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世の中には知らない方が良い事もある

「着いたぞ」


「うわっ!?」


 急に耳元で(ささや)かれたのでびっくりした。


「どうした?」


「あー、いや、なんでもない」


 テントの出入り口に立ってルリカ達にテントから出るなと言って、深呼吸をする。


 そして……


「おらっ!」


 全力で前に飛んで近くに(そび)え立っている木の上を注目する。


 そして飛んできた〝矢〟を回避する。


「なっ!?」


 そう木の上から聞こえた。


「ええい何をしておる! 我らの森に無断で入るのは樹神(きじん)様を侮辱(ぶじょく)しているのと同じ! 早う殺さんか!」


 ん? この声は――


「おい! ベクト爺!」


「んぅ?」


「俺に向かって矢を放つなんて良い度胸してるな!」


「その声は――! イイジマか!?」


 そして一人の老人が木からドスンと落ちてくる。


「おお! イイジマ! イイジマじゃないか! 皆の者! 打ち方やめぇ! 打ち方やめぇい!」


 足をピョコピョコさせ、何かは分からないが、(まじな)いで使いそうな首飾りをジャラジャラと鳴らしながら、木の上にいるであろう森人族(エルフ)達に弓矢を放つのをやめるように言う。


「申し訳ない事をしたのぉう。じゃがまあ、分かるじゃろ?」


「まあな」


 そう、森人族は樹神様という神を信仰しているので、その樹神様が怒るとされる事をされると全森人族がその元凶を止めようとするのだ。


「して、あの臙脂色(えんじいろ)のテントはなんじゃ?」


「あれは……臙脂のサーカス団だ」


「!?」


 あれ? 知ってるのか?


「み、皆の者! 臙脂のサーカス団が来てくださったぞ!」


 木の上からザワザワと声がし始める。


「して、団長殿は!? 団長殿はどこにおられる!?」


「ここだ」


 いつの間にかベクト爺の後ろに立っていたリヴェットがベクト爺の耳元でそう(ささや)く。


「うひゃあ!? あ、こ、これはこれは団長殿……」


 ベクト爺がリヴェットに(ひざまず)く。


 その瞬間上にいた森人族も降りて来てリヴェットに跪いた。


「何をしている?」


「貴方様は樹神様にお会いした事があると伝承に残っております。

 どうか我々に樹神様の事をお教えして下さいませんでしょうか……?」


「あぁ……樹神か……」


 リヴェットは(あご)に手を当てて考え始めた。


「樹神とは確かに会ったことがある」


「おお!」


「だが、あまり知らぬ方が良い」


「な、何故です!?」


「この世には知らぬ方が良い事もあるという事だ」


「そんな……」


 ガックリとベクト爺が肩を落とす。


 ただ、リヴェットが言っている事は間違っていない。


 実は俺も樹神と会った事がある。


 いや、正確には戦った事がある。


 そう、樹神はインワドのボスなのだ。


 懐かしいなぁー。


 攻撃方法が色んなボスの攻撃方法と酷似(こくじ)しているから攻撃回避練習用ボスとか言われてたっけ。


 うん、ほんと知らない方が良いなこれ。


「ですが貴方様がそう言うのならばそうなのでしょう。

 確かに樹神様の事を知ろうなど浅はかな考えでした……お許し下さい」


「気にするな」


 そう言ってリヴェットがテントに戻る。


「いやはや、臙脂のサーカス団の団長は何というか……オーラが違うのぅ……」


 両膝(りょうひざ)に手をつきながらベクト爺が立ち上がる。


「してイイジマよ、お主は何故ここに来たのじゃ?」


「えーっとだなー」


 リレオの事を話す。


「なるほどのぉう……裏技(バグ)が…………着いて来なさい」


 そう言ってベクト爺は歩きだした。


「あ、ちょっと待ってくれ」


 テントの中にいるルリカ達を呼ぶ。


「うわぁ……凄い所ね」


「空気が美味しー!」


「そうだね……凄い美味しい……」


「それじゃ、来なさい」


 そして俺らはベクト爺の後を着いて行った。


「ここじゃ」


 ベクト爺が他よりも少し大きい木の前に立つ。


「この木が……森人族の村なの?」


「そんな訳ないじゃろ。登るんじゃよ」


 そう言ってピョーンと飛んで上空にある木の枝の上に乗っかった。


「ほれほれ、早う来んかい」


 一体どこからあの力が出ているんだ……。


「ほら、俺らも行くぞ」


「え、えー!」


「あぁそっか」


 ルリカは高い所が苦手なんだったな。


「んじゃあ俺の足に掴まれ」


「つ、掴まったわ。それでどうするの?」


「飛ぶんだよ」


「……え?」


 ジェットパックを起動し、ビューンと飛ぶ。


「わあああああああ!」


 ルリカが涙目になっている。


「普通に登るよりは良いだろ!」


「そうだけど! そうなんだけど!」


 そしてベクト爺がいる場所まで飛んだ。


 因みにレカはちゃんと俺に抱きついていて、ニルは……マジでどうやったのか分からないが俺が飛ぶのと同じ速度で登ってきた。


 身体能力エグすぎないか……?


「来たようじゃな」


「ああ」


「それでは…… 〝木の(みき)に飛び込む〟ぞ」


「え?」


 ルリカがキョトンとした顔になる。


「行くぞ!」


 ベクト爺が飛び込む。


 するとスルッと木の幹に体が入っていった。


「んじゃ、俺らも行くぞ」


「あ、ちょっと待っ――」


 ルリカが俺を呼び止める声が聞こえた気がしたが、多分気のせいなので幹に飛び込んだ。


『面白い!』


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