スズと散策
時間は朝の10時前、駅前の噴水前でスズはウェーブを掛けた茶髪をいじりながら、スマフォをいじっていた。ノースリーブのトップスにデニムスカートというやや露出のある恰好だが、しっかりと着こなしている。
「あっ、スズ。お待たせっ」
横からのソラの声に顔を上げる。
「いや、ぜんぜ……ん」
「どしたの? あっ、変な恰好だったかな?」
薄い青色のシアーシャツにタンクトップのインナーを合わせており、ボトムは明るい黄色のテーパードパンツだった。頭にはグレーのサマーキャスケットを被っている。
最近女子らしいの格好ができるようになったソラが通販で買ったものだが、スズにとって問題はシアーシャツから透けるインナーは体のラインをくっきりと浮かび合わせており、グッと盛り上がった胸元が強調されていることだった。
「……Cはあるよね。中学の時はアタシのが大きかったのに……慢心、環境の違い……」
「あぁ、うん。良くサイズがわかるね。高校生になってから急に大きくなっちゃって……男装していた時は抑えてて苦しかったな。今は緩めのブラを付けれて快適だよ」
「ソラち、後で触らせて」
「嫌だけど、目が怖いよスズ」
手をワキワキさせるスズに胸を隠して防御姿勢を取るソラ。
「まっ、それは置いといて、行こっか。ソラちと寄りたいお店がめっちゃあるんだよね~。何件か回ってゆっくり恋バナするぜい」
「へぇ、楽しみ。あっでも人ごみが多いと疲れちゃうから……」
「大丈夫、ちゃんと配慮してるからさ。でも、調子が悪くなったら言ってね」
「うん、ありがとスズ」
「ぐふっ……ソラちが可愛い、ギュー」
「ちょ、スズ、熱いから」
スズがソラの手を引いて仲良く歩駅近くのジューススタンドに入る。
店内はカウンター席のみであり、高い椅子にソラが苦労して座ると店員からメニューが渡される。
「木目調のカウンターが良き」
「雰囲気いいよね~。実は私も初めてなんだ。デートスポットとしてもいいと思うぜ」
「おぉ、流石老師っ。覚えとくね。えーと、ジュースはどれにしよう」
「暑いし、アタシは桃のコールドプレスにしよっと」
「それも美味しそう……ボクはバナナミルクにするよ」
「スムージーとは、わかってますな。じゃあ、店員さん呼ぶね、すみませーん」
Sサイズのジュースを注文すると、10分足らずでカップが置かれる。
「あ˝ー、生き返るー、やっぱこれだわ」
「アハハ、おじさん臭いよ。でもわかる、今日も暑いもんね。ん、甘くておいしい……」
すぐにジュースを飲み干した二人は味の感想を言い合いながら店を出る。その後も、アイスを買ったり、ふらりと道端の神社に寄ったりとした後、スズのおすすめのセレクトショップに入ることになった。明るい通りに面しているにもかかわらずせり出した天井と絞られた明かりのせいで少し薄暗いのが雰囲気を出している店だった。
「ふっふーん。ここは何回か来たことあるけど、服以外にも可愛い雑貨があるのだよ。何より安いからお財布にも優しいのだ」
「おぉ、隠れ家っぽい。エヘヘ、こういうお店に友達と来るの実は夢だったんだ。ありがと、スズ」
ニパーと笑うソラに、なぜか喉を鳴らすスズ。
「か、可愛すぎるぜソラち。抱きしめてもいい?」
「暑いからヤダ。ほら、入ろうよ」
店内はファッションと雑貨をメインに取り扱っているようだ。服に関してはかなり高価でソラはともかくスズに手が出るような金額では無かっため、二人は小物を見て回る。
チョーカーのコーナーでソラが足を止める。
「チョーカーかぁ……」
「気になるん?」
「いや、銀次に付けてもらいたいなぁって」
ソラの視線の先には人工皮のベルトチョーカーが並べられている。
「……エッチじゃん」
「エッチじゃないもん。これはボクが銀次のモノだという証し的なものだから」
「……つまり、エッチなのでは?」
「エッチじゃないってば!」
