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涅槃寂静の戦い~怪物あふれる世界で人間不信は最強に至る~  作者: 鴉真似
一章 怪物を喰らう怪物
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第7話 原初戦・嵐鬼


 二人の背後に音もなく、巨躯の鬼が姿を現す。


 身長は2mと少しだが、その威圧感は尋常じゃない。肌は森の最深部を思わせる深い緑。額には深紅の角が一本。


 その角と同じく深紅の瞳で、鬼は桃弥たちを見下ろす。

 

(馬鹿な!? ありえない、この巨体で全く音がしないだと!?)


 僅かな心音すら聞き逃さない桃弥が、鬼の存在に全く気づけなかった。


(どこから現れやがった! いや、そんなことはどうでもいい。まずは回避をーー)


 間一髪、鬼の拳が掠るギリギリのところで、桃弥は体を逸らす。


 しかしーー


「桃弥さん、ダメです!!


 月那は桃弥の襟を掴んで引っ張り、さらに鬼から距離を取らせる。


 一体の何を、と思った桃弥だが、次の瞬間ーー


「ぐっは!?」


「桃弥さん!?」


 桃弥の体は、肩から反対の脇腹まで切り裂かれる。鮮血が噴き出る。当たり一面を真っ赤に染める。


(な、んで……確かに避けたはずだ!)


 もし月那の手助けがなかったら、もし能力値強化に伴う肉体の強化がなかったら、今頃桃弥の体は真っ二つに断たれただろう。


 開戦早々、桃弥が深手を負う。


 一刻も早く手当てをしなければ危険な状態だ。しかし、この鬼がそんなことをさせてくれるはずもない。


『ガアアアアアアアアアアアアアア!!』


「っく、そが」


「桃弥さんは下がってください!」


 そう言って月那は桃弥を背に庇い、鬼へと立ち向かう。


(っ!! まただ、また)


 桃弥は思わず下唇を噛みしめる。


「む、ちゃだ……ひとりで、かてる相手じゃ、ない」


「……どの道、勝てなきゃ死ぬだけです!」


 凛々しくそう言い放つが、月那の体は震えていた。しかし、体の震えを抑えるように月那は大きく息を吸い込み、そして吐き出す。


「ふぅ……行きます!」


 巨大な鉈を振り、鬼に襲い掛かる。


 しかし、鬼は動かない。


「っ!?」


 何かに気づいた月那は、すぐさま横へ跳躍。次の瞬間ーーさっきまで月那がいた大地が砕かれる。


(っ! ……なんだ、あれは?)


 目に見えない攻撃。それがあの鬼の持つ能力。


 それは何となくわかったが、問題は月那の動きだ。


 鬼までの最短距離ではなく、所々妙な回り道をしたり、しゃがんだり、跳躍したりする。そして月那が奇妙な動きをするたびに、背後のコンクリート道路が弾け飛ぶ。


 それはまるでーー


(ーー未来が見えているようだ)


 恐らく月那が隠し持っている能力のせいだろう。そう桃弥は判断する。

 

 しかしそのおかげで、少しだけ思考の余裕ができる。


 ーー俺の傷は深いが、全く動けないわけではない

 

 ーーだが、長期戦は不可能


 ーーやるなら短期決戦だが……


 ーーあの不可視な攻撃は俺には回避できない


 ーー近づけば今度こそ真っ二つだ


 ーー月那はあの鬼と肉薄しているが、決定打に欠ける


 ーー何より、あの鬼は不可視な攻撃だけじゃない


 ーー素のスペックでも、そこらの馬頭の比じゃない


 ーー今の俺にできるのは、精々後方支援程度か


「っは、きょうほど、自分が情けない日は、ないな」


 折角手に入れたのだ。使ってみない手はない。そう言って、桃弥はピストルを構える。


「人類の叡智の、結晶だぁ。受け取りやがれ」


 パン! パン! パン!


