ニルの過去 ①
「まず……捕食者って言うのは……私が昔所属してた……傭兵団の名前……なの……」
「傭兵団?」
「当時の獣人族は……軍事国家だったから……争いを起こす際……よく傭兵が雇われてた……そして……その傭兵団の中でも……特に値段が高かったのが……私達……捕食者……」
「なるほどなぁー」
だからあんな強かったのか。
「私達は……合計五人で組んでたんだけど……とある事が原因で……解散したの……」
「そのとある事って?」
「それは……」
そしてニルは、その〝とある事〟を話し始めた――。
「おーい! ニルー!」
「うわっ」
ニルの肩を、茶色の獣人族、犬人族がガシッと掴む。
「リロ……どうしたの?」
「この間成功した依頼のお祝いを皆んなでするんだー! ニルも行こうよ!」
「えー……私は……」
「良いじゃーん! またこの間みたいに演奏してよー!」
「はぁ……仕方ない、行ってあげる」
「やったぁー!」
リロがニルの手を引いて、とあるバーに入る。
「うぉーい! ニル連れて来たよぉー!」
「お、来たか」
「遅いぞぉー!」
彼女達を出迎えたのは、狐人族のイネと、虎人族のチドだ。
「あれ? キルは?」
「彼女はどうやら来ないらしい」
「えー! 来ると思ってたのにぃー!」
「まあまあそう言うな。彼女にも用事があるんだろう」
「ん゛〜っ!」
リロが椅子を勢いよく引いて座る。
そしてちょいちょいと動いて机に寄る。
ニルも椅子を引いて座る。
「お待たせしましたー」
「どうも」
木で出来た大きなジョッキに入ったビールが四つ来る。
「それじゃあ諸君! 先日の依頼達成ご苦労様! 乾杯!」
「「「かんぱぁーい!!」」」
ガチッとジョッキをぶつけ、グビグビとビールを飲む。
「ぷはぁー! やっぱ一番美味いビールはこの時のビールよぉー!」
チドが机に足を乗っけてそう言う。
「こらチド、行儀が悪いぞ」
「ちぇー、別に良いじゃねぇか」
「ダメだ、私達がガラの悪い奴らだと思われれば依頼量が減ってしまう」
「傭兵団なんて、ガラの悪い奴らの集まりじゃねぇか」
そう言ってチドがまたビールをグイッと飲む。
「なあニル」
「何?」
「楽器、どうなんだ?」
「うーん……順調っちゃ順調かな」
「お! ならば早速、聴かせてくれ」
「えぇ!?」
「今ここで奏でたら絶対盛り上がるぞ」
「で、でもぉ……」
「ほら、やっちゃえやっちゃえ」
「頑張れー!」
イネとチドとリロに立たされ、楽器を持たされる。
「えぇ……」
ニルの弾いている楽器はコントラバスだ。
この楽器は言わば縁の下の力持ち。
コンサートなどでは最低音を引き受ける楽器だ。
それをソロでやるのは至難の技としか言いようがない。
だが……
『♫〜♪〜』
ニルは弾くことが出来る。
「ん? 何だ何だ?」
「おっ、今日は演奏家がいるのか」
「運が良いねぇ〜」
『演奏家』というのはニルの二つ名の様なものだ。
よくこのバーで演奏をするので、いつの間にかそう呼ばれる様になっていた。
『♬〜♪〜♫〜』
バーの皆んなが黙ってニルの演奏を聴く。
本来バーとは、ニル達の様な傭兵達や、冒険者が駄弁りまくったりする場だ。
なのにその様な場をこのようにしてしまうニルの演奏というのは、本当に凄いのだ。
『♪〜…………』
『パチパチパチパチ!』
演奏が終わると、拍手が巻き起こった。
「フォー!」
「ヒュー! ヒュー!」
「凄ぇー!」
賛美の声も巻き起こる。
「ありがとうございます!」
ニルは酒場にいる人達にそう言って席に座る。
「いやー、やっぱ何回聴いてもお前の演奏凄ぇな」
「ふふ、ありがとチド」
「お世辞無しで凄いと思うぞ私は。コントラバスであんな高音を出して、それと同時にあそこまで低い音まで……プロの中でもかなり上に行けるんじゃないか?」
「そうそう! ニルは傭兵なんてやめて、音楽家にでもなるべき!」
「でも、私、皆んなと別れたくは……無い」
「ニル……」
「そんな事言って、本当は戦闘したいだけなんじゃねーの?」
「ちょ! 雰囲気ぶち壊さないでよチド!」
「冗談だよ冗談」
そしてチドは、ジョッキの中に残ったビールを一気飲みし、おかわりを頼んだ。
「お前、まだ飲むのか……?」
「たりまえよ、このくらいじゃ酔わん酔わん」
「その割には顔赤い気がするけど……」
「ん!? なんだやんのかー!?」
「なはははは!」
そして、時間が経って、依頼達成のお祝いは終わった。
「んへぇ〜」
「全く、調子に乗って15杯も飲むからだ」
チドがイネとニルの肩を借りて何とか歩いている。
「も〜飲めねぇ〜よぉ〜」
「見りゃ分かる!」
「重い……」
チドとの体格差的にも二人には少し重い様だ。
「私も手伝う!」
という訳で、リロも手伝いつつ、皆んなで住んでいる家に帰る。
「あら、おかえり皆さん」
ニル達の目の前には、白髪の狼人族、キルがいた。
「あ! キル!」
「帰ってたのか、用事は済んだのか?」
「ええ、ごめんなさいね、休んでしまって」
「いいさ、また今度来てくれれば良い」
「ありがと」
「それでキル」
「何かしら?」
「チドをベットまで運ぶの手伝ってくれないか?」
「勿論良いわよ」
四人でチドをベットに寝かせる。
「んにゃ〜あ〜」
「さてと、じゃあ私達は風呂に入って寝るとしよう」
「そうしましょう」
「それじゃあ……」
「「「「じゃーんけーんポン!」」」」
四人が同時にじゃんけんをする。
「うわー、ニルの一人勝ちかー」
「んふふー! やっぱ私はじゃんけん強いね」
「本当だよー、今の所ニル25連勝くらいしてるじゃーん!」
「じゃ、お先ー」
「「「はぁーい」」」
そしてニルは脱衣所で服を脱ぎ、シャワーを浴び、湯船に浸かる。
「ふぅ〜」
ニルはこの時間が少しだけ好きだ。
音の無いここなら、コントラバスの音色を頭の中で奏でられるからだ。
三曲演奏し終わり、風呂を出る。
「上がったよー」
「よし、じゃあ次は私だな」
イネがお風呂場に入って行く。
「じゃあ私はもう寝るねー」
「分かった! また明日ね!」
「また明日、ニルちゃん」
「うん、また明日」
そしてニルは自分のベットに寝っ転がって寝るのだった。
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