二人がヒソヒソ言い合っていると注目が集まってしまう。顔を赤くしたソラが足早にその場を後にするその手にはチョーカーが握られている。
「買うんかい! 銀次ってば、つけてくれるの?」
「期末テストで一位を取れば言う事聞いてくれる……という約束を取り付ける。フヘヘ」
チョーカーを持つソラはだらしなく笑っており、それを見てスズは心の中で銀次に合掌する。どうやら、スズが思っている以上にソラの想いはヘビーなようだ。
「アタシもチョーカー買おっかな」
「スズもベルトチョーカーにするの?」
「いや、それは流石にないから。普通のやつ、1000円くらいで可愛いのあるしね」
そうして二人でチョーカーを買って大通りに出る。
「そろそろ、お昼だしお店に行こうか。いよいよ、本日のメインイベントってわけです」
「結構遊んじゃったもんね。混んでないといいなぁ」
「大丈夫。穴場だから、一応ネットで確認したんだけど座れそうだったから、オムライスの専門店で、めっちゃ映えるお店なんだよね!」
「ポ〇の木?」
「違うしっ! まぁ、ポ〇の木も美味しいけどさ。個人でやってる店だから、雑誌で見て行きたかったんだよね~」
少し遠いので、バスを使って移動し店に到着。町の洋食屋さんというようなお店で、ともすれば喫茶店でも通用しそうな店だった。中に入るとボサノヴァが流れており、店内は穏やかに会話する人も見られていた。
「いいね、ここならゆっくりお話しできそう」
「ふふーん、スズちんの情報網はバッチシなのだ」
胸を張るスズ。すぐに店員がやってきた。
「何名様ですか?」
「二名です」
「空いている席にどうぞ」
と案内されたのでどこに座ろうか店内を見渡すと「ふぁ!?」とソラが声を上げた。
「ど、どしたのソラ」
「銀次がいる」
「えっ、マジっ?」
スズが目を凝らすが、銀次の姿は見えない。
「あそこだよ、窓際の奥の席」
「いや、頭の先しか見えないけど……」
「絶対に銀次だよ。このボクが銀次のことを見間違うわけないもん」
自信満々で言い切るソラを見て、スズもあれが銀次であると思い始める。
「まぁ、ソラちが言うんならそうなんだろうけど……じゃあ、話しかけに行こうか」
「うん、あれ? でも銀次って確か今日は……」
「あれ? 誰かと一緒じゃない? というか女の人」
「え゛っ!?」
近づくと銀次の前に女性が座っていることが二人にはわかった。話しかけるのは中止してとりあえず後ろの席を二人でキープする。
「なんか前にもこんなことあったよね」
「あの時は銀次とスズが話してたけどね。なんか隠れちゃった……」
「そりゃ銀次の前に座っている人が結構美人だからでしょ? あれは大人の女性だわ……」
銀次の前に座っている女性は三十代前半ほどで、しっかりと化粧をしてスーツを着たショートヘアで快活そうな美人であった。
「アワアワワワワ」
顔を真っ青にして震えるソラの肩をスズが掴む。
「お、落ち着いてソラち。明らかに年上だし、デートって感じじゃないから」
「だ、だよね。今日は銀次、家のお仕事の手伝いみたいこと言っていたからその関係だと思う」
「へぇ、そんなことしてんだ。凄いね」
「銀次は凄いんだよ」
「おっ回復した」
とりあえず、備え付けのタッチパネルで注文した二人は後ろに聞き耳を立てた。
「やぁん、銀ちゃん。なんでも食べてねぇ、なんならディナーも一緒に食べる?」
ノートパソコンを机に置いた銀次がため息をつく。そして、その後ろでソラがスズに励まされていた。
「アババババ(小声)」
「ちょ、ソラち。傷は深いぞー(小声)」
そんな二人のやり取りを知るわけが無い銀次は、ノートパソコンを机の脇に置いて大きくため息をついた。
「冗談はやめてくださいよ……美沙さん」
次回の更新は木曜日です。
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