの才能に世の中が気づいてないだけ』とか。夢追い人という言い方がふさわしいだろう。


 対して少女はゴリゴリのリアリスト。馬が合うはずがない。


「大丈夫だ、心配はいらないさ、星夜(さや)

「うん! 私、達くんのこと信じてる」


 こんな状況下でもイチャつく2人。そんな2人を他所に少女、七草陽葵は残りの食料計算と生存可能期間を算出していた。


 

 ◆


 東の地から遥か離れた西の都にて。


 逃げ惑うことしかできない人々の中で、餓鬼に立ち向かう者は少なからずいた。


 闘争の才がある者たちだ。桃弥同様、現代社会では発揮されないその才能を開花させた者は、後に人を導く英雄となるだろう。


 しかし、その中でも一層異質な男がいた。


「はぁ、しんど。ほんっと、無茶はするもんじゃないね」


 群がる餓鬼の死骸の山に腰をかける男。その光景はこの世界においてあまりにも異質だった。


 餓鬼は死ぬと体が灰になって溶ける。だというのに男はその上に座っている。


 すなわち、1匹の餓鬼が灰になるよりも早く、彼はこの数の敵を葬ったことになる。


 やがて餓鬼が次々と灰になり、男が腰かける山は徐々にしぼんでいった。


「よいっしょっと。さて、こっちは問題なし。君の方はどうだい?」


 萎れる山から飛び降り、男は誰かに話しかける。


 しかし、その傍には誰もいなかった。独り言かと思われたが、その視線は東の都へ向けられていた。


 一閃。


 空中を漂う餓鬼の死灰をつかみ取る。


「こんなんに殺られるとか、ないよね。モモ?」


 男は東に残した友人のことを思いだし、ニヤリと笑ったのだった。


 いかがだったでしょうか。


 これにて、プロローグは終了となります。明日より一章「怪物を喰らう怪物」が始まります。


 16時頃、しばらくの間は毎日投稿を予定しております。


 また、アルファポリス様にて先行投稿を行っておりますので、そちらも是非ご覧ください。


 以上、鴉真似でした。また次の回でお会いしましょう!

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