 弾丸は銃口から発射され、一直線に鬼を襲う。初めての実戦射撃にしては、上出来すぎる部類だ。


 しかしーー


「だと思ったよこん畜生が」


 鬼に届く前に、すべての弾丸は弾かれる。もちろん、不可視な力で。


「チートが過ぎるぞ、お前」


『グアアアアアアアアアア!!』


 前線で月那が鬼を引き付けているが、すでに月那の体力は限界だ。額にはたっぷりの汗がにじみ、息も上がっている。


 あともって数分だろうが。


 そしてなによりーー


「っ!? 月那!」


「だ、いじょ□□で、す。ま□、やれます」


 月那の両目から、血が零れ落ちていた。


(くそ! このまま、じゃあまずい。月那はもう限界だ。おまけに、声も聞き取りにくい。このままじゃ意思疎通もまま、なら、ない、ぞ……え?)


 桃弥の脳は、一瞬フリーズする。


(声が聞き取りにくい? 聴力強化2000越えの俺が? いや、そもそもこいつが現れたときも全く物音がしなかった)


 怪物の周りを注視し、ある違和感に気づく。


(戦闘中にしても、あいつの周りだけ異様に風が強い? 風を操る能力、なのか?)


 風を纏うことで心音を隠しているのた? 空気の振動で桃弥の体を切り裂いたのか?


 次々と疑問が解消されていく。


 だがーー

 

 だからなんだというのだ。それが分かったところで何になる。


 そんな言葉が脳裏をよぎる。しかし、それ以上のひらめきが桃弥の脳内を支配する。


(まったく、我ながらとんだを博打を思いつくものだな)


 ふらふらしながらも、桃弥は立ち上がる。左手にナイフ、右手に銃を握りしめ、いざ駆けだす。


「と、桃弥さん!? 危険です、下がってーー」


「つ、きなあ! とどめの、準備を!」


「っ!! 了解、です」


 スイッチするように月那が下がり、桃弥が前に出る。


「ようデカぶつ。かり、返しに来たぜ。利子はてめぇの目ん玉な!」


 パン!


