それじゃあ、行こう
翌日、雲一つない快晴の下で、俺らは荷物をまとめていた。
「あっ、それ俺のやつに入れてやる」
「ありがとイイジマ」
「ほいっ! ほいっ!」
「投げるな投げるな」
「……ご飯入るかな……?」
出来る限り隙間なく入れ、かぶせを閉じた。
「もう行くのか?」
イネは、近くにある岩に座っている。
「ああ、アルカニット教会を取り敢えずぶっ飛ばして来る」
「ふっ、まあお前なら出来るだろうな」
「出来るさ」
「ニル、また会おう」
「うん……また……会おう……!」
「レカちゃんにルリカも、元気にするんだぞ」
「うん!」
「もちろんよ」
「んじゃ、そろそろ行くか」
俺らはバックを背負い、村の門に停めて貰っていた場所の前まで行く。
「行くのか」
「ん?」
馬車に乗ろうとしたところで、後ろから声をかけられたので見てみると、百取と影蘭と鬼姫と廻邏毘がいた。
「あぁ、もう行く」
「そうか……また戻ってくるんじゃぞ?」
「そりゃもちろん。何だかんだここ良い所だったしな」
「ははは、そうかそうか」
影蘭が一歩近づいて来た。
「? どうした影蘭?」
「その……これをお前に上げようと思ってな」
そう言って、影蘭は自分の刀を差し出して来た。
「うぇぇ!? どうしてだ!?」
「いや何、刀を新調してな。古い方をどうしようかと思ったんだが、捨てるのも些か悪いと思ってな。どうか貰ってはくれないだろうか?」
「そういう事なら……まあ……」
鞘に収められた刀を受け取り、少しだけカタカタと揺らす。
少しだけ重い。
でも、この方が扱い易い気がしなくもない。
刀をバックの中に入れ、再度影蘭の方を見る。
「ありがとな、大切に使わせて貰う」
「そうしてくれると助かる」
影蘭は元の位置に戻り、鬼姫が俺にサムズアップをしながら
「頑張れよ!」
と、ただ一言そう言った。
「ああ、まあやれるだけやるさ」
「何だぁその気合の入ってない返事はぁ? イネの修行終えたんだろぉ? もっと景気良く! 強く! 返事しろよぉー」
「あぁ! まあ何とかなるだろ!」
「よぉし!」
「いやそれで良いの……?」
なんかこれで良いらしい。
「ワフワフワフワフ」
蛇郎丸が膝の部分とトイトイと押してくる。
「おーよしよしよしよし」
「ワフワフワフワフ」
今間違いなく、場の空気がほんわかした。
犬の力って凄ぇー。
「私の店の商品〜、上手く使ってねぇ〜?」
「もちろんだ。上手く使わないと死んじまうからな」
「ははは〜、良いねぇ〜、まあ頑張ってぇ〜」
全員と会話をした俺らは今度こそ馬車に乗った。
リヴェットに送って貰えば良いと思うかもしれないが、リヴェット曰く、「少し、用事があってね、悪いが馬車に乗って移動してくれたまえ」との事らしいので、炎ワープは出来ない。
あと、テレポート裏技も無理だ。
単純に、移動先が無いのだ。
「それじゃ、出発しやーす」
馬車がガタッという音と共に動き始める。
百取達が、大きく手を振っていた。
それに応えて俺らも大きく手を振る。
なんか、少し悲しい気もして来たな。
でも行かないと。教会に行って、ボコボコにして、俺の裏技と似た力を持つ奴の事を聞き出さないと。
「お客さん、あの面は被らないで良いんで?」
「あっ、そうだったな。ありがとう」
この前あった、リヴェットも参加した会議の際に、リヴェットが「イイジマ達の動向を分かりにくさせるため、我々の面を着けさせるのはどうだろうか?」と提案したのだ。
この案に俺らは乗る事にした。
「んじゃ、これちゃんと着けろよ?」
「分かったわ」
「うん!」
「分かった……」
俺らはお面を着け、少しだけ景色を楽しむ。
やはり、ちゃんとこのお面は視界を遮らないし、呼吸がしにくいというのも無いし、まず着けている事さえ忘れてしまうかの様な着け心地だ。
「あ、そうだ」
とある事を思い出し、ステータスのスキルをいじる。
「何してるの?」
「【透明化】の強化だ」
「え、強化?」
スキルや魔法は強化する事が出来る。
ただ、かなりのスキルポイントを消費するので今はまだやらないでおこうと考えていたのだ。
だが、これからはこの【透明化】が必須になってくるだろうからな。
「強化するとどうなるの?」
「性能が上がるんだ。【透明化】の場合だったら自分以外にも発動できるようになる」
「かなり強くないかしらそれ?」
「まあ、お互いの姿が見えなくなるっていうデメリットがあるけどな」
「それでも強いわよ」
「ああ、だから強化するんだ」
そして俺は【透明化】の強化をした。
「さぁて、どうなる事やら」
馬車に揺られながら、俺はそう一言呟いた。
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