【SIDE 教会】逸脱者と言伝者
「おや、これはこれは」
白く、上に長いフードを深く被った一人の言伝者が、誰かとぶつかりそうになりサッと避けてそう言う。
「……」
ぶつかりそうになった相手は、スラッとした脚を持つ女性だった。
全身を黒い服で統一しており、背中には……言伝者にはよく分からなかったが、細長く、望遠鏡の様な物体が付いた筒状の物を背負っていた。
「失礼いたしました。えっと……」
女性は何も言わなかった。
「……どちらにせよ、申し訳ありませんでした」
言伝者はそのまま立ち去ろうとする。
だが……
「ッ!」
背後から殺気を感じ取り、すぐに避ける動作をする。
そのコンマ数秒後、言伝者がいた場所には短いナイフが突き出されていた。
先端は紫がかった液体が付着していた。
恐らく毒だろう。
「すみません、まさかそれほどまで怒らせるとは」
ヒョイ、ヒョイと自身を斬り裂こうとするナイフを避け、言伝者は彼女にそう言った。
「……」
女性はそれを聞いても全く表情を変えず、ただナイフを振り続ける。
はてさてどうしたものか、と言伝者は思った。
自分はただヴァイナ様に用があっただけなのに。
「……」
「……」
暫く無言の攻防が続く。
ただ、異様に静かで、足音の一つしない。
するのは、ナイフが空を切る音だけだ。
「そろそろ腕が疲れてきたでしょう? お辞めになられては?」
「……」
その後数分間ずっと女性がナイフて斬りつけ続け、言伝者はそれを避け続けていた。
「ふむ、何をしているんだ?」
不意に横から男性の声がした。
見てみると、黄土色のコートを着た男性が立っていた。
「……」
「?」
言伝者は疑問に思った。
自分は気配を察知する事に関しては、常人よりかなり秀でていると思っている。
特に人の気配には。
だが、この男、気配がしない。
少しでも集中力を切らせば、見えなくなるほどの気配。
「そいつが何をしでかしたんだ?」
「……」
「なるほどな」
今のどこに会話があったんだと言伝者は思った。
アイコンタクトというやつだろうか?
「その程度なら大丈夫ではないか? むしろ今君のやってる事で余計大変な事になると思うが」
「!」
女性は構えを解いて、ナイフを仕舞う。
「ありがとうございます」
言伝者は素直に男にお礼を言った。
「いやなに、彼女がやりすぎだと思っただけだ」
男はそう言うとコツコツと女性に向かって歩き出した。
「全く、君はもう少し色々な事を考えられる様になるんだ」
そう言って女性の頭を撫でていた。
「あの……失礼ですが、お二人は何者なのでしょうか? ここはヴァイナ・リョコタ様の自室の近くです。関係者以外は立ち入り出来ないのですが……」
「俺らは……彼女達の友人だ」
「達?」
「大司教達のだよ」
「!?」
言伝者は意味が分からなかった。
大司教様達にご友人は殆どいないはずなのだ。
何せ、数々の人々から崇められ、ある意味恐れられている人達だ。
そんな人達と友人になれる立場、位を目の前の男達は持っているという事になるのだ。
「もう行っても?」
「あっ、引き留めしまって申し訳ありません。どうぞ」
道を譲り、そこをスタスタと男達が歩いて行く。
それを言伝者は目を限界まで横にやって見ていた。
怪しい。
怪しすぎる。
あまりにも。
まず自分を少し圧倒しかけていたあの攻撃。
あの様な攻撃技術を持っている時点で、かなり怪しく感じる。
仮に、ヴァイナ様を含む大司教様達を殺す為に送り込まれた暗殺者だったらしたら……。
そう思うと、言伝者の足は勝手に動いていた。
歩いていたのが早歩きになり、小走り、そして全力で走り出す。
階段を飛び越え、壁を傷付けないように蹴って減速せずに角を曲がる。
そして何回か角を曲がった所で、額に何か当たった。
……何だ?
「ふぅー、やっぱりか」
何か、黒色の筒状の何かが額に当てられている。
「言っているだろ? 俺らは友人だ。あいつらのな」
カチャッ、と筒状の何かから音がする。
「今は、だが」
その瞬間、〝パァン!〟と耳を劈く様な音が響いた。
そして次に、ドサッ、と何かが倒れる音がした。
「では、行こう」
二人はゆっくりと、出口へ向かって歩いて行った。
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