 すかさず発砲。だが、これは簡単に弾かれる。


 しかし、その一発を目くらましに桃弥は鬼に近づく。持ち前のスピードを生かし、ナイフを振るう。


 だが、鬼はその場から一歩も動かず、ただ嘲笑を浮かべる。


「っ!」


 実際、鬼が動くまでもなく桃弥のナイフは寸前で止められる。


 だがーー


「油断が、すぎるぜ、デカぶつ……ふぅ」


 そう言って桃弥は肺の中のすべての空気を吐き出し、全力で息を吸い込んだ。


『グガ!?』


「っが!」


 深い呼吸のせいで傷が開き、桃弥の口から血が零れ落ちる。しかし、それでも桃弥は呼吸を止めない。


 体力強化1260。1000を超えることで、体力強化能力が桃弥にもたらし恩恵は、圧倒的肺活量。


 超人的な体力を支えるのは、超人的な肺だということだ。


 しかし、ただ息を深く吸い込むだけで風の障壁を突破できるものなのか。


 答えは、限定的な条件下で可能。


 風などという気体の分子で弾丸を止めるのだ。精密な制御が不可欠はなず。


 僅かな想定外の気流でも、それを修正しなければ弾丸など止められるはずがない。


 超人の肺による最大限の深呼吸と、全力の吐き出し。


「ふうううううぅううう!」


 わずかな気流の乱れを生じるには十分すぎる。


 その乱流は空気の渦を発生させ、結果ーー風の障壁は一瞬崩れる。


『ガ、グガ!?』


 だがこれは一発限りのだまし討ち。敵が油断しているからこそ可能な攻撃だ。


『グ、ガアアアアアアアアアアアアアアアア!?』


 その一発を桃弥は最も効果的な場所、目に叩き込んだ。


「油断の先輩、からの、アドバイスだ。油断は、しない方がいいぜ」


 当たり前のことをドヤ顔で告げる桃弥。


 最後の仕事と言わんばかりに蹴り放つ。ただしその蹴りは、突き刺さったナイフの柄に叩き込まれた。


 そのため、ただでさえ突き刺さったナイフはより一層深く、それこそ脳に届きかねないほど深く突き刺さった。


『ギアアアアア、アアアアア!!?』


「お? 随分、といいこえで、なくようになったな。ぐっふ」


『ギガアアアアアアアアア!』


 怒れる鬼は、力任せで風を桃弥に叩きつけ吹き飛ばす。


 しかし、その裏からはーーショットガンを手にした月那が現れる。


「さすがです! 桃弥さん!」


『ガ、アア!?』

 

「っは、くたばれ肉だるま」


 脳にダメージを負った鬼は思うように風を操れず、月那の接近を許してしまう。


 月那はショットガンの銃口を、鬼の口に突っ込む。


「桃弥さんの言葉を借りるならーーチェックメイトです、三下!」


 バン!!


 ショットガンによって鬼の頭部が吹き飛ばされる。


「……おい、恥ずかしいから、やめてくれ。あの時はハイになってたし、ゴホゴホ……それ言った後、一発もらってるからな、俺」


「でも、ちゃんとかっこよかったですよ」


「……勘弁、してくれぇ」

 

 鬼の体は倒れながら灰になっていく。


 どうやら、桃弥が危惧した事態にはならなかったようだ。

 

 鬼の体の中からは奇妙な色の色珠が現れ、そしてそれは奇しくも桃弥の前まで転がる。


「ん?」


 色珠の色は赤色。黄色よりも上位なのだろう。しかし、その赤色はなぜか少し濁っているように見えた。


「なんだこの色珠は」


 何も考えず、ただそれを拾い上げる。


 次の瞬間ーー


「っ!?」


 桃弥の意識は、強制的に心象世界まで飛ばされるのだった。


 ◆


「っは?」


 初めて色珠を拾った時以来の感覚。


 さらに能力を上げに来た時とはも違い、取得できる能力の一覧はどこにもない。


 あるのは手に握られてている黄金の鍵と、5つの門だけ。


「空いてるのは3つ。能力も俺が使ってるのと同じ。じゃあやっぱ、ここは俺の心象世界か」


 帰る方法は知っている。空いてる門を潜るか、新たに門を開けるか、のどっちかだ。


「この鍵、まさか……」


 タイミング的に考えても間違いないだろうが、本当にあり得るのか?


 ーーあの鬼の能力を手に入れる


 あまりにも強力すぎるその能力が自分のものに。


 その可能性があるだけで、新しい門を1つ開ける価値がある。


 それにーー


(月那の未来視のような能力も、これと同類かもしれない)


 そう思い、桃弥は新たに四つ目の鍵穴に鍵を差し込んだ。


 すると今まで通り門が開き、その中心には文字が浮かんだ。


 ーー風纏 0


 本当に手に入れてしまった。


 実際使えるかどうか、現実に戻って試すとしよう。


 そう決めた桃弥は、門を潜る。


 ◆


「っ!?」


「桃弥さん? どうかしましたか?」


「……いや、なんでもーー」


 心象世界にどれだけいようとも、現実世界では一瞬の出来事に過ぎない。


 だから、月那には桃弥の変化を感じ取れない。


 しかし、戻ってきた途端桃弥の意識は遠のく。


「と、桃弥さん!?」

 

 あまりの重傷と大量の出血で、桃弥は意識を失ったのだった。

 


 

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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また、次の話でお会いしましょう!

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― 新着の感想 ―
[良い点] あの不可視な攻撃は俺には回避できない... [気になる点] 來自中文好評! 我使用機械翻譯閱讀 [一言] 我的小說不亞於此!
2023/09/11 17:21 退会済み
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