一人の勇者 ⑦
「ゆ、勇者の剣が何だよぉ! うらぁぁぁぁ!」
「はっ!」
勇者の剣を振り下ろし、ギラシャの剣と交える。
「ぬぅ!?」
なんか……いつもより、力が湧いてくる!
「ど、どんな馬鹿力してんだおめぇ!」
「貴方が……弱いだけよっ!」
キィンと甲高い音と共にお互い距離を離す。
「ふぅー」
呼吸を整え、次の攻撃に備える。
大丈夫……この調子なら行ける!
「たくよぉ、あんましやりたくなかったんだがなぁ……」
ギラシャが何かを取り出す。
「!」
直後、本能がアレを使わせてはならないと警告を出した。
「待て!」
「あーん」
その何かを飲み込むと、ギラシャの体がビキビキと音を立てて巨大化していく。
「な……」
5mほどまでになったギラシャが、私を見下ろす。
「ウオオオオオオオオオ!」
「理性を失ってるのかしら……?」
だとしても物凄くピンチじゃない!
リリーフィアさんはまだいないから、一人でしょ!?
勇者の剣があるとはいえ、こんな化け物と戦う事になるなんて……いや! 私はこれから魔王と戦うんだ! こんな奴なんてここから先いくらでも出て来る! よし! そう思えばなんか楽になって来たわ!
「はぁぁぁぁっ!」
ギラシャの顔を斬ろうと高く飛び上がり、剣を構える。
「ウアァッ!」
「ぐっ!」
しかし、ギラシャが私に攻撃する為に手を突き出した際に発生した風圧のみで、私は吹き飛んだ。
ふ、風圧だけでこれ……!? なんてパワーしてるの……!?
「ウオオオオアアアアアアア!」
でも、ここで倒さないとこの森に更に甚大な被害が出ちゃう……やらないと!
それに、勇者の剣まであるんだし!
「はぁっ!」
ギラシャに向かって駆け出し、攻撃を避け、風圧によって浮かされながらも木を蹴って再度追撃、そして、
「ウグウァ!」
肩を斬る事に成功した。
「よしっ!」
「ウアアアアアアアアアアアア!」
お、怒ってるわね……!
まあそりゃそうよね! 斬られて怒らない人なんていないものね!
「ウガァッ!」
それに、肩を斬ったと言っても浅いから全然攻撃出来ちゃう……!
風圧に何とか耐えながらギラシャを倒す方法を考える。
「ゆ、勇者の剣で、どうにか出来たりしないかしら!?」
勇者の剣に頼りすぎるのもアレだけど、こういう状況だったら頼りまくるしかないわよね!
「勇者の剣! 私に力を!」
金色の光が強くなる。
「よし!」
勇者の剣の力……どんな感じなのかしら!
一振り、剣で何もない空間を斬ってみる。
「ウゥ!?」
直後、先程まで迫っていた風圧が……斬れた。
「……え?」
な、なんとなくでやってみたのだけれど……物凄い強いわねこの剣!?
流石勇者の剣だけれど……怖いわよ少し!
「だけど! 今はその力を使いまくらなくちゃね!」
勇者の剣で前方を斬りつけながらギラシャの事を睨む。
「受け取りなさい、今の私の本気よ! 【筋力操作】! 【加速】!」
目にも止まらぬ速さで駆け、ギラシャの首に
「ウ、ウガァ!」
そして――ギラシャを斬った。
「ガァァァァァァァアアアアアアアアア!」
ドサッ、と倒れてその後もギラシャは動かなかった。
「た、倒せた……のかしら?」
チョンチョンと剣先で突いてみて、倒したのを確信する。
「はぁー……! つ、疲れたわー……!」
ドッと地面に座り、ハァハァと口で息をする。
「勇者の……剣……」
剣を掲げ、太陽光に反射した景色を眺める。
「あっ」
その景色の中に、リリーフィアさんが立っていた。
「リ、リリーフィアさん!」
「ルリカさん……無事でしたか……」
「ええ、リリーフィアさんは……!?」
「私は大丈夫です。それよりもルリカさん……! まさか、ギラシャを……!?」
「そうです! 倒しました!」
「な、なんと……!」
リリーフィアさんが口に手を当てて目を見開く。
「それに勇者の剣まで! あぁーよく抜きましたね! 本当によく頑張りました!」
そう言って私の手を掴んで上下にブンブンと振り回す。
「あはは……ありがとうございます……」
「これで、私達が手伝える事は終わりました。頑張って下さい、ルリカさん!」
「! はい!」
そうして、私は勇者の剣を腰に差す。
元々持っていた剣は、先程の風圧で飛ばされて落下した際に剣身と柄が外れて壊れてしまった。
「それでは、魔王討伐の旅、頑張って下さい!」
「はい!」
そうして、私は旅の続きを――始めなかった。
いやいや、流石にギラシャの強さを実感したし、これは自分自身でも準備が必要だと分かったから……普通に王都に帰った。
「……はぁー……」
意気揚々と旅に出たのに、何か恥ずかしぃー……。
でも! 取り敢えず道具でも買って、すぐにしゅぱ……
「…………私、お金無い!」
そういえば、私殆どお金持ってなかったんだ!
