ニルの本気の力
「おっ、やっと戦う気になったかい」
俺を踏んでいる足を少しだけグリグリとする。
「でも残念。あんたが私の元へ来るよりも速く私はコイツを殺せるよ」
しかしその狼人族がそう言った瞬間、ニルの姿が消え――いや、目の前に接近して来ていた。
「んじゃさよなら人族」
「【光球】!」
「うがっ!」
危ねー持っててよかった【光球】!
狼人族が怯んだ隙にニルが持っている剣で斬ろうとするが
「よっと!」
綺麗に避けられる。
どうやら音で判断してるようだ。
めっちゃ耳ピクピク動いてるし。
その後は、凄い音の剣戟が鳴り響いた。
そしたお互い距離を離して、睨み合う。
「やっぱあんた、腕落ちてるね」
「……まあ……最近この剣……握ってなかったし」
そう言ってまた距離を詰めるが
「ほっ」
狼人族が飛び上がり、ニルの背後を取ろうとする。
ニルは飛んでいる最中の彼女に剣を下から上にやって斬ろうとするが
「甘いよ!」
靴先で刃の先端を踏んで飛ぶ。
「!」
そしてまた剣と剣が交わされる。
「ちょ、【超回復】」
踏まれた右腕を治して、銃で狙いをつける。
「……無理だな」
ニルと敵の狼人族がお互い近すぎてニルに当たる可能性が高すぎる。
てかそれ以前に高速移動してるから当てられない。
俺も参戦したいが……流石に邪魔する訳にはいかないから、チャンスが来るのを待つとしよう。
そういえば、この戦闘が始まる前の『ボゴベギィ!』という音は何だったんだ?
邪魔にならないように辺りを探索する。
「あっ!」
ニルが吹っ飛ばされた方向にそれはあった。
「壊れた……コントラバスだ……」
ネックの部分がバッラバラになっている。
「何でこれを壊したんだ?」
コントラバスを持ち上げてみる。
「あれ? なんか軽くないか?」
コントラバスって普通はもう少し重い気がするんだが……。
壊れたネックから中を覗いてみる。
すると、今ニルが使っている剣がスッポリと入る空洞があった。
「こ、ここに入れてたんだ……!」
でも何でこんな面倒な事を……まあ、本人の過去を詮索したりしておくのはやめとくか。
知られたくないかもだし。
さてと、戦況は……うわぁ〜、まだ斬り合ってる。
お互い傷はゼロ。
全部の攻撃を防ぎ防がれ……。
というか魔法を避けたりしてるのエグいなぁ……。
目で追えるようになってきたから俺も応戦するとしよう。
近くで倒れていたやつの剣を取り、【神速】を発動して急接近する。
そして――
「【業火斬り】!」
剣に炎を纏わせて斬りつける。
「うあっ!?」
俺の参戦は予想してなかったようで、狼人族を斬ることが出来た。
「っ! 【中回復】!」
おぉー、ちゃんと回復魔法もってるのか。
もう血が止まっちゃったし、火傷は……おや? まだ完全に治ってなさそうだな……。
「ありがとう、イイジマ」
「お安いご用さ」
そして俺とニルは剣を構える。
うおー! インワド時代を思い出すなぁー。
そして俺は二人がかりで攻めた。
ニルは正面に、俺は背後に行き、お互い剣で斬ろうとする。
だが彼女は屈んで、また俺の腹に蹴りを入れてきた。
「うっ!」
また吹っ飛ばされ、壁に激突する。
「痛ってぇ……」
【超回復】をまた発動して、戦闘に戻ろうとするが
「来ないで! イイジマ!」
ニルが止めた。
「え、何で!?」
「私が……私が、彼女を一人で倒したいから」
そう言って剣を構えた。
「へぇ、良いの?」
「良い」
そしてその時……本当にお互いの姿が消えた。
「なっ!?」
風がずっと吹いてきているから、恐らく超高速移動で戦闘しているんだろう。
やばい、俺が入っていい戦闘じゃねぇわ。
裏技を使おうにもここじゃあ使えない。
というかここがベーナダンジョンのどこなのか分からないしな。
俺の出る幕は100%なさそうだ。
てか、ニルは本当はあんな実力あったのかよ。
じゃあ何で俺を殺そうとした時本気を出さなかったんだ?
本気出すまでも無いって思ったとか?
……ありそー、獣人族は人バカにしてる訳だし。
取り敢えず俺は、万が一殺され無いように少し離れた場所に行こう。
そう思った矢先爆発が起きた。
「うわ!? 何だ!?」
グッと振り返って、爆発が起きた場所を見る。
「マジか」
ニルが、血だらけで立っていた。
「大丈夫かニル!」
「大……丈夫……」
「あ、あれ? アイツは?」
「……倒した……」
え? 死体とか無いんだけど?
もしかして……さっきの爆発で跡形もなく吹っ飛んだのか?
うっ、想像すると結構グロい……。
「お、お疲れ様」
「うん……ありがとう……」
ストンとその場に座る。
「その剣、あのコントラバスの中に入れてたんだろ?」
「! な……何で……それを……」
「壊れた部分を見たから」
「……そう……この剣は……私のコントラバスの中に……入れてた」
「言いたくないなら言わなくてもいいが、何で入れてたんだ?」
「………………」
「なるほどなぁ〜」
そう言ってスクッと立ち上がる。
「行こうぜ! 非常階段に」
「う、うん……!」
そして俺らは走り出した――が
「ご……ごめん……もう少し……休憩させて……」
「あぁ悪い。そっちのこと考えてなかった」
そして俺らはまた座り、柱にもたれかかって休むのであった。
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