脱走
「……ん?」
「……ん……」
修行中、ニルとイネが耳をピクピクとやって同じ方向を見る。
「何だ? どうしたんだ?」
「シッ」
イネが人差し指を口に立てて目を閉じて音を聞く。
ニルもそうしている。
「……これは……」
「何か……あったね……騒ぎが……起きてる……」
「マジ?」
忍びの里の騒ぎって……相当じゃないか!?
「行った方が良くないか!?」
「そうだな、行こう!」
イネが駆け出したので、俺はレカを背負って走った。
ルリカは……よし、走れてるな。
ニルはまあ、うん。知ってた。
普通にイネと並走してる。
中々なバケモンだな……。
村が見えて来ると、煙が上がっているのが見えた。
「火事!?」
「いや、火事程度ならばこの騒ぎにはならない。何かきっと……」
そう発言したイネがピタッと止まる。
おいおい、あの速度で走ってたのにピタッて止まれるの凄いな。
で、何で止まったんだ?
「あ、あのぅ……」
どこからか声がする。
チッ、何かの道具で声を変えてやがるなこれ。
機械音声に近い声になってる。
ていうかまず……
「どこだ?」
「いや、あのぅ……ここですぅ……」
いつの間にか、白いフードを深く被った人が目の前にいた。
「うぉっ!?」
「いっ、いつからそこに!?」
「何者だ?」
イネがすぐにそう聞く。
「えっとぉ……あ、怪しい者じゃぁ……ないんですぅ……はいぃ……」
「怪しくない者はそんなに深くフードを被らないし、変声もしないだろ」
「えぇ……あぁ……うぅ……」
これが本当のぐうの音も出ないってやつか。
「でぇ……でもぉ……ただ僕ぅ……ま、迷っちゃっただけぇでぇ……へ、変な事ぉ……するつもりじゃないんですぅ……」
めっっちゃ怪しいなぁ!
チラッとイネを見る。
コクリとイネは頷いたので、どうやら捕まえる方向でいくらしい。
相手に気づかれないように、俺らはすぐに走れる体勢になる。
「あぁああぁあ! お、襲おうとぉ……し、してますね!? ほ、本当にぃ……違うのにぃ……うぅっ……」
バレた!? どんな観察眼してやがるんだコイツ!
俺らは急いで捕まえようとしたが……
「なっ!?」
水が俺らの四肢を掴んできた。
水……って事は……!
「今朝方ぶりだな」
水の大司教じゃねぇか!
「やっぱお前か……【火出――」
水で口を閉ざされる。
「二度も同じ手は喰らわぬ」
「あ、ありがとぉ……」
「貴様も貴様で、何をそんなに弱気になっている?」
「だ、だってぇ……この人達ぃ……絶対強いしぃ……」
「ぬかせ、貴様の方が強いに決まっているだろう」
何かちょっとイラッとくるなぁそれ。
「えぇ……そんなわけぇ……無いじゃぁん……」
「強くなければ、貴様が私を助ける事など出来ないはずだ。ふっ、よって貴様は強い」
コイツが助けたのか!
「では、さっさと行くぞ」
「わぁ、分かったぁ……! えいぃ!」
フードを被った奴が何かを地面に投げた。
『ブフォン!』
「煙幕か!」
俺らを掴んでいた水がただの水となり、地面に消えた。
そして煙幕が晴れれば……当たり前だが、そこに彼らの姿は無かった。
「くそ……逃げられた……」
「すまない、油断してしまった」
「あんただけのせいじゃねぇ。俺らも油断しちまった。あんな弱気な喋り方だったからな……」
「それに、あいつは気配を消すのが上手かった……」
「気配を消す?」
「ああ、そこにいるのに、そこにいない。影が薄いと言うのだろうか。それがとんでもなく薄いんだ」
「スキルとかじゃないのか?」
「スキルや魔法を使った感覚はなかった。あれは完全に、そのままの状態でやってる」
マジかよ。あの目の前にいきなり現れたあれも、全部素の状態で?
「凄いな……それは……」
「恐らく、何らかの大司教だろうが……何の大司教までかは分からんな……」
「推測しすぎるのも良くないぞ。取り敢えず、あの火事になってる所に行こう」
「そうだな」
俺らは急いでその火事の火元まで走るのだった。
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