な、何か手っ取り早くお金を稼ぐ方法は……
「あっ! そうだ! 冒険者になろう!」
勇者が冒険者をやるって、少し変だけど……勇者やってるより冒険者でクエストをクリアする方がお金を稼げるからね!
「よーし! 頑張りましょう!」
そう意気込みながら冒険者ギルドに入り、冒険者になる為の手続きを踏む。
へー、試験とかあるのねー……。
最初は……筆記試験ね! まあ何とかなるわよ! きっと!
「では……始め!」
答案用紙をめくり、答えを記入していく。
『ペラペラ』
……なんか、紙をペラペラさせたりしてる人がいるんだけど……?
もしかして、分からなすぎて常識も分からなくなっちゃったのかしら……?
そんな事を思う中、彼が紙を机にやり、フッと力を込めたかと思うと……
「試験官、終わりました」
と、彼は言った。
「あ、ありえない……」
自然とそう声が出る。
だってそうでしょ? 紙をペラペラさせてた人が突然出来たと言ったのよ?
「そんなバカな……君は紙にインクを垂らしたりしてただけ――なっ!? 本当に出来ている……!」
しかも本当に出来ちゃってるの!?
どんな人なのよ彼……あっ、私も出来たの報告しないと。
「私も終わりました」
ギョッとした様な表情を彼は私に向けて来た。
な、何なのよその目は……なんかこう……嫌な感じね……!
「そ、それでは二人には先に実技試験を受けてもらう。内容は……少し場所を移そう」
そうして私達は場所を移り、実技試験が始まった。
試験内容は、三種類のスライムを狩ってスライムゼリーを持ってくる事。
簡単ね。
すぐに狩り終わって戻ると……
「どわあぁぁぁ!?」
試験官が吹っ飛ばされていた。
え……? 何あれ……? 怖……。
でも、ちょっと気になる……!
「貴方」
「ん?」
あぁ……怖くて声が強張るぅ……!
「今試験官を吹っ飛ばしてたけど、何者なの?」
言えたっ!
「えー……何者と言われても……」
自身の正体を濁す……まさか!?
「まさか、魔族?」
「な訳ないだろ」
そ、そうよねー……そりゃそうよねー……。
「なら何であんなに力が強いの?」
「あー、それはな、レベルが……」
「レベルが?」
「99だから」
……この男、なんて言った?
レベルが99?
「99って……う、嘘はやめときなさい、レベルが99の人間なんていないし魔族にもいないわ」
「でも実際そうだしなー」
「ス、ステータス! ステータス見せて!」
そうよ! ステータスを見れば嘘かどうかなんて一発で分かるじゃない!
「ほい」
えーと……レベルの部分は……っ!?
「嘘……本当に99……」
「だから言ったろ?」
そんな……本当にレベル99が存在していたなんて……!
「信じられない……一体どうやって……?」
「裏技だ」
「ば、ばぐ?」
聞いた事もない言葉ね……。
「そ」
「な、何なのそれ?」
「んーと、言わばこの世界の不備だな。MPを使わずに壁を貫通したり浮いたり出来るぞ」。
「そ、それでレベルを……」
「正解、しかも結構簡単になれる」
嘘……でしょ……。
「あー、大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ。ただ簡単にレベルを99に出来るっていうのが衝撃で……」
「そうか。ところで、それもう取ってきたのか?」
そう言って彼は私の持っていたスライムゼリーを指差す。
「? えぇ、だってスライムくらい簡単に倒せるでしょ?」
「……マジかお前」
? 何かおかしかったかしら?
……ま、良いわ。
「取り敢えず、私はこれで試験合格よ。貴方もその裏技とやらを使って合格しちゃいなさい」
そう言って冒険者ギルドへと戻り、私は晴れて冒険者になれた。
そしてクエストが貼られている掲示板と睨めっこしていると、先程の彼が目に付いた。
そうだ! 初めのクエストは彼とやりましょう! 彼強そうだし!
「あっ、ねえ」
「ん?」
「良かったらなんだけど、クエスト一緒に受けない?」
「え? 何で?」
ぐっ、こうも即質問されるとは思ってなかった……な、何か言い訳を……。
「は、初めてやるクエストが一人なのって……こ、怖いじゃない?」
「あぁ〜……分かった、一緒に受けよう」
やった!
「! ありがとう! 私の名前はルリカ! よろしく!」
「イイジマだ、よろしく」
イイジマ……ね。
こうして私は、勇者という肩書きを持ちながらイイジマと共に冒険者をする事になったのであった。
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