女王の最高傑作(駄作)と黒曜石ゴーレム
ゆっくりと目を開いて、閉じる。
そして一度頭を整理する。
そりゃあ、目を開けた瞬間に大量のおっさんが視界に入って来たら誰でもそうするだろう。
え? ドワーフのおじさん達に見られまくっているってどういう状況?
というか俺何で寝てるんだっけ?
……あぁー思い出した。リーファとレカの抱きしめる力が強すぎて気絶したんだっけ?
我ながらとんでもない理由で気絶したな……。
「お目覚めになりましたか?」
頭の上の方からリーファの声がする。
……頭の上の方?
ドワーフのおっさん達からの視線をガン無視して目を開けて周りを見る。
そして今俺が何の上に寝ているのか把握した。
「焦る必要はありませんよ……」
頭に伝わる柔らかい感触……そして! ドワーフのおっさん達の隙間からなんとか見えた『イイジマLOVE』の文字!
そう! 今俺は!
「そんなに驚かないで下さい」
俺の写真や俺への愛の言葉がベタベタに貼り付けられたベットに横たわっている。
…………はああぁぁぁぁぁあああ!?
「いや驚くだろこれは!」
「確かに貴方が今枕にしているのは私の太腿の柔らかさを完全再現した物ですから驚くのも無理ないのですが……」
「そこじゃねぇよ! てかなんてもん作ってんだ!」
「お忘れですか? 私ドワーフですよ?」
「そうだった! 作る事に特化してるんだったこいつ!」
ドワーフが道を踏み外すとこんな無駄な物を作るのか……。
「医療班の皆さん、下がって良いですよ」
そうリーファが言うと周りのドワーフが頭を下げてから退出する。
「イ、イイイイイジマ! 大丈夫だった!?」
「このベットのせいで具合が悪くなりそうだ」
「そんなっ!? 私の最高傑作なのに!」
「これが最高傑作なのはおかしいだろ!」
そう言いながら立ち上がって、ヘッドボードのある方に立っていたリーファの元に向かおうとすると……
「た、大変ですリーファ様!」
慌てふためいた様子で数人のドワーフが部屋入って来た。
「……何です?」
怒りを隠しきれてない顔でリーファが入って来たドワーフ達に質問する。
「地下第五層の南東の壁を掘ったら『黒曜石ゴーレム』が目覚めたのです!」
「「!?」」
黒曜石ゴーレム!? マジか!
「討伐班はどうなっているのです!?」
「全員……返り討ちに……」
「ッ……!」
え? 返り討ち? ドワーフ族って〝そんな弱かった〟か?
「イ、イイジマ殿、どうか力を貸してくれませんか?」
俺に涙目でお願いして来る。
「良いぞー」
「ありがとうございます!」
「ただし後で、何故こんな弱くなっているのか説明して貰うぞ」
「! ……はい、分かりました」
「案内してくれ」
部屋に入って来たドワーフ達に案内されて黒曜石ゴーレムの元へ向かう。
「あっ! イイジマ!」
「起きたぁー!」
黒曜石ゴーレムの近くには既にルリカとレカがいた。
「ああ起きたよ。んで、俺が討伐を任された」
「ええ!? 倒せるの!? あれを!?」
黒曜石ゴーレムはかなり大きく、建物を壊しながらこちらに進んで来ている。
少しだけボススライムを彷彿させるな……。
「ああ、イける」
そう言って俺は駆け出す。
黒曜石ゴーレムは名前通りかなーり硬い。
なので普通は簡単に倒せないのだが、あるんだなぁこれが。
黒曜石ゴーレム用の裏技が。
とはいえ、この裏技は俺が今まで使って来た裏技よりもクセがある。
どういう事かというと、デメリットがあるのだ。
そのデメリットというのは、攻撃力と防御力、そして運のステータスが0になるのだ。
ただその代わり黒曜石ゴーレムの体を破壊する事が出来るようになる。
攻撃力0なのにどう破壊するのかというと……難しくなるが、インワドだと普通の攻撃と、何かを破壊するという行動は、別物として処理される。
よーするに攻撃力と破壊力というステータスに分けられているのだ。
で、ゴーレムの体を壊す事は破壊という風にインワド側は捉える。
なので、攻撃力0でも、破壊をするという事は出来るという訳だ。
まあ黒曜石ゴーレムは硬すぎて先程も言ったように普通は破壊できない。
だがこの裏技は、細かく言うと黒曜石ゴーレムの体を破壊するという行為に対してとんでもない破壊力UPバフを与えてくれるという裏技なのだ。
ただデバフも重い! それだけがネック!
【神速】を発動してめちゃくちゃ走る。
黒曜石ゴーレムの腕を駆け登って、裏技を発動する。
まず黒曜石ゴーレムの顔面に蹴りを入れる。
その反動を利用してバク転を決め、着地した瞬間黒曜石ゴーレムの肩の上で逆立ちをする。
そして右手だけの片手立ちをし、パーの状態からグーの状態にし、3回肩を殴る。もちろん逆立ちしながら。
そしてそのまま武器を手に持ってから落とすと……
「来た!」
感覚で攻撃力などが0になったのが分かる。
「じゃあ早速やるか!」
【神速】を発動して顔面を殴る。
ドゴォォォと音がして、黒曜石ゴーレムの顔面が崩れる。
「うし!」
ゴーレムは、体の中央にコアがあるため、顔を破壊しても死なない。
なので……
「オラオラオラオラオラ!」
頭があった場所を殴りまくる。
だがしかしここで運が0なのが効いてくる。
「くっそ……上手く崩れねぇ!」
運が0のせいで殴っても上手く割れなかったりする。
だが【神速】を発動した状態でのパンチはとても目に追える速度ではない。
なのでどちらにせよ崩れては行く。
問題は……
「手ー邪魔だ!」
黒曜石ゴーレムが手で俺を潰そうとしてくるのだ。
それを何度も破壊しているが、ゴーレムは腕と足が再生するのだ。
なので中々に面倒くさい。
そして殴りまくって約3分。
ついにコアが見えた。
「これでぇー! シュートッ!」
だが運悪く、周りの黒曜石が崩れてコアに拳が届かなかった。
まあそれを砕いてコアを殴って破壊したが。
……なんか締まらないなぁ……。
『グゴォォォォ』
黒曜石ゴーレムが崩れる。
「「「ワァァァァァァ!!!」」」
地上ではドワーフ達が歓声を上げている。
「イイジマ!」
「イイジマー!」
二人とも俺に向かって走ってくる。
「凄いイイジマ! あんなの倒しちゃうなんて!」
「まあそれほどでもないさ。ああ今俺防御力0だから触れないでくれ、死ぬかもしれん」
「えっ」
ルリカが数歩後ずさる。
「触んなきゃ良いよ」
レカを見ると人差し指を突き出して触ろうとしていた。
「やめてくれ、振りじゃないんだ」
そう言うとレカが手を引っ込める。
「いやーイイジマさんやったなぁーお前ー!」
横からギーダが近づいて来て――
「ほんと助かったぜ!」
〝ドン〟と背中を叩かれる。
「「あ」」
二人がそう言った瞬間俺は吹っ飛ぶ。
そして壁に打ち付けられて、漫画のように壁に俺の形の穴が空いた。
……HP多くて助かったぁー! 良かったぁー!




