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勇者の力

「ルリカ……? ルリカ……!」


「はっ!」


 し、しまった! 過去に(ふけ)り過ぎた!


「大丈夫!?」


「え、ええ!」


「戦闘中にボーッとするたぁ、良い度胸だな゛ぁ!」


「うわっ!?」


 ほぼほぼ本能で後ろに仰け反り、直後にトラスフォーの拳が目の前を通過する。


「今のぉ避けるかぁ……くひひっ、良いな゛ぁ良いな゛ぁ!」


 その後も高速で拳や足が私に向かって繰り出される。


「やるわね……でも!」


 私も勇者の力があるから強いのよ!


「【神速】! 【筋力調整】!」


 勇者の力で増加された力に、更にブーストをかける。


「ぬあ゛っ!?」


 急激に早くなったのに驚いたのか、トラスフォーのスピードが一瞬だけ落ちる。


「そこぉっ!」


 そしてその遅くなった瞬間に腕を剣で斬る。


「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!」


「……チッ!」


 腕を斬り落とせ無かった……。


「お゛ま゛え゛ぇ゛……! よ゛くもや゛ってくれたな゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」


 直後、トラスフォーが消える。


「!?」


 ど、どこ!?


「殺してやる゛!」


「ッ!」


 咄嗟に声がした方向を剣でガードすると、物凄い衝撃が伝わる。


 な、何これ……!? 何このパワー……!?


「くっ……!」


 パワーで押し負け、勢いよくふっ飛される。


「よくも゛ぉぉ゛! よくも゛ぉぉ゛!」


 か、片手だけなのに凄い押されてる……!


 マズイわね……勇者の剣の力+【神速】と【筋力調整】して負けるならもう勝てない……!


「殺すう゛ぅぅぅぅ゛!」


 や、やば――


『キィン!』


「……あ゛ぁ゛?」


 拳が顔に当たると思った瞬間、甲高い音と共にトラスフォーの攻撃が逸れるのを感じた。


 そして……私の目の前には……《《銀髪》》になったニルがいた。


「ニ、ニル!? 何その髪!?」


「説明は後……! 今はこいつとの戦闘に集中……!」


 そ、そうよね! うっかりしてたわ!


「くそがぁ゛っ! どい゛つもこい゛つも邪魔ばかり゛しやがってぇ゛!」


 トラスフォーがニルに向かって殴りかかる。


「ふっ」


 しかしその攻撃を長い剣で受け流し、まるでただの短い木の枝でも振るかの様な速さでトラスフォーの猛攻を凌ぎ続ける。


「ルリカ……! 二手に分かれて攻撃を……!」


「分かったわ!」


 すぐにトラスフォーの背後に回り込み、ニルの援護をする


「な゛めるな゛ぁ゛っ!」


 が、高速で突き出された蹴りによって攻撃が出来ない。


 こ、こいつ……片腕と片足だけで私達を相手にしてる……!


 特に足! 何て素早さで蹴り出して来るの……!?


「うっ」


 何度も強い衝撃を受け止めたせいで、手が痺れる。


 でも……諦める訳には、いかない!


 だって、そこにイイジマがいるんだもの!


 かっこ悪い所は……見せられないわ!


「はあぁぁっ!」


 この速度に――勝つ!


「っ゛!?」


 行ける! この速度なら……! トラスフォーに勝てる!


「くっ゛っ゛そがあ゛ぁぁぁぁあああああ!」


 トラスフォーの速度が増す。

 こ、このままじゃ……! 負け……!


「隙……あり!」


 その瞬間、ニルがトラスフォーの顔を斬り裂く。


「あ゛……」


 バタリ、とトラスフォーが倒れる。


 ……た、倒せたの?


「ふんっ……!」


 ニルが心臓がある位置を剣で突き刺す。


「これで……大丈夫……だと思う……」


 その言葉が聞こえて、トサッと地面に座り込む。


 あれ……何でかしら……脚の力が抜けて……。


「お疲れ様……大丈夫……?」


「ちょっと、疲労で脚に力が入らなくなっちゃったみたい……」


「そう……ならしばらくそこで安静にしてて……」


 そう言ってニルは皆んなの元へと走って行った。


「……」


 私とニルで……イイジマの記憶を奪った奴の仲間を一人倒せた……。


 ……でもまあ……出来れば情報を抜き取りたかったけど……流石にあれじゃ無理よねぇ……。


「ふぅー……」


 ともかく……疲れた……。


 そう思った私は、息を吐きながら横たわり、皆んながこちらに駆けて来るのを尻目に青空を眺めるのであった。


『面白い!』


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